英雄再来 幕間 風精霊

語りましょう。ペリドットの最後を。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

――――――――――――――――――

「『世界を憎め!ペリドット!」』

「ああああああああ――――――!!!!」

どこにあるのか分からない真っ暗な空間で、ペリドットは黒いヘドロに呑み込まれた。そのヘドロに口も鼻も塞がれて呼吸が出来ず、ペリドットの意識は混濁していた。

「アー!ウー!」

その時だった。ペリドットの耳にどこかで聞いたような声が響いた。それと共に風の刃がペリドットの周囲のヘドロをズタズタに引き裂いて吹き飛ばした。

「ゲホッ!ゲホゲホゲホ…!」
ヘドロがなくなったことでペリドットはどうにか呼吸が出来るようになった。意識はまだはっきりとしないが、目の前に誰かがいるのが見えた。それは風精霊(シルフィード)だった。


「『貴様…!』」
ペリドットは見た。自分とそっくりの姿をした者と風精霊(シルフィード)が睨み合っている光景を。
「アー!ウー!」

「『ふん!貴様らが何をしてももう遅い!見ろ!世界はもう恨みと憎しみに満ち満ちておるわあ!』」
「アー!ウー!」

「『どこにそんなものがある!?見ろ!カトレーアの子孫共ですら憎しみに呑み込まれておるわあ!』」
「アー!ウー!」

「『ふん!きっかけは確かに我だろう。だが、憎しみを増幅させ続けたのは人間共だ!止まれる場所はどこにでもあったのに、みるみる内に憎しみが憎しみを呼び、怒りが怒りを呼んだ!遅かれ早かれこうなることは決まっていたのだ!』」
「アー!ウー!」

「『ふん!あの二人にしてやられたのは確かだろう。だが、あんなのは稀有な例に過ぎん!そもそも、ハデスは外の世界から来た者だ!この世界で生きる者に敗れた訳ではない!』」
「アー!ウー!」

「『ふん!羽虫の欠片がほざきよるわあ!あの時は引きずり込まれたが今度はそうはいかん!今や我の力はあの時の比ではない!今度こそ貴様らを呑み込んでくれるわあ!』」

ペリドットに似て非なる者は黒いヘドロに変わって襲いかかってきた。その黒いヘドロの量は風精霊(シルフィード)とペリドットを呑み込むのに十分過ぎる量だった。

「アー!ウー!」
風精霊(シルフィード)は疲弊しているペリドットの手を掴んで、その場から飛び出した。

「『待てえ!逃がさんぞお!』」
黒いヘドロは嵐の海のうねる波のように風精霊(シルフィード)とペリドットに迫り来る。ペリドットを抱えながら必死に飛ぶ風精霊(シルフィード)が向かう暗闇の空間の先に一つの扉が見えた。

「アー!ウー!」
風精霊(シルフィード)はそこに辿り着くと、扉を開けようとした。しかし、鍵がかかっているのか、錆び付いているのか、扉はガタガタと音は鳴るが開かない。

『逃ガサンゾオオオオ!』
黒いヘドロが迫り来る。扉は開かない。
「アー!ウー!」
風精霊(シルフィード)は思わず、目をつぶって悲鳴を上げた。





「グングニル・ハリケーン!!」
いくつもの風の槍が黒いヘドロの波を吹き飛ばした。意識を取り戻したペリドットが風の魔法を使ったのだ。

『ペリドットおおお…!抵抗ハ無意味ダあああ!憎シミノ渦ニ沈メえええ!』

「黙れ。」
ペリドットは黒いヘドロを睨んだ。
「どうやらわたしは騙されていたようだ…。あそこにいたトル君もアクア君もガーネットもムーンストーンも全て偽物だった訳だ。全て、お前の声真似だったんだな!」

『ク…ククク…。』
「何がおかしい。」
『偽物…?何ダ、ソレハ…?世界ノ真実ハ憎悪ノミ…。』
「聞いたわたしが馬鹿だった。もうお前の言葉には耳を貸さない。」

『クク…ハハハハハ!オ前ノ言葉コソ、モウ世界ニハ響カナイ!平和ノ旋律ハ届カナイ!!諦メロ!憎メ!世界ヲ否定シロおおお!!』
黒いヘドロが巨大な津波となってペリドットと風精霊(シルフィード)に襲いかかってきた。

「グングニル・ハリケーン!!」
ペリドットの魔法によって黒いヘドロは吹き飛ばされる。しかし、黒いヘドロはすぐに集まってまた襲いかかってきた。
「グングニル・ハリケーン!!」
ペリドットは何度も魔法を使い、黒いヘドロを吹き飛ばす。しかし、黒いヘドロは一向に衰えない。それどころか次第に量が増えていた。
「グングニル・ハリケーン!!」
黒いヘドロは無尽蔵なのに対してペリドットの魔力は有限。次第にペリドットの顔色が怪しくなってきた。徐々に勢いが衰え、疲れが見え始めた。ペリドットの魔力が尽きるのは時間の問題だった。

