英雄再来 第十三話 魔王5

魔法使いの役割を全うする。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

雲と空が広がるだけの天空に黒いシミが一つ。それが空飛ぶ魔法使いだと分かった時、マチネの人々は恐怖した。住み慣れた故郷を後にして魔法使いから命からがら逃げてきたのに、逃げた先にも魔法使いがいたのだから。

風の国の方から現れた魔法使いには、人間にはない大きく広がった黒い翼のようなものがあった。体を覆う鎧のようなものは真っ黒だった。右腕には人の頭ほどの大きな銃が握られていた。黒い部分は遠目ではよく分からないが、微かに蠢いているように見えた。黒い鎧のようなものの奥にはその魔法使いの鋭い眼光があった。



(マチネの外道共め…。まだこんなにもいたのか…。風の国を滅ぼしても更にこれだけの人数で攻め込んでくるのか…。魔法使いの最後の一人を殺すまで戦うことを止めないということか…。相手を殺すことしか能のない連中…。相手のことを考えることが出来ない連中…。相手を傷付け、奪うことしか出来ない連中…。ああ、風の国だけではない。炎の国も、水の国も、雷の国も、土の国も、全てマチネが滅ぼした。マチネの外道共が滅ぼした。ああ、ガーネットよ、アクアよ、トルよ、そしてムーンストーンよ。今、君達の仇を討とう。風の国の者達よ、マチネに殺された全ての者達よ。今、君達の仇を討とう。
風は自由の象徴だ。誰にも縛られず、誰にも留めることなど出来ないものだ。我々は過去の因習に縛られてはいけなかったのだ。最古は大魔法使いカトレーアが魔法を使えない人間を優遇したことから始まった。魔法を使えない連中に甘い顔ばかりしていたのがいけなかった。戦が起こっているのに、いつか分かり合えると思っていたのがいけなかった。同じ人間だから、いつかは分かり合えると思っていたのがいけなかった。
ジュールズの開祖と言われているカトレーアよ。わたしは貴女を恨みます!貴女の思想を引き継いだせいでジュールズはマチネを滅ぼすことをしなかった!いつか分かり合えると話し合いの場を持ったが、それすらも奴らは利用し、何人もの魔法使いが犠牲になった!カトレーアよ!貴女が掲げた平和への道は理想論だ!甘っちょろい理想論だ!奴らは何も感謝しない!我々が世界を滅ぼす魔物を封じていたにも関わらず、奴らは何も感謝しない!感謝しないだけならまだ良かった!奴らは我々を殺しに来た!有無も言わさず殺しに来た!所詮、魔法が使えないことで自分の限界を決め付ける視野の狭い連中ということか!魔法が使えることを僻み妬む連中だったということか!魔法を恐れ、脅威を駆逐しようという短絡的な連中だったということか!!
カトレーアよ!開祖カトレーアよ!貴女は何を目指したというのか!辺境の地に住居を構え、誰に感謝されるでもなく、世界を支える縁の下の力持ちとなる運命を魔法使いに押し付けた!
そうだ、魔法使いは全ての者に魔法の力を示さなければならなかったのだ!そうすればマチネなどという連中が台頭することもなかった!こんな悲劇が生まれることもなかった!魔法を否定し、機械を作り、暴れる得体の知れない連中に遠慮などする必要はなかったのだ!言っても分からぬ奴ら、相手を殺すことを何とも思わない奴ら!!世界には痛い目に遭わないと自分が悪いと分からない奴らがいる!世界には殺されるまで自分が悪いと分からない奴らがいる!世界には殺さなければならない奴らがいる!
そうだ、魔法使いとはこの世界に必要のない救い難い悪を排除するために神から使命を預かった人間なのだ!マチネのような、虐殺を何とも思わぬ連中を排除するための役目を負っているのだ!確かに、快い役目ではないだろう!それでも世界の安定のために悪を排除する必要があった!カトレーアはそれから逃げたのだ!魔法使いの本来の役目から目を逸らしたのだ!
そして我々も逃げていた!いつか分かり合えるという幻想に浸って逃げていたのだ!もう逃げない!マチネを滅ぼし、根絶やしにし、魔法使いの本来の役割を全うする!そして、それがそのまま皆の仇討ちになる!供養になる!魔法を正しきことのために!悪(マチネ)を排除するために!)

それは吹き荒れる風のような声だった。
『天空より落ちた真実の涙よ、眼前の敵を殲滅せよ!古代魔法銃デスチル・ジュール!!』

避難してきたマチネの住民達に、その魔法使いは持っていた大きな銃を向けた。

『さあ、害虫退治を始めようか!この世界に巣食う害虫退治を!!マチネの害虫共、風の大魔法使いペリドットが貴様らを退治するために地獄の底から蘇ってきたぞオオオオォォォォォォ!!』

大魔法使いが現れてしまった。

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この記事へのコメント

2015年05月07日 01:11
ペリドット!!? 生きていた!?
死んだとは確定していませんでしたが・・・まさかの。
しかもデスチル・ジュール・・・こんな形で登場してくるとは予想外でした。前は存在だけ示されていて、実物を見ることは叶いませんでしたが、意外なほどに小さい。魔法銃である以上は、大きさで判断できるものではないですが。

