英雄再来 第十七話 アウトマ6

これがワシの最後か。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

王道具『表裏皆無(クライ・クライン)』が崩れ、アウトマは暗い地の底へと落ちていった。

(ああ…。これがワシの最後か…。王道具『表裏皆無(クライ・クライン)』が壊れた今、ワシに出来ることは何もない…。このまま地の底に叩き付けられて死ぬか、ただの鉄の塊となった『表裏皆無(クライ・クライン)』に押し潰されて死ぬか…。どちらにせよ、死ぬのか…。
結局、何も成せぬまま死ぬのか…。皆の仇も討てぬまま、そして無実の内に死んだであろう魔法使い達に対して何も出来ぬまま…。ワシらは何のために争っていたのじゃ…。どこかでは薄々気が付いていたのかもしれん。しかし、それを口にすることは出来んかった…。魔法使いを擁護する発言は反逆罪じゃからな…。
大博士は、死ぬ前に魔法使いを許していると言った。あれも生前に発言していれば反逆罪と捉えられてもおかしくない発言じゃった…。大博士は魔法使いも一枚岩ではないことに気付いていたのじゃろうか…。今となっては分からんが、あの時の大博士の心中を未だに全て察することは出来ん…。死に際になって、どうして魔法使いを許せたのか…。あれはひょっとして懺悔の言葉じゃったのか…?…いや…。今となっては何を考えても、どう思っても分からん…。大博士に『表裏皆無(クライ・クライン)』を託されたというのに、ワシは心までは受け取りきれなかったのじゃろうか…。マチネの技術者として人の心は不必要というのが口癖じゃった大博士の心は、人以外じゃったのか…?いや、違う。マチネの人々のために働き続けた大博士の心は確かに人間そのものじゃった…。
『表裏皆無(クライ・クライン)』には一度、大避難計画というのが持ち上がった時があった…。当初は地下資源を得るために、後半からは中央の黒い台座の調査という名目が加わってマチネは地下を掘り進めた。鉱物資源と共に出てきた大量の土砂はマチネの巨大防壁の材料となり、出来た地下空洞は『表裏皆無(クライ・クライン)』によって補強され、整備された。その膨大な地下空間は地上で出来た様々な物を運び込めばマチネ住民全員が十分暮らしていける程の広さがあり、それだけの技術力もマチネに育っていた…。マチネに魔法使いの大群が押し寄せた時に一時避難のための防空壕にしようと考えられたのじゃ…。しかし…。
『表裏皆無(クライ・クライン)』の能力は空間転送じゃが、所有者以外の生物は転送出来ん。運べるのは機械や兵器ばかり。緊急時に全員を一斉に避難させることは出来ん…。別路を作っておけば話は別じゃが、それでは敵もそこから侵入してしまい、防空壕の役割を果たせなくなってしまう…。
そこで持ち上がったのが大永住計画じゃった…。いっそのこと、予め全ての人々を避難させておいてずっと地下で暮らそうというものじゃった…。当時は魔法使いとの戦いに決着を付ける具体的な道筋を想像することが難しく、終わりのない戦いに希望が見いだせないこともあり、賛成者がそれ相応はいた…。魔法の力は皆が知っておったし、心の中に恐怖と共に刻みつけられていたからの…。しかし、当時のジェゼナ隊長と大博士が猛反対したんじゃった…。

『何故、魔法使いに理不尽を強いられた我々が逃げるように太陽の下から去らねばならんのだ!確かに地下に潜ることで生き延びられるかもしれん!だが、それでどうなる!?魔法使いに恨みを持つ者達が無念のままに老いて死んでいくのをただ見守るだけになるぞ!魔法使いのことを知らない世代になった時、自分達が日の当たらん狭い地下にいる理由をなんと説明する!?魔法使いが我らに強いた理不尽を、我らが子や孫に強いることになるぞ!諸君ら、目を覚ませ!それは選択してはいけない道だ!』

『なんでえ~そんなに弱気なの?こっちには王道具もあるし、特攻隊もいるし、着実に成果上げてるよ~?新型兵器や王道具の開発の順調だし、マチネの防壁も順調に拡張されていってるし、軍部の拡大も進んでる。マチネが退く理由がどこにあるのかなあ…?そもそも地下に潜っても、ずっと暮らせる訳ないじゃん…。人の数だけ増えて、どっかで資源が足りなくなって内輪で奪い合い始めて全滅。もしくは、耐えられなくなって地上に出たところを魔法使いに駆逐されるだけじゃん…。地下に篭るってことは戦う爪も牙も錆びるってことだから…。お前ら、馬鹿なの?手の込んだ自殺がしたいの…?』

