英雄再来 第十四話 エクス5

貴女の笑顔を守りたい。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

マチネから上がった火柱は轟々と燃え上がり、空を赤く染めていた。それを青ざめて、呆然と見ているエクスの耳に奇っ怪な音が聞こえてきた。砂を削り、地を砕く、掘削機のような音が地面の下から聞こえてきたのだ。

(生きてやがった…!?)

既にエクスの王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の動力は尽きている。かろうじて通常の武器は幾つか出せるが、ペリドット相手では砲撃の嵐か光子力放射が必要となることはエクス自身が一番よく分かっていた。

(一発でいい…!光子力放射の一発!出てきた瞬間にぶち込んで、それで戦闘終了だ!だが、それが出来なけりゃ、こっちが終了だ…!)


次の瞬間、エクスは瞳を閉じて深呼吸をした。エクスの脳裏に過去の出来事が浮かぶ。

――――――――――――

「アタシがマチネの『最強の剣』?隊長を差し置いて、そんな…。」
「だが事実だ。」
それは何気ないソルディエルとの会話。
「じゃあ、隊長は『無敵の矛』ですね。」
「何故だ?」

「えへへ、アタシが隊長の敵になることなんてないじゃないですか。」
エクスとソルディエルはお互いの顔を見て、軽く笑った。


隊長は隊員達の前では気丈に振舞う。班長達の前でも気丈に振舞う。でも、アタシだけの時には、たまに笑顔を見せてくれる。その笑顔を見ると頑張れる。貴女の笑顔を守りたい。お姉ちゃんを守れなかった分まで、貴女を守りたいんだ。

――――――――――――

瞳を閉じた数十秒間、エクスは一切動かなかった。それはおよそ戦場で行うべき行動ではなかった。その数十秒間の間に攻撃されていればエクスは確実に重傷を負うか殺されていただろう。しかし、ペリドットは地面の下であり、エクスの周りに敵はいない。エクスはその数十秒で行った精神統一によって無理やり王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の動力を少しだけ回復させた。その回復させた分と残っていた分を合わせて、エクスはきっちり光子力放射一発分を放つだけの動力を得た。
短時間に二度は使えない。しかし、動力を使い切った後から一度だけ復活出来るこの方法は今まで何度となくエクスを助けてきた。戦場で生き残るための知恵と技術の一端であり、死線をくぐり抜けてきた者だけが使える技であった。



エクスは集中した。耳は地面の下の掘削音を聴き、速度と方向を予測する。目はその予測した方向を向き、狙いを付ける。腕は固定し、光子力放射の発射準備を始める。一度きりの機会、外せば次はない。エクスは全神経をこの一撃を当てることだけに集中させた。

地面の中の掘削音はどんどん大きくなり、ついに地面を突き破った。瞬間、エクスは最後の光子力放射を放っていた。エクスの手から放たれた光線は完璧な軌道を描き、地面から飛び出した者に命中した。
『アアアアアア!!!』
光子力放射の一撃で、その者は地面に倒れた。

『アー、ウー…。』

エクスは青ざめた。その可能性を考えなかったことを心底後悔した。地面から飛び出して来たのはペリドットではなく風精霊(シルフィード)だったのだ。

『アー、ウー!』
光子力放射を受けはしたが風精霊(シルフィード)は元々が風である。よろめきながらも立ち上がり、小さな竜巻を引き起こした。
『がはっ!ごほっ!ごほっ!』
その竜巻は地面の中からペリドットを吸い上げて地上に連れ出した。



エクスは足の力が抜けて、地面に両膝を付いた。無茶な起動をした王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』は全く反応がなく、短剣一つ取り出すことが出来なくなっていた。

ペリドットの貫かれた腹は黒い膜のようなもので覆われていて傷口が隠れていた。痛みは残っているようで、ペリドットは腹を抑えながら近付いてくる。風精霊(シルフィード)も近付いてきてペリドットの腕に巻きついて風の刃に変身した。ペリドットの腕は風の掘削機と化した。ペリドットはその腕を振り上げて、エクスに向かう。
『マチネの『最強の剣』よ…!ワタシの、勝ちだあ!!』





