英雄再来 第十一話 ソルディエル7

『大切』は、戦わなければ守れない。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ジェゼナが隊長になってから特攻隊の死亡率は大幅に下がった。それはジェゼナの立てる作戦の精密さが群を抜いて良いことに起因する。ジェゼナの立てる作戦は、とある思想に基づいて、奇襲した時に魔法使いがどう動くかを綿密に想定しているところであった。
しかも、その想定をいくつも立てて、その中で可能性の高いもの全てを提示し、奇襲側がどう分かれて、どこに配置され、どの機会にどう動けば一番効果的なのか、その連携の組み合わせも全て考えられていた。

ジェゼナの思考の深さは普段から徹底的に行っていた禅問答のような想定論議で鍛えられていた。失った両手両足を王道具に変えて動けるようになるまでの間に行っていた自己思考訓練の延長なのだが、その間に考えていた人間の意志を信じる人間信仰の思想と共に、考えることが自分の力になり、それが魔法使いを真に破る力になると信じた。人間の意志はそれ自体ではか弱いものではあるが、それがなければ何も始まらないし何も出来ない。特攻隊が上げた成果は紛れもなく人間の意志がそのまま力になったものであり、人間信仰の正しさを証明し、マチネの者達に『魔法使いに勝てる可能性』という希望をもたらしていた。





そして、今回の魔法使いの拠点破壊もジェゼナの立てた作戦に則って決行された。信じることは力になる。それを実感する日々を経た特攻隊はますます勢い付いていた。
砲撃、爆弾、各方面からの同時攻撃、逃げ惑う魔法使いへの追撃、手薄な方へと逃げられるように敷かれた攻撃陣形、その先で待ち構える更なる奇襲部隊。特攻隊の奇襲作戦は成功した。

しかし、魔法使いの反撃も凄まじかった。住人の誰もが魔法を使う。それは一人ひとりが銃や大砲で武装しているに等しかった。炎が飛び交い、水が吹き出て、雷が降り注ぎ、岩が突き出て、風が斬り刻む。奇襲は最初こそ成功するが、相手が冷静さを取り戻して陣形を立て直せばその優位性は消える。そうなる前に相手を全滅させることが出来れば勝ちだが、そう上手くいくほどここにいた魔法使いの人数は少なくはなかった。

奇襲の優位性が消えた後はひたすら消耗戦が繰り広げられた。特攻隊も、魔法使いも次々に死んでいく。そんな乱戦の中、ついに魔法使い側が全面退却を始めた。それぞれが散り散りバラバラに逃げ出して行く。特攻隊としては一人も逃がす訳には行かなかった。逃げた魔法使いはいずれ傷を癒し、再び敵として立ちはだかる。しかも、一度奇襲を受けているので同じ作戦が通じなくなる。何より、魔法使いの拠点が何者かによって襲われた、ではなく魔法使いを襲っていたのは人間、ということが明確になってしまう。そうなれば魔法使いの警戒心が更に高まりこれから先の戦いを不利にしていく。そうならないためにも逃げる魔法使いを特攻隊の全員が追撃した。



(逃がさん!!)
ソルディエルも逃げ出した魔法使いを追っていた。この追撃戦でも王道具『世界一蹴』はとても役に立った。生身の魔法使いの走る速さは普通の人間とさほど変わらない。ただ逃げながらも魔法で攻撃してくるので追うのも一苦労である。しかし、『世界一蹴』なら追いながらも攻撃を交わすという芸当が出来た。


「炎(ブラーゼ)!!」

「ワタシの苦しみを!受けて死ね!!」

相手の魔法使いの懐に入って攻撃を交わし、ソルディエルは短剣を相手の心臓に突き立て、抜くと同時に素早く離れた。
相手の魔法使いは恨み言とも呪詛とも取れる不気味な言葉を吐きながら息絶えた。それは断末魔の叫びであり、遺言であり、最後の無意味な足掻きであった。

少しばかり息を切らせたソルディエルは唾を飲み込み、他に逃げた魔法使いを追うために再び走り出そうとした時、少し先の茂みが動いた。反射的にソルディエルは短剣を構え、腰の手榴弾に片手をかけていた。

