英雄再来 第十八話 再会1

マチネ、到着。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

大陸中央に存在する機械大国マチネに向かうための林道を三人の者が進んでいく。男一人と女二人。女の一人は男の手をちょっぴり照れながら握り、横を歩く。もう一人の女は男と歩幅を合わせて横にピッタリと並んでいた。両手に花、そんな言葉がピッタリくる光景だった。

男の名前はツヲ。本名はワーテル・ツヲ・チュルーリ。精霊と人間の間に生まれたことによって強力な魔法が使え、考え方や体のつくりなどで人間と異なる部分がある。人の形をしてはいるが、その本質は水に近くて魔力の篭っていない弾丸や剣などはすり抜ける。また、視力を失ってはいるが魔法によって周囲を感じ取るように『視る』ことが出来る。遠くまで見ようとするとその分だけ魔力を大量消費するので、普段は見えていないに等しい。音や振動、ニオイなどを感知して見えているように振舞ってはいるが、歩く時に誰かが手を繋いでくれるのはとてもありがたいと思っている。

その手を繋いでくれる相手は大概の場合、妹だったりするのだが今回は違っていた。今のツヲの手を握っているのは飛鳥花という少女だった。飛鳥花には魔法の才能があった。生まれてから少しして誰に習うでもなく魔法を使うことが出来た。しかし、それは毒の魔法であった。魔法の持つ意味も知らず、それを制御する術も学べないまま、飛鳥花は毒の魔法で近付く者全てを溶かしてしまい、毒姫と呼ばれ、恐れられ、ついには村人達の手によって地下牢に閉じ込められてしまった。

それから十数年の後、マチネの兵士が村を襲った際に牢から出た飛鳥花は、村人共々マチネの兵士を殺した。
そしてツヲと運命的な出会いを果たした。初めは敵と思っていたツヲと戦う中で次第に惹かれていき、最終的には行動を共にすることになった。その際に、毒魔法の抑え方や魔法の基礎的な使い方なども学ぶことが出来た。今現在、誰かの手を繋いでも溶かさない。好きな人と手を繋げる、そんな当たり前の幸せを彼女は噛み締めていた。

そのツヲ、飛鳥花と行動を共にする両腕のないジト目の少女がいた。少女の名前はフォウル。本名はソイル・フォウル・チュルーリ。ツヲの妹の一人である。人形のような美しい肌と無表情で整った顔立ちをしている。存在しない両腕の代わりに魔法で土を固めて動かしたり、土の精霊を呼び出したり出来るので日常生活で困ることはあまりない。ただ、大好きな兄の手を土の手で掴む時、その温もりを感じられないことを歯痒く思っている。自身を封印していた土の大魔法使いムーンストーンがマチネの人間に殺され、またムーンストーンの亡霊が自分自身に取り憑いて暴走させられたことで、もう人間には期待しないと宣言。そして、マチネを滅ぼそうとツヲ、飛鳥花と共に大陸中央へと向かっていた。

ツヲもまた自身を封印していた水の大魔法使いアクアをマチネの兵士に殺されたことで、どこかの段階で滅ぼそうと考えていた。ただし、他の妹達や姉との再会を一応の最優先事項としていた。


「うーん…。ゼロの気配だとは思うんだけど、どうにも弱々しいというか、何かが邪魔をしているというか…。ん~…。まだ封印されているのかなあ…。」
ツヲは目が見えない代わりに色々と感覚が優れていて魔力探知も出来る。ゼロの魔力を感じる方に向かって歩いていて、その方向はマチネがある場所とほぼ一致していた。

「マチネにいるのは間違いなさそうだな。」

「そうだね。ゼロは大陸中央の黒い台座に封印されていたはずだから。もしかしたら復活してマチネを潰してたりして。」

「でも、心配…。ゼロはドジっ子だから…。」
フォウルの呟きに、ツヲの全身から冷や汗が流れた。フォウルはツヲを横目で見ながら言った。
「ツヲ兄ちゃん、内心は心配しまくってるんでしょ。」

「い、いや?僕の妹だもの。大丈夫だと信じているよ。」
そうは口にしたものの、声が裏返っていて説得力はなかった。飛鳥花はフォウルと出会う前のツヲを思い出しながら、あの時も内心はこんな感じだったのかもと思っていた。

