英雄再来 第十七話 アウトマ2

遊びは終わりじゃ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

オネが建物に飛び込んだ瞬間、そこが地下への入口になっていることに気が付いた。地面に不自然に空いた大穴。周囲の建物はほとんど溶けているのにこの辺りだけ溶け残っていることは、ここが他よりも頑丈に作られている証拠であった。
オネはそのまま穴の中へ落ちた。オネの身体能力や魔法を持ってすれば落ちる前に脱出するのは可能だった。しかし、オネは老人を追うため敢えて穴の奥へ行くことにして自由落下に身を任せた。

落ちる、落ちる、落ちる。まるで遊具で遊ぶかのようにオネはその加速する速さを楽しんでいた。そして、底の方に光が見えた。

「よっと。」

オネは床に着地した。そこには半球面状の空間が広がっていた。周囲は球面を構成する曲面状の金属が隙間なく張り巡らされ、金属加工技術の高さを伺わせる。先程、オネが出てきた上空の穴は自動的に閉じた。そして、中央には先程の白衣の老人が立っていた。そのすぐ目の前には濁った液の詰まった透明の筒状の物体があった。中には何か浮いているようだが周囲の液体の濁りでそれが何なのかは分からなかった。

「おうい、もう鬼ごっこはおしまいか?」

オネの声に反応して白衣の老人が振り返った。同時に筒状の物体は床の中に沈むように移動して、その場は完全に平らになった。

「そうじゃの。鬼『ごっこ』はもうおしまいじゃ。」
その老人の声は先程、逃げ回っていた者とは思えない程に堂々としていた。真剣、本気、先程とは打って変わっていて、別人がそこに立っているようだった。

「かかかっ。せっかくお前のお遊びに付き合ってここまで来たんだ。少しは私を楽しませ――――――。」
老人はオネの言葉を遮った。
「同じ魔法使いでも大分と違うの。」

「あん?」

「一方はワシらを遊びと称して皆殺しにしようとし、一方ではワシらを守るために命懸けで戦う。ずっと考えていたんじゃ。魔法使いが結局は人間の一形態なら、何故ワシらは争っているのかと。」

「何故って…この世界が狂っているからだろう?チュルーリは言った。この世界は誰もが狂っている、と。人間を殺すことに快楽を覚えているチュルーリや私は言わずもがな。そんな私を姉と慕う愚弟や妹達も同類。同じ人間なのに殺し合う武器使いと魔法使い。どちらも死ぬと分かっていて命を散らし合い、戦い以外の道に進もうとはしない。誰もが命を大切にしない、誰もが狂っているのがこの世界だ。ただ、私はチュルーリと違って――――――。」

「黙れ。」
老人は拳に力を込めた。
「この戦争は魔法使いに親兄弟、友人知人を殺され故郷を焼き尽くされた者達が今の自分に出来ることは何なのかを死に物狂いで考え、行動し続けた結果じゃ。故郷を焼き払った魔法使いへの復讐が間違いだったはずがない!貴様のような魔法使いを殺すことが間違いであるはずがない!狂っているなどと、随分と高い場所からの物言いじゃなあ!」
老人の瞳は怒りの炎に満ちていた。
「ワシらの間違いは魔法使いの中にも良い者と悪い者がいることに気が付けなかったこと!魔法使い全てが結託し、我々を滅ぼそうとしていると思い込んだこと!復讐心を燃やし、そのことに目を向けなかったこと!じゃが、ようやく気が付いた!お主が元凶じゃろう!悪い魔法使いがワシらの故郷を焼き払わなければワシらが復讐の鬼となることもなかった!無関係な魔法使いが死ぬこともなかった!お互いに殺し合う戦争が起こることもなかった!皆が幸せに生きることが出来た!それをお主が壊した!お主が狂わせたんじゃ!何が、世界が狂っているから、じゃ!自分の責任を世界の責任にすり替えて人殺しを楽しむな!悪い魔法使いめ!お主こそ悪魔じゃ!!お主こそワシらが真に戦わねばならぬ者!この世界を狂気に叩き落とした張本人!」
老人の体中から醸し出される怒りの雰囲気は最早人間の域を超えていた。
「領域王道具『表裏皆無(クライ・クライン)』へようこそ、クソったれの悪魔法使い!ここがお主の墓場じゃ!お主には立派過ぎる墓場じゃ!今まで殺された者の無念に押し潰されて死ぬがよい!」

