英雄再来 第十四話 エクス9

それはまだゼロ達が封印される前の話。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

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肩の下まで伸びた漆黒の髪を垂らし、清楚な白い服に身を包んだ女性が豪華な建物の中を歩いていく。身長は並の女性達よりも少し高く、豊満な体つきは包容力のある大人の女性の姿形であった。女性は建物の中の一つの部屋の前まで来て、その扉を叩いた。
「ツヲ兄様、ツヲ兄様。いらっしゃいますか?」
しかし、中から返事はなかった。
(いらっしゃらないのかしら…。)
女性の瞳が無意識に白くなった。

(あ、いない…。…何となくだけど、そんな気がする。)
女性の瞳が黒く戻った。

「おや?ゼロじゃないか。」
背後から声がして女性はビクッとして振り向いた。そこには小学生ぐらいの赤い髪の女の子が立っていた。

「オ、オ姉様…。」
ゼロは体を強ばらせ、戸惑うような仕草を少しだけ見せたが、オネはそんなことに構うことなどなく会話を始めた。
「愚弟を探しているのか?」
「は、はひっ!」
ゼロは思わず噛んでしまった。
「はひ…。そふです…。(はい…。そうです…。)」

「あいつなら城下町に行ったぞ。」
「あ、ありがとうございます…。」
ゼロはそそくさと駆け出した。そのゼロの後ろ姿を見ながらオネは頭を掻いていた。

「やっぱ本気出すんじゃなかったな…。」





かつてこの大陸には二つの国が存在した。一つは東の国イーリスト、もう一つは西の国ウエリスト。しかし、その二つ共を滅ぼした者がいる。それが【英雄の子孫】と呼ばれた魔法使いチュルーリである。
チュルーリは二つの国を滅ぼした後、中央の土地に適当な住処を土塊で作り、その周囲に果物のなる木や畑、生け簀などを適当に作った。そして、六人の子どもを生んだ。長姉ブラーゼ・オネ・チュルーリ、長兄ワーテル・ツヲ・チュルーリ、次女スンデル・ツレエ・チュルーリ、三女ソイル・フォウル・チュルーリ、四女ウィンド・フィベ・チュルーチ、そして末の妹ソルセリー・ゼロ・チュルーリの六人である。
その後、彼女は長女であるオネにはそこそこ手をかけて育てたが基本的に放任主義であった。適当に食って寝て、気まぐれに体を動かすついでにオネと戦っていた。そんな彼女は段々と寝てばかりになり、子育てやその他一切のことは、なるようになると放置した。

それから年月が過ぎた。オネとツレエが土地を焼いて切り開き、ツヲが水を運んで水路を張り巡らせ、フォウルが土を耕し、フィベが風を吹かして様々な植物の種を運び、風車を回した。そして、ゼロは設計図を書いた。その結果、中央の土地には大きな街が誕生した。そして、自然と人々が集まっていた。
集まってきた人々は元を正せばチュルーリが滅ぼした二つの国の者達の子孫であった。国が滅びたことで帰る場所を失い、安住の地を求めてさまよいながら、どこか一つの場所に留まることもなく流れていた民達だった。集まってきた人々をどうするかということで六人は話し合い、受け入れることを決めた。その寛大な措置に集まった人々は歓喜し、感謝した。また、集まった人々は強力な魔法が使えるオネ達を敬った。圧倒的な魔法の力は人間というより神に近い存在であったため、そこに信仰心に近いものが生まれていた。





城下町を一人の男性が歩いていた。短めの髪はところどころ青くなっていて、深い海のような色をしていた。目を瞑っているのだが、特にどこかにぶつかることもなくスタスタと歩いていく。

「あ、ツヲ様!?」
「ツヲ様だ!」
「ツヲ様ー!」

その男性を見るなり、街にいた人々がすぐに声をかけて寄ってきた。
「やあ、皆。元気かい?」

「はい!わたし達はいつも元気です!この前は母の病気を治していただき本当にありがとうございます!」
「ツヲ様、今年も作物は順調に育っています。収穫した初物の中で一番の物はもう城に届いていると思います。今年もツヲ様達に感謝して頂きます。」
「この世界が平和なのも全部ツヲ様達のおかげです。」

「うん。皆の元気そうな声が聞けて何よりだよ。男は紳士であればいい、女性は自然であればいい。皆が幸せで心安らかに暮らすためにはそれを守ればいいだけなのさ。」

「いえ、わたし達が安心して暮らせるのはやっぱりツヲ様達のおかげです。いつもわたし達を守ってくださっているのですから。」

人々の声が連鎖して更に人々が集まり、その辺りは軽くお祭りのような雰囲気を醸し出していた。

「ツヲ様、今朝取れたばかりの魚です。今、刺身にしますんで食べていってくださいよ。」
「おおい、ツヲ様にこの前出来た果実酒をご用意だ!」
「ツヲ様、出来立てのお饅頭です。お口に合うといいのですが…。」

