英雄再来 第十四話 エクス15

『化け物』、叫ぶ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ぐっ、がああ…!」
化け物の大きな歯がエクスの肉を押し潰す。
『ゲギャガガガガハハギャアアアア!!!』
化け物は勝利の雄叫びを上げた。

まるで犬が長細い骨を噛むように咥え上げられたエクス。化け物の大きな口がエクスのドテッ腹や腰に食い込む。
「クソっがああ…!」
エクスは両腕でどうにか口をこじ開けて脱出しようとするが化け物の口は決して開かない。閉じて噛み千切られないようにするのが精一杯だった。王道具を使おうと口から手を離せばその瞬間に噛み潰されそうなぐらいの力がかかっている。歯が食い込んだ場所からは血が流れ出し、化け物の唾液で皮膚が溶けていく。エクスは自分が消化される激痛の中で必死に耐えていた。

(死ねない…!こんなところで死ねない…!まだ…まだお姉ちゃんの仇を討っていない!死んでいった特攻隊の皆、殺された特攻隊の皆、魔法使いに殺された者達、全ての仇をまだ討てていない…!まだ、アタシは何一つ達成していない…!ここでアタシが死んだら、この化け物は誰が退治するのか…!隊長はまだ向こうで戦っているに違いない…!隊長に迷惑かけらんない…!!それにここでアタシが死んだら隊長との約束を果たせない…!生きてまた会うんだ…!再会の約束を果たすんだ…!)

エクスの体がドンドン溶け出していく。化け物の口は開くことなく更に強い力がかかってくる。
『ギャガガガガガガガハハハアアア!!!憎メ!恨メ!憎メ!恨メ!憎メエエエエ!!』
化け物の複数の口からは下卑た笑い声と人の声がいくつも吐き出される。

「黙れ化け物!アタシの大切な仲間の命を奪った貴様を、絶対に許さない!この体が滅んでも千年先まで恨んでやるわあ!!」

(起動しろ…!動け…!)

――――――――――――――――――

それは過去の一場面。まだ大博士が生きていた頃の何気ない会話。

「エクスなら本当に使いこなせるかもしれんな。両腕王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』を。」

「ん?本当に…?大博士、『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』にはまだ隠された機能でもあるの?」

「…両腕王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の機能は『しまう』そして『取り出す』、これ以外には確認されていない。じゃが、使い手によって出せる物やしまう物の種類や量、それと出し入れの速さが違うし、使い手の成長によってそれらが変化する。王道具全般に言えることじゃが、王道具は進化する道具なんじゃよ。エクスなら『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』を誰よりも使いこなせると、思っただけじゃよ。」

――――――――――――――――――

(両手王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』よ!アンタはアタシと共にずっと戦ってきた…!戦うたびにアタシはまだこの王道具を使いこなせていないんだってずっと思っていた。だから、まだあるんだろう!?まだアンタの力をアタシは全部引き出せていない…!頼むよ…アタシはどうなってもいいから、今だけアンタの力を全部貸してくれ…!ずっと戦ってきた仲じゃないか…!頼む…!アタシは神様にもう祈らない…。神様は本当に欲しいものをくれない…!でも、王道具は神様が作ったものじゃない!だから、アンタに祈らせてくれよ…!この状況をどうにか出来る力を…!もう、アタシは自分の出来ることは全てやった…。もう、祈ることしか出来ないんだ…。)

その時、エクスの頭の中に謎の声が響いた。
『開くかい?』

エクスは目を見開き、最後の力を振り絞って叫んだ。
「開けえ…!『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』…!!」





辺りに歯車の回る音が響く。鉄の鎖を巻き上げる音がどこからか聞こえる。金属が擦れ、ぶつかり合う音が聞こえる。蒸気の吹き出す音が鳴る。

両腕王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』が起動を始めた。エクスは大量の血を流し、肉を失ったことが原因で意識がなくなったが、『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』は止まらない。動力は既に底をついているはずなのに『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』は止まらない。本来、王道具の発動と人の意志は切っても切り離せない関係にある。しかし、『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』はまるでそれ自体に意志があるかのように起動し続けて止まらない。

『ギギギギギギギ!!!??』
王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の本来の機能は一つ。『しまう』ということのみ。『取り出す』という行為は『しまう』という行為が前提となっている。何かを取り出すためには、その前にその何かをしまっておかないといけないからだ。
『ギギャギャギャギャギャギャギャアアアアア!!!!』
王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』は周りのものを『しまい』始めた。それは重力すら呑み込む宇宙の墓場のように、光すらも逃さない。化け物に逃れる術はなかった。
『ギギャギャギャギャアアアアアアア!!!ギャガギャアアアアアアア!!!!』
王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』はマチネの歴史上、生物をしまえたことはなかった。なので生物には通じないと思われていた。しかし、そうではなかった。『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の本来の能力を全て引き出すことが出来れば、生き物ですら呑み込み。この世界のあらゆるものを呑み込むことが出来る王道具。それが『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の正体であった。
『ギャボアアアアアアアアア!!!』
化け物は欠片も残らず『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』に『しまわ』れた。そして、『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』も内側から剥がれて、裏返しになって自分自身に『しまわ』れた。



後には何も残らなかった。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

驚いた

この記事へのコメント

2015年07月26日 22:52
なるほど、生き物を収納できなかったのは、この伏線だったのですか・・・。
自分自身をも収納して消えてしまうとは、四次元トーラスというかマンイーター(学校怪談の方の)というか。微妙に違いますが、そういう幾何学的なゾクゾク感があります。
果たしてエクスは・・・? エクスも飲み込まれてしまったのでしょうか・・・?

