英雄再来 第十三話 魔王4

「大切」を守るために。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

時間は少し遡る。

マチネに侵入したオネによって住民達は避難を余儀なくされた。既に通達があったこととはいえ、いざその時になれば人間はそう上手くは動けない。恐怖に怯える者、立ちすくむ者、錯乱する者が相次ぎ、建物の倒壊や爆発によって道が寸断され、避難が難しくなる状況もあった。そんな中、マチネの巡視隊や特務隊の班員による救助活動や交通整理、避難誘導によって混乱は徐々に収まり、皆は避難経路に従って順調に避難していった。また、オネ一人が被害を出した場所はマチネ全体からすれば一部であり、侵入された場所では甚大な被害が出たものの、それ以外の場所の人々は我先にと燃え盛るマチネの街を背に風の国に向けて避難していった。
そうして、マチネの戦闘隊や特務隊がオネと戦っている間にほぼ全ての住人がマチネの巨大な壁の出入り口を通り、風の国討伐部隊との合流を目指して歩を進めていた。


ゼロは特務隊の班員として積極的に働いていた。声を張り上げ避難誘導を行い、他の班員や巡視隊とも協力しながら住民達を上手に避難させていた。
先輩である響希、光里、望美は担当の避難場所での仕事を終え、避難民全体の前方左方向での移動方向の誘導に当たっていた。ゼロもまた自分の担当の避難誘導を終え、三人に追いつくために速度を上げて移動していた。

「こちらアール!担当場所の避難完了です!これより前方左方向への移動支援に向かいます!」
『こちら光理や、了解したで!』


走りながら前方へと移動するゼロの頭の中は考え事で一杯だった。
(魔法使いが攻めて来た…。一体、誰が…。まさか、オ姉様やツヲ兄様が…!?もし、そうだとしたらきっと誰も助からない…!でも、でも…!ワタシはマチネの皆を守るって決めた…!ここには「大切」がたくさんある…!ツヲ兄様なら話せばきっと分かってくれる…。でも、オ姉様は…。ううん…そんなこと考えてはいけない!オ姉様と話をして納得させるんだ!ワタシがやるんだ、きっとワタシしか出来ない!ワタシなら出来る!この避難誘導が終わったら、マチネに戻ってみよう。もしオ姉様達なら話をして分かってもら――――――。)

その時、ゼロはもう一つ強い力を感じた。炎の国からマチネに向かってきた魔力とは別の魔力。風の国の方面からだった。ゼロはその方向を凝視した。そして、空に浮かぶそれを見つけた時、ゼロは大慌てで通信機を取り出した。

「こ、こちらアール!8時の方角に魔法使いを発見!上空です!!」

その魔法使いはオネではなかった。ゼロとは面識のない魔法使いだった。黒い外套に包まれているのか、ゼロのよく見える視力でも黒い塊にしか見えなかった。

(あの魔法使い…!何か、怖い…!オ姉様ともツヲ兄様とも、他の姉様達とも違う…!憎悪…?殺意…?怨念…?まるで怨霊のような…!)


『こちら光理!こっちでも魔法使いの姿を確認した!!』

マチネの特務隊と巡視隊は数多くの住民の避難と同時並行的に魔法使いと戦わなければならなくなった。巡視隊は避難のために大型の武器は装備しておらず、特務隊に至っては隊長も副隊長も班長もいない状況だった。

