英雄再来 第十八話 再会9

気になって気になって気になって。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

マチネの壁の外側に見える二つの影。姉のオネと弟のツヲである。

「どどどどどどういうことなんだい!?オ姉さん!?ゼロに好きな人が出来たなんて聞いてないよ!?」
ツヲは動揺の余り、声が激しく震えていた。先程の冷静沈着で大人の振る舞いとは打って変わって、その動きは頭のてっぺんから足の指先まで挙動不審の塊だった。

「落ち着け、愚弟。」
半ば呆れ顔でオネがなだめてもツヲは腕組みしながら辺りをウロウロしていて、誰がどう見ても落ち着きを失っていた。
「いーや、これが落ち着いていられるかい!?ゼロに好きな人が出来る日がこんなに早くやってくるとは、まだ心の準備が出来てないよ!」

先程のアールの発言の内、マチネに守りたい人が出来たという部分がツヲの心を激しく揺さぶっていた。
「大切な人って誰!?男!?女!?い、いや!?守りたい人って言ってたか!?となると子どもだったり、老人だったりするのか!?それもともっと抽象的な意味での人ってことかい!?で、守りたいの原動力は何!?庇護!?母性愛!?それとも恋愛感情!?そうだ、まだ恋愛と決まった訳じゃない!いや、でも僕達との絆を断ち切ってまで守りたいってことはやっぱりそこに愛が存在することは間違いない!誰だ!?ゼロの心を射止めた奴は!これは全力で吟味しなければならない!ゼロの生涯の伴侶として相応しいかどうか僕が全力で審査しなければならない!ゼロの幸せのために!」

「愚弟、少し黙れ。」
オネの古代魔法、弩六腑鬼苦(どろっぷきっく)がツヲに炸裂した。
「ゴハア!!!」
ド派手にブッ飛んだツヲは砂埃を上げながら地面を転がっていった。

「どうだ?少しは落ち着いたか、愚弟。」

「ありがとう、オ姉さん。僕は正気に戻った。」
ツヲはムクリと起き上がった。

「…だといいんだが。というか、さっきは歓迎するとか言ってなかったか?」

「それはそれ。これはこれ。心は常に矛盾を抱え、二律背反する気持ちが沸き起こるから悩むんだよ。」

「…まあ、別にいいが。」


「というか、どうしてマチネの人間?マチネは僕のアクアちゃんを殺した連中の総称じゃないか…。」
ツヲの表情と言葉には嫌悪と憎悪が見え隠れしていた。
「アクアちゃんを殺した連中の親ゴミ虫を捕まえて理由を聞いたら実にくだらない言葉を並べただけだったよ…。まさか、ゼロは騙されている…!?いや、ゼロはあんな性格でお人好しではあるけれど人を見る目は持っている…。ゴミ虫になびくはずがない…。マチネの中にも見所のある人間がいたということなのか…?しかし…。」

「そうだなぁ…。少なくとも私が戦ったマチネの連中は立派な者ばかりだったぞ。話をする前に殺した奴らが圧倒的に多いが、攻め込んだ私に立ち向かった段階で勇者と呼んでも問題はなかろう。特によく戦ったのはタイチョーという、マチネ最強の戦闘部隊の者だったな。少なくとも二回殺したはずだが、それを切り抜けて立ち向かってきた。今、思い出しても興奮する…。」
オネは妖艶な笑みを浮かべて舌なめずりした。
「途中で別方面の戦いに抜けたエクスという奴も良かったな。私の一太刀を真っ向から受け止めて反撃までするんだから。他のところで魔法使いと相打ちになって死んだようだが…。
それとアウトマも見事な覚悟だった。自分の戦闘面での非力さを王道具で補い、私に本気の姿まで出させた。直接的な戦闘力ではなく自分の技術という武器を磨き続け、他の者達に勝るとも劣らない強さを身に付けていたぞ。
後はあの竜か。出来れば本気の姿で戦いたかったんだが石油だらけのところに放り込まれてな。火をつければあっと言う間に決着するからそれではつまらんと思って素手で屠った。一日?二日?仕留めるのにそれぐらいかかってしまったわ。もちろんいい死闘であったことは言うまでもない。
んで、マチネの戦う理由は確か魔法使いへの復讐だったかな?アウトマは故郷を魔法使いに焼かれたって言ってたぞ。」

「ふーん…。水魔法の使い手のアクアちゃんが故郷を焼いたって?馬鹿馬鹿しい。お門違いにも程がある。僕のところに来た親ゴミ虫は魔法使いに抑圧されたとか、人類のために魔法使いは死ぬべきとか下らないことを言ってたよ。」

「そうか。まあ戦う理由はそれぞれだ。それが正義だろうが妄信だろうが、真剣に必死になって戦う理由を持っていれば私はそれでいい。あ、ちなみに、アールの言う守りたい人というのはタイチョーのことだ。」

