英雄再来 プロローグ

誰かが一粒の涙を落とした。それが光と闇を生んだ。神霊が生まれた。精霊が生まれた。魔法が生まれた。生き物が生まれた。人間が生まれた。
世界が弾けて数千年。異世界から英雄が来た。英雄は世界の半分を切り取った。魔物を全て切り取った。
英雄が死んで数百年。英雄の子孫は世界の半分を切り取った。人間の半分を切り取った。
英雄の子孫が封印されて数百年。人間は争い続けた。互いを殺し合い続けた。
異世界から王が来た。英雄の子孫が蘇って、死んだ。残ったのは仮初めの平和、五つの宝玉。
仮初めの平和から数百年。人間は争いを始めた。

全く、人間というのは殺し合いに飽きもしない狂った生き物だな。その上うるさく騒がしく、おちおち寝てもいられない。貴様ら人間が英雄を渇望するのなら仕方がない。我らが英雄となって、お前達を縛ってやろうか。愚者なお前達を地獄の底まで導いてやろうか。二度と争いを起こさないように支配してやろうか。好き勝手に遊んでやろうか。
ツヲ、ツレエ、フォウル、フィベ、そしてゼロ。数千年は眠っていられると思ったが、どうやらもう朝が来るらしい。眠っているのも飽きた頃合いだろう。私は暇つぶしに世界で遊ぶ。お前達はどうする?かかかっ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


どこにあるのか分からないが、精霊の存在が信じられ、魔法が確かに存在している世界がある。その世界の中の大きな海の中に大陸が一つある。そこにはたくさんの生き物が住んでいて、たくさんの自然があって、そして、人間がいる。

自然豊かなこの大陸、中央だけは違っていた。海に近い方は広大な森だったり険しい山だったりするのだが、中央にあるのは巨大な壁に囲まれた人工物だらけの国だった。中央にある国の名前はマチネ。魔法に代わって機械を発展させた国である。もちろん魔法世界の機械なので、通常の意味での機械よりも不思議な部分や魔法で補われている部分もない訳ではないが、それでも魔法世界では十分に魔法と相対するものであった。

機械大国マチネは常に魔法と対立してきた。機械という立場から魔法と対立しなければ独自性を失って消滅してしまう可能性を感じ取っていたからなのかもしれない。機械というものを、存在するだけで否定する魔法というものを世界から消し去りたい、もしくは完全に分析し自分達の支配下に置きたい。機械という信仰に取り憑かれた者達はいつしか独自の道をひた走り、気が付けば取り返しのつかないところまで歩を進めていた。しかし、その信仰のために彼らがそれに気が付くことはなかった。

この大陸の中でマチネ以外に大きな国は存在しない。小さな国や小さな村、集落程度のものが数百、数千とあるのである。その多くは魔法を主な拠り所としていた。その小さな国々は各自で独立していると共に同盟を結び、協力し合っていた。特に強力な魔法を使う魔法使いがいる少し大きめの五つの国は連合体としてジュールズと称していた。その五つの国はそれぞれ大陸のバラバラの場所に位置しているが、ちょうど位置を線で結ぶとグルリとマチネを囲むことが出来た。

マチネとジュールズは今まで度々、戦をしていた。魔法を否定し全てを手に入れたいマチネ。魔法を文化として生きるために必要なものとして守り続けたいジュールズ。相容れない二つの勢力は争う以外の道を選ぶことはなかった。ただ、この二大勢力の戦は常に引き分けだった。マチネがどこかのジュールズの国に攻め込めば、それに呼応して他のジュールズの国がマチネに攻め込む。こうなるとマチネは兵を引いて中央の自分の国を守らなければならない。ジュールズは人数こそ少ないが天然の地形を要塞としていてマチネの進撃にもある程度耐えられるが、まともな兵力がある状態の中央の国を制圧出来るほどの戦力がある訳ではない。マチネも短期決戦で一気に制圧したいところだが、それをさせてくれるほどジュールズの魔法使い達は弱くはないし、天然の複雑で険しく難解な地形が攻撃を鈍らせる。どうあってもどちらかがどちらかを殲滅出来ない状態が長く続いていた。

しかし、ついにマチネの科学力、技術力、機械力が踏み込んではいけない領域にまで達した。そこに踏み込んでしまえばどちらかが滅ぶまで争いは止まらなくなる、その水準にまでマチネの国力が増大した。そしてマチネは全てを手に入れるために振り上げた拳を振り下ろした。


「諸君、古き悪しき伝統を廃し、新しい時代を始める時が来た!」
「諸君、魔法という幻想にしがみついていては人間は進化を止めてしまう!」
「諸君、世界に魔法は必要ない!」
「諸君、これより聖戦を始める!全てを救うための聖戦だ!」
「諸君、我々は無知文盲の者共に示さなければならない!この世界を統べるのは機械であると!」
「諸君、戦え!」
「戦え!戦え!戦え!我々の勝利は既に約束されている!機械によって約束されているのだ!」
「機械こそが我らの神!我々は神によって勝利を約束されている!」