「紳士たるもの周囲を無闇に心配させてはならない。心配事は顔に出さない。」
「でも、ツヲ兄ちゃんは少しつつけばすぐに顔に出るよね。」
「うぐっ…。」

「聞いた話だと、そろそろマチネの巨大防壁が見えてきてもいいと思うんだがな。」
「マチネは対魔法使い用に国の周囲をとんでもない高さと大きさの壁で囲んでるって聞いたけど、実際はどれほどのものなのかな。」
「村に来たマチネ兵はゲスい奴らだった。戦争まで仕掛けてくるイカれた連中だ。案外、本当にイカれた感じの巨大防壁を作ってたりしてな。」
「あんなゴミ虫集団にそこまでの力があるのかは疑問だけどね。」
ツヲは水の国に攻め込んできていたマチネの兵士達のことを思い出していた。フォウルもまた、土の国に攻め込んできたマチネの兵士達のことを思い出していた。
「でも、奴らは大魔法使いを殺すだけの力を身に付けていた。それに攻め込んで来るってことは防御を疎かにしているとは――――――。」
そこまで言いかけてフォウルは先に何かがあるのが見えた。林を抜けるか抜けないかぐらいで、周囲の木々がまばらになって視界が開けたその先に、馬鹿でかい壁が広がっているのが見えた。

「――――――嘘…。」
フォウルも飛鳥花も目を見開き、パチクリさせた。
「マジであったのか…。」

林の先に突如として出現したかのような明らかな人工物。マチネの技術力の高さを象徴するかのような巨大な壁は遠くからでもその存在感を発揮していた。

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この記事へのコメント

2015年08月18日 20:43
たまにコメントで登場していたり、話題になっていたりしたせいか、はたまた強烈なキャラのせいか、あんまり久々という気がしないですが、久しぶりのツヲさんと一行。
マチネの巨大壁に驚いているあたりからしても、オネとの力の差を感じます。

山田「あれはオネが強すぎるわけだが。」
佐久間「近付いてからが見物だ。」
維澄「時系列が通っていれば、もうマチネは滅びていて、壁もハリボテ状態?」
八武「腹ボテ状態?」
山田「ラリアット!」
八武「おぶっ・・」
神邪「僕も妹たちのことは心配してません。僕よりよっぽど強いですからね。」
佐久間「日常的にはな。」
山田「ERのときは平穏な日常があったのに、タイトルに英雄とつくと大体これだ・・・。」
佐久間「この世界によくある残念な出来事が集中しているからな。」
山田「何なんだ、この世界は。」
佐久間「何だろうね。世界そのものが巨大な生き物って説もあるが。」
山田「お前が言うと冗談に聞こえないんだが。」
2015年08月19日 18:50
>アッキーさん
ツヲさんはどこにでも出張する!本編で登場しないとすぐに他のところに顔を出しますから困ったもの(?)です。まあ、とにかく久しぶりということでツヲさん一行のご到着です。オネはあっさり破壊して侵入したマチネの巨大防壁ですが、普通は見る者を圧倒し、よじ登ったり攻略したりする気力を根こそぎ奪うだけの大きさを誇っています。マチネの技術と歴史の集大成ですから。
さてツヲさん達は当然、壁に近付く訳ですが、そこに待ち構えているのは…?マチネが滅びていれば見張りの兵士などはいないはず。
口では心配していないと言うツヲさんですが、内心は…。強さに関しては折り紙付きの妹達ですが、ツヲさんとしてはどれぐらい強くても自分の可愛い妹達。万が一のことがないかと心配している様子。エンゲージメントリングの時と違い、英雄再来にはほのぼの回が存在しない…?何故だ…?本当にこの世界は…。
この世界は、というかこの大陸は周りを海に囲まれた超大きな島です。広がる海の先に何があるのかは、未だに分かっていません。行って途中で帰ってきた者の話では海がつつくばかりとのこと。果ての果てを目指した者で帰ってきた者はいません。昔、世界は巨大な亀の上に乗っかっていると考えられていたこともあったそうですが、さてはて…。

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