英雄再来 第十一話 ソルディエル26

贅沢は敵じゃ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

エクスと大博士が会話をしているのを他所に、アウトマは白衣を翻した。
「大博士、王道具調整の準備に取り掛かります。」

「うむ。先に準備をしておいてくれ。」
ソルディエルの王道具の調整の準備のためにアウトマは技術部の左手奥へと歩いて行った。それを見送るようにみていた大博士にエクスは声をかけた。
「で、大博士。アタシに用事ってなんすか?」

「うむ。実は昨日、王道具の強化部品が一人分、完成したのじゃ。」

「マジっすか!…って、何でそれをアタシに言うっすか?」

「エクスの王道具を強化するために決まっておるじゃろう。」

「アタシ!?隊長じゃなくて!?」

「うむ。ジェーの王道具だけは既に強化済みじゃ。というか、強化王道具じゃからワシしか調整出来ない訳じゃし。この強化部品は、作るのに時間がかかるでな。どうじゃ、エクス。王道具、強化するじゃろう?掴めなかったものを掴むために。

大博士のその一言で、エクスの顔付きが変わった。瞬間、エクスの脳裏には過去の記憶が鮮明に蘇っていた。


――――――――――――――――――

真っ赤に焼けた空。空から赤いものが降ってくる。
『――――――魔法使いは神に選ばれた人間!羽虫ごときが抵抗するのもおこがましい――――――』

真っ赤に燃える大地。空からの落し物が何もかもを焼き尽くす。
「――――――お姉ちゃん!お姉ちゃーん!――――――」

その日、ある村に炎の雨が降った。突如現れた黒い魔法使いが炎の雨を降らせた。空から何十、何百という炎の槍が降り注ぎ、何もかもを焼き尽くす。人々は逃げ惑い、散り散りバラバラになり、そして炎で焼かれて死んでいく。

「――――――お姉ちゃーん!怖いよお!――――――」
親ともはぐれた二人の少女。一人は姉、一人は妹。二人は叫びながら必死に炎の海を脱出しようと走っていた。姉は妹の手を引いて、妹はついていくのに必死で走っていた。靴を履く時間などなく、裸足でひたすら村の外へと走っていた。

「――――――お姉ちゃーん!――――――」
その時、小さき妹が足に何かが当たって倒れた。その瞬間、姉の手が外れた。姉は勢い余って先に行ってしまったが、すぐに体勢を立て直すと妹の方に向かって全力で戻ってきた。再び妹の手を取るために両手を伸ばして。妹も両手を伸ばして、姉の手を掴もうとした。

その時、巨大な炎の柱が降った。その二人が再び手を繋ぐことは出来なかった。手を取り合って、立ち上がることは出来なかった。

――――――――――――――――――


「大博士…!アタシは力が欲しい…!あの日、掴めなかったものを掴む力が欲しい…!!」

エクスは王道具となった両手をギュッと握った。

「強化を、お願いします…!」


「うむ。それでは――――――。」
大博士はエクスを連れて技術部の奥へと消えていった。

(ジェゼナよ。お前は人間のまま、魔法使いに勝つと言う。しかし、人間を辞めずに魔法使いに勝とうとは、贅沢が過ぎるとは思わんかね…?おこがましいとは思わんかね?魔法使いは生物学的に人間であることは明らか。つまり、魔法使いとは人間の進化の一形態なのじゃよ。魔法使いは人間を辞めて魔法を手に入れた。魔法使いもまた人間性を捨てるという犠牲を払って強さを手に入れたのじゃ。何かを手に入れるには何かを捨てなければならん。ジェゼナよ、魔法使いは犠牲を払っているのに、お前は人間のままで勝てると本気で思っとるのかい…?我々もまた人間を辞めて、人間を超える者にならなければなるまい。王道具によって、我々もまた人間を超え、魔法使いも超えるのじゃ…。)

