英雄再来 第十話 オネ19

心とは。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「気に入ったぞ!お前が欲しい!タイチョー、私の部下になれ!」

馬乗りになったオネにそう言われた時、ソルディエルの脳内は一つの言葉を捉えて瞬時に過去の記憶を再生させていた。ソルディエルの悪夢の根源となった記憶を――――――。


――――――――――――――――――

その日は晴れていたけれど、ワタシの記憶は真っ暗闇だ。モウモウと上がる黒い煙の中にきっとお父さんもお母さんもいて、二人は天国に行ったんだ。ワタシを地獄に置いて。燃え盛る炎が今まで住んでいた家を躊躇なく飲み込む。ほどなくして灼熱の炎の中から大きな黒い手が伸びてくる。
『――――――魔法使いは神に選ばれた人間!羽虫ごときが抵抗するのもおこがましい――――――』
ワタシは必死になって逃げる。足をバタつかせて、腕を振り上げては振り下ろし、必死に地面の先へと飛び込んでいく。ズシンズシンと足音が近付いて、大きな手がワタシの髪の毛を掴んで引っ張り上げる。手足を振り回しても、どこにも力などなくて、叩き付けられ、押し付けられ、そして――――――。
『――――――お前が欲しい――――――。』
あいつが言ったこと、ワタシは理解出来た。ワタシから全てを奪おうとしていることが理解出来た。暴れるワタシに対してあいつは馬乗りになって、抵抗しようとするワタシを何度も殴り付けた。髪の毛を掴んで乱暴に振り回した、それでもワタシが暴れるものだから、あいつは魔法を使った。

ワタシの足が端から火を噴いた。

「ああああああああっぁぁぁあああああああぁぁあああああ!!!!!」

熱いを通り越して痛いを通り越してジブジブと音を立てて焼け焦げていくワタシの足が膝までなくなった時、ワタシは全てを諦めた。全てを奪われることを驚くほどすんなりと受け入れた。何故ならワタシの心は焼け焦げてなくなったのだから。抵抗する心がなくなったのだから。首を絞められながら初めてを奪われてワタシは意識を失った。

目が覚めた時、魔法使いはいなかった。命だけは助かったが、ワタシにはもう生きる気力が何一つ湧いてこなかった。家を失い、親を失い、知り合いや近所の人を失い、生きる場所を失い、初めても、立ち上がる足すらも失った。このまま死んでしまおうと思った。

心が砕けたのなら、集めて作り直せばいい。心が折れたのなら、添木をしよう。心が屈したのなら、もう一度折り返す。だが、焼け焦げて炭と灰になった心はどうすれば元に戻るのか。元に戻るはずがない。





それでも、今、ワタシが生きているのは――――――。

「生きて…いるかい…?」

ワタシを救った方がいるからだ。

――――――――――――――――――


「黙れぇ!吐き気がするほどおぞましい!!」
ソルディエルの目は炎で焼かれて何も映しはしなかったが、声のする方に向かって力一杯、唾を吐きかけた。
「屈するものか!!貴様ら魔法使いに心まで屈するものか!!貴様らがどれほど強かろうとワタシの心は操れない!!ワタシの意思(こころ)はワタシが決める!!」

焼け爛れた喉の痛みも構わず、ソルディエルは力の限り叫んだ。

「心まで貴様ら魔法使いの思い通りになってたまるかあ!!!」

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この記事へのコメント

2014年12月28日 23:50
シェゾ以上の変質者を見たよ・・・!
事情を知らないとはいえ、オネの仕打ちは残酷の一言に尽きますね。
暴虐の魔法使いとオネでは、言ってる意味は違っているはずですが、しかしソルディエルにとっては結局のところ同じなのかもしれません。