隊長、副隊長はマチネに侵入した魔法使いと交戦中。班長もその戦闘へ応援に駆け付けている最中で、引き返してくるにしても時間がかかる。特務隊の隊員達は腹を括った。

『隊長達に任されたこの場は死守するで!特務隊の意地、見せたろやないか!!』

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この記事へのコメント

2015年05月05日 23:05
フィベ・・・じゃない・・・?
黒い魔法使い。あの“元凶”を思わせて仕方ないのですが・・・・果たして。

山田「確かにツヲなら、可愛い妹の頼みは聞き入れそうだが。」
佐久間「オネだって話せばわかるさ。理解し、納得し、そして蹂躙する。」
山田「あんまりだ。」
佐久間「冗談だよ?」
山田「いや、その可能性が高いことに気付いてしまったら、もう楽観は出来ない。」
維澄「そもそもマチネの人々が納得しないという事情があるからね。」
八武「そこでソルディエルが屈服した姿を見せつけてだね・・」
山田「お前の考えることは常に鬼畜だな!」
八武「ありがとう、もっと褒めていいんだよ。」
神邪「しかし、事態は更に深刻かもしれませんね。」
山田「ああ。黒い魔法使いは、そんなに強いのか? ツヲたちが戦ったアレみたいなものか?」
神邪「あ・・・」
佐久間「そうか、まさか。」
山田「ん? ・・・あ。」
八武「どういうことかね。あの“元凶”の魔法使いも、そういう存在だったということか?」
維澄「だとすると、今までの疑問が色々と解けていく。そして対立の根深さが、考えていた以上に深刻であることになってしまう。」
佐久間「怨念の塊というならば、黒い魔法使いという“個人”の責任ではなくなるわけか。」
山田「そうでないことを祈りたいが・・・。こちらも楽観しにくいな・・・。」
2015年05月06日 20:04
コング「オネはわかるが、ツヲ紳士が来たら誰も助からない。凄いな。そんなに強いのか。ツヲ紳士なら女兵士はみんな磔にしてにひひひ」
ゴリーレッド「ツヲ紳士はそんなことしない」
賢吾「アールの状況は魔法使いサリーを思い出すな」
コング「♪それは秘密秘密秘密」
賢吾「それは魔女っ娘メグやろ」
ゴリーレッド「それも間違ってる」
賢吾「サリーの時は学校が火事やった。バレることよりも仲間を助けるほうが大事や。アールも当然バレても助けるほうを選ぶやろ」
コング「その心をわかってくれるか。何しろ『魔法使い=敵・悪』の図式が命に刻まれているからな」
ゴリーレッド「サンを山犬にしか見えないように」
コング「僕にはとびきりの美少女にしか見えないが」
賢吾「万が一エクスやソルディエルが納得してもマチネ上層部はアールを捕らえる」
コング「そうか、ゼロは磔か! じゃあマチネ上層部を支援しよう」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
賢吾「極限状態に心の本質が出るんや。ゼロの選択は」



2015年05月06日 22:30
>アッキーさん
いよいよマチネを創った元凶の魔法使いの登場か。この黒い魔法使い、実は…。
ツヲさんならゼロが頼めばどんなことでも一発OKしそうですね。人間との共存もゼロが頼めば案外実現可能なのかもしれません。現在、飛鳥花さんと行動している訳ですし。
一方のオネはゼロの説得に応じるかどうか未知数ですが、今までの蹂躙具合からするととても応じてくれそうにない。それどころか嬉々として敵に回るかもしれません。「まともに戦えること」自体に喜びを感じている方ですから。
そして、マチネの人々からすれば魔法使いとの共存というのがそもそも不可能。直接的に例の魔法使いに故郷を追われた人々は言わずもがなですし、今現在、住み慣れたマチネを追われた人々も、戦争に参加した人々も、当然魔法使いに恨みを持つ。
もし、今のソルディエルの姿を見せられたら、戦意を失う者と逆に戦意を燃やす者に分かれそうですね。
さて、黒き魔法使い。実は似たような者は出ています。そう、フォウルに取り付いていた魔法使いの怨念です。いよいよ、黒い魔法使いの「正体」に一歩近付いたといった感じでしょうか。もし、黒い魔法使いが単なる個人であったのならここまでの事態になっただろうか…。魔法使いとそうでない人々の確執はチュルーリさんが最初に活躍したイーリストとウエリストとの戦の頃から延々と続いているのです。
2015年05月06日 22:31
>コングさん
ツヲさんも水の国に攻めて来たマチネ軍を一人で全滅させている実力者。見た目は派手ではありませんが、銃弾が貫通して通じなかったり、地味に人間には倒せない存在です。やろうと思えば皆殺しも可能なぐらい…。ただ、性格はオネに比べて随分とやんわりしているので、危険度は若干低くなります。それに紳士なので、相手が女性ならかなり丁重に扱いそう。
アールの前に現れた魔法使い。これは最早戦うしか道はないのか。魔法使いと戦うためには魔法が使えないとかなり厳しい。しかし、アールが魔法を使えば、その時点で魔法使いゼロの正体がバレてしまう。そうなった場合、魔法使いの仲間とか、スパイだとか言われて、特務隊からの攻撃対象になりかねない。アールが魔法を使えることはなんとしても秘密にしなければならない。
仲間を助けるためには、その後から仲間達から拒絶されることを覚悟しなければならないという厳しい選択。その選択をアールがした場合、どれだけの者がその真意を理解してくれるか。こればかりは実際にそうなってみないと分かりません。エクスやソルディエルなら話せば分かってくれるかもしれませんが、話になる前に攻撃される可能性もあるし、特務隊以外は共に過ごしていないので話を聞こうという情も考えも沸かないかもしれません。
仲間の命か、自分の心か。ゼロの選択は如何に?

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