藪 四郎 1

 普段は人通りのほとんどない路地裏にひっそりと病院が一つ建っている。病院などと言うが、外見はほとんど普通の一軒家に近い。『藪病院』という小さな看板のみがここを病院と主張している。ここの院長は藪 四郎(やぶ しろう)という。院長などと言うが、常駐しているのは彼一人である。
 彼はかつて医師免許を持っていたが、今は剥奪されている。なぜ剥奪されたかを知る者は多くはないが、今の彼が『医者』をするのは明らかに違法行為だった。それでも、彼の所には来客が後を絶たない。


ある日のこと、病院に二人の来客があった。一人は大学生ぐらいの男で体はたくましいが人生経験が浅いせいかどことなく頼りない感じがする。もう一人はこれまた大学生ぐらいに見える女で、うつむいていて雰囲気は暗く、お腹が膨らんでいた。
「いらっしゃい、今日はどうしました?」
いつもの低いが明るい声で四郎が言う。すると突然女の方が泣き出した。
「ど、どうしたんですか?」
困惑する四郎に対して男は間髪いれずにこう言った。
「堕ろして欲しいんです。」
しばしの沈黙の後、再び泣きじゃくる女の声が響き始める。四郎は女の方をなだめながら二人を一つ奥の診察室に連れていった。

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この記事へのコメント

2012年06月30日 16:59
名前は薮医者でも雰囲気は名医と感じさせるものがありますね。何となく。
医師免許を剥奪された理由には興味が湧きます。
2012年06月30日 22:17
こちらのヤブと違って善良な感じのする四郎さん。堕胎という重い問題に、どんな対処をするのか。

八武「善良な人間が闇医者をやるのは苦しいぞ・・。私の知り合いにも、発狂した奴が何人もいるがねぃ。」
山田「それだけ常軌を逸した世界というわけか。」
2012年06月30日 22:46
>ブラックホークさん
名前とは裏腹に確かな腕を持ってそうな四郎さん。秀君を治療したのは、小説内時間軸で言えばこの話の十数年後になります。この頃の腕前はいかほどか。
免許剥奪事件に関しては、また別の物語になります。
2012年06月30日 22:46
>アッキーさん
医師免許がないので闇医者であるにも関わらず、善良さを感じさせる四郎さん。その善良さがこの問題にどうメスを入れるのか。はたまたそれが足枷となるのか…。

ルビデ「…クックックッ、闇医者に善良な人間なんていねえよ…。ぐっ、傷が痛むぜ…。」

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