結局、大永住計画は頓挫した。後に、ジェゼナ隊長がマチネの心臓部となり、機械工業は急速な発展を遂げた。それは魔法使いへの勝利の道筋を明確なものにした。そのために大永住計画は思い出されることもなくなった訳じゃが…。それでも、この惨状を見れば、ひょっとすると皆を地下に移住させた方が良かったのではないかと考えてしまう…。あのオネとかいう化け物が放った超巨大な火炎弾によってマチネ中枢区画は全て壊滅…。生き残れたのは『表裏皆無(クライ・クライン)』によって空間転送出来たワシのみ…。
いや…。きっと、地下に潜っても後悔していたじゃろうな…。どの道、炎の化け物も真の悪魔を討つことが出来んかったじゃろうから…。それでも、永久王道具『侵食統一(ジェゼナ・グルード)』から生まれし最終兵器、不敗王竜ジェゼナ・グルードラゴンが炎の化け物も、真の悪魔も討ち滅ぼしてくれるはずじゃ…。ワシらには祈る神などいないが、それでも人事を尽くして天命を待つ、じゃな…。ワシに出来ることはもう何もない…。願わくばマチネを守ろうとしたあの魔法使いや逃げ延びたマチネの者達が平和な世界を切り開いてくれることを…。)

その時、アウトマは大博士の死に際の言葉を思い出した。


『予言しよう!魔法使いは死ぬ!一匹残らず死ぬ!永久王道具『侵食統一(ジェゼナ・グルード)』と領域王道具『表裏皆無(クライ・クライン)』によってマチネは『完成』する!』


(…何じゃろう…。何か引っかかるような…。いや、気のせいじゃろう…。『侵食統一(ジェゼナ・グルード)』によってマチネは更なる発展を遂げて完成した。そして『表裏皆無(クライ・クライン)』によって『侵食統一(ジェゼナ・グルード)』は最終兵器に変貌した。大博士の予言通りじゃ…。)

次の瞬間、アウトマは落ちてきた瓦礫に押し潰された。それ以上、アウトマが何かを考えることはなかった。



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2015年08月14日 17:55
火剣「水ではなく石油か」
コング「普通は、だから炎を使えないと思うが、オネは使っても平気なのか」
ゴリーレッド「不死身だ」
コング「サファリパーク」
火剣「・・・普通の人間なら竜を見たら腰を抜かすが、素手で戦おうって」
ゴリーレッド「オネは強過ぎる」
コング「千香移住計画か。千香という名の美女を地下に連行し」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「待てえええ!」
火剣「闘いたい人間は逃げの一手、守りの一手を嫌う」
ゴリーレッド「弱気な後退で士気が下がるとか」
火剣「なるほど非国民という言葉が怖くて本音を押し隠すことがあったんだな」
ゴリーレッド「しかも反逆罪で罪に問われるとなると、何も言えない」
コング「ちょい待ち。まさか瓦礫って?」
火剣「まさか、アウトマ、こんな終わり方か」
ゴリーレッド「これは・・・たぶん終わったか」
火剣「オネは素手で竜を倒すか」
ゴリーレッド「子や孫の世代など未来を心配するのは指導者だ。自分のことだけ考えて未来は知らないというのが権力者」
コング「アウトマは最後に指導者になったか。僕は稀代の略奪者になろう」
ゴリーレッド「何を目指しているんだ?」
火剣「ツヲ兄とアールは再会できるか」

2015年08月15日 03:19
ふと浮かんだのは、大魔王バーンの言葉。地下に潜っていれば、魔法使いを忘れた世代になってから、地上侵略を考える者が出てくるかもしれませんね。
そのとき既に、地上に平和が訪れていたとしても・・・。

