英雄再来 第十五話 ゼロ4

姉妹であっても言わなければならないことがある。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ゼロは戸惑っていた。その言葉を言うべきか戸惑っていた。しかし、ゼロは言わなければならない使命感を持っていた。他に言う者がいないから、自分が言わなければならないという責任感があった。

「オ、オ姉様。」

「ん?」

「その…。あの…。」
ゼロは少し言い淀んだ後、深呼吸してから言った。
「…止めませんか?人間狩り…。」

オネは目をパチクリさせて聞き返した。
「…なんで?」

「ほ、ほら、マチネはオ姉様が攻め込んできたからボロボロです。避難した人間達も知らない魔法使いがほとんど殺してしまって生き残っている人間は見つけるまでがまず難しいです。正直、十人生きていればいい方じゃないでしょうか…。そんな中の数人を苦労して見つけたとしても国民としては少な過ぎます。むしろ、ここは見逃して…その、増えるまで待った方がいいのではないでしょうか。ゼロ達は不死です。ゆっくりじっくり行きましょうよ。むしろ国の頂点に立つならばそれぐらいどっしり構えて置かないと。先を見通さないといけないんじゃないでしょうか。」

オネは手を顎に当ててゼロの話を聞いていた。
「一理ある。が、人間なんて中央の国(マチネ)以外にもたくさんいるだろ?」

「魔法使いの国の方もマチネが攻撃して随分と人間が減ったのではないでしょうか。大勢の人間が死んだからゼロはその無念、怨念、思念に助けられて早めに封印から解かれました。」

「ああ、なるほど…。」
オネは周囲を見回した。その時、オネの瞳が真っ白に変わって、少ししてから元の黒色に戻った。
「確かに炎の国だけでなくジュールズ五国ともが壊滅状態だな…。しかし、ゼロよ。逆に考えるんだ。」

「逆に?」

「これだけ人間が死んだ中でも生き残っている奴がいるのなら、そいつは有能であるに違いない。つまり、狩るだけの価値があるのさ。」
オネはニヤリと笑った。

「え…。でも…。」

「なあに、数ならそいつらを狩って一箇所に集めれば直に増えるだろう。散り散りになった人間が出会い、増えるまで待つより効率的だ。それに大きい国は潰れたが小さな村などは残っているだろうさ。お、そこに逃げ込んだ奴らを狩るのもいいな。小さな村々から人間をかき集めればそれなりの数の『奴隷(こくみん)』が揃うさ。」

「…これ以上狩るなんて可哀想じゃないですか…。人間を見逃しても…。」















「あ?」
瞬間、オネの雰囲気が変わった。目を見開き、眉を釣り上げ、不信感と不快感を表情と言葉に込めていた。
「ゼロ?お前、変わった?」

「ひっ!」

「らしくない…。今の言葉はゼロらしくないぞ…。強さに憧れ、英雄に憧れ、兄や姉に追いつこうと背伸びばかりしていたゼロが…。人間を見逃せ?可哀想だから?なぜ人間を守るような言動をする?人間の中に強い者がいるなら戦って名を上げる機会になるはずなのに、人間狩りの中止を提言?既にタイチョーの力を知っていて人間の中にも強き者がいることを知ったはずのお前が?私の意見に逆らってまで?フォウルが言うなら分かる。愚弟が言うなら女絡みだ。だが、なぜお前の口からそれが出る?」

「あ、ああ…。」
ゼロは全身に動揺が広がっていくのが自分自身でも分かった。歯がガタガタと鳴り、冷や汗が止まらなかった。

「ゼロ、よく分かった…。理由は分からないがお前は人間を庇っている。つまり、私に敵対するということだな?」

「ひっ!それは…!」

「ゼロ。昔から私と弟妹の意見が食い違い、話し合いで解決出来なければ選択肢は二つだったな。一つはどちらかが譲る。もう一つは戦って勝った方の意見を通す。」

オネは鋭い眼光をゼロに向けた。それは妹に対して向けていい目ではなかった。獣が外敵に対して向ける殺意に溢れた目だった。

「ゼロ、選べ。ここで私と戦うのか、そうでないのかを。」


「あ、ああ…。」
その鋭い眼光を向けられてゼロは過去の出来事を鮮明に思い出していた。未だに一度も忘れたことのない、たった一度きりのオネとの本気の戦い。
(はあー!はあー!はあー!)
ゼロはその時の記憶とオネの眼光によって過呼吸を引き起こした。体と頭が当時の恐怖を同時に思い出し、一気に許容量を超えたのだ。



かつてのゼロとオネは一度だけ本気で戦った。ただ、それは戦いと呼べるようなものではなかった。戦いと呼べたのは最初のところだけ。戦いの高揚感でオネが暴走し、後はひたすら一方的な蹂躙となった。結局、ツヲが止めに入ってどうにかオネが沈静化して決着がついた。その時の記憶は今でもゼロを縛っていた。