その日、マチネは五方向にあるジュールズの五つの国に向けて同時侵攻を開始した。

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この記事へのコメント

2014年07月15日 20:17
コング「待ちねえ、待ちねえ」
火剣「ダジャレにもなってねえ」
コング「ツヲ名人はどうした?」
ゴリーレッド「あ、せ、ら、な、い」
火剣「人類はずっと戦争を続けてきたか。戦といえば聞こえは勇ましいが、要はKOROSHI合いだ」
コング「光と闇か。僕のように心の中に光しかない人間ばかりならば」
ゴリーレッド「どんな人間の心の中にも光と闇はある」
火剣「ないとしたらコングはやはり色・・・MAKAIのモンスターか」
コング「ぐふふふ。危なかったな火剣。危うくボックス直行だったぞ」
ゴリーレッド「マチネは機械大国か」
火剣「ジュールズのほうが戦上手と見た」
コング「承知しました」
火剣「古い」
コング「昔、マチカネタンホイザというサラブレッドがいたな」
ゴリーレッド「唐突に言うな」
コング「まだ序曲だな。かかかっ? まさかこの笑い方は?」
火剣「マチネはまさか兵器を手にしたのか?」
2014年07月16日 02:56
この機会に「英雄の子孫」と「Engagement ring」を読み返していましたが、再び争いの時代が来てしまいましたか・・・。この世界ではよくある程度の残念なお知らせであり、新たなる物語の華々しい幕開けでもある。
ツヲさんの名前が出ていますが、他の面々の中に例の姉や妹がいるのでしょうか?

山田「科学を謳いながら、まるで宗教だ。」
佐久間「科学でなく機械と言ってるあたりがポイントなんだろうなぁ。機械的唯物論は、科学的でありながら科学的でないとか何とか、栞が言ってた。」
維澄「科学を以って魔法を否定するのは科学じゃない。」
佐久間「ああ、それだ。」
維澄「魔法でも超能力でも霊能力でもいいんだが、真に科学的な考え方というのは、現象を肯定する中に否定を含むというものだ。具体例を挙げれば、幽霊の存在を否定するのは科学的ではない。幽霊を見たり感じた人の脳内で、何が起こっているかを解明してこそ科学的だ。」
山田「対話でも同じことですね。相手の言うことを頭ごなしに否定するようでは、会話は成立しない。」
維澄「宗教一般が悪ではない。迷惑や被害を与える行為が悪いんだ。」
2014年07月16日 19:47
>火剣獣三郎さん
白龍「ツヲ名人はキャラ的に強い人なのでいきなり出てくると全体のバランスが崩れてしまう。最初の方はお休みしておいてもらいましょう。」
ツヲ「そんな!」
白龍「あ・せ・ら・な・い。ヒーローは遅れて現れるものでしょう?」
ツヲ「それもそうだね。」

カトレーア「あの後から何百年か経って、戦が始まってしまったのね…。私とお兄様がやったような悲しい戦いが繰り返されてる…。」
白龍「カトレーアさんの時代はセンテルが一度消滅したことで国同士が戦う理由もなくなりました。しかし、それから数百年、人間はまたしても…。」
オーセアン「機械大国か。通信機ぐらいならオレ達の時代にもあったけれどもあれから機械というものがどんな風に変わったのか。魔法がある中ですら戦を左右しかねないほどのものに変貌したのか…?それが兵器…?」
白姫「ワタシ達の子孫は当然ジュールズ。どれだけ機械が発展しても精霊使いや神霊使いがいれば負けるはずはないと思う。」
白龍「さて、この戦いの行方は…。そしてこの笑い方は…?」
2014年07月16日 19:47
>アッキーさん
過去作品を読み返していただいたようで何よりです。私も執筆にあたって全ての英雄シリーズを読み返しました。思えばイーリストもセンテルもチュルーリさんが滅ぼして、戦う国がなくなったことで戦が終結したようなものですから。争う国同士があれば再び戦が始まる…。この魔法世界においてはそれが物語の始まりの合図…。さて、冒頭で何人かの名前が上がっていますが、最初に登場するのは誰になるんでしょうね。
マチネは科学というより機械信仰。科学者の中にも“信仰”を持っている者は少なくないと思っています。むしろ科学者である方が強い“信仰”を持っているかもしれません。しかし、科学信仰ではなく機械信仰なので機械以外を排除する排他的思考が存在します。一つの宗教が他の宗教とは相入れないように。ただ、その宗教を信仰することが悪いことではなく、それを誰かに押し付けようとするところに悪が存在する。剣を向けながらその宗教の良さを語ったところで真の意味で聞く耳を持つ人はいないでしょう。
この世界ではよくある程度の残念なお知らせですが、戦が始まります。
2015年07月14日 00:54
すごく感謝です(゚∇^*)
かなり緊張してるから変になていたらすみません。

千花 白龍さんのブログに出会えて本当に良かったです!

溜息ばかりの毎日で正直もう限界だしキツイ…と思ってたんですが足枷が少し軽くなった気がするんです(^∀^)
視点は違うのが当たり前なのかもしれないんですけどそれでも全部違うわけではなくて似てる所もあって、なんていうか私は当たり前すぎることを忘れ過ぎてたのかもしれません(汗)

それで…一人で考えてばかりいると中々浮上のきっかけを得られないので、、

maki2.co@i.softbank.jp

話聞いてもらえませんか?悩みを解決に導いて欲しいとかじゃなくて、聞いてもらえたらもとスッキリ出来そうな気がするんです(o≧▽゚)o
お返事心待ちにしています!
2015年07月16日 22:31
>レッドさん
初めまして、レッドさん。何だか突然にありがとうございます。私のブログが誰かの足枷を軽くするのに役立っているというのは嬉しい限りです。日々がしんどいことって多いですよね。ブログ名通り「憩いの湖」らしい内容の小説ばかりではありませんが、色々な登場人物からの色々な視点を楽しんでいただけたらと思います。私自身も人にはそれぞれ視点があって、それぞれ違っていて、でもそれがいいんだっていう当たり前で大事なことをついつい忘れてしまうことがあります。
私でよければ話を聞きますよ。私はいつでもこの憩いの湖にいますので、コメントしていただけたらと思います。

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