英雄再来 第十二話 大博士4
やっと、死ねる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「大博士…。」
アウトマは思い詰めた表情を崩さない。その表情に込められているのが殺意なのか決意なのかは分からなかった。
「どうしたんじゃ?ワシが眠る棺桶の準備は出来ておるのかと聞いておるんじゃ。まさか、この期に及んで迷っている訳ではあるまいな?ジェーを殺したワシを殺すこと、それを躊躇う必要がどこにあるんじゃ?」
アウトマは黙り込んでいた。
「なんでえ~ここで迷うの~?ワシはずっと言ってたよね?技術部に来たからには人間の心は捨てろって。魔法使いに勝つためには人間の心とかいらないんよ!心は迷いを生む!迷ってたら魔法使いに負ける!魔法使いは結局、人間の一形態!ワシらが人間のままじゃ人間に魔法を加えた魔法使いには勝てんのよ!ワシらは人間に機械を加えて魔法使いに勝つ!そのためにこれは必要なことじゃ!」
「…装置自体は既に完成しています…。」
アウトマは俯きながら言った。
「なんじゃい、それを早く言わんかい。」
安堵するような口調の大博士。それに対してアウトマは叫んだ。
「しかし!ここで大博士まで死んでどうするのですか!この先のマチネを誰が支えるのですか!」
「アウトマに決まっとる。それと王道具使いの連中じゃ。」
「しかし…!」
「しかしも案山子もないんじゃよ。ジェーと同じくワシも寿命が迫っておる。ギリギリ間に合ったってところなんじゃから。」
そう言いながら大博士は近くにあった機械を操作した。すると透明な筒状のものが出て来た。それは人ひとりが入れるような構造になっていて、棺桶のような雰囲気が漂っていた。そこに大博士は入って寝そべった。
「正直、ワシの体はよく持ってくれたよ。ワシの技術と研究成果をアウトマに全部渡すまで、な。」
「大博士…。」
「アウトマ。今日からお主は博士と名乗れ。そしてワシは大博士を引退じゃ。今日は大博士ジィが死ぬ。そして、殺人鬼クライも死ぬ。何ともめでたい日じゃ。」
大博士はマチネ内ではジィという名前で通しているがそれは偽名である。特攻隊の者達の多くがそうであるように大博士もまた本名であるクライという名前を捨てて研究に没頭していた。自分の本名を捨てるという行為は、大博士にとっては人間を止めるという意味合いも含んでいた。
「大博士は殺人鬼などではありません!」
「いやいや、ようやく本名で死ねるんじゃから称号も本当じゃないと困るじゃろ。ジェーを殺したのはワシなんじゃから。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「大博士…。」
アウトマは思い詰めた表情を崩さない。その表情に込められているのが殺意なのか決意なのかは分からなかった。
「どうしたんじゃ?ワシが眠る棺桶の準備は出来ておるのかと聞いておるんじゃ。まさか、この期に及んで迷っている訳ではあるまいな?ジェーを殺したワシを殺すこと、それを躊躇う必要がどこにあるんじゃ?」
アウトマは黙り込んでいた。
「なんでえ~ここで迷うの~?ワシはずっと言ってたよね?技術部に来たからには人間の心は捨てろって。魔法使いに勝つためには人間の心とかいらないんよ!心は迷いを生む!迷ってたら魔法使いに負ける!魔法使いは結局、人間の一形態!ワシらが人間のままじゃ人間に魔法を加えた魔法使いには勝てんのよ!ワシらは人間に機械を加えて魔法使いに勝つ!そのためにこれは必要なことじゃ!」
「…装置自体は既に完成しています…。」
アウトマは俯きながら言った。
「なんじゃい、それを早く言わんかい。」
安堵するような口調の大博士。それに対してアウトマは叫んだ。
「しかし!ここで大博士まで死んでどうするのですか!この先のマチネを誰が支えるのですか!」
「アウトマに決まっとる。それと王道具使いの連中じゃ。」
「しかし…!」
「しかしも案山子もないんじゃよ。ジェーと同じくワシも寿命が迫っておる。ギリギリ間に合ったってところなんじゃから。」
