英雄再来 第十一話 ソルディエル13

夢か、現か、幻か。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

――――――――――――――――――


(ここは…どこだ…?)

ソルディエルが目を覚ますと、そこは真っ暗闇の空間だった。目ははっきりと見えているのに周囲はどこまでも真っ黒で先が見えない。まるで黒くて広い箱の中に入れられて、自分がいる一点だけ上から光で照らされているよう。

「お母さん。」

「え?」

ソルディエルが後ろを振り向くと、小さな男の子が自分の袖を引っ張っていた。
「お母さん。」
その男の子はニカッと笑った。その安堵の笑みは相手を無条件で信じている者だけが見せる無邪気な笑みだった。

「…迷子なのか?残念だが、ワタシは貴様の母親ではない。何故なら、ワタシは結婚していないし、子どももいないのだから。」

「お母さん。」
ソルディエルがいくら言い聞かせても、その男の子はソルディエルから離れようとしない。
「違うのだ…。違うのだよ…。」
ソルディエルは少々戸惑い、困った顔をするのだが、男の子はそんなことは分からないのか、お構いなしにソルディエルに付いていこうとする。

一瞬、ソルディエルはこの子をマチネに連れて行こうと思った。しかし、そんなことをすればこの子は魔法使いとの戦いに身を投じるか、魔法使いに狙われる立場になる。それに本当の母親の元に戻してやるのがこの子に取って一番いいことであろうと思った。
「…分かった!貴様の母親を一緒に探そう。それでいいだろう?」

そう言われて男の子はとても嬉しそうにした。ソルディエルは男の子の手を引いて進もうとしたが、いかんせん男の子の身長が低過ぎた。ソルディエルがどうしたものかと思っていたら、男の子は両手を広げて抱っこをせがんできた。ソルディエルは男の子を抱き上げると、豊満な胸にしっかりと抱えた。
その時、ソルディエルは何故かしっくりきた。言葉に表すのは難しいが、それが当たり前であり、一番いい形のような感覚を覚えた。当たり前のところに当たり前のものが戻ったような感覚。仕事で出かけた父親が晩御飯になって帰ってくるような、買い物に行った母親が大きな荷物を抱えて帰ってくるような、そんな当たり前のことが当たり前に起こった感覚を覚えた。
その感覚の理由を考えたが、ソルディエルはついに分からず仕舞いだった。これ以上考えても仕方がないと思ってソルディエルは歩き始めた。


しばらく歩いていると、向こうの方で声がする。行ってみると一人の女性が声を出して誰かを呼んでいた。
「坊やー?坊やー!?」

ソルディエルは思った。この子の母親だと。
「失礼。お探しの子どもはこの子ではないだろうか?」
ソルディエルはその女性に近付いて抱き抱えていた男の子を見せた。ソルディエルの胸の中で男の子はスヤスヤと寝息を立てていた。

「ああ、間違いありません!坊やです!あなたが見つけてくださったのですね。ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
女性は歓喜の声を上げながら何度もお辞儀をした。

「いえ。巡り会えてよかった。」
ソルディエルはそう言いながら抱き抱えた男の子を女性に渡した。
「大切は失いやすい。初対面のワタシが言うのも差し出がましいのかもしれませんが、どうかもう離れないように。」

「ええ…。」
その女性が男の子を受け取った瞬間、眠っていた彼が突然泣き叫んだ。

「大切ハ奪ワレヤスイナ。」
その時、女性は濁った笑顔を見せて、黒いヘドロに変わり男の子を飲み込んだ。

「!!?」

そして、男の子を飲み込んだヘドロは、かつてソルディエルを襲った魔法使いに姿を変えた。

「!!!???き、貴様ああああああ!!??!?」

ソルディエルは混乱しながらも魔法使いに襲いかかった。しかし、その魔法使いが指を鳴らすと、突然ソルディエルの足が火を噴いた。

「あああああああああああ!!!!」

ジブジブと足が溶けて、ソルディエルは立てなくなってその場に倒れ込んだ。武器も何も持っていないのに足まで奪われて、ソルディエルは完全に攻撃手段を失った。それでも、手を伸ばして魔法使いに食らいつこうとしたが、その手はかつての少女だった自分の手に戻っていた。小さく、武器を持ったことのなかったまっさらな手に。
それでも、ソルディエルは魔法使いを睨み付けた。かつて足を奪われた時は心まで焼かれたが、あの時とは違い、今のソルディエルは戦う意志を残していた。