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2015年02月23日 22:59
コング「一期一会のことを子どもの時、イッキイッカイと読んでいた」
火剣「日常チャメシゴトみたいなもんか」
ゴリーレッド「エクスはなぜ大博士と対等に口を聞けるのか」
コング「まさか孫?」
火剣「幼い頃の体験と関係あるか」
ゴリーレッド「生死をくぐってきた少女を重んじる心があるのか。やはり大博士も人間の心を失っていない」
コング「アウトマが感じた違和感とは何か」
火剣「人間を超えるか。人間が人間以上になれるはずがないし、また人間とは偉大なものだから、人間以外の何かになる必要もない」
コング「神だ」
ゴリーレッド「支配者という意味で神になりたいという人間の話を聞くと、深い見地は何もなくほとんど支離滅裂な浅い思想だ」
火剣「こればかりは人間性を失ったら無意味というジェゼナたちが正しい気がする」
コング「僕は人間を超越している」
ゴリーレッド「超越しているのは体重だけだ」
コング「誰が逸ノ城や」
ゴリーレッド「言ってない」
2015年02月23日 23:24
エクスは姉の方なのか、妹の方なのか・・・。この回想からすると、姉? しかし後の副隊長モードでは、妹分な雰囲気でもありますが。
子供の頃、比叡山で弟の手を引いて夜道を歩いたことがありましたが、それでエクスが姉に見えてるのでしょうか。
しかしそれよりも、この魔法使いは・・・! このセリフ、まさかソルディエルのときと同一人物!

そして大博士は、魔法使いが生物学的に人間だということは理解しているんですね・・・。
ここはジェゼナやソルディエルでさえ、魔法使いを人間とは思っていないので、流石は科学者といったところでしょうか。技術部の良心Gさん。
両者の意見をまとめると、既存の人間の枠を超えるということでしょうか。肉体的のみならず、精神的にも、“今までの人間”では勝てない。大博士は肉体的な意味で人間やめるべきと言ってるように思えますし、ジェゼナは人間のままで既存の人間を超えることを目指そうと言ってるように思えます。
どちらも、今までの枠内に留まっている人々からすれば、人間やめたように見えるのか。実際そういう非難を受けてきているのでしょうか。何となく大博士は、ジェゼナや自分に向かって言ってるようでいて、マチネ全体に向かって述べているようにも思えるのです。
2015年02月24日 20:38
>火剣獣三郎さん
読み方の難しい漢字ってありますよね。日本語は難しい…。実は大博士は、エクスに死んだ孫娘の面影を見ています。もちろん、それだけではなく王道具使いとして戦い続けている彼女を素晴らしいと感じているから対等に口を聞いても受け入れていると思われます。それに大博士もこういう和やかな会話は好きな方なので。魔法使いとの件がなければ、好々爺として生涯を終えたのかもしれません。だからこそ生まれる技術部の長としての行動とのギャップが、アウトマには不自然に映るのでしょう。多分。
大博士は魔法使いに勝つためには人間を超える必要があると思っていますが、人間として生まれたのならば、人間以上にも人間以外にもなる必要はないのかも知れません。人間らしさの追求の果てに真の強さがあるというのがジェゼナの考え方であり、そこには人間性に対する尊敬や信頼があるのかもしれません。人間性を失わずに更なる人類進化が出来るのかどうか。
2015年02月24日 20:39
>アッキーさん
中々鋭いところを突いてきますね。今現在は、先輩なのでソルディエルの姉のような立ち位置ですが、実はエクスは妹の方です。エクスはソルディエルに姉の面影を見ていて、後に隊長職を譲るのもそこが関係してきます。ちなみに、ソルディエルはジェゼナに両親の面影を見て、ジェゼナは大博士に父親の面影を見て、大博士はエクスに孫娘の面影を見ているという関係になっています。
さて、ソルディエルの回想にも出て来た例の魔法使い。一体この魔法使いはどれだけの人々を傷付け、殺したというのか。
大博士の魔法使いに対する認識は後のアウトマの台詞に引き継がれています。マチネで魔法使いも人間であると言うと裏切り者扱いされかねないので、公言はしていませんが、心の中の台詞で言っております。まあ、ジェゼナ達にしてみれば、あのような苦しみと悲しみの中に突き落とした魔法使いを自分達と同じ人間と思いたくないのです。
ジェゼナは人間の心を鍛え続けることで魔法使いに勝とうとしていますし、大博士は技術を発展させた先に人類進化があり、その進化こそが魔法使いに勝つために必要だと考えています。大博士の思想は、後のマチネで機械の発展が人間を幸せにするという考え方の基礎になっています。しかし、人間の心を捨てた軍隊がジュールズの魔法使い達を殺して回った辺り、人間の心を捨てるのが正しかったのかどうか…。

この記事へのトラックバック