「ありがとう。皆、ありがとう。」
ツヲは手渡された物を次々と頬張った。
「うん、美味しいね。」



その時、遠くの方から声がした。
「ツヲ兄様~?ツヲ兄様~?」

「おや…?」
ツヲは声のする方を向いた。

「ツヲ兄様~?ツヲ兄様~?」
「おお、ゼロ様ではありませんか。ツヲ様ならあちらですぞ。」
「ツヲ様ー!ゼロ様がいらっしゃいましたー!」

ツヲは人波をかき分けてゼロの方に向かった。
「その声はやっぱりゼロか。もう歩いて大丈夫なのかい?」
「はい、ゼロはもう全回復しました。」
「そうか…。しかし、どうしたんだい?何だか慌ててる…?いや、切羽詰まってる?何か重要な話っぽいね。」
「実は、ゼロはツヲ兄様に秘密裏に頼みたいことがあるのです。」
「なるほど、頼みごとか。しかも秘密裏に…。でも、随分と目立っちゃってるね…。」
ツヲは軽く苦笑した。

「あら…?」
ゼロは周りを見渡すと人々が気まずそうに苦笑いをしたり、明後日の方向を向いたりしていた。
「はわわ…。」

「ゼロ、取り敢えず場所を変えようか。それでは皆、またね。」
ツヲはゼロを連れて人々の波をかき分けていった。





ツヲは適当なところでゼロを連れて地下水道に降りた。
「地下水道は僕の領域。普通、僕以外は入ってこないし、音もよく響くし、水がたくさんあるからよく『視える』。さてゼロ、どうしたんだい?」

ゼロは少し戸惑っているようにも見えたが、深く息を吸い込むと覚悟を決めたように言った。
「その…ツヲ兄様!ゼロを一人前にしてください!」

「一人前に…!?」
ツヲは顔を赤くしてオタオタした。
「そ、そ、それは、つ、つまり…その?アレかい…?」

「はい!アレです、ツヲ兄様!」
ゼロはまっすぐツヲを見つめた。
「何と…!ゼロもついにそんな日が…。で、ぼ、僕を選んだ、と…?」

「そうです。こんなことを頼めるのはツヲ兄様以外いませんから…。」

「そ、そうか…。よし、他ならぬゼロの頼みだ。僕も覚悟を決めるとしよう。」

「はい!ゼロはどんなに辛くても絶対にめげません!本格的な魔法の修行、よろしくお願いします!」

(ん?魔法の修行…?)

「この前、オ姉様と初めて戦いました。いえ…あれは戦いとは言えないでしょう。ゼロが弱いばっかりに…。でも、ゼロも光大神霊(チュルーリ)の名を継ぐ者として、もっと強くならなければなりません。これは試練!オ姉様が与えてくださった試練なのです!オ姉様は今の弱いゼロを見て半ば失望していると思います…。でも、ゼロが強くなれば、きっと認めてくれるはずです!もっと強くなって「綺麗な世界だけ見ているゼロ」を卒業するのです!そのためには、オ姉様と常に戦っているツヲ兄様の指導が必要不可欠だと考えました!」

「そ、そうか…。こ、こほん。うん、分かった。魔法の修行だね。」
ツヲは少し気まずそうに照れ笑い、咳払いをしてから普段の調子で喋り始めた。
「ゼロは母さんの属性魔法と共にそれ以外の魔法も数多く受け継いでいるから、それを活かす方法を覚えればいいよ。例えば、破動弾とかの威力が高いけれども隙の大きい技が多いよね。」

「はい。」

「だから魔法を放っている間に別の魔法を放つ、追加詠唱という技術を覚えればいい。慣れれば案外簡単だし、ゼロは物覚えがいいからすぐに出来るようになると思うよ。大型魔法を撃つ時の隙が少なくなればそれだけで有利になるからね。じゃあ、早速特訓を始めようか。」

「はい!よろしくお願いします!」

――――――――――――――――――


ツヲ兄様…。ツヲ兄様が教えてくださった追加詠唱でゼロは少しだけですが『大切』を守れました…。必殺技と奥の手の連続発動は流石にしんどいですが、それでもゼロは『大切』を守れました…。副隊長さん達を守ることが出来ました…。ツヲ兄様、ゼロは英雄になれましたか…?

