英雄再来 第十八話 再会4

口は口論の元。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「で、フォウル。何か言いたそうだな…。」
先程から一言も声を発さず崩壊したマチネの光景を見ているフォウルに向かってオネが声をかけた。

「…。」
フォウルは何も言わず、唇を噛んだ。元々口数が多い訳ではないが、一言も喋らないという訳ではない。フォウルは複雑な表情を浮かべていた。

「マチネを滅ぼしたのは私だし、人間を大虐殺したのも私だ。ただ、そうなる前に延々人間同士で殺し合いがあったから私が復活した訳だ。フォウルは昔から人間に期待をしていたが、封印されてからずっと世界を見てきたから分かっただろう。結局、人間というのはフォウルの期待通りにはならない。同じ人間同士で殺し合いをする、そんな生き物なのだ。それも一時の話ではない。ほとんど飽きもせずに、だ。産んで増えて殺し合って、それで減りはするがまた産んで増えて殺し合う。本当に殺し合いに飽きない狂った生き物だよ。チュルーリの時代から変わってないらしいぞ。私も自分が狂っているのは認めるが、人間も所詮はこの狂った世界の一員なんだ。お前が思っているほど人間は綺麗でもないし、まともでもないし、正しくもないし、真っ直ぐには生きれない。それでも時たま見所のある人間が出てくるのは認めよう。しかし、それはほんのひと握りだ。そういう人間だったら私も部下に欲しいし、チュルーリが夫を持ったのも分かる。マチネの中でいい感じの人材は数人いたが、生け捕り出来たのは一人…あー、正確には二人、になるかな?まあ、人間全体がフォウルの期待通りになることは絶対にない。こんな狂った世界でなければそういうのも有り得るのかもしれんがな。それを認めないというのなら私に食って掛かってきても構わんぞ。」

「別に…。もう、人間には期待してない。」
フォウルは苦々しい表情で吐き捨てるように言った。
「マチネが滅んで清々した。」

オネは目をパチクリさせて、小声でツヲに聞いた。
「フォウル、何があった?」

「まあ、色々ね…。」
ツヲは複雑な表情を浮かべ、小声で返す。
「アクアちゃんを殺したマチネが滅んで清々したのは僕も同じだけど、後味が悪い、かな…。」

「アクア?水の大魔法使いか。フォウルの奴を封印していたのはムーンストーンだったか?フォウルはそいつの仇討ちをしたかったのか?」

「そのムーンストーンも怨霊になってフォウルに取り憑いていたんだ。単純に仇討ちというよりかは心を整理するきっかけが欲しかったのかもしれない。人間との決別のために…。」

耳を近付けてツヲの小声を聞いていたオネの表情が少し歪んだ。
「ふーん…。つまらんな…。」

「オ姉さん…!」

「フォウルはゼロと違って綺麗な世界もそうでない世界も見て、それでもなお人間に期待しようと言い切ったんだ。私の意見を押し切ってだぞ?あの時の気概はどこにいった?今のフォウルはまるで抜け殻だ。せっかくの妹との再会だが、どうにもパッとせん。ゼロの時も最悪の再会になってしまったしな…。」

ツヲはビックリして大きな声を出した。
「ゼロと会ってるのかい!?やっぱりゼロはここにいるんだ!」

「ああ。ただ、今はゼロではないがな。」

「ん?どういうこと?」

「ゼロは死んだぞ。」

「はあ!?」
「ええ!?」
「ああ!?」

オネの何気ない一言にツヲもフォウルも飛鳥花も驚きを隠せなかった。

「地面に頭を打ち付けて、それは壮絶な死に方だったな。」

「ちょ!オ姉さん!冗談は止めてくれ!」

「これは事実なんだが…。というか人の話は最後まで聞け。だからお前は愚弟なんだ。」
オネはやれやれという感じで首を左右に振った。
「ゼロは死んでアールに生まれ変わった。そして、マチネの一員のアールとなって私と戦ったんだよ。」

「はああ!?」

「もちろん私が勝った。で、アールは捕まえて鍵のかかってない牢に入れたぞ。」

「色々と端折られているんだろうけれど、まるで意味が分からない…!って、マチネがこんなに無茶苦茶になってるのって…!」

「まあ一割ぐらいはゼロの仕業?あ、アールか。まあ、アールが反撃してなければその分は私が壊してただろうから私が十割壊したようなものだろうがな。」

「ちょっと待って…!これだけ極端に水分が少ない上に、やたらと炎の魔力の残滓があるのは…!」
ツヲの声は震えていた。それに対してオネはあっけらかんと答えた。
「もちろん本気で戦ったからに決まっている。」

