英雄再来 第十一話 ソルディエル15

未だに木鶏足り得ない。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

あの一件から数日が過ぎた。ソルディエルはジェゼナの命令で特攻隊の仕事を休止し、療養生活を送っていた。その療養中のソルディエルの部屋の扉を叩く音がした。

「ソルディエルさーん。エクスっす。入るっすよー?」
特攻隊の同僚であり先輩であるエクスが果物を持ってソルディエルの見舞いに来たのだった。

「どうぞ。」

中からの声を聞いて、エクスは扉を開けた。
「元気してるっすか?」

「ええ、どうにか…。」
ソルディエルは寝床から起きるところだった。

「まあまあ、まだ寝ててくださいっす。」
エクスはスタスタとソルディエルのところまで行って、片手で支えている皿を差し出した。そこには皮の剥いてある果物が並んでいた。
「少しは起き上がっていた方が楽なんで…。」
そう言いながらソルディエルはエクスが持ってきた果物の一つに手を伸ばし、口の中に放り込んだ。

ソルディエルの顔色は良いとは言えず、声に元気があるとは言い難かった。しかし、陽が昇るような、回復に緩やかに向かう雰囲気を醸し出していて、エクスは一人胸を撫で下ろしていた。

その時、エクスは机の上に金属で出来た物がいくつかあるのに気が付いた。それは鎖がついていたりして、鎧の一部分のような印象を受けたが、何故か全てに鍵穴のようなものがついていた。
「あれ?これは…。」

「…貞操具です。ジェゼナ隊長に相談したら、すぐに持ってきてくれました。」

「ああ、隊長もっすからね…。」

エクスがポツリと呟いた言葉でソルディエルは身をピクリと震わせた。
「エクスさん、それ、どういうことですか…?」

「あ、いや…。」
エクスは少しばかり視線を泳がせた後、机の上に果物の乗った皿を置いて、自分も椅子に座った。
「隊長も魔法使いに襲われて子どもが出来たんす。…流れたっすけど。魔法使いと人間は別の生き物っすから、どうあっても流れるみたいっすね…。」


沈黙が少しの間、場を支配した。



(…ずっとジェゼナ隊長を凄いってずっと思ってた。一番尊敬出来るって思ってた。その理由が今、はっきり分かった。マチネで一番辛い思いをしたからなんだ…。一番辛い経験をしたから、誰よりも優しく、いつも隊員のことを気にかけている。辛い経験があるから必死で考えて、作戦を立てる。その経験があるから人や人の繋がりを誰よりも大切にしてる。一番辛い経験をしたから、誰にもそんな思いをさせたくないと、平和な世界を作ろうとしている…。ワタシにはとても真似出来ない…。きっと、今よりも酷い目に遭っていたらきっと二度と立ち上がれなかっただろう…。隊長は、子どもが流れた時、どんな気持ちだったんだろう…。悲しかった?辛かった?怒った?泣いた?それでも、隊長は立ち上がり先に進むと決めたんだなあ…。それを乗り越えたんだなあ…。)



「エクスさん…。」

「は、はいっ。」

「もし、魔法使いの子どもがワタシから生まれてたら、ワタシはその子を殺していたかもしれない…。憎い魔法使いの血が流れているから、頭に血が上って殺していたかも知れません…。それに魔法使いの子どもは魔法使いだからマチネにとって敵も同然…。ワタシが殺さなくても誰かが殺していたでしょう…。
でも…。それでも…!半分はワタシの血が流れている子ども…!確かにワタシの子どもなんです…!せめてちゃんと、産んでやりたかった…。魔法使いの跋扈する、平和とは程遠い世界だけれども、それでも生きることには、産まれることには意味があったはず…。
それに…あの時、ワタシは夢を見ました…。ワタシのことをお母さんと呼ぶ男の子…その男の子が魔法使いに連れ去られる夢でした…。その時、ワタシは叫んでいたんです…。ワタシの子どもを返せって…!!
エクスさん…!ワタシは未だにジェゼナ隊長の足元にも及ばないし、全然木鶏足り得ない…!いつも迷って、心を決めても次の瞬間にはまた揺らいで、ボンがワタシを庇って死んだ時もう迷わないと決心したのに、自分が妊娠していたことに驚いて子どもが流れたことに心揺らして、木鶏など程遠い…!ワタシは強くない…。王道具を手に入れても、力を手に入れても、心はあの日のまま…。魔法使いに襲われ、足を焼かれた、あの日のまま…!」

