英雄再来 第十一話 ソルディエル11

ワタシは、また一つ学んだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「はあっ!はあっ!」
その女性は走っていた。
「はあっ!はあっ!」
その魔法使いの女性は自分の五つになったばかりの自分の幼い子どもを抱き抱えたまま走っていた。
「はあっ!はあっ!」
息を切らし、足は悪路のため傷付き、体力の限界を超えていたが、それでもなお強い想いが彼女を走らせていた。どこに行くか、どこまで逃げるのか、そんなことを考えることもなく彼女はひたすら走り続けていた。
「はあっ!はあっ!」
それでもついに彼女に限界が来た。木の根っこに引っかかって彼女は子どもをかばって背中から倒れた。そして、あまりにも疲れていたので、もうそこから一歩も動けなかった。

彼女は倒れたまま辺りを見回し、耳を済ませた。辺りには誰もいないように思えた。逃げ切った、そう思うのと同時に安堵感が溢れてきて、彼女は涙を流した。突然、村が襲撃され、共に過ごした人々とは散り散りバラバラになったが、とにかく生き残った。他の人も生き残っている人がいると願って、彼女は今後のことを考えていた。
もう村には戻れない。それならば、大魔法使いがいるというジュールズを頼ってみようと思った。元々この魔法使いの村は、ジュールズの魔法使いの一部が新たな住処を求めて旅立ち今の場所に住処を構えたのが始まりで、ジュールズとは今でも交流があった。しばらく休んでからジュールズのある方、大陸の端の方に向かおうと彼女が思った時だった。地面に付けていた耳に奇妙な音が聞こえてきた。小刻みに、一定の間隔で、音はどんどん近付いてくる。その速さは、とても人間のものとは思えなかった。一体何者なのか、彼女がそう思った時、既に足音の主はすぐ近くまで来ていた。

「ひっ!!?」

彼女が驚くのも無理はない。先程、自分達の前に現れた敵がいるのだから。後ろから雷(スンデル)を受けて、おそらくは仲間の魔法使いに殺されただろうと思っていた相手が現れたのだから。逃げ切ったと思っていた相手が現れた時の彼女の心境は、心臓と肺を同時に鷲掴みされたかと思うぐらい息苦しかった。

「お、お化け!?幽霊!?ひいいいい!!許して!許してくださいぃい!!」

無表情だった。その魔法使いがどれだけ喚いても叫んでも懇願しても、無表情だった。まるで、もう運命は決定しているのだと言わんばかりに、何も入り込む余地などないとでも言わんばかりに無関心とも思えるような冷たい、無表情だった。

ソルディエルは短剣を構えた。

「お願いします!どうか、この子だけは――――――!!」

次の瞬間、その魔法使いは腹を蹴り上げられ、宙を舞っていた。そして、空中で心臓を貫かれた。そして、その短剣を抜く動作でもって、子どもの方の首を掻き斬った。

その場にあらん限りの血の雨が降り注いだ。

「悪魔ー!必ず天罰が…!」

女性の魔法使いはそのまま事切れた。子どもの魔法使いも斬られた喉をヒクつかせて最後に何か言おうとしていたのかもしれないが、それすら言うことなく死んだ。

血まみれなの中でソルディエルは周囲にも注意を向けながら、他の逃した魔法使いがいないかどうか確認しながらその場を後にした。


(見事な演技だった。流石は魔法使いだ。流石に汚いな。最初に囮としてワタシの前に現れて、注意を引いている間に他の魔法使いが攻撃する。魔法の発動までの時間を稼ぐいい方法だ。
だが、一度見たワタシには、心を決めたワタシには、もう通じない。ボンに助けられた命でワタシは学んだ。貴様ら魔法使いは人間と姿形が似ているだけで全く違う生き物なのだな。勝つためには相手の情も利用する、見事だ。おかげで、もう惑わされない。次にどんな魔法使いが懇願しても全て演技だということを学べた。地獄に堕ちろと叫んだあの時の貴様の姿に、貴様らの本心と本質がよく表れていた。もう迷わない。貴様ら魔法使いを皆殺しにすることを少しでも躊躇したさっきまでの自分が恥ずかしい。
貴様らはこれからも卑怯な手段を多数用いて我々を殺そうとしてくるのだろう。様々な手段で我々から全てを奪おうとしてくるのだろう。それが貴様らのやり方ならば、我々はその上を行く。貴様ら魔法使いが演技をするのならそれを見破り、打ち破ろう。貴様ら魔法使いはワタシを散々嬲ったが、ワタシは一撃で殺して辱めるようなことはしない。貴様らの神が天罰を与えるというのなら、その神ごと潰してやろう。魔法使いよ、ワタシに、ワタシ達にした仕打ちを、必ず返してやる。貴様らが奪った全てのものを、必ず返してもらうぞ!魔法使い!!!)

