英雄招来 1

「私」は、死んだと思っていた。「私」は、世界に必要ないと思っていた。「私」は、世界から消えたと思っていた。しかし。しかし、しかし。事実は違ったようだ。


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鳥の囁くような声がする。うっすらと日の光が見える。鬱蒼と木々が生い茂る中に一つだけある黒い台座。明らかに人工物のようだが、誰が作ったのか、何のために作ったのか、どうやって作ったのか、それは分からない。それを知る者はこの世界にはいない。

その台座に座っている女性、拝島 梅花(はいじま ばいか)はゆっくりと目を開けた。目を開けて梅花は驚いた。自分自身が生きていることに。あの時、確かに学校の屋上から身を投げ出したはずなのに。夢か、それとも死後の世界か。無意識の内に頬っぺたをつねる梅花は、少なくともこれは自分にとっての現実だということを理解した。意識も痛みもそこにあった。梅花は驚いていた。なぜ、自分は死ななかったのか。しかし、その疑問に答える者はいなかった。そもそも、周りには梅花以外、誰もいなかった。

次に梅花が驚いたのは自分の目線の高さ、腕や足の長さ、胸の大きさ、髪の長さだった。小学生だった自分にはなかった大人の女性の体つき。まるで自分が心のどこかで欲していた理想の体つきに似ていた。しかし、どういう訳だか服はなかった。確かに小学生の服のままでは破けてしまうが、なぜ一糸纏まぬ姿なのか。梅花は多少の戸惑いは感じていたが、気恥かしさなどは特に感じていなかった。周りに人がいないからなのか、それともそれ以外の出来事が鮮烈過ぎて頭が回っていないのかは分からなかった。

その時、梅花のお腹がクーと鳴った。梅花は何か食べ物が欲しかった。自分の空腹を満たしてくれる何かを。思えばあの時から、いやそれ以前からまともな物を食べた記憶がなかった。梅花はふと呟いた。美味しい物が食べたい、と。すると目の前に美味しく焼けたステーキが皿とナイフ、フォーク付きで現れた。梅花はチラシや食品サンプルでしか見たことのないような美味しそうなステーキを頬張った。無我夢中で頬張った。どうしてそんな物が急に現れたのか、考えることもなく。

満腹になった梅花はふと自分の顔を見てみたくなった。大人の姿になった自分はどんな顔をしているのか。そこで呟く。鏡が欲しい、と。すると目の前に水が集まって鏡の形になった。その水には自分の顔が鮮明に写っていた。昔、写真でしか見たことのなかった母親の顔によく似ていた。写真で見る母親は若くて美しくて明るかったが、現実の母親はやつれていて痩せこけていた。そんなことを思い出し、ふと自分もいずれああなるのではないかと思って梅花は少し怖くなった。その恐怖を感じ取ったように鏡は弾けてただの水になって地面を潤した。

食べ物を食べたことで脳が活性化したのか梅花の思考は活発になっていた。自分は何故ここにいるのか。世界に必要なかった自分が何故、今もまだ存在しているのか。それを考えていた時、目の前の茂みの奥で物音がして、葉っぱが微かに揺れた。何かいる。梅花はその茂みを注意深く見ていた。

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この記事へのコメント

呵々闘諍
2013年05月20日 22:48
これが噂に聞く梅花さんの英雄物語の始まりですか…。
謎が多いですが、これからそれが紐解かれていくと思うと楽しみです!

輪廻「死んだのに大人の体で復活…?」
愛縷「普通に考えれば植物状態から目覚めたってことになるけど、不思議な現象の証明にはならないからねぇ。」
輪廻「ん~、ここはどこなんだろ…。」
2013年05月21日 03:56
これが魔法世界でのエピソードゼロ・・・!
幻想的な始まりですが、ここは本当に“森”なのでしょうか・・・? 精神世界かもしれないと思う根拠が幾つかありますが。

