英雄再来 第十九話 新しい国1

ゼロからの始まり。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「逆に聞こう。ゼロ。」
ツヲはアールに言葉を投げかけた。
「この世界は未だに英雄ハイジマバイカの目指した世界になっていない。では、どうする?ゼロは、どうしたい?」

「わたしは…。わたしは――――――。」
アールは自分の心が思ったことをそのまま口にした。
「新しい国を作りたい、です…。英雄ハイジマバイカが目指した理想を体現するような国を…。わたしにそれが出来るだけの力があるかは分かりません…。どうすれば実現出来るのか、今はまだ見当もつきません…。けれども、わたしはこれ以上憎しみ、争い合うのは嫌です…。傷付け合うのは嫌です。恨み合うのは嫌です。互いに殺し、殺され合うのは嫌です。相手に刃を向けるのは嫌です。相手に魔法を向けるのは嫌です。相手に殺意を向けるのは嫌です。もう、戦うのは嫌なんです…。
戦いは全てを奪っていく…。温かい言葉を掛けてくれた人も、温かい眼差しをくれた人も、温かい温もりを教えてくれた人も…全て、全て、全て…!わたしはマチネにいて知りました…!人を殺すということがどういうことなのか…!人を殺すということがどれだけ取り返しのつかないことなのか…!人を殺すことで、その人と繋がっている全ての人をどれだけ不幸にするのか…!
戦って、争って、傷付いて、憎み合って、殺し合って、いいことなんて一つもなかった!元を正せば英雄ハイジマバイカが救う前の人々は魔物の脅威にさらされて身を寄せ合って生きていたと聞いています!助け合い生きてきて、魔物から生き延びた人々の子孫達がお互いに殺し合っている!こんなの家族同士で殺し合っているのに等しいです!こんな不幸、本来ならあってはならないはずでした!でも、世界は…今、そんな不幸のどん底の果てで、最早お互いに争い合う相手すらいない世界にたどり着いてしまった!こんな…こんなことって…こんな不幸…!
わたしはただ、誰もが笑って暮らせる世界がいい!昔みたいに皆が笑顔で暮らしている世界がいい!昔みたいに――――――!」



――――――――――――――――――

かつてこの世界には魔物と人間がいた。そこでは人間は魔物に襲われ、食われ、殺される存在だった。そこに現れたのが異世界から召喚された拝島梅花であった。
拝島梅花は人々の要請に応え、英雄となり、一切合切の魔物を世界から追放した。世界には平和が訪れた、かに見えた。
拝島梅花の死後、人々はその数を増やし続け、資源を奪い合うようになっていた。二つの国に分かれ、争い合うようになっていた。
拝島梅花の言いつけであった「争うな」という言葉は人々から忘れ去られていた。直接聞いた者は老いて死に、親からもしくは祖父母から聞かされた者は実感を伴わず、その言葉を記憶の奥底にしまいこみ、膨れ上がる欲望で蓋をした。

人々の争いは【英雄の子孫】であるチュルーリによって止められることになった。チュルーリは二つの国を跡形もなく破壊し、国家という鎧を人々から剥ぎ取って荒野へと蹴り出した。
国を失った人々は思い思いの考えでそれぞれが新しく住める場所を探してバラバラに歩き始めた。今までの場所は住むことが出来ない程に壊されていたから。
ある者は旅の中でその生涯を終えた。ある者は新天地を見ずに死んだ。ある者は辿り着いた場所で新たな住処を切り開いた。そしてある者は理想郷に辿り着いた。

