英雄再来 第十話 オネ16

戦場では一瞬の心の乱れが勝敗を決する時もある。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルディエルの渾身の攻撃。その長剣がオネの背中の炎の羽根に当たった瞬間、あっと言う間に溶けた。金属で出来ているはずの長剣の刃が相手を斬った瞬間に溶けたのだ。

攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、オネはまさにそれを体現していた。オネを取り巻く圧倒的な熱量は近付くもの全てを溶かし尽くす。一応、攻撃は当たったので全くの無駄という訳ではない。しかし、文字通り焼け石に水である。オネに加わった衝撃は、通りすがりの人と肩がぶつかった程度のものだった。

オネはクルリと後ろを振り返ると、ニヤリと笑って、大きな炎の羽根を広げて向かってきた。ソルディエルは機動力を活かしてジグザグに移動したり、急降下と急上昇を繰り返してオネと距離を取った。

『逃げてばかりじゃつまらんぞ?』
オネは大きく息を吸った。
『炎(ブラーゼ)!』

オネが吐き出したのは今まで見たこともない程の巨大な炎の塊。その大きさ故に、正確に狙わなくても大体の方向へ放てば目標に当たるという程の代物だった。
ソルディエルは、その攻撃を回避するために全力で飛んだ。交わした、と思った瞬間、ソルディエルはとんでもない失敗をしたことに気が付く。ソルディエルが交わした炎の塊の行き先はマチネの中心部だった。

「――――――!!!!!」

交わすべきではなかった。しかし、防ぐ手段もなかった。ならば、撃たせるべきではなかった。オネが放った炎はマチネに来てから一番巨大な炎だった。このような攻撃が出来るという想定を予めした上で、近接攻撃の連続を仕掛けるか、逃げる場所を限定してマチネの中心部を背にしないか、そんな方法しかなかった。しかし、近接攻撃をすれば炎に焼かれ溶かされる。マチネの中心部を背にしないことは、そちらへの侵攻を許すに等しい。

オネにとってはたまたまソルディエルに向かって炎を放ったら、それがマチネの中心部の方向だった。それだけのことである。炎がマチネの中心部に命中し、巨大な火柱が立ち上る。その炎は最中枢区画まで到達し、マチネの中枢を一撃で粉砕した。それは、オネとソルディエルの力の差を象徴するような光景であった。


「陛下――――――!!!!!」
ソルディエルは言葉にならない叫びを上げて、火柱の上がるマチネの中心部へと飛び出した。瞬間、その背後には既にオネが両腕を広げていた。冷静さを欠いたソルディエルはオネの接近を許してしまっていたのだ。


オネがソルディエルを捉えた。
























――――――――――――――――――

『そうだね。現状に合わせるのなら、マチネに魔法使いが現れて最中枢区画に数多の魔法弾を撃ち込んだ。最中枢区画は火の海だ。助けに向かうか、魔法使いを殺しに行くか、どうする?といったところか。ソルディエル君、今の君はどう行動する?』

――――――――――――――――――


瞬間、ソルディエルの心に去来したのは仮面の者との問答の一場面だった。


――――――――――――――――――

「魔法使いを、殺しに行きます。」
『助けには向かわないのかい?』
「はい。」

『それは、見捨てるということかい?』
「いいえ。信じているのです。まず最中枢区画はマチネの技術の粋を集めた要塞。魔法使いの攻撃にもある程度までは耐えてくれるでしょう。」
『それでも被害は甚大だろう。』
「魔法中和波動発生装置もあります。」
『常時発動は動力的に不可能。奇襲されたなら破壊されるのが先だね。』
「装置や建物が破壊されても、中の者達は生き残るでしょう。警護隊は屈強な兵士達です。有事の際にも、陛下や大臣達を守って余りある活躍を見せるでしょう。」

『では、魔法使いとは一人で戦うのかい?』
「いいえ。必ずや仲間や部下達も駆け付けます。ワタシが魔法使いのところへ到着する前にも既に戦っている仲間もいるでしょう。」

『君が駆け付けた時には、先に戦っていた仲間が全員殺されている。別のところに魔法使いが現れて他の仲間達や部下達は皆がそちらの相手をしなければならなくなった。君は一人で戦わなければならなくなった。それでも戦えるかい?』
「戦います。」
『他の仲間達や部下達が魔法使いに殺されて、君の後ろを守る者も、横に並ぶ者もいない。戦えるかい?』
「戦えます。」
『何故?』

「信じているからです。ワタシは共にマチネのために戦う仲間達のことも、部下達のことも信じています。必ず魔法使いを殺して救援に駆け付けると。ならばワタシも信じられている。ワタシが必ず魔法使いを殺し、救援に来てくれるということを。」
『信じれるかい?』
「はい。」
『信じ切れるかい?』
「はい。」
『今までも信じて戦った。それで、どれだけの者が残った?』
「死んだ者もいます。しかし、共に生き残った者もいます。」
『次は誰もいないかもしれない。』
「この世界に絶対などありませんから、それも可能性の一つでしょう。しかし、それでもワタシは信じます。必ず生き残り、皆で未来を勝ち取ると。もし我々が魔法使いに勝るものがあるとするならば信じ続けられるかどうか、ですから。」