「オ姉さん!ゼロ相手になんてことを!」

「アールだ。」

「関係ない!ゼロは妹だよ!?しかも一度コテンパンに叩き潰しているじゃないか!」

「それでも掛かって来たんだ。迎え撃つのは当然だ。」

「何で姉妹同士で争わなくちゃいけないんだよ!」

「これだから愚弟は…。いいか?ゼロがどんな思いで私に勝負を挑んだのか想像しろ!綺麗な世界しか見ていなかったゼロがだぞ?自分の死を宣言して別人となってまで私に勝負を挑んできたんだ。その勇気を何故理解しない?お前は人に優しくし、甘やかすことは得意だろう。だが、それでは得られんものがある。ゼロはお前に色々と魔法を習って技術は身に付いただろう。しかし、戦う意思も勇気もなければそんなものはゴミだ、ゴミ!技術なんてものは戦いの中で発揮出来てこそだ!本当に必要なのはその技術を発揮させるために自分自身で考え、決断することだ!それがあれば技術だの魔法だのというのは後からついてくるものだ。」
オネは両腕を組みながら鼻息を荒くしていた。

「それはオ姉さんだから当てはまる理論だよ!オ姉さんは自分の強さを他人に押し付け過ぎる!」

「そういう愚弟は他人を甘やかし過ぎる。過保護だ。本来なら自分の力で何とか出来るのに、必要のないところまで守られた時に、そいつがどんな気持ちなのか想像しろ!」

「オ姉さんこそ、弱い者の気持ちを理解していない!」

「それが傲慢だというのがまだ分からんか!相手を自分より弱いと決め付けているのに何故気が付かない!?相手を見下しているとは思わんのか!?」

「思わない!僕はゼロを見下したことは一度もない!僕はただ守りたいだけだ!」

「それを見下していると言っている!『守る』とは、強い者が弱い者を『守る』訳だ!愚弟よ、ゼロがいつまでも昔のままのゼロだと思っているのか!?私と戦ったアールは強かったぞ!世界に誇っていいぐらいにな!お前のやっている行為はアールを輝ける場所から遠ざけているに過ぎん!」

「争って傷付いて輝くぐらいなら一生地下水道で暮らす方がマシだ!何が悲しくて姉妹同士で争わなくちゃいけないんだ!」

「姉妹同士でも争う時は争う。自分の主張を通そうとするなら尚更だ。」

「血で血を洗ってどうするの!?血の繋がった姉妹でしょ!?」

「血の繋がりなどという人間の作り出した幻想を断ち切る良い機会じゃないか。血の繋がりは人間の作り出した鎖だ。血が繋がっていることなど姉妹なら当たり前。それに人間は奇っ怪な意味を付け加えて行動を制限している。人間の常識に精霊がいつまでも縛られてたまるか。」

「血の繋がりは鎖じゃない、絆だよ!」

「違うな、チュルーリを見ろ。私達の生まれる前の話だがハイジマバイカのくだらない約束事に付き合って人間を監視する過程で封印までされるという体たらく。鎖以外の何物でもない。」

「母さんを縛り付けたのは血じゃなくて封印術だよ!」

「愚弟よ、私達六人がかりでようやく封印したあのチュルーリがどうして過去にあっさりと封印されている?ハイジマバイカとの約束事がなければ封印されていたはずがない。」

「それは違う!僕達は昔の母さんが封印される所を直接は見ていない!ひょっとしたら母さんよりも強い人間が本当にいて封印したのかもしれないじゃないか!」

「そんな人間いるものか。そもそもハイジマバイカは本当にチュルーリよりも強かったのか?光大神霊よりも強い人間?そんな人間がいたら拝んでみたいわ。」

「お祖母さんが母さんよりも弱かっただなんて、オ姉さんに証明出来るの?」

「今の人間を見ていれば分かる。結局、どこまで行っても私の足元程度だ。何百年だったか何千年だったか忘れたが封印されていた間に世界ではたくさんの人間が生まれて死んだ。その人間の中で一人でも私より強い者がいたか?」