山田「酷すぎる。非道すぎる。」
八武「イイ・・・実にイイよ・・・極めて良いィいい!」
山田「死ぬがいい。」
八武「ごはぁっ!?」
佐久間「この魔法使いは何者なんだろうな。単なるゴロツキなのか、それともジュールズ建国に何か関係してるのか・・・。」
維澄「言われてみれば、その可能性は考えてなかった。国の中枢が彼の係累だとすれば、それは・・」
佐久間「炎というとガーネットだが。」
山田「まさか父親とか。」
佐久間「可能性としては低いけどねぇ。それにマチネ側からずれば、そこは重要なことではないだろう。」
維澄「魔法使いが暴虐を振るったこと、それが重要なところだね。」
山田「何者であっても、許しがたい。」
八武「それよりも、ここでソルディエルは殺されてしまうのかね!?」
山田「ここでアールがカッコよく登場だ!」
2014年12月29日 14:07
火剣「ソルディエル。そんな過去があったのか」
コング「お前が欲しい。好きな人に言われたら嬉しい言葉だが、憎き敵に言われたらおぞましいか」
ゴリーレッド「乙女にとって全てを奪われる恐怖と屈辱は耐え難い」
コング「初めてを奪われてしまったか。ここで興奮するのは不謹慎か?」
ゴリーレッド「泣かす」
火剣「心まで焼失することなど絶対にあってはならない」
コング「肉体を奪うのは容易い。無抵抗にされたらどうすることもできない。我々ヒールはヒロインの心まで奪おうとする」
ゴリーレッド「ソルジャーは屈しない」
コング「そこを屈服させるのが拷問のプロというもんよ」
火剣「オネはそういう感じでもなさそうだ。ただ欲しいと」
ゴリーレッド「ソルディエルの激憤はオネに通じるか」


2014年12月29日 20:48
>アッキーさん
暴虐の魔法使いの通り魔的変質者っぷりといったら…。ソルディエルを襲った魔法使いと、奇しくも同じ台詞を吐いていたオネ。本当に残酷なことを平然と行う人(?)です…。自分から色々なものを奪おうとしているという観点に立てば、オネも昔に襲ってきた魔法使いもソルディエルにとっては同じことですね。オネは着実に外道王としての道を進んでいます。
マチネの人々の記憶の中にちょくちょく登場するこの魔法使いは何者なのか。ジュールズは、カトレーアがチュルーリの体内から出て来た五つの宝玉を封印するために建国しました。まあ、この魔法使い、無関係では有り得ない。ガーネットの父親ではありませんが、魔法使いである以上、ジュールズに血縁者がいてもおかしくはない。
ただ、佐久間さんの言うとおり、マチネに取って重要なのはそこではなく、自分達が魔法使いから計り知れない被害を受けたという事実があるということ。恨みは恨みで返す。憎しみは憎しみで返す。例え、暴虐の魔法使いやその血縁者が全員死んでいたとしてもマチネは魔法使い全員を根絶やしにするまで止まらないでしょう。
オネの誘いを断ったソルディエル。既に瀕死状態でこのまま何もしなくても死にそうなのに、オネの一撃を喰らえば、王道具がない状態では今度こそ…。今こそアールの出番か!?
2014年12月29日 20:49
>火剣獣三郎さん
マチネに集いし者達は皆、何がしかの魔法使いの暴虐に晒された過去を持ちます。マチネで生まれ育った者達はそうではないのですが、上層部や一定以上の年齢の者は皆、そんな感じ。その中でもソルディエルはまた相当に凄惨な過去がある。
言葉は言う者によって様々に意味が変わります。同じ言葉でも立場が違えば全然別の意味になる。好きな人に褒められるのと、嫌いな人に褒められるのでは全然違うように。また、同じ言葉でも愛が篭っているかいないかで全然違う。
この頃のソルディエルはまだ戦士でも何でもなく、一人のどこにでもいる村娘でした。いずれは大きくなって、誰かを好きになって、結婚して、子どもを産んで、孫の顔を見ながら天国に行く―――そんな将来をぼんやりと思い描きながら暮らすどこにでもいるような少女でした…。
肉体と精神は密接な関係にあり、肉体が弱ると自然と精神も弱る。足を焼かれたソルディエルは、心までも…。それでも今のソルディエルは屈しない心を持つに至った。オネは拷問のプロかどうかは分かりませんが今のところは単純な力押し。ソルディエルの怒りの篭った拒否に対してオネは何を思うのか。

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