ソルディエルはそのまま唇を噛み締めたまま声を押し殺して泣いた。

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この記事へのコメント

2015年01月15日 00:15
コング「『奪う』という言葉に、興奮を禁じ得ないのは私だけではあるまい・・・待て!」
ゴリーレッド「不謹慎男には、アトミックドロップ!」
コング「だあああ!」
火剣「ある意味、最悪の悲劇だ。憎き魔法使いに全てを奪われる。しかも孕まされるなんて」
ゴリーレッド「これが女性特有の悲劇。あってはならないことだ」
コング「禁断のプレイのほうがスリリングではないか」
ゴリーレッド「コングは辛い経験をしたことはないのか?」
コング「なーい!」
火剣「木鶏にはなかなかなれない。人は迷う」
コング「♪人としてー、人と出会い、人としてー、人に迷い、人としてー、人に傷つき、人としてー、人と別れて、それでも、人しかー、愛せないー・・・これが人間というもんよ」
ゴリーレッド「365日に1回はまともなことを言う」
コング「それより貞操具?」
ゴリーレッド「強制終了」
コング「終了しない。これは重要なことだ」
火剣「エクスもソルディエルも皆したほうがいいな」
コング「魔法で破壊するで生姜焼き」
ゴリーレッド「その前にコングを破壊しよう」
コング「ダッシュ! 逃げるが勝ち」


2015年01月15日 01:28
ジェゼナ隊長も! しかし、言われてみれば意外ではない感覚・・・。あれだけのことが言えるには、同じレベルの経験をしていないと、まず無理でしょう。
このあたりが、アールへの貞操具の話に繋がっているわけですね。

神邪「僕も意外ではないですね。ジェゼナさんがソルディエルさんに言ったこと自体は素朴なことなんですが、あることを言わなかったあたりに、気遣いがあると思うんです。」
山田「言わなかったこと?」
神邪「苦しんでる人間に対して、『みんな苦しんでるんだよ』って説教する人いるじゃないですか。けれど、そう言う人に限って、大して苦しんでないんですよね。そういう押し付けがましい意識が、ジェゼナさんには無いんですよ。」
山田「ふむ、なるほど・・・。」
維澄「みんな苦しんでるって考え方は、被害者が自発的に思うもの以外は駄目だよね。」

一方で、魔法使いと人間は別種であるという意識を、強固にしてしまった。
傍から見れば、流れやすい条件のオンパレードなのですが・・・。過剰なストレスに、激務。
おそらくジェゼナとソルディエルだけではないのでしょう。他にも被害者が存在していて、やはり流れている。そうした事例が重なれば、別種だからと考えても仕方なくなる。恐いことです。