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この記事へのコメント

2015年01月10日 22:57
コング「こうなったらな。もう誰も止められないんじゃ」
火剣「ババさまかっ」
ゴリーレッド「じゃあソルディエルはオームの群れか?」
コング「魔法使いから見ればオームか巨神兵だろう」
火剣「ハリーみたいな魔法使いもいるから、このソルディエルの決心は悲しい響きをどうしても感じてしまう」
ゴリーレッド「命乞いをして助けてもらったのに地獄へ堕ちろ。本性を見せてしまったらもう命乞いは通用しない」
コング「演技といえば、スーパーヒロインだってHARITUKEにされたら『命までは取らないで』と心から屈服した演技で嘘をつくことはある。嘘をつくことは決して卑怯じゃない。仕方ない場面はある。意地を張って葬られても意味がない」
ゴリーレッド「子どもまで迷わず斬る。これはなかなかできない」
火剣「ボンのことがあったから躊躇しない自己をつくり上げるだろう。いや、もうつくり上げたか」
コング「なるほど、スパッと斬るのも慈悲か。散々嬲った挙句の果てじゃ無念過ぎる」
ゴリーレッド「自分がされた辱めを人には味わってもらいたくない。それがソルディエルの善良な魂」
火剣「しかしソルディエルのこの憤怒は、応戦ではなく自分から攻撃しそうな勢いだ」

2015年01月10日 23:43
ソルディエルから見れば、こう見えてしまうんですね・・・。しかも、それは決して100パーセント間違いではないというのが、いっそう複雑です。起こった事実は、確かに親子は囮として機能したし、ソルディエルは死ぬところだった。
戦場では些細な誤解から取り返しのつかない悲劇が起こると言われますが、それは世界そのものの性質を言い表しているように思えてなりません。

山田「ああ、やはり・・・。」
佐久間「走り出したら止まらない。まさに王蟲か。」
維澄「王道具だけに?」
佐久間「そうだな。腐海の蟲たちも、苛酷な環境に適応して進化したものだろう。苦汁辛酸を舐めてきたのは、人間だけではない。」
山田「残酷だと思ったが、コングの言う通り、スパッと殺しているのは慈悲でもあるのか・・・。嬲られた経験からすれば、確かに善良か。」
神邪「善良だと思います。ソルディエルさんは、黙っていた。罵らずに殺したんです。」
2015年01月11日 17:11
>火剣獣三郎さん
次々にソルディエルに襲い掛かる出来事。それら全てが現在のソルディエルを形成する経験となっています。現在のソルディエルがどれほど強大な魔法使いに対しても怯まず戦い続けるのは、もうこの時点で止まることをやめたから。
この村の魔法使いから見れば、マチネの特攻隊はまさしく王蟲か巨神兵。ハリーは最初、自分が魔法使いとしてではなく、人間として育ったから、魔法使いも人間も同じなんだという感覚があるのかもしれません。「ハリー・ポッター」の登場人物の中には最初から魔法使いの名門として生まれて鼻が高くなっている子もいましたね。人間の方でも貴族や名門というだけで、片方しか知らないと視野は狭くなり、ハリーのように両方を知っているとやはり視野も広い。魔法使いとそうでない人を結ぶ架け橋のような人物がいればソルディエルもこんな決心をしなくて済んだのかもしれません。
命あっての物種なので、大抵の場合、誰でも命乞いはするもの。それは卑怯でもなんでもないと思います。しかし、やはり本心は当然…。あの一言がなければ運命が変わっていたかは分かりませんが、あの一言が、子どもまで一撃で斬るソルディエルの自己を作り上げたことは確かでしょう。ボンの死も相まってソルディエルは「迷ワナイ」心を作り上げました。相手を一撃で殺す、これが修羅の道を進むと決心したソルディエルが示せる唯一の慈悲。それ以外は最早魔法使いを殺す機械と化してしまったか。これから先、ソルディエルは修羅の道をひた走ることになるのかもしれません…。
2015年01月11日 17:11
>アッキーさん
100人いれば100人とも同じ世界を別々の視点で、考えで、見ている。今のソルディエルの瞳に映る世界はこんな世界です。起こった事実から当然推測される真実を予想する。ジェゼナの思考訓練の影響も大きいです。
戦場という命のやり取りをする場所では、ほんの少しのことがとんでもない事態に発展する。日常ならどこかでストッパーがかかる部分がいくつもあるので、大惨事に至ることは戦場に比べれば少ないのでしょうが、それでも本質は同じ。世界は、残酷。
走り出したら止まらない。ボンの想い、皆の願いを背負っては、もう止まれるはずもない。王道具はやはり精神の枷なのかもしれません。強い力を手にすることは、責を負うということか。
ソルディエルは修羅の道を真に進む決意をしました。そのソルディエルが、自分と似ている子どもに対して出来る唯一の慈悲が苦しまさずに一撃で殺すこと。自分自身が散々嬲られて、足を焼き焦がされて、死にたくても死ねない時間を過ごしたことを思い、出た結論。そして、何も言わずに。死んでいく者に対して、殺す者がどんな言葉をかけてもそれは「攻撃」に他ならない。ソルディエルは本当に最小の攻撃だけで、出来るだけ苦しみなく死ねるように殺したのです。絶対に殺すという修羅の道で示せる唯一の、誰にも感謝されることのない慈悲。

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