英雄再来 第十三話 魔王6

ウチが仇を取ったる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ゼロが発見した二体目の魔法使いの襲来はすぐにマチネ本部にも連絡された。ほぼ同時刻、マチネの司令部でも突如強力な魔力を感知した。それまではマチネ内部に侵入した魔法使いオネの魔力しかなかったのに、急に降って湧いたように新しく強力な魔力反応が出現したのだ。

『こちら司令部!マチネ郊外に突如、強大な魔力反応出現!風の国方面、8時の方角です!』

その連絡が特務隊の班長や隊長・副隊長など全員に伝わった時にはもう8時の方角では戦闘が始まっていた。





大魔法使いは吹き荒れる風のような声で叫び、手に持っていた大きな銃の引き金を引いた。
『オオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!』

その一発は、世界を揺らした。轟音という轟音、閃光という閃光にその場は包まれた。それは大爆発だった。圧倒的な魔力によってその場は徹底的に破壊された。その音と光はマチネの中枢区画まで届くほどだった。





急班の班員である光理は物凄い風に吹き飛ばされ、体勢を崩し倒れたが、魔法使いの攻撃の爆心地とは離れていたので周囲の人々と共に命は助かった。未だに痺れる耳と痛む目を無理に奮い立たせ、立ち上がった光里は爆発が起こった方を見た。

その方向には何もなかった。

そこにいたはずのたくさんの人々の姿がなかった。地面すらなかった。そこにあったのは巨大な穴だけだった。地面に計り知れなほど巨大な穴が空き、誰もがいなくなっていた。消えたのだ。今の攻撃の爆発により、一切合切が消されたのだ。その方面にはゼロもいたはずだった。

「!!!」
光里は顔面蒼白になって通信機に呼びかけた。
「ア、アール!アール!応答せい!こちら光里!応答せい、アール!!」

通信機に向かって必死で叫ぶ光里。だが、その問いに返事はなかった。

「アール…!う…うわあああああああああ!!!!」
光里は叫んだ。そして、駆け出していた。空に浮かぶ魔法使いに向かって。

(許せへん…!許せへんで、魔法使い!!アールはまだ特務隊に入って数日の新人や!しかも、ここにおるんはほとんどが単なる一般人やないか!戦闘員やない上に戦いにから避難してきたんや!それを狙い撃ちかい!!流石に魔法使いは汚いのう!!そっちは魔法なんて便利なものがあるくせに、今まで好き勝手してきたくせに、それでもまだこんな卑怯な真似するんかい!!でも、こんなこと言ってもあんたらは笑って魔法を使うだけやろ!確かにこれは戦争や!!綺麗も汚いも有りはせん!!だから文句なんか言わん!それよりも先にその首、掻き切ったる!!)

助走を付けて高く飛び上がった光里の足首の王道具が発動する。光里の王道具は小さな加速装置。一度目の跳躍で人の何倍も高く跳べるし、空中でもう一度跳ぶことが出来る。その驚異の二段跳躍で光里は魔法使いの上を取った。

(死ねやああああ!!!)

光里は袖に仕込んだ小刀を取り出した。狙いは首。一直線に吸い込まれるように光里はそこへと落ちていった。重力加速を加えた一撃。当たれば人間の首を掻き切るのに十分な威力であった。しかし、その刃が魔法使いに届くことはなかった。

光里が見ていた光景が一瞬にして消え去った。数秒後、気が付いた時には光里は地面に叩き付けられていた。そして、自分のバラバラになった足が見えた。

(は?)

光里は理解出来なかった。なぜ自分は攻撃に失敗したのか、なぜ自分は倒れているのか、なぜ自分の足が見えているのか。



大魔法使いの周囲には風の刃が渦巻き、近付くもの全てをバラバラに斬り裂く役目を負っていた。風の刃の正体は大魔法使いの召喚した風精霊(シルフィード)であった。通常、召喚された精霊は人の目に見える形や色になるのだが、術者によって変更が可能である。目に見えにくいように限りなく空気に近い状態になって高速で大魔法使いの周囲を飛び回る風精霊は、かつてペリドットが貫かれた光子力放射であっても防御出来るだけの力を持って召喚されていた。



光里に遅れること十数秒、魔法使いを倒そうと向かってくる他の急班の響希と望美、他の特務隊員、巡視隊の者達に向かって大魔法使いは再び古代魔法銃デスチル・ジュールを構えた。

「光里いいぃいい!!」
「うわああああああ!!!」

(あかん…!響希…!望美…!来たらあかん!!)
光里はどうにかして伝えたかった。自分がなぜバラバラになっているのか。もう自分は助からないが、せめて仲間達が同じ目に遭わないように、自分が見たことを伝えたかった。無闇に突っ込んでは勝てないと警告したかった。しかし、バラバラになった光里は声を出すことが出来なかった。
(こっちに来たらあかん!!!)