八武「還ってきた!」
山田「復讐の連鎖。かつて黒い魔法使いが、間違った魔法の力を示したからこそ、マチネが生まれたわけだが・・・もう止められないのか?」
佐久間「オネなら止められる。」
山田「いや、そういうことではなく・・」
佐久間「真面目な話だ。圧倒的な個を頂点とする支配体系は、ひとつの理想ではある。」
山田「話し合いでは解決しないのか? それを幻想と切り捨てて、本当にいいのか?」
佐久間「残念ながら、武力を伴わない話し合いが実現したとしても、多数者の平均的な意見が通るだけで、少数者が抑圧されることには変わりないんだ。迫害だってな、加害者は話し合いのつもりだったりするんだぜ?」
神邪「対話は基本に過ぎず、理想はまだその先にあるということなんですね。」
佐久間「ただ好き勝手に意見を述べることは、話し合いでも何でもない、言葉の暴力でしかない。話し合い、議論、対話というものは、一定のルールがあるものだ。しかしだね、話し合いで解決しようと主張する者が、そのルールを守っていなかったり、あやふやだったりする。文字通りに、話にならんのだよ。」
維澄「加えて世の中、説得・納得で解決しない部分があるし、それ自体の理解が、説得・納得の問題ではない。具体的に言うと、マチネの人々とペリドット、双方を納得させられる論理は存在しない。」
佐久間「逆に言えば、個の支配のもとでも、対話は可能だ。別に絶望を振り撒きたいわけじゃない。だからオネ。」
山田「うーむ・・・。」
2015年05月07日 13:11
コング「魔法使いと人間は同じ人間か」
賢吾「どちらが先に『有無も言わさず殺しに来た』んか」
ゴリーレッド「大魔法使いベリベットの憤怒は治まりそうもない」
コング「そういう時には生贄を差し出すんだ」
ゴリーレッド「よし黙れ」
コング「マチネ一の美少女を探し出し、スッポンポンにして磔にして、さあ、この娘を差し上げますので、どうかお慈悲を」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「だあああ!」
賢吾「ゼロはいよいよ魔法を使うか」
ゴリーレッド「ヤバイ」
コング「ゼロが変身する時一度全裸になるらしいぞ」
賢吾「キューティーハニーやない」
ゴリーレッド「そもそもアールからゼロに変身するわけではない」
コング「アールの正体がバレた時の皆のリアクションが楽しみだ」
ゴリーレッド「ひとごとだな」

2015年05月07日 23:26
>アッキーさん
死んでもおかしくない程の致命傷を負いながらもどうやら生きていた様子のペリドット。ジュールズの反撃が今始まる。そして、持ち出したのはジュールズに伝わる最強の魔道具であるデスチル・ジュール。覚えていていただいているようで光栄です。チュルーリが生まれる時に「余った魔力」が集まって出来たと言われているデスチル・ジュールですが、長らく行方不明だったのをカトレーアが見つけ出し、ジュールズがチュルーリの宝玉と共に管理・封印していました。
黄泉の国から還ってきたペリドットが紡ぐのは黒き復讐の連鎖。黒き魔法使いの起こした外道行為がマチネを生み出し、それがジュールズに牙を剥き、そして再びその牙がマチネに返ってきました。復讐の連鎖は誰にも止められないのか。もし、オネが圧倒的な力で全員を黙らせたら、ひょっとすると戦いの止まった時間が出来て、それが真実を知るきっかけになるかもしれません。今のままでは戦う道を選べば真実を探すことが出来ないが、戦いを止めることも出来ない。悲しいかな、話し合いで解決出来る地点は既に遥か昔に過ぎ去ってしまったようです…。最早、戦う以外の道はないのか。双方の妥協点や納得出来る点はないのか。それを実現するためには客観的な真実の歴史を暴く必要がありますが、その歴史は既に闇の中。どうしようもない底なしの泥沼の中で、もがかなければならない状態。救いはあるのか。
2015年05月07日 23:26
>コングさん
本来なら魔法が使えるかどうかの違いしかなく、両者とも生物学的に見れば同じ人間になります。そして、仲間に対する温かい心も、仲間を殺されて憤る心も、両者共に持っています。『人類』と『魔法使い』という総体で見ればどちらが先というのは存在するかもしれません。しかし、個人の話になると以前に魔法使いに襲われたとか、以前に人間に襲われたというのが見えにくくなる。魔法使いからするとマチネが勝手に攻撃してきている訳ですが、マチネからすれば魔法使いの方が先に攻撃したとなっている訳です。双方とも相手が『有無も言わずに殺しに来た』と思っている状況。誰も矛を収めることが出来ません。
既に怒りの化身と化したペリドットは全員を血祭りに上げないと気がすまないぐらいの勢い。これを止められるのはゼロの魔法しかないのか。しかし、ゼロは魔法を使えるのか。皆に魔法使いだとバレてしまったらどうなるのか?

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