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この記事へのコメント

2015年08月01日 14:41
火剣「愚弟が言うなら女絡み」
コング「バレてる」
ゴリーレッド「昔蹂躙された記憶というのは消えない。その者が近づくだけで恐怖感を抱く」
火剣「それじゃバトルなんかできないか」
コング「謝ったら許すというルールで戦えば」
ゴリーレッド「オネがそんなに甘いと思うか」
火剣「オネは最初は鈍感で、妹への不信はなかったが」
コング「ゼロもここで自分の心を偽ることはできない。ゼロは覚悟を決めて戦うしかないか。泣かされると思うけど」
ゴリーレッド「泣かされるだけで済めばいい」
火剣「オネと知らないから体当りができた。知ったら体が動かないか」
コング「オネを選ぶか、ソルディエルを選ぶか」
火剣「こくみんだ、人間狩りだと言われたら、賛成できないのは仕方ない」
コング「ゼロは人間のために体を張るか。でもオネは方向性を変えないだろうから、でも勝つのは無理とすると、賢兄よ早く来い」
ゴリーレッド「まさに救世主となるか賢兄」
火剣「妹絡みならオネにも意見するか」
コング「賢兄と行動を共にする女子をオネが襲えば女絡みになり、パワー全開」
ゴリーレッド「それは避けたい」
コング「ゼロのヒロピンも見たいが」
ゴリーレッド「弩六腑鬼苦を食らいたいか?」
コング「待ちねーオネー」
火剣「伸ばすと意味が違くなる」
2015年08月01日 23:53
最初はおずおずとでしたが、言うことは言うゼロ。しかしそれはオネにとってはショッキングな事実。ツヲやフォウルの性質を見切っていることから、弟妹は自分に同調すべきだと思っているわけではなく、ゼロが変わったことへ戸惑いや不信感を覚えているんですね。

佐久間「わかる。すっげえわかる。何で山田は人間に配慮した物言いをするのかと、中学時代は悩んだものだ。なんというか、人間がわからないって感覚を共有してない感じ。山田はわかってるのに、私はわかってない。周囲は有象無象の人間ども。孤独だった。」
山田「・・・それは薄々わかってた。」
佐久間「人類の大半が滅びた世界は、儚くも美しい永久の哀しい。」
山田「急にギャグモードになるな!」
佐久間「ギャグとシリアスの境界線など、誰にも引けはしないのだ!」
維澄「あくまでもシンプルなオネ。まだ話し合いの余地を残してはいるが。」
八武「やはりチュルーリよりも好戦的だねぃ。熱しやすい。」
神邪「チュルーリさんは基本ダウナー系でしたからね。」
佐久間「私もテンションあげんの疲れんだよな・・・。」
山田「無理せず落ち着いた振る舞いを心がければいいじゃないか。」
佐久間「でもテンションは勝手にアゲアゲだし、ショックは意識を覚醒させるんだよ。オネ頑張れ。」
山田「応援する側が違う!」
佐久間「戦闘じゃない。戦闘なら応援するまでもないが、今のオネは苦しんでいる。ツヲやフォウルを理解しているということは、自分と相容れないことも理解しているということだ。そこへゼロまで・・」
2015年08月02日 10:27
>火剣獣三郎さん
長年の付き合いのため、オネにはツヲさんの性格はバレバレ。ツヲさんが変なことを言いだしたら大概は女絡みかもしれません。
ゼロは昔にオネと戦った時の恐怖で竦み上がっています。これでは戦うどころの話ではない。反対意見を述べるのが精一杯か。
オネは一度敵とみなせば実の妹であっても容赦しないでしょう。最初は、妹が相手だから疑いの目を向けませんでしたが、話をしている内に不審なものを感じ取りました。ゼロも自分の心を偽ることが出来ませんでしたし、オネが見破るのは時間の問題だったと思われます。思い切ればオネに体当たりをブチかますことも出来ますが、相手がオネと知ってしまえば…。知らぬが仏というやつですね。
オネが突き付けた究極の二択は、自分を選ぶかソルディエルを選ぶか。オネを選べば人間達が奴隷として扱われるミラミッド型の国が出来そうです。しかし、ソルディエルを選んでも、ゼロにそれを守りきる力がなければ結果としてオネの意見が通ることになる。オネの意見を変えさせるには勝つ以外はなさそうですが、ツヲさんなら何とかしてくれる?早く来て欲しいものです。
オネが飛鳥花にちょっかいを出せばツヲさんも黙ってはいないでしょう。ただ、ツヲさん達は人間を滅ぼそうとしてこっちに向かってきているのでどうなるのやら。ここはゼロが時間を稼ぐしかないのか。
2015年08月02日 10:27
>アッキーさん
ついに、ゼロが、言った…!人間の側に立つゼロ。しかし、オネはそれに激しく不審感を覚えて…。オネはチュルーリと似ていて基本的に放任主義なところがあり、弟妹達が自分と異なる考え、異なる理論で動いても特別咎め立てしません。咎めるのは自分自身と相反する時のみ。
それでも相手は妹、血を分けた姉妹。本来なら同じ時間も共有し、感覚も全部とはいかなくても共有し、理解していると思っていたにも関わらず。オネも内心はかなり動揺しているのかもしれません。オネにとって人間とは自分よりも弱く、儚いもの。中には強い者もいるので、それは特別扱いするけれども、それでも基本は国民(どれい)扱い。しかし、ゼロは人間と対等に接しようとしている。それがオネには理解し難いのかもしれません。
選択肢を突きつけるオネ。話し合いに持ち込もうにも、この二択をどうにかしなければならないか。オネは炎的な性質を持っているので感情的に熱くなることが多いかも。比べてみれば、チュルーリは戦闘以外では結構大人しめ(?)でしたね。やることはアレだけど。
人間を滅ぼさんと向かってきているツヲとフォウルですが、昔を知っているオネからすれば二人共が親人間派。実際は相対的で、細かい部分を見ていけばツヲさんやフォウルも精霊的な部分はあるのですが。オネとゼロはこのまま互いに相容れない結末を迎えるのか、それとも…。

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