バラバラになった光里を見て激昂しながら襲いかかってくる響希と望美を、簡易の銃を構え戦う意志を示している巡視隊の者達ごと狙って大魔法使いは魔法銃の引き金を引いた。一発目ほどの威力はなかったが、それでもその周辺を吹き飛ばすのには十分な威力だった。



「連絡する。特務隊のソルディエルだ。特務隊各班員に連絡する。避難住民の安全確保と自分の命の確保の両方を行い、班長達が到着するまで無茶をするな。全員生き残れ。
続けて特務隊の各班長に連絡する。各班長は速やかに避難住民に向かっている二体目の魔法使いの討伐に当たれ。副隊長も向かっている。想定通りエクスを補佐し、二体目の魔法使いの討伐に当たれ。以上。」


大魔法使いを倒そうとした者達は誰もソルディエルの連絡を聞くことは出来なかった。避難している住民の安全確保のために出来ることを最大限やろうとした結果であった。それはあまりにも無残な結末だった。

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この記事へのコメント

2015年05月08日 02:09
最初の方では成す術なく次々とやられていったせいで、そこまで強い印象が無かった大魔法使いですが、デスチル・ジュールなしでも十分強い・・・何だこのチート防御力・・・。
回避は可能であるデスチル・ジュールの方が、まだマシに思える風の刃。もっとも、デスチル・ジュールの力が、これで全てかどうかは怪しいものですが。

佐久間「流石だ。そう、戦争に綺麗も汚いもない。綺麗な戦争は囲碁や将棋などの模擬戦争だけだ。実際の戦争は、一般人を殺されたくないなら、そもそも戦争するなというレベルの話だ。まあ、私は“一般人”という言い方も、あまり気に入ってないんだが。」
山田「それぞれの思いは、共感も出来る強い感情なのに、どうして相容れないんだろうな・・・。俺たちの世界も、似たようなものかもしれない。真摯な怒りが心無い妄言として処理されているのを聞くと、自分がくだらないと思ってる人々も真摯な怒りを発しているかもしれないと思うと、やりきれない。」
佐久間「しかし凄い威力だな、デスチル・ジュール。破局大戦のときのアレを思い出すわ。」
八武「デスチル・ジュール・・・さしずめ“死に至る熱”か。」
維澄「絶望は“死に至る病”と称されているけれど、ならば死に至る熱は、復讐か、狂気か。」
神邪「かつての黒い魔法使いも、怒りに呑まれた者だったのでしょうか?」
山田「チュルーリ一家といい、まだ謎が多いな・・・。」
2015年05月10日 14:26
>アッキーさん
守るべき者達が多い防衛戦という局面では大魔法使いはその力を発揮することが出来なかったようです。大魔法使いは個人としては超強力な戦力ですが、人々や住処を守りながら戦う場合は、自分自身の防御を疎かにする傾向があるようです。強さを頼みに危険を顧みず戦った結果でした。
しかし、現在のペリドットは守るべき者がいない上に、何故か魔力が更に上がっている。しかも、魔道具まで持ち出しての単騎勝負。覚悟も志も全く違います。今まで攻め続けていたマチネですが、逆に徹底的な防衛戦は苦手なのかもしれません。ですが、この結果は戦力差がもたらしたのは確実か。
囲碁や将棋、チェスなど、古くから戦争をモチーフにしたゲームは多く存在しますし、現在ならコンピュータゲームで戦争を扱ったものがたくさんある。残酷さの描写具合で全年齢のAだったり、BやC,Dだったりしますが、実際の戦争との一番の違いは人が死ぬか死なないか。戦争は綺麗か汚いかでは測れない。何故なら人が死ぬから。
ジュールズとマチネ、どちらも強い意志を持ち、それぞれの正義を掲げて必死で生きようと戦っていて、どちらにも正当性があるように見えるのに、それらが相いれることはない。
自分の心は自分にしか分からず、他の人が完全に分かることはないのかもしれません。ましては自分が関心を寄せていない相手の言葉など羽根よりも軽いのかもしれません。そう考えた時、自分自身の言葉や態度などを省みて反省することが多々ありますが、それでも完全に理解出来てはいない、それどころか理解に程遠いのかもしれない、と思ってしまいます。人と人の心の溝は思った以上に深く、簡単に分かったり理解出来ないから戦争が繰り返されるのかもしれません。
2015年05月10日 14:26
マチネの多くの人々を消し去った古代魔法銃デスチル・ジュールの原動力は怒りや憎悪といった感情なのかもしれません。怒りは狂気を呼び、憎悪は復讐へと発展する。例の魔法使いといい、チュルーリのことといい、この世界の裏側は未だに見えない。その見えないところが見えていればこの戦争を食い止めることも出来たかもしれません。

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