神邪「理不尽から逃げたって、結局は死ぬんですよね。立ち向かっても死ぬ、逃げても死ぬ、ならば戦って死ぬ。」
山田「だが、どこか戦時中を思い出してしまう。まさに総玉砕だ。」
八武「逃げたい者だけでも地下に潜っていけばよかったかもしれないねぃ。だが、それが許されない空気があった。」
神邪「それですね。理不尽は内部にもあるんです。迫害された者同士は、手を取り合えない。手を取り合えても、その中で抑圧される者が生じる。」
維澄「社会規則というものは、多数者の役に立っていれば、少数者に損害を与えてもいいことになってるからね。どこかのハイドも言ってたが、数学に比べれば滑稽どころの騒ぎじゃない。自然科学と比べたって、正解からの誤差は兆倍ではきかない。」
佐久間「しかし、“完成”か・・・。何だろうな。」
山田「うーむ。」
2015年08月15日 07:08
>火剣獣三郎さん
水の中に落ちてオネの纏う炎が消えたかと思ったら全部石油でした。揮発性の関係でたまたま引火しませんでしたが炎の魔法を連発すれば爆発は必至。普通は危なっかしくて抑止力になるところでしたが、オネは逆。炎よりも爆発物よりも危険な人物ですね。半分精霊なので人間的には死ぬような目に遭っても死なない。まさに不死身でしかも不死鳥。ドラゴンとフェニックスのいる世界で一番珍しいサファリパーク状態。見学では命の保証は出来ません。
昔話や伝説では勇者が竜と戦うことがありますが、普通は絶対に近付かないし逃げ出すでしょう。オネの思考は常人と完全に逆のようです。強過ぎる力を持つと恐いものがなくなってしまうのか。
さて、かつてマチネで考えられた計画ですが、やはり魔法使いを打倒したい者達にとっては弱腰と映ったか。もし、退くことで別の勝算があるのなら話は別ですが、そうでないのならばジリ貧になるだけ。それならば戦場で活路を見出し、未来を切り開こうとしてきたのがマチネでした。ただ、士気の維持のための思想統制などを行っていたのも事実。魔法使いに少しでも味方しようものなら裏切り者、非国民扱い。そういったところが全体としての視野を狭めていたのかもしれません。
残念ならがアウトマの物語はここで終わりです。王道具『表裏皆無(クライ・クライン)』を失った今、彼を守るものは何もありませんでした。ただ、死に際に想ったことは、アールや生き残った極少数のマチネの者達が未来を切り開いてくれること。アウトマもまた技術部の長としてやるべきことを果たしたのかもしれません。
オネと竜との戦いは如何に。そして、アールはツヲさんと再会出来るのか。
2015年08月15日 07:09
>アッキーさん
何かのホラー映画だったかと思いますが、地底から突如として侵略者が現れて地上は大パニック。最後にその侵略者の地底人はかつて地上に住んでいて迫害されたために地下に逃げた人々の子孫だったと分かる、という話があったのを今思い出しました。地下に潜っても、おそらくはアウトマ達の理想とする結果に繋がらなかったかもしれません。
座して死ぬならば戦場で活路を。かつて、変えられない運命に抗おうと抵抗を試みた指導者に、疲弊した部下達が問う。このまま戦い続けても未来は変えられないのではないか。そこで指導者は言った。例え、滅びの未来を変えられなくても、我々がそれに抗ったという事実は残る、と。おそらくはどの道を辿っても死ぬのなら、一番いい死に方を選ぼうということだったのかもしれません。ひょっとすると、抗い続けた先に奇跡が起こるかもしれないことを信じて。
ただ、そうやって戦って死ぬ選択をする人がいる一方で、逃げる選択をする人がいても不思議ではないし、それもまた一つの道ではありました。しかし、マチネではそれは許されませんでした。そもそもマチネという国は魔法使い打倒を目的に成立した側面があります。ただ、その一方で単純に魔法使いに家も家族も奪われて逃げてきた人々も少なくありません。
マチネの中にも色々な意見がありましたが、多数派としてはいずれこの場所にも魔法使いが攻め込んでくるだろうから安住の地などない。だから、ここは魔法使いを全滅するまでの仮住まいである。という感覚でしょうか。結局のところ、謎の魔法使いからの迫害によって追われた人々の造りし国マチネも崩壊してしまいました。安住の地などなかったというのか。

白龍「さて、大博士のいう『完成』とは何のことなのか。多分、アウトマの言う通りなのでしょう。きっとそうでしょう。これ以上何かあるんですかねえ?」
チュルーリ「さあ、な?」

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