チュルーリは二つの国を滅ぼした後、大陸の中央にある黒い台座の近くに小さな住処を作った。家を作り、畑や生け簀のようなものを作り、少数の人が生きていけるような環境を作った。そこで一人の男の生涯に寄り添った。
男の名はミッドといった。元を正せば争っていた二つの国の軍人で、ある時からチュルーリの参謀として従事するようになった。
しばらくしてチュルーリとミッドの間に女の子が生まれる。チュルーリはその子どもをオネと名付けた。その後、ツヲ、ツレエ、フォウル、フィベが生まれる。そして、チュルーリが最後の子どもを身篭った時、ミッドは寿命で亡くなった。
チュルーリはあらゆる魔法を使いこなし、不老不死の魔法や死者蘇生の魔法を体得していたのだが、ミッドを不老不死にしたり蘇らせたりすることはしなかった。
チュルーリは最後に生んだ子どもをゼロと名付けてから長い眠りに就いた。本来なら人間を喰って魔力や体力を回復する術を身に付けていて最早それが人間が牛や豚を喰らうのと何ら変わりのない感覚でいたチュルーリだが、喰うべき人間がいなかったので体力回復、もしくは体力温存という生物の生存本能から冬眠状態に入った。
チュルーリがミッドを喰らっていればまだまだ活動は出来ただろう。また、チュルーリが真ん中の土地から離れて人間狩りを始めていれば冬眠することはなかっただろう。しかし、チュルーリはそうしたことをせずに眠りに就いた。いつ目覚めるかなど分からない長き眠りに。

残ったオネ達は今後の方針を話し合った。何日もの話し合いの末に、この地に巨大な都市を作るという結論で合意した。そして、各々が持てる魔法を使い、真ん中の土地に巨大な街を作った。様々な建物が立ち並び、水が引かれ、木々が植えられた。しかし、人はいなかった。
ある時、その真ん中の土地に旅人達がやってきた。旅人達はチュルーリが破壊した二つの国の人々の子孫だった。彼らは何故自分達が旅をしているのかという理由すら忘れて、ただひたすら旅をしていた。どこかの地に留まった者達もいたが、旅人達は今まで行ったどの土地にも留まらずに旅を続けていた。
そんな彼らの目に飛び込んできた巨大都市。彼らの目にはどう映ったのか。そして、その巨大都市を作り上げ、強力な魔法を使いこなす六人を見た時、彼らは何を思ったのか。
空っぽだった都市に人々の姿が見えるようになったのはそれからだ。それから、この真ん中の土地は次々と人々が集まり、そして増えていった。

――――――――――――――――――



「ツヲ兄様!理想の世界はまだ達成されていなくても、理想の国ならどうでしょうか!?少なくとも、あの日のわたし達は、人々と共に笑顔で暮らしていた!皆が笑顔で暮らせる国を作り、それを理想の世界作りの第一歩とする!ツヲ兄様、わたしのしたいことはこれから先を生きる全て人々が笑顔で暮らせる国を作ることです!
それが、きっと、今までに無念のうちに亡くなった人々への供養になると思うんです…。わたしがこの世界に召喚されたのは、人々の英雄を欲する心が集まり魔力となってわたしの封印を解いたから…。でも、わたしは戦を止めることは出来なかった…。だから、せめて亡くなった方々が願った平和を実現したい!英雄ハイジマバイカが目指した「争わない世界」を目指すことがきっとわたしの英雄としての使命であり、亡くなった人々がわたしに託した願いであり、私自身の願いでもあると思うのです。
何もない、ゼロからの始まりであっても、わたしは新しい国を作りたいです。」

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この記事へのコメント

2015年10月12日 22:01
火剣「新しい国づくりか」
コング「僕の理想は、女子が水着で街を歩けるほどの安全な街づくり」
ゴリーレッド「絶対に実現しない」
コング「女子が裸足で歩けるほどの美化の推進」
火剣「女子だけか」
コング「女子というより美女および美少女限定」
ゴリーレッド「最低だ」
コング「ゼロは入るぞ」
ゴリーレッド「そういう問題ではない」
火剣「なるほど世界を変えるというと大それて抽象的になっちまう。まずは理想の国づくりが第一歩だ」
ゴリーレッド「難問を克服し、皆が笑って暮らせる争いと暴力がない国を建設すれば、モデルケースとして世界に発信できる。それは世界を変える力になる」
火剣「一国を変えられない者がどうして世界を変えられようか」
ゴリーレッド「人を殺しても殺人事件にならないのが戦争だ。何の罪もない人が大量死しても『取り返しのつかないことが起きた』と語るニュースキャスターがいない」
火剣「麻痺か」
コング「理想といっても千差万別・百人百色。そこで万国共通なのは『美』だ」
ゴリーレッド「シャラップ」
コング「美脚・美ボディ、キュートなスマイルが世界を救う」
火剣「アールと飛鳥花は入る」
ゴリーレッド「だからそういう問題ではない」


2015年10月12日 22:08
父親はミッドだったのか!
そうなればいいのに的な読者の妄想が、なんと公式設定だったでござる・・・!