(死ねない…!こんなところで死ねない…!まだお姉ちゃんの仇を討っていない!まだアタシ達の村に火の雨を降らせた魔法使いを殺せていない!それにまだ隊長が戦っている!こっちの戦いが終わったら必ず駆け付けると約束しているんだ!こんなところで、こんなところで死ねるかぁ!応えろ、応えろよ、王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』!動け!動けよ!動くんだ!あと一発でいい!あと一撃でいい!目の前の敵を倒す力を!魔法使いを倒す力をアタシにくれよ!
陛下!陛下は言った!王道具は力だと!人の意志を具現化した力なんだと!だったら応えてくれるはずだろ!だって、人の意志こそが魔法使いに勝つ唯一のものだって陛下自身が示してくれたんだから!大博士!大博士は言った!王道具は魔法使いを討ち滅ぼすための道具だと!ここで動かなきゃ嘘だ!ここで動かなきゃ、魔法使いを討ち滅ぼすことなんか出来ないじゃないか!人の意志が世界で一番強いんだ!アタシの意志に応えろ、『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』!!)

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この記事へのコメント

2015年07月05日 19:02
コング「貴女の笑顔を守りたい。姉妹以上の関係だ。恋人に近い」
ゴリーレッド「死線をくぐり抜けた者だけが持つ深みや迫力は戦場だけではない。命に関わる大病と命に関わる貧困を経験した人間はどこか違う」
火剣「あとは権力の魔性に迫害された人間だがこれは一般人ではなかなかいない」
コング「スーパーヒロインは死線をくぐり抜けてるぞ。怪人に捕まり、磔にされ」
ゴリーレッド「黙らないと延髄斬りしか待っていない」
コング「待て」
火剣「たった一発の光子力放射が」
コング「エクスピンチ!」
ゴリーレッド「その笑顔は何だ?」
火剣「人の意志を具現化となると、もはや機械ではない」
ゴリーレッド「機械ではないからこそ、一念で動く」
コング「エクスを生け捕れ」
ゴリーレッド「この状況で生け捕ったりしない。やるかやられるかだ」
コング「やるを漢字で書くとNGボックス行きか? ぐふふふ」
火剣「エクスが自力でやるか、あるいは誰かが助けに来るか」
コング「ペリドットの勝利という選択肢はないのかねゴン?」
ゴリーレッド「ない!」
2015年07月05日 21:52
しぶとく生きているペリドット。しかも、しぶといだけでなく巧妙・・・あるいは、風精霊が助けたのかもしれませんが、エクスの賭けを凌駕してきた!

佐久間「ここで仲間を逃がしたツケが回ってきたか?」
山田「仲間を思う心が、敗北へ繋がるというのか! そんなことあってはならない!」
八武「まだペリドットには余力があったとは。」
維澄「魔王になってるからかな・・。意志の力ではペリドットも相当なものだ。」
神邪「仲間が気付いて戻ってくるということは?」
佐久間「可能性としては無くもないが。」
2015年07月05日 23:21
>火剣獣三郎さん
本来は赤の他人だったエクスとソルディエルですが、魔法使いに全てを奪われ、辿り着いた先のマチネで数奇な出会いをしました。共に肩を並べ、死線をくぐり抜けるたびに絆は強くなり、その関係は血よりも濃くなりました。最早、その関係は姉妹というより恋人のようですね。
死に近い体験をした人間はやはり通常では考えないようなことを考えたり、何気ないことでも死線をくぐった経験が何かしら強い影響を及ぼすのかもしれません。瀕死状態から生還して、今生きていることの重みを強く実感すれば、当然日々の過ごし方や言動も違ってくるでしょう。
最後の一撃の光子力放射でしたが、命中したけどまさかのシルフィード。エクス、絶体絶命!王道具が通常の機械と異なるのは義手や義足として身に付けていると本当に血が通うようになることでしょう。それはもう機械を超えた何か別のものに近い。この状況で王道具は応えてくれるのか。それとも助けが入るのか。もしくはペリドットの一撃が決まってしまうのか。勝敗は…。
2015年07月05日 23:22
>アッキーさん
中々死なないペリドット、これが魔王の力なのか。お供の風精霊もかなり強力にサポートしてきます。エクスの最後の攻撃すらも乗り越えてきました。万策尽きたエクスに迫るペリドット。人間には一人ではどうしようもない限界状況があります。しかし、負傷した班長達ではペリドットにむざむざ殺されてしまう可能性も。負傷した仲間を逃がすためにエクスは一人残ったという見方も出来ます。果たして、エクスはこのまま殺されてしまうのか!?

チュルーリ「実はペリドットは中々『死なない』のではなく…。」
白龍「ちょ!ネタバレは禁止ですよ!」

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