「それ以前にいなかったという証拠にはならないよ。」

「証拠、証拠と理論をかざす前に常識で考えろ。どうしてお前はそこまで人間に幻想を抱く?いや、お前の場合は人間の女にか。」

「女性とは、無限の可能性であり、美しさの象徴であり、慈しみ、愛で守らなければならないものだよ。だから、ゼロとオ姉さんが争うことは間違っている!」

「間違いもクソもあるか…!愚弟よ、アールの勇気と戦う意志を愚弄する気か…!?」

「勇気を持つことは素晴らしいことだろう。だが、勇気と無謀は違う!以前にゼロがオ姉さんと戦ってボロ雑巾のようになったのを忘れたのかい!?あの後から、しばらくゼロはオ姉さんに会うたびに体を震わせて怯えていた!可愛い妹を守るために僕は声を大にして言おう!妹とは守って守って守り抜く!父や母が、兄や姉が、守るべき存在だ!何故、その守るべき姉と守られるべき妹が、死闘を繰り広げたのかと聞いているんだ、オ姉さん!」

「これだから愚弟は…!いいか!守る側、守られる側など人間が勝手に決めたことに過ぎん!姉は妹を守るべき?そんな人間の常識に付き合ってられるか!そんな常識に囚われているからゼロの進化の瞬間を見逃すのだ!ゼロは以前、私に負けたことなど乗り越えて私にかかってきたわ!アールに生まれ変わってな!人間の可能性や人間の常識を信じておいて、何故アールの成長の可能性を信じない!?妹、妹と喚く前に、何故その強さを認めない!?私達の妹だ!強いに決まっているだろう!だが今よりもっと強くなれる!この狂った世界で必要なものは力だ!力なくして何が成せる!?強ければ強いほどいいのだ!!」

「その強さのためにどれだけ傷付き、壊れ、失っても構わないというのかい!?」

「強くなければ何も得られん!強くなければ全てを失う!強さを得て失うものがあろうが、後で取り戻せばよかろう!そのための力なのだからな!」

「失ったものを後で取り戻せると思っているその考え方こそ傲慢だ!本当に大切なものは失ったら取り戻せないんだ!強さを求めて何かを失うのは僕とオ姉さんだけで十分だ!それを妹達に押し付けないでくれ!」

「相変わらず…!貴様の言い分は妹達には戦う覚悟も勇気も備わっていないと、言っているのと同じだぞ!」

「理論の飛躍だ!僕はただ、妹達が傷付かないように守りたいだけだ!」

「それが貴様の独りよがりだというのがまだ分からんのか!」

「独りよがりなのはオ姉さんの方だろう!?」

「この…!」

「相変わらず…!」

二人は同時に叫んだ。
「愚弟の分からず屋め!!」
「オ姉さんの分からず屋!!」


そして同時に拳が飛んだ。ドスンという振動が辺りに響いた。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ガッツ(がんばれ!)

この記事へのコメント

2015年08月21日 23:16
ゼロからアールへの転身、わざと誤解されるように喋ってるとしか思えない・・・。
しかしコメディは束の間、売り言葉に買い言葉の応酬!
ツヲさんの熱血にも驚かされますが、やはりオネはチュルーリに及ばないんですね。チュルーリを超えることを諦めているというか、神格化してしまっている節があります。不死だけに(殴

佐久間「母親への敬愛が、人間への見下しに繋がっているか・・・。なまじ似ているせいで重ねて見てしまうが、やはりチュルーリはチュルーリ、オネはオネだな。反省しよう。」
山田「これまで出会ってきた人間が愚かすぎたせいか。長いこと戦争を繰り返し、群れを成して少数者を迫害するような奴らの中に、優れた者がいるとは思えない。」
神邪「しかしオネさんには、チェルシー・チェックらと同じ轍を踏んでほしくないですが・・・。何だか凄く不安です。」
八武「そこまで深刻な話でもあるまい。」
維澄「うん、姉弟ゲンカの口実が欲しくて、適当なことを並べているように見えるね。」
山田「うーむ・・?」
佐久間「そういう見方もあるか。」
2015年08月22日 21:14
>アッキーさん
オネは説明下手なのか、それとも長々と説明するのがめんどくさいだけなのか。とにかく、もう少し順番を考えて喋ってもらいたいところですね。口は災いの元とはよく言ったもので、喋らなければ気持ちを伝えられないけれど、伝えた気持ちから口論に発展することも珍しくありません。
熱いツヲさん。妹が傷付くことに関しては黙ってはいません。相手が姉であってもガンガン行きます。特に以前のゼロVSオネの戦いを最初から止めなかったことをかなり後悔しています。
チュルーリの強さは大体、オネ達姉妹六人が総がかりになってようやく勝てるぐらいです。オネは姉妹の中で最強であっても一人ではチュルーリの強さに及びません。チュルーリの強さはある意味底なしで、それを育て上げたのが梅花さん。チュルーリはデイジーやラナを喰らい、マンサを斬り殺した一方で、クレアを助け、ミッドを夫としている。半精霊でありながら、ある種、非常に人間のような側面を持つのはやはり梅花さんの教育の賜物か。一方のオネは、自分の近くにいて越えられない相手が人間ではなく、同じ半精霊のチュルーリだった。時代によっては最盛期のカトレーアやそれに類する強い魔法使いが何人か出ましたが、それでもオネより強い魔法使いは一人も生まれていません。梅花さんが特別過ぎたのか、それともチュルーリが特別過ぎたのか。
もしくは、オネは売り言葉に買い言葉で激しい言葉を使っただけなのか。それとも、言いはしているが本気で言っている訳ではないのか。さて、オネの言葉の本気度は不明ですが、この後のバトル展開は避けられないのか明らかです。