佐久間「母しゃんも、私も産んだとき、どうだったのかなー。」
山田「きっと愛していたさ。」
佐久間「まあ、私を疎んだのは父親の方だったからな。・・・だからこそ母しゃんは私を慈しんだのかもしれないと、考えるときがある。アンビバレンスな感情が、2人に分かれただけなんじゃないのかってね。」
山田「そうなのか・・・。」
佐久間「そもそも当時から、父親を恨んではいないんだよ。恨んだからではなく、邪魔だったに過ぎない。ある意味で、奴も被害者なんだよね。」
2015年01月17日 21:00
>火剣獣三郎さん
女性特有の悲劇。それに加えてソルディエルとしては王道具を手に入れ、戦う日々を繰り返すことで、魔法使いに襲われたあの日のことを精神的に乗り越えようとしていたし、乗り越えつつある実感を少しずつ感じていました。それは生きている実感でもあった。しかし、今回のことはそのトラウマを引きずり出し、より生々しい傷となって悪夢に現れた。自分に子どもが出来ていたという事実、そしてそれを失ったという事実は、ソルディエルの心に大きな傷を付けました。
人は中々木鶏足り得ない。どんな鋼の精神を得たと思っても、もう迷わないと決意しても、あまりにも大きな出来事、悲しい出来事、衝撃的な出来事、難しい出来事、辛い出来事の前に、人は悩み迷う。人は生きている限り出会いと別れを繰り返し、その中で傷付く。それでも、人は人を求め、温もりを求める。人は一人では生きていけない。
さて、以前にも出て来た貞操具。あの時、ソルディエルが特務隊入りしたアールに速攻で渡していたのは、こういう経緯からでした。悲劇を繰り返さないために特務隊では通常装備の一つになっています。鎧をベースに作られたので、破壊される時はおそらく死ぬような攻撃を受けた時になるでしょう。
2015年01月17日 21:00
>アッキーさん
ジェゼナは両手両足を奪われただけでなく、それ以上に…。そのおぞましい記憶と悲しみの経験を持つからこそ、ジェゼナは隊長になった。
しばしば起こり得ることなのかもしれませんが、ある事柄に置いて、例えば公害でたくさんの人が被害を受けた時、ある人は死に、ある人は重度の障害を負い、ある人は軽度の障害を負い、ある人は風評被害にさらされた。その時、政府からの被害者認定を受けた者、受けられなかった者が出て、本来なら公害を起こした者へ向けられるべき怒りの矛先が同じ被害者同士の攻撃になることがある。
魔法使いから被害を受けた者達は、死んだ者もいるし、体の一部を失った者もいるし、治る怪我の者もいる。そうした中で、腕を失った者が腕の残っている者を羨み、足を失った者が足の残った者を羨むような状況が生まれ始めました。本来、怒りをぶつけるべき魔法使いが目の前にいないのですから。
それをジェゼナは、両手両足を奪われ、更に妊娠し、流産した者の立場から、共通の敵が魔法使いであることを明確にし、協力し合うこと、人の心の強さや大切さを説きました。その立場だからこそ、心に響く。ジェゼナの性質の一つに「統一」があると思われますが、それはジェゼナが自身の辛い過去を乗り越えて得たものの一つなのかもしれません。もっとも辛い経験をしたから他の人に共感出来るし、他の人はそんな思いをしてきた人の言葉だからそこ心の深くに届くのかもしれません。
辛い経験をした過去を持つ人は、他に辛い思いをしている人に出会った時、かける言葉が二種類に分かれる、他の人に「私も辛かったよ」と言う人と「辛い思いをしたね」と言う人。自分が主体か、相手が主体か。
そして、ジェゼナは辛い経験をした、だから、「みんな苦しんでいる」ではなく「辛かったよね」と言える人だった。
2015年01月17日 21:00
このようなことがあったので、マチネではジェゼナが貞操具を盾や鎧などと同じ防具の一つとして開発出来ないかを鍛冶屋や武器屋に頼んでいました。ソルディエルに渡されたものは試作品のようなもので、この中から使いやすい形のものを選んでサイズを合わせていきます。これが後の特務隊では隊員全員が装備するものの一つになっていて、アールとソルディエルのあのやり取りに繋がっています。
このような強姦、そして流産の悲劇を経験した者がマチネには何人も存在します。マチネに拾われなかったり、そのまま死んだりした者がいることを考えるとさらにたくさんいそうです。
自分が望まない子どもを産むというのは、母親も子どもも悲劇。疎まれるほど悲しいことはないし、ましてや自分が産んだ子どもを恨んだり、果ては手にかけたりするようなことは悲劇以外の何物でもない。
ソルディエルは生きて産むことの出来なかった子どもに対し、涙を流した。ならば、佐久間さんのお母さんも佐久間さんを愛していたと思います。母親って、そういうものじゃないでしょうか。

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