英雄再来 第十二話 大博士3

今日はワシの番じゃ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

時間を少し巻き戻す。ジェゼナの玉座を完成させた後、大博士は技術部の最深部に来ていた。ここに入れるのは技術部の長だけと決まっていた。

大博士はジェゼナと最後に言葉を交わした場面を思い出していた。


――――――――――――――――――

技術部の奥の実験室兼病室にジェゼナはいた。上半身だけは起こしているが、大きな寝台にいて微かに目を伏せている。隣には大博士だけがいた。

「ジェー。言っておくことがある。」

『ボクの…体のこと…?』

「そうじゃ。もうじき王道具の副作用でジェーは機械になる。永遠に動く機械の心臓にじゃ。マチネ全土に永久に動力を供給し続けられる機械仕掛けの心臓に変わるのじゃ。その動力によってマチネはますます急速に発展し、魔法使いを完全に駆逐するまでに急成長するじゃろう。
その代わりジェーはそれを見届けることは出来ん。機械化が進めば進むほどジェーは人間としていられる時間が少なくなる。どんどん睡眠時間が多くなり、最後には永遠に目覚めなくなる。」

大博士の話す内容はまるで突拍子もないような事柄だった。人間が機械に変わるなどという奇想天外な話から、遠回しにジェゼナが死ぬとまで言い切った。しかし、ジェゼナはそう驚くこともなく、淡々と真実としてその話を受け入れていた。

『うん…。ジィの言っていた代償だね…。』

「まさか文句は言わんじゃろうな。両手両足に王道具を埋め込む時に危険性については十分話したはずじゃぞ。」

『文句だなんてとんでもない…。ずっと感謝してるよ…。今でも…。』

ジェゼナのどこか安らかな顔とは対照的に大博士の表情は歪んでいた。

「その状態になっても恨み言の一つも言わんのかい。もう腕をまともに動かすことも難しいじゃろうに。」

『分かっているよ…。王道具『侵食統一(ジェゼナ・グルード)』は、そういうものだって…。でも、それでいい…。むしろそれがいい…。両手両足を失い、何も出来ないボクを救ってくれたのは王道具を持ってきてくれたジィなんだから…。』

「バカ娘が…!」
大博士は濁った瞳でジェゼナを睨み付けた。
「いいか!お主は死ぬ!体中が機械になり、永遠の眠りに就く!利用されたとは思わんのか!?騙されたとは思わんのか!?実験体にされたとは思わんのか!?人間を、人間らしさを、人間の意志の強さを最も重視したお主が、意志を失い、ただの歯車の一つになるというのにボサッとしよって!なんでえ~、そんな澄まし顔が出来る!?」

『意志は消えない。』
ジェゼナは凛として答えた。
『死は敗北ではない。今まで死んでいった特攻隊の隊員達が魔法使いに敗けたとは一度も思ったことはない。一人ひとりの意志をボク達、生き残った特攻隊の者達が引き継いできた。ずっと昔から、今でもずっと。そして、これからもずっと。今度はボクの番という訳だ。引き継ぐ側から引き継がれる側になるだけ。』

「そんなのは詭弁じゃ!その手で掴んでこその未来じゃろうが!」

『王道具がなければ掴む夢すら見られなかった。それに考えることが出来なくなっても、今までに考えてきたことは残る。特攻隊の皆にはボクの意志が引き継がれている。魔法使いとの戦いは個人での戦いの領域をとうの昔に超えている。マチネの人々、魔法使いの犠牲となった人々、その全てが一丸となって魔法使いに戦う意志を持ち、誰もが自分の出来る精一杯で戦い生きている。だから、ボクが死んでも、皆が世界を救ってくれる。』

「それはいつの話じゃ…!」

『果てしなく遠い未来の話かもしれない。でも必ず実現する。』

「そんな保証がどこにあるんじゃ…!」

『諦めない限り、必ず存在する。ボクは信じているから。人間を。人間の意志の強さを。』

「…。ジェーよ…。お主は最後まで『人間』でいるつもりなのじゃな…。」

『体が機械になっても心は人間だから。姿形は関係ないよ。』

「…そうか。ならばわしゃもう何も言わん。後のことは全部任せい。ジェーがマチネの心臓として最大限の力を発揮出来るように玉座を作っておいてあるんじゃ。心配するな、魔法使いは残らずこの世界からいなくなる。ジェーは残りの時間を穏やかに過ごせばいい。残り僅かな時間を…。」