『諦メロ!抵抗ハ無意味ダ!世界ヲ恨ム作業ニ戻レ!魔法使イヲ殺シタ者達ヲ憎メ!』

「誰が諦めるか…!諦めるものか!わたしは守れなかった…。風の国の者達を守れなかった…。足りなかったのだ、わたしの平和を希求する思いが…。それを実現するだけの力が足りなかったのだ…。だが、諦めてなるものか!諦めなければ夢は叶う!道は開ける!わたしは守る!今度こそ!」
ペリドットは後ろにいる風精霊(シルフィード)をかばうように黒いヘドロの前に立ちはだかっていた。
「わたしを誰だと思っている!風の国の大魔法使いペリドットだぞ!魔法は奇跡を呼ぶ力!自分の願いを叶える力!お前がわたしの道を閉ざすなら、わたしは道をこじ開けるまでだ!グングニル・ハリケーン!!」
ペリドットは力を振り絞って大量の風の槍を周囲全方向に撃ち出し、黒いヘドロを吹き飛ばした。

「アー!ウー!」
その時、風精霊(シルフィード)の目の前の扉が開いた。
『何ィ!!?』
驚きを隠せない黒いヘドロ。風精霊(シルフィード)はペリドットの腕を取って、扉の向こうに逃げ込んだ。
『逃サン!!』
黒いヘドロは扉めがけて飛んで来た。ペリドットは魔力を使い果たしてしまって反撃出来ない。

「閉じろおおお!!」
風精霊(シルフィード)は扉を力強く閉めて叫んだ。

ガシャン!

扉に鍵のかかる音が聞こえた。
『何ィ!』
扉に何かがぶつかる音が響いた。
『オノレ!開ケロ!憎メ!コノ世界ヲ!恨メ!仲間ヲ殺シタ人間ヲ!ペリドットおおお!!!』
扉はドンドンと音を立てたが再び開くことはなく、透明になって消えていった。





「よかった…。間に合った…。」
風精霊(シルフィード)は安堵の溜息を吐いた。
「風精霊(シルフィード)…君、人の言葉を喋れるの、か…?」
ペリドットは初めて聞く風精霊の人語に驚いていた。

その時の風精霊(シルフィード)の顔は喜びと困惑が相まってクシャクシャになっていた。
「ペリドット…。あたちの言葉が分かるんやね…!」
「あ、ああ…。」
「そっか…。よかった…。またお話し出来るんやね…。」
「また…?」
「ペリドット。あたちはウィンド・フィベ・チュルーリ。あなたが風の宝玉に封じていた魔物よ…。」
「え…!?」
突然の衝撃の告白にペリドットは驚きを隠せなかった。

「あたちはずっとペリドットに守られてて、その前は別の大魔法使いの人が、そのもっと前はまた別の大魔法使いの人が守っててくれたんよ…。だからずっと恩返しがしたかったんよ。ペリドットが死んだ時は本当に悲しかったけれど、どうにか死の淵を彷徨っているところを捕まえて命を繋ぎ止められたんよ。」

その瞬間、ペリドットの頭に激痛が走った。風の国からマチネに来る時ぐらいからずっと断続的にやって来る頭痛。それと同時に襲ってきた喉の痛みと焼け付くような心臓の痛み。ペリドットは風の国での戦いでマチネの新兵器である光子力放射に喉を撃ち抜かれた時のことを思い出していた。
(あの時、わたしはどうやって助かった…?どうやって生き残った…?喉を貫かれ、炎の地獄と化した風の国に落ちて…。)
頭痛と共にペリドットの記憶が少しずつ蘇ってくる。
(そうだ…。あの時、夢現の中でこの風精霊(シルフィード)と会っているんだ…。いや、世界を滅ぼす伝説の魔物の一体、ウィンド・フィベ・チュルーリと!)
「思い出した…。あの時、わたしは死にかけていて風の宝玉の封印も解けかけていた。だから君が出てきた…。」

「そうよ。そして、死にゆくペリドットに死者蘇生の魔法をかけた。魔法は不完全やったけどね…。ペリドットが生き返れば封印も復活して、あたちの魔法が途切れる。そうなれば再びペリドットは死に始める。そうなるとまた封印が緩んであたちと繋がる…。ずっと苦しかったやんね…。ごめんね、ペリドット…。あなたを死なせないためにはそれしかなかったんよ…。でも、もう大丈夫…!」

フィベは目から大粒の涙をボロボロ流していた。
「ここは精霊界。ペリドットが還るべき場所なんよ。そして、全ての魔法使いの還る場所でもあるんよ…。」

ペリドットは辺りを見回した。そこは幻想的な光景だった。ペリドットとフィベは宙に浮かんでいて、周囲は様々な色の光の粒がどこまでも広がっていた。キラキラと光るこの世界は見ているだけで、その美しさに心癒される光景だった。