そう言いながら大博士は近くにあった機械を操作した。すると透明な筒状のものが出て来た。それは人ひとりが入れるような構造になっていて、棺桶のような雰囲気が漂っていた。そこに大博士は入って寝そべった。
「正直、ワシの体はよく持ってくれたよ。ワシの技術と研究成果をアウトマに全部渡すまで、な。」
「大博士…。」
「アウトマ。今日からお主は博士と名乗れ。そしてワシは大博士を引退じゃ。今日は大博士ジィが死ぬ。そして、殺人鬼クライも死ぬ。何ともめでたい日じゃ。」
大博士はマチネ内ではジィという名前で通しているがそれは偽名である。特攻隊の者達の多くがそうであるように大博士もまた本名であるクライという名前を捨てて研究に没頭していた。自分の本名を捨てるという行為は、大博士にとっては人間を止めるという意味合いも含んでいた。
「大博士は殺人鬼などではありません!」
「いやいや、ようやく本名で死ねるんじゃから称号も本当じゃないと困るじゃろ。ジェーを殺したのはワシなんじゃから。」
この記事へのコメント
ゴリーレッド「寿命が近づくと、ただでは逝けないので、何かマチネに役立つことをしたいのだろう」
賢吾「気持ちはわかるがアウトマにとってはきつい」
火剣「こっちのスタジオまで来なくていい」
賢吾「なら激村と交代しようか?」
火剣「待て。賢吾でいい」
ゴリーレッド「本名はクライか」
火剣「後継者はアウトマ」
賢吾「アウトマしかいないか。ちーと心配は残るが」
ゴリーレッド「ジェゼナとも合わなかった感じだし、ソルディエルとも合わなそうだし」
火剣「どっちみち団結は厳しい」
賢吾「大博士は何をやろうとしているんか?」
火剣「棺桶か。何の効力があるのか、効力とかは関係ないのか」
ゴリーレッド「ジェーをKOROSHITAとなぜか強調しているのが気になる」
この装置で、大博士の痕跡は抹消され、行方不明となる。ここでアウトマが決断しなくても、すぐにでも寿命が尽きてしまうのですね・・。もっと生きていてほしいというアウトマの思いは、cry for moon・・・ないものねだりなのでしょうか。
大博士とジェゼナはそれぞれ対になった考え方をしています。ただ、道は違えどもどこまでも先へと突き進み、先の可能性を諦めない姿勢は似ているかもしれません。ジェゼナは眠る直前までマチネの行く末を案じていた。大博士もまた自分の限界を感じ、マチネの将来を考えています。そして出した結論は、まるで人柱のように自分が犠牲になって何かを残す方法。大博士の元で働き続けてきたアウトマからすればキツい話です。
中々、大博士に代わるような人物はいませんが、いずれアウトマが更に成長した時、自分が到達出来なかったところまで行けると大博士は考えたのでしょう。
団結に関しては、担当する場所や得意とする分野、マチネでの立場が違うだけでマチネ全体から見れば案外上手く噛み合うかもしれません。ただ、マチネが一枚岩になるのは簡単ではないかもしれません。そもそも巨大な組織なればなるほど団結や一糸乱れぬ行動というのは難しくなるのでしょう。さて、大博士は具体的に何をやろうとしているのか。
ジェゼナに関して強調しているのは、やはり罪悪感からでしょう。直接でないにしろ、ジェゼナがあのように眠りに就いたことに大博士は深く関わっています。そして、当時はジェゼナが目覚めることは100%ないと考えられていたので尚更に思うところがあるのでしょう。
例の魔法使いに対する怨嗟の声や嘆き、悲しみの満ちた世界。大博士は泣く代わりに技術開発に没頭したのでしょう。何かをしていないときっと悲しみで気が狂ってしまう。叫ぶよりも何よりも大博士には研究があった、研究しかなかった。
謎の装置によって大博士は死んでしまうのか。別の道も寿命という結末があり、どちらに向かっても死が待っている。もし、世界が平和なら余生を安らかに過ごすという選択肢があったはずだけれども、それも今は選べない道。何かを得るためには何かを失わなければならない。アウトマの願いは届かないのか…。