山田「やはりチュルーリにとってミッドは特別だったのか。」
佐久間「ミッドを失ったら面白くないという感覚は、よくわかる。」
神邪「不老不死や蘇生は、命だけ保っても、“ミッド”を失うことに他ならないわけですね。」
山田「なるほどな・・・。」
八武「限りある命だから美しいわけではないが、不老不死になってしまえば、損なわれるものもあるねぃ。」
維澄「理想を追い求めるとき、それに反する者や事象に、どう対応するかを考えなくてはならない。あらかじめ考え、実態に相対したときに考え、振り返って考える。」
佐久間「“思い通り”と“理想通り”は違うってことだな。」
神邪「全てが思い通りだと、奴隷(こくみん)でしかないってことですね。」
佐久間「そうだな。」
山田「何度聞いても酷い言葉だ・・。」
佐久間「名言ではないか。奴隷と書いて、こくみんと読む。命を、救う、と書いて、保健と読む!」(カッカッカッ
山田「何で黒板とチョークが・・」
維澄「オネやツヲがサポートしてくれれば、ゼロも道を間違えないだろうけど。」
佐久間「なぜ私を見る? 私は革命に協力する気など無い。」
維澄「そういう引いた姿勢も必要なんだよ、社会を作るには。」
2015年10月13日 18:22
>火剣獣三郎さん
悲惨な結末を経験したアールが決意したこと。それは新しい国作り。理想の国となれば千差万別、人によってその形やあり方はそれぞれでしょう。しかし、互いに争わない、傷付けないという国を理想の一つとするならば、それに賛同する人は多いのではないでしょうか。特に悲惨な結末を迎えたこの世界で生き残っている人がいるとするならば、誰もが賛同する、とアールは考えています。
英雄ハイジマバイカの理想とした世界はまだ実現されていない。しかし、一部の限定的なところではどうだったのか。時間と場所を限定した時、そこに理想が達成されていた時もあったでしょう。先ず隗より始めよ、という言葉もあるように、理想の世界のための第一歩として理想の国作りから始める。自分の近くから始めないと、抽象的になって何をすればいいのか分からなくなったり、道を間違えたりするかもしれません。まさに、ここで作った理想の国が出発点となって、他の場所でもそれに倣って同じような国が作られていけば理想の世界が誕生するかもしれません。
世界を変えるために国、国を変えるために自分自身。アールは自分自身、取り返しのつかないことをしてしまったという自覚から、決意を新たにしました。人殺しが『普通』の状態になっていた戦時から脱却し、万国共通の理想を達成し、人々を救う英雄となれるか。アールの挑戦の始まりです。
2015年10月13日 18:22
>アッキーさん
そうです、ミッドが皆のお父さんだったのです!あのチュルーリと結ばれる相手なんて、ミッドを除いて誰がいるというのか。出会いは突然な感じでしたが、フィーリングが合ったのかチュルーリの生涯の伴侶となりました。本当にチュルーリにとって特別な存在だったと思います。魔法で蘇生させることも、不老不死にすることもせずに人間として生きて人間として死ぬミッドを最後まで看取ったチュルーリの心境はいかなるものだったのか。
さて、理想の国を作ろうと決心したアールですが、当然一筋縄ではいかないのは当たり前。ほとんどの人間が死んでしまったとはいえ、生き残りもいるので、その者達が恨みを捨てられないと言った時どう対応するのか考えておかなくてはいけません。
一方、奴隷(こくみん)宣言していたオネも国作りをしようと企んでいる訳で、遅かれ早かれアールはオネと議論を交わす必要が出てくるかも。今は空気を読んで黙っているオネですが、いつ喋りだすのやら。アールの国作りに賛同してくれれば万々歳。つまりアールはオネの説得にかからなければいけないのかもしれません。様々な意見の者をいかに引き込むか。この場にいるツヲ、飛鳥花、フォウル、オネの中でアールの計画に賛同してくれるのは…?

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