「ペリドット…もう苦しまなくていいんよ…!悲しまなくていいんよ…!ペリドットはずっと苦しんでいた…!傷付いていた…!あたちは知ってるんよ…?ペリドットが風の国でずっと平和への祈りを込めて歌い続けていたん…。皆が死んで悲しかったよね…?苦しかったよね…?辛かったよね…?一度死んで、無理やり生き返らされて、もうどうしようもないぐらいボロボロになったけれど…。でも、間に合った…。もう大丈夫よ…!」

ペリドットの体が透けていく。
(あ…。)
ペリドットの体はゆっくりと光の粒となっていく。
(待ってくれ…!まだ――――――!)
ペリドットは緑の光の粒となって、この世界に広がっていった。

「この世界では皆同じ…!悲しみもない…!苦しみもない…!よかったね、よかったね…ペリドット…!」
フィベは大声で泣きじゃくりながら涙を流した。
「もう苦しまなくていいんだよ…!平和が実現しないこと、仲間が殺されること、全部自分のせいだって思い込んで、自分自身を苦しめなくていいんだよ…!よかったね、ペリドット…!もう苦しまなくていい…!悲しまなくていい…!あたちは知っているよ、ペリドットが一番平和を望んでいたとこを…!一番平和を望んだペリドットが一番苦しんでいた…!でも、もう大丈夫だよ…!もう苦しまなくていい、悲しまなくていい…!よかったね、ペリドット…!よかったね…!よかったね…!アアアアアアー!!ウウウウウウー!!」

そしてフィベ自身も光の粒となって大粒の涙と共にこの世界へと降り注いていった。後には様々な色の光が広がる幻想的な光景があるだけだった。

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この記事へのコメント

2015年07月28日 08:50
フィベ! お前だったのか!
ペリドットの最後と聞いて、ほぼ諦めていたのですが、まさかの救済エンド!
ペリドットにとっては、決して理想の最後ではないでしょうし、心残りも多そうですが・・・苦しみ続けるよりは、良かったのか。
そして黒いヘドロ。これは明らかに・・・

佐久間「アルパカ首領!!」
山田「あのさぁ・・・」
維澄「フィベは既に登場していたのか。もしかしてツレエも?」
八武「しかし恐ろしい無限ループ。どうりで死ににくいわけだよねぃ。」
神邪「王道具に収納される前に、2人は脱出できたわけですか。」
佐久間「脱出できたのはフィベの力かと思ったが、もしかしてエクスの覚醒も関与していたりして?」
山田「いずれにしても問題は、アルドンパカだ。ペリドットが安らかに眠れて良かったが、現世ではまだ戦いが続いている。」
神邪「もう出られないはずでは?」
山田「相手がアルドンパカでは、その前提は怪しいものだ。」
佐久間「そもそも、あの怪物はアルドンパカの一部に過ぎないように思えるし。」
神邪「あ、そうか、あくまで収納したのは怪物であって、アルドンパカ本体は別のところにいるというわけですか。」
佐久間「影響があるのは確実だが、あのときの比ではない力を得ているとなると、掠り傷か・・・。オネの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ。」
山田「何でだよ・・・って、ああ、戦闘狂だからか。」
佐久間「それもある。」
2015年07月28日 17:20
>アッキーさん
今明かされる衝撃の真実!ペリドットのそばにずっといた風精霊はチュルーリ一家の四女、フィベだったのです。そして、彼女こそ、ペリドットを安らかな世界へ誘う導きの天使だったのです。初めは平和のためにと大魔法使いとして頑張っていたペリドットが戦争をきっかけに殺戮者と化してしまった訳ですが、その結末が闇に呑まれて永遠に苦しみ続けるというのは余りにも救いがないので、フィベさんに救ってもらいました。まあ、心残りが多いのは確かですね…。でも、生死の無限ループから脱出出来たのはよかったか。
さあ、登場して参りました。今回の元凶っぽい何か。そう、闇大神霊(アルドンパカ)です。ここまで来るとネタバレも何もないですね。前回も今回も人々の憎しみを栄養源(?)とするアルドンパカがちょいちょい仕組んでいました。ただ、例の化け物はエクスが「しまった」し、流石にもう手出しは出来ない?しかし、この段階になるとアルドンパカが手出し出来ようが出来まいが、ほぼ関係のないところまで来てしまったかもしれません。なぜならアルドンパカの目論見通り、戦争が起こり、人々が大勢死んで、世界は憎しみに満ち溢れている。
そして、アルドンパカ復活説が浮上。例の化け物は封じましたが、しつこいことで有名なアルドンパカがこれで引き下がるとも思えない。どこかでまだ「一部」や「本体」が残っていて、ここぞというところで邪魔しにくる可能性も十分あり得るのがいやらしい。直接オネと戦えばオネが勝つような気はしますが、以前よりも力を付けているようだし…。まだまだ不穏の種は尽きません。

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