英雄再来 第十八話 再会14

心の穴。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「アール!」

フォウルが静止するのも聞かずにアールは上半身をはだけさせた。サラシに巻かれた大きな胸と共に柔肌がさらけ出される。そのアールの体を見て、全員が言葉を失った。

フォウルは衝撃で目眩がして足元がふらつく。
飛鳥花は驚きのあまりツヲの胸倉を掴んでいた手を離した。
オネは半ば察していたような表情で腕組みをしている。
ツヲは自分の白い瞳をゆっくりと開けた。

アールの腹には大きな穴が開いていた。胸の下の胃のある辺りからおへその部分まで、脇腹は残ってはいるが、それ以外は何もなかった。

「ツヲ兄様…。」

「ゼロ…。」
ツヲは沈痛な面持ちでアールの前までやって来た。
「禁忌を犯したんだね…。」

「はい…。」

「触れて、いいかい?」

「どうぞ…。」

ツヲはアールのなくなった腹に手を通した。そして、無い部分とある部分の境界をなぞるように触った。
「ないね。本当に…。まさか、ゼロが僕達と同じ道を進んでしまうなんて…。」
ツヲの白い瞳から雫が滴った。
「ゼロ。こうなってから、何も食べてないだろう?」

「はい…。むしろ、何も食べたくない感じです…。」

「人間は一日に二、三食は必ず食べないと死んでしまう。けれども精霊は魔力の供給さえあれば生きていける。僕らはその中間だ。ゼロはこれから味覚が変化し、今まで食べてきたものが美味しくないように感じたり、今まで食べなかったようなものを食べたいと思うようになるだろう…。魔力の方は、禁忌を犯した代償か、今は休眠状態のようだ。ただ、しばらくすれば復活するだろう。それと同時に魔力がこの穴を埋めて今までと同じような機能を果たすようになる…。ただ、そうなっても変化した味覚は変わらないし、今まで以上に人間から精霊に近くなり、様々なことが変化するだろう…。体もそうだけど、それよりも心が人間とは別のものに近くなる…。」

「ツヲ兄様。ワタシは後悔してはいません。肉体や人間性を引換にしたとしても、ワタシは隊長を助けたかった。…ただ本当は、隊長だけでなくこの国、マチネの人々全員を助けたかった…。マチネの人々は、生きていました。一生懸命に、精一杯、力強く、逞しく…。そして、敵であったはずのワタシに優しさと温もりを与えてくれた…。
でも、マチネは滅びました…。この通り、徹底的に、何もかも失って…。ツヲ兄様…マチネはどうして滅びなければならなかったのでしょうか…。いえ、それ以前に、どうしてマチネは戦をしていたのでしょうか!?魔法使いもマチネの人々も同じ人間のはずなのに!今、この世界は英雄ハイジマバイカが目指した『人間同士が争うことのない世界』から最も遠いところにあるのは何故なのでしょうか!?
オ姉様がマチネに攻め込んでくるのと同時期に一人の空を飛ぶ黒い魔法使いが攻めてきました…。その魔法使いによってマチネの国民の九割以上が殺されました…。マチネの息の根を止めたのはオ姉様ですが、あの時点でマチネは滅びたも同然でした…。隊長が、民なくして国は成り立たないって言ってましたから…。でも、その時、既にマチネは多くの魔法使いを殺して、魔法使いの国をいくつも滅ぼしていた後だったんですね…!?」

アールは泥を吐くように言葉を吐き出す。自分の中にある様々な感情と共に言葉を吐き出す。グルグルとした言葉にし難い感情を言葉に擦り付けて吐き出した。

そのアールの苦悶で悲痛な表情を、白い瞳を通してツヲは見ていた。
「っ!」
それは直視するには余りにも悲痛な叫びを訴えていて、ツヲは思わず目を逸らしたくなった。それでも、直視しなくてはならないという強い感情も同時にあった。アールの叫びを受け止めるために、ツヲは敢えて視線を逸らさなかった。足先や指先に力を込めて、グッとその場に踏み止まった。

「ツヲ兄様…。あの時、現れた黒い魔法使いはきっと大勢の仲間を殺されて、恨みと憎しみの全てを背負ってやって来たのだと、今なら分かります…。でも、マチネもまた魔法使いに住む場所も、家族も、大切なものも奪われた人々の集まりだった…!一体、どうしてこうなったのでしょうか!?誰かがこんなことを仕組んだんでしょうか!?傷付き合い、殺し合うことなんて誰も望んでなんかいないのに!!一体、何が悪かったのでしょうか!誰が悪かったのでしょうか!英雄ハイジマバイカが目指した『人間同士が争うことのない世界』は実現不可能な絵空事なのでしょうか!?誰も彼もが懸命に生きていたはずなのに、どうして手を取り合うことが出来なかったのでしょうか!?人と精霊が手を取り合うことが可能なのに、同じ人間同士が手を取り合うことが不可能なはずがありません!こんなの絶対におかしいです!何かが絶対におかしいです!どうしてこんなことになってしまったのか全く分かりません!誰も望まない結末が実現したという、このおかしさ!何一つ分かりません!どうしてこうなってしまったのか何一つ分かりません…。」