八武「エクスちゃああああんん!!」
佐久間「生き物を飲み込めるようにすると、所有者まで飲み込んでしまう危険性があるから、今まで誰も出来なかったのか。」
維澄「本能がセーブをかけていたのかな。しかしエクスは・・・」
山田「こ、これはアレだよ、エクスから見て“何も残らなかった”と言ってるんだ。そうだと思いたい。」
神邪「もしも収納されたとしても、所有者であるエクスさんだけは出てこれるのでは?」
八武「その手があった!」
佐久間「しかし“神すら操る人の糸”は、何となく別空間への穴を開けるイメージだったが、本質は次元閉鎖にあったわけか・・・。」
山田「お前が別空間への穴だからな。」
佐久間「うん。だから何で生物は無理なのか、ずっと引っかかってたんだ。」
神邪「まだ助かる可能性は残されていますが、世界の人口も随分と減ってしまいました。」
維澄「もしかしてチュルーリ一家の方が多くなっていたりしてね。」
佐久間「あながち冗談でもないから困る。実際は、まだ生き残りはいるだろうけど・・。」
2015年07月27日 15:58
火剣「どうなった?」
ゴリーレッド「怪物は倒した。問題はエクスだ」
コング「大丈夫だ。ヒロインは不死身。アスカもシンジに噛み砕かれて確かに『キャアアアアア!』と悲鳴を上げたはずなのに、次回作に眼帯して登場」
火剣「シンジは噛み砕いてねえ」
ゴリーレッド「エクスの無事を信じるしかないが、物語的にここで終わりのパターンもあり得る」
火剣「主役ではないしな」
コング「でもまだエクスのヒロピンを見ていない」
ゴリーレッド「これがヒロピンではなくて何がヒロピンなんだ?」
コング「ぐふふふ、それはね」
ゴリーレッド「喋らなくていい」
火剣「ゼウス・エクス・マチネ。極限状態だからこそ出せた最後の能力か」
ゴリーレッド「なるほど、通常の戦で意志だけで動かせるものではないと」
コング「通常の戦と軽々しく言うな。どんな戦も命懸けだ」
ゴリーレッド「揚げ足を取られたら後頭部ハイキック!」
コング「NO!」
火剣「ソルディエルも心配だが」
2015年07月27日 22:48
>アッキーさん
両腕王道具『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の完全起動により周囲のあらゆるものが呑み込まれました。機械には大概、安全装置が付いているもの。『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の安全装置は生き物をしまえないことでしたが、エクスはその安全装置を引き抜いた。なので、使用者のエクスも、化け物共々圧縮空間(?)の中へ「しまわれて」しまいました。生き物まで「しまって」しまうと、仲間を巻き添えにしてしまうどころか自分自身も危ないですね。大き過ぎる力は我が身を焼くように…。
2015年07月27日 22:49
チュルーリ「かかっ。神邪は鋭いな。」
白龍「うん、流石です。あ、チュルーリさん、これ以上喋らないでくださいよ。ネタバレ、駄目、絶対。」
チュルーリ「では、別の角度から言おう。『神すら操る人の糸(ゼウス・エクス・マチネ)』の本質は「しまう」ことであり、「取り出す」のはあくまで後天的に付随した能力だ。リミッターさえ外せば「しまう」ものには制限などないが、「取り出す」ためにはかなり多くの制限がある。例えば、取り出すものと使用者が同じ空間にいる時には「取り出せない」。それは「押し出す」になるからな。つまり、エクスは自力「では」脱出出来ない。」
白龍「どうして「では」を強調するんですか…。」
チュルーリ「かかっ。」
白龍「それよりも、この世界の人の数が激減しましたね…。」
チュルーリ「私の子供は六人。ツヲは嫁を引っ掛けたから全部で七人か。」
白龍「散り散りで逃げ延びている人はまだいるとは思いますし、戦争に巻き込まれなかった辺境の村なんかはまだ人が残っているはずです。」
チュルーリ「そうだ、人間には生き残ってもらわんとな。ハイジマバイカが命懸けで守ったんだからな。仮に死ぬにしてもきっちり足掻ききってから死んでもらいたいものだ。ディルティやキュイクなんかがそうだったようにな。」

この記事へのトラックバック