八武「ふつくしい。」
佐久間「流石の死根也も邪心が祓われてるようだ。」
山田「そうか・・・?」
八武「きっと服は時空を超えるときに破れていったのだろう。見たかった。」
山田「やっぱり邪心まみれじゃねえか・・・。」
佐久間「死根也だからな。」
山田「しかし心配なのは、この時代は魔物が跳梁跋扈しているということだ。」
八武「またそんな私を喜ばせる情報を。」
山田「少しは心配しろ。」
八武「心配だから興奮するんじゃないか。どうでもいい奴が何されようと、枕を高くしオヤスミナサイ。」
佐久間「ここは私が梅花にアイテムを渡そう。銀の竪琴だ。」
山田「くたばれチョークスリーパー!」
佐久間「痛い痛い!」
2013年05月21日 12:41
火剣「コング、抜かるなよ」
コング「昨日受付自体を拒否されたコメントと同じ内容しか語れない」
火剣「やめろ」
コング「梅花・・・一糸まとわぬ姿?」
火剣「その辺でいい」
コング「全裸!」
火剣「ミステリアスな始まり方じゃねえか」
コング「スッポンポン!」
火剣「茂みに誰がいるのか?」
コング「マッパ」
火剣「裸じゃヤベーだろ?」
コング「素っ裸!」
火剣「梅花は欲しいものが現れる能力が身についたのか?」
コング「真っ裸!」
火剣「ステーキが食いたくなったな」
コング「生まれたままの姿!」
火剣「黒い台座か。光景が浮かぶな」
コング「いただきマンモス!」
火剣「アホか」
コング「でも魔法使いが書いた小説だから言葉に魔法がかけられているかもしれない」
火剣「ようやくまともなことを喋ったか賢者コングー」
コング「昔、裸の季節って歌ヒットしなかったか? ♪えくぼーのー、ひみーつ・・・」
火剣「裸足の季節だ」
2013年05月21日 23:44
こんばんは、呵々闘諍、輪廻、愛縷。
あいつも色々と噂になってるのか。一応横っちょにある「薮四郎」「理由」「英雄の子孫」に出演しているぞ。思えばまだまだ、あいつ自身も、この魔法世界も謎が多い。今回の物語で少しは謎が解けるのか、それともますます深まるのかは分からんが。

ピアリティ「英雄梅花は異世界から来たと言い伝えられているけれど、異世界の方で死んだからこっちの世界に来たのかしら…?」
ディルティ「だとしたら呼んだ奴がいるはずだが、誰もいないっていうのは妙だな。」
フォールス「呟くだけで魔法が使えるなんて凄いな…。魔法の素質の塊だ。」
白龍「どうやら梅花さんは不思議な世界に迷い込んだようですね。さて、ここはどこでしょうか…。」
2013年05月21日 23:44
こんばんは、アッキー、八武、佐久間、山田。
これ以前の話はまだ出来ていないから、これがまさしくエピソードゼロだ。ある意味、魔法世界の始まりの話と言うべきだろう。中々、風情のある風景だな。もし梅花の精神世界ならばこれほどには美しくないだろうな。あいつは情緒不安定だから。だが、誰かの精神世界というのは否定出来ないし、不思議な現象が起こっているな。さて、真実は如何に…。

フォールス「/////」
ピアリティ(負け…た…?)
ディルティ「眠り姫さん、乳デカい方が偉いとは限らないわよ。」
チュルーリ「その通りだ。」(幼児体型)
ツヲ「それよりも梅花ちゃんに服を持って行ってあげなくては。バニー服でいいよね。」
白龍「邪な心が満ち溢れている…。」
チュルーリ「ツヲだからな。」
フォールス「おほん…。この時代は人間の使う魔法はまだ拙く、系統化もされてないと聞く。そして人智を超えた化け物、魔物がいたとか…。僕達の時代ではお伽話の登場人物だけれども、ね。」
チュルーリ「銀の竪琴か。梅花にはちょうどいい道具かもしれんな。」
白龍「自分の母親なのに…。」
チュルーリ「自分の母親だから、さ。かかっ。」
2013年05月21日 23:45
こんばんは、火剣獣三郎、コング。
前は災難だったようだな。ツヲからも話は聞いているぞ。おそらくは誰かのコメントが入った後から、画面を更新せずにコメントを入れると起こるエラーではないだろうか。非常に近い時間間隔で別々のパソコンからコメントすると、遅かった方はエラーになるらしいぞ。

ツヲ「まあ、全裸に反応するのは紳士として当然のたしなみ。そうだろう、フォールス君。」
フォールス「あー…。取り敢えず、マントを…。」
チュルーリ「勝手に小説の中身を書き換えるな。」
ピアリティ「と言うよりかは、梅花さんが語ったことをそのまま書いているだけのような…。」
チュルーリ「聞こえな~い。」
ディルティ「おらあ!」
チュルーリ「痛え…。」(たんこぶ)
フォールス「真面目に語ろう。欲しい物が現れる能力が身に付いたなら服を出そう。って言うか、これって魔法だよな。転送魔法か造形魔法か…。」
ピアリティ「茂みが動いてるって、まさかノゾキ!?」
ディルティ「取り敢えず殺せばいいと思うわ。」
白龍「物騒だ…。たまたま来ただけかもしれないのに…。」
フォールス「人かもしれないし野生動物かもしれない。その正体は次回で。」

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