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この記事へのコメント

2015年01月06日 19:37
コング「・・・むごいい」
火剣「やるかやられるかだな」
コング「悪い魔女もいれば良い魔法使いもいるだろう。もしもハリーが通う学校を人間たちが魔法使いの巣窟発見と言って奇襲でどんどん刺したら?」
ゴリーレッド「むごいな。その想像力は平和への近道だ」
コング「ゴリーレッドに褒められた。明日は雪か?」
ゴリーレッド「関東は晴れだ」
火剣「ジェゼナの『生きよ!』という信念も死傷者を減らしていると思う」
ゴリーレッド「戦において士気を高めることは重要だ」
コング「四季? ♪ふーゆを愛するひーとーはー、はだかもあいしますー」
ゴリーレッド「コングが隊長だったら士気を低めるな」
コング「誰がウインダムや」
ゴリーレッド「言ってない」
火剣「戦に限らず会社でも皆のやる気を奪うのと、やる気満々にさせるのとでは、全然成果も違ってくる。その目に見えない力を重視するジェゼナのような指揮官は貴重だ」
ゴリーレッド「奇襲戦法は全滅させないとあとが苦しいか」
火剣「手負いの魔法使いは危険だ。必ず人間に復讐する」
コング「予習復習は大事だ」
ゴリーレッド「さて、茂みから何かが出てくるのか?」
コング「茂み?」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「待てえええ!」
2015年01月06日 23:41
ソルディエルとも交わしていた、例のブレーンストーミングですね。
私も思考訓練の日々を送っていますが、自力で考え抜くことも、人と会話することも、どちらも有益だと感じます。
心に引っかかることがあれば、それから目を背けず、一定の結論が出るまで苦悩し続ける。目を背けたところで苦痛が消えないから、どんなに苦しくても悩むしかない。

山田「村の側からすれば、突然ならず者たちが襲ってきたようにしか思えないだろうな。」
佐久間「実際それと変わらない。」
山田「知らないということは恐ろしいことだ。」
佐久間「だが、知ってたとしても、どこまで結果は変わったかな?」
神邪「それはつまり、村人たちが、ジェゼナさんたちの感情をきちんと汲まなければ、同じことになるということですか。」
佐久間「少なくとも私は、憎悪を軽んじる者に、生きてる価値など見出せない。」
神邪「それは僕も同じですね。逆に、たとえ負の感情に塗れようとも、筋を通そうとしている者に魅力を感じます。」
山田「マチネ側も必死。魔法使い側も必死。どうして、こうなっちまうんだろうな・・・。」
2015年01月07日 19:05
>火剣獣三郎さん
現在においてジュールズとの戦争を繰り広げたマチネですが、当然過去においても何度もジュールズと戦っています。しかし、それ以上に、ジュールズに所属していない魔法使いの集落との戦いが中心だった時期があります。まだ、マチネの人数が今よりも少なく、兵器も今よりも劣っていた時期には特攻隊による奇襲作戦が主な魔法使いへの報復でした。
少し考えれば、いい魔法使いも悪い魔法使いもいる。いい人間と悪い人間がいるように、『魔法使い』、『人間』というカテゴリーで括っても、それが善悪を分ける基準にはならない。しかし、魔法使いから受けた恨みが、それを見えなくしています。魔法使いを人間だと思える発想があれば…。
ジェゼナの信念は言葉となり、それがやはり隊員達を引っ張っているのでしょう。気持ちの問題は、中々難しいものがあるので、おざなりにされることもしばしば。例えば会社の業績を上げようと考えた時に、首切りで急場を凌ぐのか、給料アップで社員のやる気を上げるのか、果たしてどちらがいいのか。人は石垣、人は城、という言葉があるように、その人やその人の気持ちを大切にすることは強固な城を築くのに等しいのかもしれません。
やる気という見えないものだからこそ、ジェゼナはより大切にしたいと思ったのかも。魔法使いに対抗する唯一の手段が意志の力であると考えたのなら尚更か。
前回の魔法使い発見から早急に出撃、そして奇襲作戦が決行されましたが、それだけで倒しきれるほど甘い相手ではなかった。手負いの獣ほど形振り構わないから恐ろしい。マチネとしてはここで是が非でも全滅させたいと考えています。さて、動く茂みからは鬼が出るか蛇が出るか…。
2015年01月07日 19:05
>アッキーさん
何か一つのことであっても突き詰めるとそれは力となる。思考訓練もとことんまでやると恐ろしい武器になる。単体の強さというより、その思考によって生み出されたりしたものが猛威を振るったり、他のものの力を最大限引き出したりする。悩みと向き合うことは自分の力になると思います。
視点を変えて魔法使いの村から見ればまさしくそういうことですね。自分達は何も悪くないのに、何もしていないのに、突然襲われた。必死で、死力を尽くして戦うでしょう。背景の感情や歴史などは今現在を見ただけで全て分かる者などいない。魔法使い側からすれば、マチネこそ諸悪の根源となるでしょう。
知っていればどれだけ結果が違ったかは分かりませんが、そこに和平への可能性がない訳ではない。今の現状よりずっと…。知っていても、関係ない、別の魔法使いがやったこと、一緒にするな、となれば争いは避けられなかったかもしれません。しかし、それは酷い、同じ魔法使いとして野放しに出来ない、調査しよう、となれば、結果は違ったかもしれません。今では実現しない未来となってしまいましたが…。本当に、どうしてこうなってしまったのでしょう…。

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