英雄再来 第十三話 魔王1 

奪えないものなど存在しない。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルディエルの渾身の叫びに対し、オネは一瞬キョトンとした。が、次の瞬間には満面の笑みをこぼしていた。

「へええ~。」
それは飢えた獣が巨大な肉を目の前にしたような、そんな喜びの表情だった。
(そうだ…。そう来なくちゃ面白くない!手も足も視界も王道具も失って、それでもなお心が全く折れてない!素晴らしいぃい…。だからこそ、ますます部下に欲しい!)

「そっか、そっか…。断っちゃうんだ…。私の誘いを…。しかし、それで後悔しないか?お前のその選択肢で助かる命が助からないことになる。」
オネは左手を天空に掲げた。
「炎(ブラーゼ)。」
その一言で上空には巨大な炎の塊が出現した。

「熱かったよなあ、さっきの一撃。いやあ、熱いなんてもんじゃない。熱さも過ぎれば激痛へと変化する。よおく思い出して欲しい。さっき、お前が受けた灼熱地獄を。」
オネは右手をいやらしく動かしてソルディエルの頬を叩いたり、肌を触ったりした。
「刻まれているだろう?お前の肌に、痛みが、恐怖が…!出来ることなら二度と味わいたくない代物だろう。もう一度聞こう、私の部下になれ。」
「断る!何度聞かれても答えは同じだ!例えこの身が地獄の業火に焼かれようとも貴様ら魔法使いに屈しはしない!殺したければ殺せ!ワタシは死など恐れない!!」

「そうか…。そこまで言うなら仕方がない。しかし、何か勘違いしていないか?」
「何…?」

オネは非常にわざとらしく、ゆっくりと喋った。
「そうそう、エクスとか言ったっけ、向こうの戦場に向かった奴の名前。」
一瞬、ソルディエルは理解出来なかった。なぜ、そこでエクスの名前が出て来るのか。だが次の瞬間、最悪の展開が頭をよぎった。
「貴様、まさか――――――!」

「この炎の塊を100発ほど向こうにブチ込む。きっとエクスもお前と同じ灼熱地獄を体感出来るだろうなあ…!」
ソルディエルの想像した最悪の展開は見事に当たっていた。オネは左手を風の国の方向へ向けて、片目をつぶって照準を合わせた。
「さあ、盛大に花火を打ち上げようか!」

「ま、待て!!」
エクスが向かったのは風の国の方向。あそこにいるのはエクスだけではない。特務隊の隊員もいるし、班長達も向かっていて、今頃は到着して魔法使いと戦っているはずである。なにより避難している人々が大勢いる。そこに上空に感じる巨大な熱源が100発も撃ち込まれれば誰も生きてはいられない。先程マチネの最中枢区画を破壊した炎を見ているだけに、全員が死ぬ未来が激しい現実感を伴って感じられた。100発どころか1発でも撃たれれば、その未来は実現してしまうのだ。

「ん?どうした…?」

オネは炎を撃つのを待ってソルディエルの方を見た。
「…っ…!」
ソルディエルは咄嗟にそれ以上の言葉が出なかった。だが、言葉を繋がなければどうなるのか。オネの炎によってエクスを含めた特務隊の隊員達、更には大勢のマチネの人々がひとり残らず死ぬという結果が待っているのだ。ソルディエルは焼けた喉を震わせて叫んだ。

「奪うのか…!これ以上奪うというのか!!これ以上、我々から何を奪う必要があるのだ!!!」

「奪う。欲しいものは何だって奪う。優秀な人材はいくらいてもいいからな。奪うだけの価値がある。だから奪う。それが私のやり方だ。腕や足や目や命、何だって奪う。心だって奪ってみせる。気に入らなければ力ずくでそうなるようにするだけだ。」

オネの言葉は非常に簡素だった。ソルディエルが何か言わなければオネが炎の発射を平然と実行することは火を見るよりも明らかだった。

(もう少し…。もう少しで心の折れる音が聞こえるはずだ…。)

オネはワクワクしながら、ニヤニヤしながら、ソルディエルの心が折れる証の一言を待っていた。

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この記事へのコメント

2015年04月26日 23:56
どれだけソルディエル本人を痛めつけても心は折れない。
しかし、他の人に関しては別ということですね。これがオネ!