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この記事へのコメント

2015年07月14日 01:00
今、明かされる過去!
Eリングでは断片的にしか触れられていませんでしたが、意外なほどに平和! ここから何があって、Eリングのような状況になるのか・・・。
チュルーリ一家が去っていったから平穏が崩れたのか、平穏が崩れたから去っていったのか。謎の全てが明かされるまでには、まだかかりそうですが。
しかし勘違いしてしまうツヲさんが可愛い! そりゃあ、このセリフだと勘違いしちゃいますよね~。

八武「わかる、わかるよツヲ君!」
山田「妹だぞ。」
佐久間「何か問題でも?」
山田「いやまあ、その。」
神邪「何も問題はありませんね。」
八武「うむ、豊かな肉体の美女に、一人前にしてくれと懇願されて、奮い立たない男がいるだろうか?」
山田「まあ確かに、ツヲのことを責められないな。」
八武「そうだろう。」
佐久間「しかし、やはりオネは別格か。相手になれるのはツヲだけとか言ってたしな。」
山田「バトルマニアという点では同じなのに、どうも印象が違うのは何故だろう。ソルディエルと戦ってるときは憎らしい悪辣さだったが、このオネは可愛らしい。」
八武「それが平和だ。」
維澄「チュルーリは、永い眠りについてしまったのかな・・・?」
佐久間「チュルーリの相手を務めていたオネとしては、ツヲでも物足りないくらいなんだろうなァ。」
山田「だからゼロとも戦ってみたのか。」
佐久間「強すぎる者の悲哀ってやつだ・・。この時点では悲劇ではないが。」
2015年07月14日 13:04
コング「オネの本気を出すんじゃなかったとはどういう意味だ?」
火剣「ゼロと戦った話か?」
ゴリーレッド「オネを見て怯えていたからな」
コング「ところでツヲ様、やあ、皆元気かいってユパ様か!」
火剣「ここではそういう存在なんだろう」
コング「ルビデとプリスターにツヲ紳士が実は究極のヒロピンファンだと暴いてもらおう」
ゴリーレッド「誰も信じない」
火剣「アレって何だ?」
ゴリーレッド「一人前になりたい。魔法の修行か」
コング「早速馬脚を現したというか、ボロを出したいうかツヲ紳士。とんでもない勘違いをしたな、にひひひ」
火剣「少女がついにその日が来たと赤面したり、ツヲ兄様を選んだとか言われたら誤解するだろう」
コング「しない、しない。常日頃からそういうことばかり考えているからそっち方面の妄想をするのだ、ぐひひひ」
ゴリーレッド「シャラップ」
コング「しかし『大切』を守れたと女子が言ったら乙女の純情だと思うだろう」
火剣「ゼロは英雄になれたか?」
コング「なれない。英雄とはヒロピンファンに興奮と感動を提供する者のことだ」
ゴリーレッド「全然違う」
コング「ムスカ君。君は英雄だ! 素晴らしい功績だ」
ゴリーレッド「ゼロはもう英雄だ」
2015年07月16日 22:32
>アッキーさん
回想から断片的に過去を補完してみました。一時期とは言え、この大陸にもこんな穏やかな時間が流れる場所が存在していました。明かされていることは、この後、何かがあってチュルーリは封印され、オネ達はチュルーリ封印のために同時に要石として封印されたことぐらい。そして月日は流れ、エンゲージメントリングへとたどり着きます。つまり、この街が中央国家センテルの始まりです。
さて、ツヲさんは登場するたびに紳士っぷりを発揮したり、恥ずかしい台詞を吐いたり、恥ずかしい勘違いをする感じですね。まあ、この場合はゼロの言葉が勘違いの主な原因なのですが。実の妹なのにツヲさんったら…。
さて、ちらりちらりとオネも登場。要するにこの五人の中でオネだけがチュルーリの『戦闘指南』を受けている訳です。オネは弟妹全員と一度は戦っていて、二度目以降、戦ったことがあるのはツヲのみです。オネは戦闘になると結構性格が変わるかもしれません。弟妹に対する顔が特別なだけかもしれませんが。
梅花が召喚したチュルーリは、召喚者である梅花がいなくなっても長い年月、世界に残り続けました。しかし、元々は召喚魔法の亜種なので、無理がたたったのかも…。
2015年07月16日 22:33
>火剣獣三郎さん
戦闘狂…もとい、勝負大好きなオネは弟妹達全員と一度は戦っています。その結果、ツヲ以外の誰もが二度とオネと戦わなくなりました。オネとしては最初は手加減していたけれど、戦いがノってくるとつい本気を出してしまうので…。
さて、この段階では表面上、紳士なツヲさん登場。一度は人々のため(主に女子のため)に国を造って繁栄させていこうと志した時期があったのです。まあ、本質は今とそんなに変わっていません。頭の中はアレな妄想で一杯。だから、ゼロの言葉も勘違いするんですね。全く、この紳士は…。まあ、ゼロの言動もややこしい訳ですが。
ペリドットを倒して、特務隊の面々を助けることが出来たゼロ。きっと、誰か一人でも助けることが出来ればそれはヒーロー(英雄)と呼んでも差し支えないと思います。そう、誰かに感動を与えられたら、その人の中ではヒーローであるように。ゼロはついに英雄に…。

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