――――――――――――――――――


その一瞬が生死を分けた。オネが攻撃に入る数瞬早く、ソルディエルはオネの接近に気が付いた。そして同時に気が付いた。無敵と思われたオネの弱点。空中を飛んでいる時は背中の炎の羽根に熱量が集中していて、オネの前方は防御に十分な熱量を有していなかった。
その瞬間、ソルディエルの機動力ならば急下降して回避も可能だった。しかし、戦士であるソルディエルの金属に包まれた腕は攻撃を選択した。千載一遇の機会だったから。この機会を逃せば次はないかもしれない。相手が弱点に気が付く可能性もある。そして、その半ば無意識の行動というのはオネにとっても察知し辛かった。


空中で急回転すると同時に突き出された『初志完鉄』がオネの喉を貫いた。刃が溶けても『初志完鉄』は、その自身の能力で再生可能だったのだ。

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この記事へのコメント

2014年12月24日 01:30
大雑把に攻撃しても必殺の火力となるあたりが、もう絶望的。やはり6名の中でも彼女は別格に思えます。
弱点というのも、どれほど弱点なのか・・・?
油断なのか余裕なのか、判別しにくいですね。

八武「美しい。」
維澄「これだけの火力があるなら、とっくにオネの服は燃え尽きているね。」
佐久間「おい。」
維澄「ソルディエルも露出の多いアーマー。たまらない。」
佐久間「おい、そこの百合革命家。」
維澄「クシャナと同じく、『我が夫となる者は~』なソルディエルだけど、そこが萌えどころでもあったりする。」
佐久間「欠損マニアか。」
八武「同志よ。」
山田「今度こそオネに攻撃が通るか?」
神邪「どうでしょう。弱点と攻略法は別物ですからね。」
2014年12月24日 22:09
火剣「真剣と真剣で斬り合うような真剣勝負は一瞬たりとも隙を見せられない」
コング「隙のない女よりも脇が甘い女のほうがモテるぞ」
ゴリーレッド「何の話をしている」
火剣「体を張るのは無理だ。マチネの中心部を背にしないなんて余裕があるわけがない」
コング「何、オネはソルディエルを捉えた?」
ゴリーレッド「まさか」
コング「つーかまーえた!」
火剣「信じ合うか。魔法使いに勝つ唯一の方法は、人間らしく信じ合うことか。仲間を、戦友同志を信じ切る」
コング「あれ、捕まえたわけではないのか」
ゴリーレッド「コングはどっちの味方だ?」
コング「オネー!」
火剣「伸ばすな」
コング「オネがピンチになるよりはソルディエルがピンチになったほうが萌える」
ゴリーレッド「最低な思考」
火剣「この一撃は果たしてオネに通じたか」
2014年12月24日 22:39
>アッキーさん
攻撃力も攻撃範囲も桁違い。しかも、それが超必殺技とか精霊攻撃ではなく、通常魔法のはずの炎(ブラーゼ)なのだからたまったものではありません。一番チュルーリに近い者だと思われます。炎の羽根で空中を飛んでいる時は前方が疎かになるというのも相対的な話で、通常なら視界に入ってる前方が弱点にはなりにくい。飛んでいるオネの懐に反撃覚悟で飛び込んだ時ぐらいしか、もうオネに攻撃を当てるチャンスがないのです。
今現在、オネさんは完全に生まれたままの姿ですね…。周囲に粘土のような炎があるために鮮明な姿を捉えるのは難しいとは思いますが。今回の小説は欠損キャラが多数。多分、私が欠損マニア(?)だからなのかもしれません。
マチネの中枢が一撃で破壊されて、最早帰る場所もないソルディエルが放った渾身の一撃はオネに通用するのか。そろそろ決着の時が近付いて来たかもしれません。
2014年12月24日 22:53
>火剣獣三郎さん
オネ相手では他に気を回している余裕などなく、一瞬たりとも相手から目を離すことは出来ません。隙を見せれば即死、隙を見せなくてもヤバイ。もし、マチネの中心部に気を配っていたなら、ソルディエルはもっと早い段階でオネに殺されていたでしょう。戦いに全力を尽くしたからこそ、ここまで戦えた。しかし、その結果、戦う理由でもあった、守りたいものを守る、ということが出来なかったという皮肉。
ついにオネの魔の手がソルディエルを捉えたかと思った瞬間、ソルディエルの懇親の反撃。信じあうという人間の唯一の武器、精神面の鍛錬も怠らなかったことが、ここにきて幸をなした。マチネの中枢が破壊されたことで、生きているかもしれないというのは希望的観測でしかない。けれども、それでも、信じて戦うソルディエルの一撃はオネに通じたかどうか。次回、ついに決着…?

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