老人の叫びを聞きながらオネは頭の中で情報を整理していた。
(故郷を焼かれた…?どうやらマチネのことじゃなさそうだし、それは私も知らんなあ…。ただ、他の魔法使いがやったのは間違いなさそうだ。それに私が元凶というのは間違っちゃいない。封印されていなければ私が似たようなことをやったのは間違いないし、人間から見れば私はただの大量虐殺者で快楽殺人鬼。私の半分以上は精霊だから人間の倫理観にはどうにもついていけないしな。まあ、理由はどうあれ私と戦ってくれるならなんでもいい。)

オネは鬼気迫る表情の老人を見ながら醜悪な笑みを浮かべていた。
「かかかっ。地上で私の実力を嫌というほど見せつけられたのにも関わらず、よくぞ…よくぞそこまで啖呵が切れるものだ!いいぞ!いいとも!お前とも勝負しよう!お前もアールやタイチョーのように私を楽しませてくれそうだ!だが、戦う前に一つ聞きたい。お前の名前は何という?」

「…アウトマじゃ。お主を殺す人間の一人の名前、しかと覚えたか!?」

「ア・ウ・ト・マ。よし、覚えた。」
オネは戦いの構えを取った。
「さあ、心ゆくまで殺し合おうか!」
オネは一気に加速してアウトマの頭を握り潰しに向かった。

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この記事へのコメント

2015年08月10日 21:25
なるほど、この流れだと確かに、オネがあの黒い魔法使いだと思ってしまうかも!
実際には封印されていて、下手人ではないのですが、封印されていなければ同じことをしたか。しかしゼロの回想から考えると、やや偽悪的な印象も受けますね。

山田「人殺しが楽しいんじゃなくて、戦うのが楽しいというのが本質だろうな。」
佐久間「いやあ、半々でしょう。」
山田「半々だからこそ、ツヲが相手になっていたら無害に近かった。」
神邪「やっぱり僕とオネさんは似ているのかもしれないですね。」
八武「ほう。」
神邪「幼い頃は、母さんの罪で僕が責められることに理不尽さを感じていましたが、今ではそれも納得できてるんです。」
山田「出来てるのか?」
神邪「僕は“悪い奴”ですからね。人でなしですからね。命の価値を説きながら魂をないがしろにする倫理観には、ちょっと付いていけなくて・・・。」
維澄「それは私も付いていきたくないな。もちろんアウトマの言うことも頷けるのだが。」
神邪「自分の不甲斐なさを世界のせいにする奴は、僕も嫌いですからね。でもオネさんの言う狂気は、そういうことではないんですよね。」
佐久間「オネは、狂った世界を肯定しているからな。逃げも隠れもしないってやつだ。」
神邪「世界が狂ってると言うのは簡単なんです。でも、狂った世界を愛せる者は、滅多にいない。僕だって世界を愛してなんかいませんよ。」
佐久間「それでいいさ。」
山田「アウトマは、大博士の秘策は、どういうものだ?」
八武「次回で明らかにされるか。」
2015年08月11日 11:04
>アッキーさん
様々な状況が絡み合い断片的な情報が飛び交う中でアウトマが導き出した答え。それは、オネこそが諸悪の根源であるという結論でした。実際は違うけれども、オネは特にそれを言うつもりもなさそう。状況によって日常会話程度にポロリと言うかもしれませんが、言い訳には使わない。特に、この状況で言っても聞き入れられそうにもないし、言い訳がましく聞こえるし、何より目の前に戦いがあるのにゴチャゴチャ言って水を差すような真似をしたくないのかもしれません。
実の話、オネは理論的には人間と共存可能です。母親であるチュルーリは召喚されたという扱いなので術者である梅花さんが死んだ後は、通常の食事に加えて定期的に人間を喰って魔力を補給しないと生命を維持出来なくなっています(ちなみに、死ぬと精霊界に帰れます)。一方のオネは召喚された存在ではないので人間としての食事か精霊としての食事を得られれば生命を維持出来ます。ただし、チュルーリ譲りの理論と性格と溢れ出る殺戮衝動によって、戦って人間を殺すことに躊躇がありませんし、精霊の性質から人間の倫理をあまり理解出来ません。ツヲさんがいなければ昔の段階で完全なる第二のチュルーリになっていたことでしょう。ツヲさんがいない今、殺戮の限りを尽くしていますし…。
オネもチュルーリも同じ言葉を口にします。この世界は狂っているし、自分は人殺しであり狂っている。その言葉は、私は逃げも隠れもしないから文句があったらかかってこい、ということなのかもしれません。梅花さんは魔物か人間かという究極の二択を突きつけられ、人間を選んだ。だから梅花さんの選んだ世界をチュルーリも彼女独自の形で愛し、オネもまたそれを受け継いでいるのかもしれません。
さて、オネを倒すことで皆の仇を討とうとするアウトマ。彼自身はただの老人で兵士でも何でもない。それでもオネに挑んだ辺り、何か秘策があるのか。

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