英雄再来 第十一話 ソルディエル1

生きる気も死ぬ気も失せていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

全てを奪われた後、ワタシはどれぐらいその場にいたのだろう。かろうじて命は残ったものの、生きる気力が全く湧かず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。時間が過ぎることすらどうでもよかった。このまま時間と共に死ぬのだと思っていた。それでよかった。全てを失い、何をする気力も沸かず、ワタシは消極的な自殺を図った。
このまま肉食動物が来てワタシを食い散らかしてくれてもよかったし、空腹のまま餓死してもよかったし、焼けた足が腐って全身が駄目になってもよかった。夜の寒さで死んでもよかった。もう一度魔法使いが来て、今度こそ殺してくれてもよかった。かすかに残っている火が風で燃え広がり、蒸し焼きになってもよかったし、直接焼け死んでもよかった。自分から動く気にはなれなかったが、死ぬことを望んでいた。死ぬことを受け入れていた。それを拒否する心がないのだから。

どれぐらい時間が経ったのか数えてもいない時だった。

「生きて…いるかい…?」

声がした。誰か来たのか。ちょうどよかった。魔法使いなら今度こそ殺してもらえる。人間なら助けはしないだろう。非力な上に足まで失ったどうしようもない体を見れば、助けても得はないと考えるからだ。頼んで殺してもらおう。

「今、助ける。」
そう言って、その者は通信機を取り出した。
「こちらジェゼナ!生存者を一名発見!直ちに搬送する!」


ワタシは生きていたくないのに生かされてしまったのだ。





ワタシを助けたのはマチネと呼ばれる国の者達だった。噂ぐらいは聞いたことがあった。魔法使いに酷い目に合った者達が集まり、魔法使いに対して復讐を企てている国があると。しかし、魔法の使えないワタシ達に何が出来るのか、というのがマチネに対する評価で一般論だった。
魔法使いに見つからないようにひっそりと村を作り、生きていく。それが当たり前だった。魔法使いの国々は大陸の周囲に散在し、そちらに近付かなければ基本的には安全だった。ただ、時折、そこからやって来た魔法使いがどこぞの村を襲った、誰々が殺されたという話を旅人達や行商人から聞いていた。
魔法使いはワタシ達にとっては自然災害のようなもので、襲われればどうしようもない。抵抗など無意味。とにかく逃げて、命さえ残れば儲けもの。それが現実。どんなに辛くてもそれを受け入れなければならない。

ワタシは生き残った。もう生きたくないのに助けられた。ただ、生きる気などなかったが、死ぬ気すらも沸かなかった。生ける屍、それがワタシ。死期が少し遅くなっただけで、すぐに死ぬと思っていた。生きる気などなかったのだから。
ワタシを助けたのはジェゼナという者だった。その後の世話をしてくれたのもジェゼナだった。長い手袋と靴下を履いて、顔には常に仮面を付けているという奇妙な出で立ちだったが、ワタシには興味のないことだった。ワタシの興味は、早く寿命が来て両親の元へと旅立つことだけだった。





マチネに運ばれたワタシは何日も食事も取らず、ただ何もない宙を見つめて、死んだように横たわっていた。その時、何か物音がした。ジェゼナが来たのか。それともマチネの住人が来たのか。そう思って、目だけそちらを向けたら、そこにいたのは黒い姿の魔法使いだった。

「ひぃいいいいぃいぃいいいいい!!!!」

ワタシの全身に恐怖が駆け巡った。逃げ出したくて、でも逃げるための足がなくて、がむしゃらに暴れて寝台から落ちた。

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この記事へのコメント

2014年12月30日 00:11
助けられても、悪夢を見続ける日々。
私も子供のうちに死んでおけば良かったと、今でも時々思います。せいぜい週1程度ですが・・・。ソルディエルは毎晩のように悪夢にうなされるとしたら、毎日のように死にたいと思うのでしょう。
それでも生きようと思えるのは、自分の為というより助けてくれた人の為なのだと思います。ここで自分が死を選んだり、死んだような生き方をすれば、ジェゼナに顔向けできない。
恥を知るからこそ死にたいと思うし、恥を知るからこそ生きることを諦めない。この時点では、まだ無気力ですが、隊長となったソルディエルを見ると、そんな気がしてきます。
2014年12月30日 21:16
コング「昨夜は年越しそばも食べたし。きょうはコンビニで明太子クリームソースのスパゲティだ」
火剣「うまそうだな」
コング「レジにいた女子店員もうまそうだった」
ゴリーレッド「コングも本質はオネやチュルーリと変わらないか」
コング「そんなに褒めるな」
ゴリーレッド「褒めてない」
火剣「ジェゼナとソルディエルの出会いか」
ゴリーレッド「マチネという国は人生の恩人なのか」
コング「肉食動物か。巨大な熊か、獰猛な虎か、狼の群れが萌える」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「だあああ!」
火剣「魔法使いの急襲は自然災害のようなものか」
ゴリーレッド「でも黒い魔法使いに対して慌てふためいてベッドから転げ落ちたということは、やはり生きたいからなんだ」
火剣「人間はどんなことがあっても死んではいけない。死なれたほうはもう、一生残る」
ゴリーレッド「絶望している人間に、生きていればきっといいことがあると言っても、たぶん心に響かないだろう。生きてほしい。ただただ生きてほしい。理由も理屈もない。死なれたら困る。その思いが通じるかどうか」
火剣「ジェゼナはソルディエルをどう救ったのか?」

2014年12月30日 23:16
>アッキーさん
恐ろしい体験をして、それから助かったとしても、その体験がなくなったことにはならない。起きていても何かの弾みで思い出したり、寝ていても夢で見たりして、何度もその体験を繰り返す。悪夢を見たくなくて眠れず、気が付いたら悪夢で目が覚める。心が焼失した時、もう死ぬことすらどうでもいいと思っても悪夢は離してはくれない。
人が生きる理由は様々あるでしょう。ただ日々を生きる、あることをしたいから生きる、叶えたい夢があるから生きる、誰かの為に生きる――――――。衝撃的な事件から数日、現在の隊長ソルディエルとしての面影はまだありませんが、生きることをギリギリのところで諦めてはいない。
2014年12月30日 23:18
>火剣獣三郎さん
気が付けばもう一年も終わりに近付いていて、早いものです。クリスマスにはフライドチキンを食べたし、お正月にはお餅をたらふく食う予定です。
さて、三つ子の魂百までというように、人間の本質というのは一度決まってしまえば中々変わらないもののようです。今回からソルディエルの過去を少しだけ放映。隊長になる前、特務隊に入る前のソルディエルが、ジェゼナと出会い、どう変わっていくのか。魔法使いに全てを奪われたソルディエルにとって、マチネとそこに所属するメンバー、特にジェゼナには大きな恩を感じています。
生きていたくない、自然災害だから諦める、そう思っても心の奥の奥の奥では生きたいと願っている。ゴリーレッドさんの言う通り、無気力になりながらも本当は生きていたい。体が無気力を選んだのは『積極的な自殺の防止』というある種の生存本能だったのかもしれません。
これから先、どんなにいいことがあっても消えることのない傷を心と体に負った人間に対して『生きていればきっと~』というのは残念ながら心に響かないですね…。聞くための心がズタズタなのだから…。
生きていて欲しい。理由なんかいらない。ただ生きていてくれるだけでいい。事故から奇跡的に生存した人に対してその母親がそう言っていたニュースか何かを見た記憶があります。生きていてくれるだけで十分嬉しい。ソルディエルを助けたジェゼナの思いは通じるかどうか。

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