その時、バタバタとたくさんの足音が遠くの方から大博士にだけ聞こえた。

「ジェー。もうすぐ特攻隊の者達が来るじゃろう。真実は言わずともよい。全て言わずともよい。残り僅かな時間じゃ。好きに使えばよい。後のことはワシが何とでもする。」

『ありがとう、ジィ。…でもボクの口から話すよ。全てね。』

――――――――――――――――――


感傷に浸る大博士の耳に一つの足音が聞こえてきた。

「遅かったのう、アウトマ。」

現れたのは技術部のアウトマだった。白衣に身を包み、思い詰めた表情でアウトマは大博士の前に現れた。

「待っておったぞ、アウトマ。さあ、ワシを殺す準備は出来ておるか?」

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この記事へのコメント

2015年04月07日 23:27
まさかのアウトマ!?
大博士は、一子相伝の格闘家よろしく、我が身を犠牲に後継者をレベルアップさせるつもりなのでしょうか・・・!?
ワシの番とは、そういう・・・。

佐久間「なるほどな。アウトマを後継者として見込んだのは、この為か。」
山田「やはり大博士は人間だったんだ。人間を捨てなければ魔法使いに勝てないと言っていたGこそが、誰よりも人間らしかった!」
八武「いつか私も、後継に全てを託すときが来る。そのときGのように、厳かに足掻けるだろうか・・・。」
維澄「表向きは失踪ということは、死は秘匿されたの?」
神邪「どこかで生きてると思わせるだけで、精神的な支えになりますからね。同時に、よく思わない者にとっては脅威に。」
山田「心の抑止力というわけか。死してマチネを見張り続ける。」
神邪「しかし本当に殺されてしまうんでしょうか?」
維澄「それはわからない。その手で掴んでこその未来というならば、大博士も生き続けるべきだと思うんだけどね・・。」
佐久間「美しい死はあるが、同じだけ美しい生もある。アウトマの選択次第か・・・?」
2015年04月08日 22:01
ゴリーレッド「ジェゼナは、ずっと昔から覚悟はできていたか」
火剣「本来ならばその時に助からなかった肉体」
ゴリーレッド「意志は消えない」
火剣「後継者がいると未来への不安が消え、確信が生まれる」
ゴリーレッド「ソクラテスにはプラトンがいた」
火剣「吉田松陰には塾生がいた」
コング「また真面目な話で僕をブロックしたな。排除の理論か。腐ったみかんの方程式か」
ゴリーレッド「腐るな」
コング「ところで、ワシをKOROSU準備?」
火剣「不穏だ」
ゴリーレッド「NGになりそうな言葉はローマ字か。偉い」
コング「あたぼーよ」
火剣「でも、疾走じゃなかったのか。何をする気だ?」
2015年04月12日 11:06
>アッキーさん
技術部のトップ以外入れないはずの地下研究所に現れたのはアウトマ。もちろん大博士が許可しています。ジェゼナが眠りに就いた後のことも大博士は考えていました。人はひとりでは出来ないことがたくさんある。誰もが次の世代に繋ぐために誰かに託す時がやってくる。
人間的なものを捨てないと魔法使いに勝てないと口癖のように言い続けてきた大博士ですが、その言葉の真意は今でも人間性を捨てきれていないという想いが無意識にあったのかもしれません。もっと言えば、人間として生まれたからには人間性を完全に排除することなど出来ないと考えていたのかも。ジェゼナも大博士も自分の出来ることを全て探し、最後まで足掻く点でも共通していますね。
大博士がどこに行ったのか分からないと答えたのはアウトマを含め、技術部の面々全員。しかし、アウトマだけは真実を知っている。失踪に関して、本当に死んでいるのか、それとも実は…という展開は有り得るのか。さて、アウトマはどんな選択をするのか。
2015年04月12日 11:07
>火剣獣三郎さん
両手両足を失い、全てを失った後から、ジェゼナは思考を止めなかった。その頃に既に覚悟を決めていました。肉体が機械に変わり身体的な意味での人間的な部分が少なくなっていったジェゼナは、真に人間を人間たらしめているのは、腕のあるなしではなく、足のあるなしではなく、肌の色でもなく、精神の部分があってこそだと考えていました。なので特攻隊でも意志を大切にしてきた。ジェゼナにとっての後継者はソルディエルであり、エクスであり、特攻隊の隊員の皆でありました。そして、大博士にとっての後継者は…。
ここから大博士失踪の真実が明かされます。この技術部の地下で何が起こったのか…。

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