オネ「ちぇるしー・くっくと同じ轍…?はて、そんな名前の者に今まで会ったかな…?まあ、白龍なら知っているだろうから後で聞いてみるか…。」
2015年08月22日 21:41
火剣「人類は戦争を数千年前から現代までずっと続けている。その部分を人間以外の知的生物に見せたら、どう思うかは一目瞭然だ」
ゴリーレッド「ゼロとも会ったと聞いて皆びっくりだ」
コング「ゼロは死んだって余計驚く」
火剣「ゼロは死んでアールになった。意味がわからないだろうな」
コング「生け捕ったのは二人。ソルディエルとアールか」
ゴリーレッド「過保護とも言えない。相手がオネでは、守らないと葬られると思うのが普通だ」
コング「人間の女に幻想。そういう男子はよくいる。女子を必要以上に神秘的に見てしまう」
火剣「ツヲ兄はそれとはまたちょっと違う紳士な変態博士」
ゴリーレッド「強くて優しい。両方勝ち取るのは可能だ」
火剣「この乱世。強いということは大事だ。力が全てと言いたくなるくらい、力がなければ生きていけない」
コング「マッドマックスなんか力が全ての世界だ。凶暴な暴走族軍団の前では、理論は通用しない。イイ女がいれば、笑いながら追いかけて車から引きずり下ろし、恐怖におののく女子をs」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
火剣「映画『刑事物語』のテーマは『男は強くなければ愛する人は遠く行ってしまう』だった」
ゴリーレッド「もちろん力がなければ大切な人は守れないが、強さのあまり暴力的になり、思いやりや優しさに欠けたら意味がない」
火剣「チュルーリやオネは優しさに欠けるな」
ゴリーレッド「優しさに欠けるというレベルではない気がする」
2015年08月23日 22:19
>火剣獣三郎さん
人間には人間の良さがある。それは互いに助け合う心であったり、正義や正しさとは何かを考えることであったり、よりよく生きようと行動することであったり、大切なものを守るために体を張ったり、様々な場面で人間の良さというものがあります。その一方で、戦争があり、飢餓があり、貧困があり、お互いに奪い合い、傷付け合い、殺し合うという人間の負の側面もある。かつては自然環境に左右されていた飢餓ですら、今では食料を全世界で分け合えば飢えで死ぬ者はいなくなるほどに技術は発展しました。数百年、数千年の間、手を取り合うことよりも争うことが多かった人類を見て、オネや他の弟妹達は何を思ったのでしょうか。
さて、オネの説明不足(?)によってツヲさん達は大混乱。もう少し説明して欲しいものです。生け捕りの二人はソルディエルとアールです。火剣さん、正解。アールは妹ではあるけれど、敵対する限りは敵将と見なして生け捕りの数に入りました。
まあ、普通オネが襲い掛かってきたら全力で防衛しないと危険ですね。飛鳥花の力は魔法使いとして協力とは言え、今まで閉じ込められていたために戦闘経験はそんなに多くないです。血の気は多いので戦闘向きではありますが…。
ツヲさんだって男の子、女子に幻想を抱くのは至極当然。しかも正体は変態紳士でありますし。まあ、限度というものがあるかもしれませんが、とにかく妄想とかをするのは致し方ないでしょう。
2015年08月23日 22:19
そして、本日のテーマは強さと優しさ。この二つは決して二律背反するものではないでしょう。努力次第で両方を身に付けることも可能。しかし、どちらか一方を身に付けるだけでも相当の努力は必要だし、どちらか一方だけという人の方が世の中多いかもしれません。特に、乱世では優しさよりも強さの方が重んじられるかもしれません。そして強さを求めるあまり優しさを見失う者も少なくないでしょう。優しさを失った時、その強さを手に入れようとしていた本当の理由まで失っているかもしれません…。

この記事へのトラックバック