「なっ!?」

「本来なら私の部下に欲しかったんだが先にアールが唾つけてたんだ。マチネには一番乗りで来たつもりだったんだが、アールは先に復活していたようだ。まさか予約済みだったとはなあ…。少々惜しいが、アールの見る目は確かだったということでもある訳だ。」

「タイチョー!?そ、そいつはどんな奴だい!?」

「さっきも言ったろ?少なくとも二回殺したと思ったのに生き延びた凄い奴だ。地上戦も空中戦もやったし、私が召喚した炎精霊(アフレエテ)達も全部一人で倒し切った。私の抱擁でも死ななかった上に、意識が戻った瞬間まだ戦うつもりだったんだぜ?いやあ、タイチョーだったら安心してアールを任せられるね。」

「な、な…。オ姉さんにそこまで言わしめるだなんて…。」

「ただ、目覚めは少し先になりそうだがな。」

「ん?どういうこと?」

「タイチョーは私との戦いで消耗しきってな。放っておけば死ぬところだったがアールが魔法で助けたんだ。」

「死ぬことろ…?」
ツヲは何か嫌な予感がした。
「魔法で助けたって、それ、何魔法?」

「禁忌か禁術か、それか禁呪か、どれだっけな…。」

「――――――!」
ツヲは背筋が凍った。
「まさか、死者蘇生!?」

「あー、死ぬ間際だったから完全な死者蘇生の方じゃなくて簡易版だったかな?だから正確には生命維持か。あ、それと身体再生も同時にやってたな。追加詠唱で。」

オネの言葉を聞いてツヲは後頭部を殴り付けられたような衝撃に襲われ、思わず膝を地面に付いて倒れそうになった。
「禁忌も禁忌!大禁忌じゃないか!禁忌の魔法を二つも組み合わせたら、その代償は…!」

オネは少し遠い目をして言った。
「それがアールの選んだ道だからなあ…。」


ツヲは思いっきり地面を殴り付けた。それと同時に地面が割れて巨大な水柱が立ち上った。
「…オ姉さん…。僕は今、ゼロに追加詠唱を教えたことを心底後悔しているよ…。」

「そうか?あそこでタイチョーを救えなかったらアールは自殺してたかもしれんぞ。今、アールが生きているのはタイチョーが無事だからっていうのが大きいと私は思う。それに遅かれ早かれ代償を払う時が来ただろう。こんな狂った世界なんだからな。」

「ゼロの魔力がやたらと小さく感じたのはオ姉さんとの戦いの傷が癒えてないからだと思っていたけど、禁忌による副作用…。」

「まあ、それもあるとは思うが私との戦いでエターナル・フォール・ブラストを撃ったせいもあるだろうな。」

「…!!…ゼロ…。そこまで無茶をして…。」

この時、アールがエターナル・フォール・ブラストを撃つ際に己の限界を超えて魔力を込めたことを知っていればツヲは本当に気絶していただろう。だが、その事実を知るのは今のところアールのみであった。

「なるほど…。ゼロの本気、ゼロの気持ち、伝わってくる…。絆を断ち切ってまで選びたかったんだから…。これは全力で応援するしかない…!」
ツヲは少し無理に笑顔を作った。

「愚弟、無理すんな。」

「いや、オ姉さん。そのタイチョーという者が本当にゼロに相応しいのか僕も確かめる。大勢で確かめた方がより真実に近付くはずだからね。」
そう言ってツヲは元来た道を戻っていった。

(やれやれ…。)
オネは少し眉を釣り上げて、溜息を吐いてからツヲの後を歩き始めた。





(そうだ…例え、アクアちゃんを殺したのがマチネでも、ゼロには関係のない話だ…。僕はただ妹の幸せを考えていればいい…。どんな理由があってもアクアちゃんを殺したマチネを僕が許すことは出来ない。許せないならば、許せない感情をそっくりそのまま水に流せばいい…。ゼロの幸せには不必要なんだから…。)

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この記事へのコメント

2015年08月30日 19:55
オネさんがお姉さんしてる・・・。
そして、真剣に戦えれば理由は何でもいいというあたり、さばさばしてるというか、バトルジャンキーというか。
感覚が人間離れしてるといっても、やはりオネとツヲの間にも大きな差がありますね。