佐久間「まだわからない。」
山田「ソルディエルなら、マチネの人々が自分と同じ志を抱いていると信じて、屈しないか。」
佐久間「まあ、それもあるが・・・。」
山田「他に何かあるのか?」
佐久間「んー、オネの考えてることは、何となくわかるんだよな。ソルディエルが屈服した時点で、炎を放って焼き尽くすことで、完全に心を砕くつもりじゃないのか?」
山田「・・・やりかねない。少なくとも、お前ならそうするんだな?」
佐久間「うん。」
維澄「ソルディエルが降参しても、炎を物的に止められるわけではない以上、そういうことになるか・・・。」
神邪「つまり、そのことをソルディエルさんが察知していたら、間違っても降伏しないということですか。」
八武「困ったなあ。」
山田「言っておくが、危機的なのはソルディエルの方だからな。」
八武「いやいやいや、よく言うだろ・・・強くなって何になる、勝って奪って何になるって。欲するものを手に入れることこそ、真の勝利なのだよ。国を滅ぼして、チュルーリは“勝った”のかね? 無論、負けたわけではないが・・・。」
山田「うーむ。」
八武「オネは見た目ほど余裕ではない。勝つだけなら余裕で勝てるが、価値ある勝ちを得る為に、彼女も頑張っているのだよ。それは尊いものだ。」
2015年04月27日 18:35
コング「つくづくwebは万能ではないと感じる。昨夜は必殺技の『F5』を放ってもコメントできなかった」
賢吾「しかしオネは万能そうやな」
ゴリーレッド「炎を自由自在に扱える。これはきつい」
コング「あの世へ行くことを恐れていない勇者には、どんな脅しも通用しない。しかし仲間がやられるとなると別だ」
賢吾「悪党の常套手段やな」
コング「屈しないヒーローの目の前に、婚約者が連れて来られると、たちまち、『待て!』と慌てふためく」
ゴリーレッド「やったことあるのか?」
コング「僕はそういう卑怯なことはしないが、バトル中はいつも満面笑顔だ。オネもそうだが、笑顔は余裕に見えるから相手も精神的に怯むんだ」
賢吾「将棋の終盤戦で、接戦なら最後まで諦めすに戦うが、自分のほうは詰み寸前なのに、相手がすぐに詰ませる状態じゃないと、投了が早い」
ゴリーレッド「なるほりろ」
コング「しかしオネ。プリスターなら、エクスを目の前に連れて来て、にひひひでギャーギャー悲鳴を上げさせる。これでソルディエルもギブアップだ」
ゴリーレッド「つまり、コングは炎が食べたいと?」
コング「ダッシュ!」
賢吾「逃げた」
2015年05月02日 22:28
>アッキーさん
ある方面では驚異的な力を発揮するのに、別な方面では打たれ弱い面があったりするのが人間。自分自身のことは覚悟出来ているけれども、それが他の大切な人に危害が及ぶとなると話は違ってきます。オネはその辺りのことを知っている。これも一つの「ころんぶすの卵」か。
ただ、ここでソルディエルが折れるかどうかは分かりません。しかし、動揺しているのは確実。このまま屈するのか、それとも…。そして、その選択肢がどのような結末をもたらすのか。オネは腹の中で何を考えているのやら…。
オネは自分の力が一番だと信じていて、誇っていて、それに絶対の信頼をおいています。自分に出来ないことは何もないし、自分がしたいことは全てする。そして、欲しいものは全て手に入れる。これはちょうど、ジェゼナが人間の心まで奪わせてはいけないとして魔法使いへの反逆の狼煙としたことに真っ向からぶつかる思想です。全てを奪おうとするオネと、奪えないものが存在することを戦いの原点とするジェゼナの思想を受け継いだソルディエルとの戦い。さて、どのような決着となるのか…。
2015年05月02日 22:29
>コングさん
電子の時代とはいえまだまだ紙媒体の方が安定性に優れているとは思いますが、ネットの便利さも捨てがたいので、両方のいいとこ取りが出来るような技術が今後出てくるのを待っている私です。
魔法は万能ではないけれど、オネは何でも出来そうですね。魔法以外にも知識や技術を持っているからでしょうか。まあ、魔法が使える時点で我々から見れば何でも出来そうな気がしますが。
人質というのは悪党が使う手段だけあって非常に効果は高いです。もちろん人質を取り返された時にはそれ相応の代償が待っている訳ですが、そうでなければ…。ソルディエルはかなり苦しい選択を迫られています。巨大な炎が放たれることはどうあっても阻止しなければならない。しかし、今のソルディエルは手足がなく目も見えない。このまま詰みで投了するしかないのか、それとも逆転の一手があるのか。
もしエクスを目の前まで連れてこられていたら逆に助け出すチャンスがあるかもしれません。しかし、エクスも特務隊もソルディエルの手の届かないところに。オネの炎はどこにも届く灼熱の炎。焼き尽くされる前にどうにか逃げられれば…。

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