アールの絞り出す言葉は、いつしか嗚咽ばかりになっていた。

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この記事へのコメント

2015年09月24日 12:46
火剣「何てことだ」
ゴリーレッド「そんな状態だったとは」
コング「それじゃ裸にしてもERO要素が半減してしまうではないか」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
ゴリーレッド「貴様それでも人間か」
火剣「でもアールに後悔はない」
ゴリーレッド「ひとたび戦争が始まってしまったら、憎悪と復讐の応酬だから終われない。だから戦争は始まる前に防ぐしかない」
火剣「一応元通りになるのか」
コング「それは良かった。この美貌にこの肉体は貴重価値」
ゴリーレッド「美貌は関係ない」
コング「大いにある。顔がかわいくないと、どんなにイイ体してても見たいとは思わない」
ゴリーレッド「ドロップキック!」
コング「があああ!」
ゴリーレッド「プリスターに近い悪魔寄りの人間か」
火剣「これからどうするんだこの一行か」
コング「♪一行さん、一行さん、この橋渡っちゃいけません、なぜなz」
ゴリーレッド「ドロップキック!」
コング「どおおお!」
ゴリーレッド「アールは正しい。恩を忘れないということは人間らしさだから大丈夫」
火剣「隊長とやらは今どこに? 気になるかツヲ紳士」
コング「恋敵。むひひひ」
ゴリーレッド「ムヒを目に塗ってあげよう」
コング「やめなさい」
2015年09月24日 21:53
>火剣獣三郎さん
そうです。アールは肉を食べないのではなく、肉を食べることが出来なかったのです。おそらく、普通こんな状態になったら色々と悩むかとは思いますが、アールに後悔はない。自分の肉体の一部と引き換えにソルディエルを助けたのだから。むしろ、『勲章』のように感じているのかもしれません。
戦争は殺し合いの極地。既に話し合いで終われる場所をとうの昔に過ぎてしまい、他の道が一切合切断たれた状態で戦争へと突入してしまう。恨みと憎しみが相手を殺すことしか考えないようにしてしまい、どちらかが完全に滅びるまで止まることはない。戦争を止めるのなら、戦争になる前しかありませんね。
アールは精霊と人間のハーフなので、一応魔力が復活すれば体も元に戻ります。ただし、それは仮の体であり、丁度ツヲさんやオネの体が水や炎で出来ているような感じの体になります。つまりは精霊に近くなるのです。
それでも、アールはマチネの人々から受けた恩を忘れてはいません。これなら体が精霊に近付いても、心は人間のままでいられるかも。今後は、その辺りも少し見ていかないといけませんね。
さて、ソルディエルは未だに眠ったままですが、ツヲさんも当然気にはしています。ただ、今は目の前のアールに向き合うのみ。さて、ツヲさんはアールの心の叫びにどう言葉を返すのか。
2015年09月24日 23:11
心理的なこともあるでしょうが、むしろ物理的に食事が不可能だった!
激しく誰かを思い出す展開。

山田「そうだったのか・・・。」
八武「これはこれで。」
山田「おい。」
神邪「非人間ライフも、それなりに快適なものですよ。」
山田「いやいや・・」
神邪「僕も、虚空の闇の瘴気に中身を食い尽されて、代替機能を果たしている身ですが、食事や睡眠を必要としないことで有利だった局面も多いですし。」
佐久間「どうせ人間やめる前から、大勢とは相容れない人格だしな。最初から“人間”とは別の心を持っている。人間やめた方が自然だ。」
八武「早く人間をやめたーい!」
山田「お前は人間やめてるよ。」
維澄「争いや淘汰など、動物的な部分も含めて、人間らしさというのなら、平和を求めることは人間らしくないと言えるかもしれないね。」
神邪「そうですね。僕は、人間らしさを手放しで賞賛できません。どんな理不尽に遭っても耐えることが、人間として上等な振る舞いだという思想には、与しません。」
佐久間「いわゆる人間性の定義は、多数者の主観を集めたものだからな。つまり、神邪の嫌いな“加害者”の主観だ。そりゃあ、耐えてくれた方が都合がいい。」
山田「俺は平和を求めることこそが本当の人間らしさだと思っている。衝動だけで動くのは獣だ。だから、こんなことになってしまった。」
八武「ふむ。」
神邪「少なくとも、人間でなくなったことを後悔することはないですね。肉体が人間であることに、大した価値は無いのです。」
佐久間「人間であることに拘る至上主義は、“人間でない”存在への苛烈な迫害と親和するものだからな。それよりは、人間でないからこそ多角的である方が、どれだけ良いことか。」
2015年09月27日 02:56
>アッキーさん
胃や腸がなければ物を食べることすら出来ません。肥満の人には胃を小さく切ったり、バルーンを入れて胃の内容量を小さくして、あまり食べられないようにする手術があるそうですが、胃腸を完全に失った場合、点滴とかでしか栄養が取れなくなるのでしょうか。あまり長くは生きられないイメージですね…。でも、精霊とのハーフなのでどうにかなる様子。実際、かなり精霊の近い状態のオネも肉を貪り食う訳ですし。
肉体は精神に大きな影響を与えるので、今後アールには色々な変化が起こるとは思われますが、それは人間から外れることになるのかどうか。人間が人間としてあるのは理性が一つ大きいかもしれません。理性的に振る舞えるのはやはり人間やそれに類する生き物のみが獲得している能力ではないでしょうか。人間も生き物である以上、動物的本能も内包していますが、それをどこまで理性でコントロール出来るか、と考えてきたことが人間の歴史であるのかもしれません。もっと言えば、平和を求めることこそ本能なのかもしれません。種の保存という観点からすれば、人間という生き物が多くて多種多様いた方が種としての生存確率は上がりますから。
また『平和』の定義によっても変わるかもしれません。今、この「英雄再来」の世界は戦争が起こり、平和と程遠い状態になっているのはほとんどの人が同意するでしょうが、では、どんな状態が平和かと問えばそれぞれに全く違う答えが返ってくると思われます。そのバラバラな答えをいくつも集めれば多角的な視野になるかもしれません。人間が一人で多角的な視野を得ることは素晴らしいことですが、それには限界もあるし、人によっては得るのも難しい。だからこそ、人間は群れることで多様性を確保しようとしたのかもしれません。

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