動けなくなってもまだ睨み付けてくるソルディエルを魔法使いは見下しながら笑った。そして、懐に手を入れた。そこから取り出したのは、先程の男の子だった。

「!!」

ぐったりとして、非常にか弱い存在を黒く大きな手がわし掴みにしている。そして、魔法使いの顔がドロリと溶けて巨大な口と牙に変化した。

「止めろ…。止めろ…!止めろー!!!」

ソルディエルは届くことのない手を目一杯伸ばして叫んだ。

「ワタシの子どもに手を出すなあ!!!」

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この記事へのコメント

2015年01月12日 21:26
コング「夢か、現か、幻か」
火剣「夢だな」
ゴリーレッド「夢だ」
コング「どんあ暗示だ?」
ゴリーレッド「夢には二通りある。悪魔が見せる夢と、天使が見せる夢だ」
火剣「悪魔が見せる夢は間違ったメッセージか。毎晩妻が自分の悪口を言う夢を見たら、人間弱いもんで『本心なのか?』と疑心暗鬼になる」
ゴリーレッド「それが悪魔が見せる夢だ。天使が見せる夢は、正しいメッセージ」
火剣「科学的に天使とは本人の潜在意識が見せる夢か。いわゆる『もう一人の自分』ってヤツが、自分に気づかせる。間違った方向へ行こうとするのを夢で止めたりする」
コング「で、ソルディエルが見た夢はどっちだ?」
ゴリーレッド「わからない。悪夢が必ずしも悪魔の囁きとは限らない」
火剣「最後の『ワタシの子どもに手を出すな』というセリフが気になる」
ゴリーレッド「何かのメッセージだとしたら潜在意識が見せた夢か」
コング「夢をコントロールできたら毎晩ヒロピンドリームを見れるのに。誰か発明してくれ。脚本を書いてセットして寝たら脚本通りの夢が見れる。ぐひひひ」
ゴリーレッド「人間が堕落する発明はいらない」
火剣「大切ハ奪ワレヤスイという言葉も気になる」
2015年01月13日 00:03
3つの事象が混ざり合った、おぞましさと優しさの同居する夢。優しい夢が途中で濁ったときは若干ギョッとしましたが、ソルディエルの叫びが強く優しいですね。

佐久間「栞は母性に対して懐疑的だが、私は結構ね、信じているのだよ。母性というものをね。」
山田「子供に罪は無いと、少なくとも潜在意識は正しく認識しているんだな・・・。」
維澄「別に懐疑的なわけでなく、押し付けが嫌いなだけだよ。それだけに、こうした自然な母性の発露は美しいと思っている。豊かな胸が素晴らしい。」
佐久間「最後の一言が不穏。」
八武「子供は我が子と殺した子供。母親は殺した母親と、暴虐の魔法使い。色々と混ざった夢というのは、よく見る。」
神邪「あの魔法使いの子供であるというのも、確かなことですからね。」
佐久間「神邪としては、思うところは大きいかな。」
神邪「僕よりは、おそらく母さんの方が・・・。」
山田「頑張れソルディエル。」
2015年01月13日 23:15
>火剣獣三郎さん
現実と勘違いしてしまうほどのリアルな感覚を伴う夢。夢を見ている時、ああ夢だと思う時と、目が覚めるまで夢だと気が付かない夢とがあります。しかも、夢だと気が付かない夢の場合、その夢が荒唐無稽な話だったり、有り得ない話であっても、夢を見ている時にはそれに気が付かない。
そして、夢は何かの暗示だとよく言われています。自身の潜在意識、精神状態の反映、あるいは天からの啓示か悪魔の囁きか。見た夢をどう受け取るかは本人の心構え次第。自分が事故に遭う夢を見た時、朝から嫌な夢を見たと気分を悪くして出かけるのか、夢のことだから気にしないと出かけるのか、正夢かもしれないからいつもより気を付けて行こうと思って出かけるのかで、未来が変わるかもしれません。
さて、ソルディエルが見た夢はどちらの夢なのか。あるいは、どちらも混ざった夢なのか。そして夢が覚めた時、ソルディエルは何を思うのか。
ちなみに、夢の内容は寝る前に色々やると、ある程度コントロール出来るそうです。リラックスして空を飛ぶ夢を見れるように頭で思い描きながら寝るのを何度か行うと段々自分が見たい夢が見れるようになるんだとか。枕の下に好きな人の写真を入れて寝ると、その人の夢を見れるおまじないがあるそうですが、あながち間違いではないのかも。寝ている時ぐらいは好きな夢を見たいものです。
2015年01月13日 23:15
>アッキーさん
夢と現実の境界線が幻のごとく曖昧になってゆく。光と影のように優しさがあるからおぞましさが際立ち、おぞましさがあるから優しさがよく見える。夢の中だけでも幸せに…そんなことすら叶わないけれども、それでも守ろうと戦うソルディエル。
社会的な役割として押し付けられた母親像は時にその女性の女性らしら、もっと言及するなら個性や個人の考えを封じてしまう時もあります。そうなってしまうと子育ての時に何らかの悪影響が出てしまうのではないか、と思ってしまいます。自然に母性に目覚めるのは個人差があるのかもしれないし、誰にもで目覚めるかどうかは分からない。ただ、やはり、子育てを母親に全て任せ、丸投げするという意味で母性を使ってはいけないのだと思います。子育ては皆で、出来るだけ大人数で関わるのが良いとされ、『三歳児神話』は否定派の意見に説得力があるようです。
実は、最近のソルディエルさんの胸の成長が著しいのは妊娠したことによる成長ホルモンの分泌とかが関係していました。
夢は実際に見た記憶を整理して留めるための作業場のようなものとも言われています。たくさんの経験が一度に同じ場所に来るからごちゃごちゃになってしまうのかも。この子どもはソルディエルの子どもであると同時にあの魔法使いの子どもでもある。両親が相容れない時、子どもはどちらかにつかないといけないのかもしれません。どちらについた方が幸せなのか。どちらの方がその子どもにとって幸せなのか。ソルディエルは、自分の子どもを取り戻せるのか?

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