佐久間「まだツヲの方が人間らしいか。」
山田「ドロップキックって魔法なのか?」
佐久間「パンチナックルと同じことだ。猫耳猫の世界に至っては、どう考えても雷の魔法にしか見えない“通常攻撃”も存在する。」
維澄「ご都合主義と思いきや、深刻なダメージ。落ち込んでいたからではなく、副作用だったのか。」
八武「回復がダメージに変わる!」
山田「シモッチかっ!」
神邪「ツヲさんの意志は強いですね。恨みを水に流す権利は、被害者だけが持っている。」
2015年08月30日 20:37
火剣「ツヲ兄の心の準備は必要なのか?」
コング「ゼロが家族の絆を断ち切ってでも守りたい人、にひひひ、さすが思い込みの激しさ天下一品」
ゴリーレッド「子どもかもしれないし、老人かもしれないと、願望が凄い」
火剣「タイチョーって言ったら男か」
コング「ツヲ博士の慌てぶりが凄い。妹への恋心を疑われる」
火剣「オネは冷静だ。それにマチネの分析も大人だし、器の大きさを感じてしまう」
ゴリーレッド「死者蘇生などは行ってはいけなかったのか」
コング「もしかしてアールは魔法が使えないのか。生身の人間、生身の体。最も危ないではないか」
ゴリーレッド「周囲が周囲だけに何の問題もない」
コング「油断している隙にマチネの残党がいて、あいつだ、あのアールが魔女だ!」
ゴリーレッド「弩六腑鬼苦!」
コング「げえええ!」
火剣「五臓六腑に響きそうなキックだ」
ゴリーレッド「アールの態度よりも、ツヲ紳士の態度で飛鳥花が燃えたらどうする?」
2015年08月31日 22:04
>アッキーさん
オネは皆のお姉さん。色々と人間離れしてはいますが、完全に人間と別個という訳でもありません。本来的な精霊からすればオネもまた人間と精霊の間に位置していますので、お姉さんお姉さんすることもあったり。
オネはオネなりの理論で動いていて、ちゃんと「生きる」というのは真剣に戦い続けることであり、戦いに身を投じる限り、一撃で殺した相手であっても戦ったことを評価します。それは食べ物を食べる時に「いただきます」と言う心と似ているかもしれません。オネには、人間の人間らしい理由で戦うその気持ちを理解出来ない場合もありますが、理由は理解出来なくても真剣に戦う行動を見て好ましいと感じる。だから、理由は関係ないのです。ただ、全力で戦ってくれればそれでいい。まさにバルトジャンキー。そう考えるとツヲさんなんか人間とほぼ変わらないぐらいの感覚を持っているのかもしれません。
時々出てくる古代魔法、弩六腑鬼苦(どろっぷきっく)とは、魔力を炎(ブラーゼ)などの魔法として消費する現在の魔法が確立する以前に存在していた魔法です。自分の身体に魔力を込めることで威力を底上げしたり、自分自身への反動を減らしたりする使い方が出来ます。しかし、この使い方だと遠距離攻撃出来ないし、体を鍛えていないと威力は下がるので自然と現在の魔法に取って代わられましたが、一応一部では継承はされているようです。
2015年08月31日 22:04
漫画やアニメによくあるご都合主義に見せかけて、そこに理由を絡めるのが私のやり方。というか、理由さえあればご都合主義はご都合主義ではなく、伏線になるのです!誰かを治せば自分が傷付く。魔法の本質である対価交換は梅花さんの時代から変わっていません。アールがソルディエルを魔法で助ければ、その分だけアールが傷付く。それでも、アールはソルディエルを助けるためにと迷わず実行しました。その代償は…。
ツヲさんはアクアの仇を討ったけれども恨みが消える訳ではない。それでも妹の幸せのために水に流そうと決めたツヲさん。ここにも二択があり、どちらかの選択。アールにはワガママで、両方選んでいいと言いながら自身は一方を選ぶツヲさん。そこには水に流れない強い意志が存在していると思われます。全ては大切な妹のために。
2015年08月31日 22:05
>火剣獣三郎さん
まるで娘に彼氏が出来たぐらいの勢いのツヲさん。紳士超理論による激しい思い込みで、通常運転なツヲさん。完全にタイチョーを男だと思っている様子。妹に悪い虫がつかないように心配しているだけなのですが、傍から見ると超疑われるレベル。そしてオネのドロップキックで一応、正気(?)に戻ったようですが…。オネは戦闘面になると冷静で観察力も高いですね。人間的な常識は乏しいですが、豪快なところもあるので案外、懐は広いのかもしれません。
Engagement ringでも死者蘇生は禁忌。フィベもペリドットに死者蘇生を施しましたが、結局の結末はあの通り。やはり死者蘇生は行うべきではないのでしょう。そんな、禁忌を使った代償もあってアールの魔力は激減。ツヲさんがうまく感じ取れなかったのはこのためでした。今現在、アールの戦闘力はほぼ普通の人間と変わらないと言っても過言ではないでしょう。周囲は最強クラスの魔法使い達がズラリですが。果たしてマチネの残党はいるのか。いたら即座にオネの弩六腑鬼苦が炸裂するかも。弩六腑鬼苦を腹に受けたら五臓六腑全てにダメージが行きそうですよね。
さて、ツヲさんの態度次第で修羅場ルートに入る可能性もある状態。ツヲ紳士は修羅場を回避して、見事ハッピーエンドにたどり着けるのか。

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