英雄再来 第十九話 新しい国5

結果が全て。

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チュルーリが精霊界へと還った後、カトレーアは真ん中の土地に新しい国を作った。センテル国王の娘という立場と、強力な魔法が使えるようになったこと、そして戦の終結宣言と夏の国の女王筒姫の後ろ盾によって人々を集め、カトレーアは新しい国作りを成功させた。
その前後で様々な困難もあったが、カトレーアはハデスと共に全てを乗り越えて平和な国を実現させた。家族同士で戦うという悲劇を経験し、血で血を洗う争いを後世に渡って消し去るという自身の願いを実現するためにカトレーアは様々な面で努力を惜しまなかった。
気が付けばカトレーアは新しい国の女王となり、大魔法使いと呼ばれ、人々から畏敬と尊敬の眼差しで見られるようになっていた。カトレーアはその現状に不満はなかったが満足してはいなかった。自分が本当に成したかったものを成せたのか、それを自分自身に問い続けていた。
カトレーアは自身の父がどうして人としての道を誤ったのかを考え続けた。そして、その原因と思われるものをひたすら排除し、変革していった。なのでカトレーアの作った新しい国からは、センテルの時にあった様々な戦へと導く要因が消えていた。だが、それでも残ったものがある。それは誰か一人を頂点とする国という制度そのものであった。
カトレーアは考えた。もし、父が王という立場にいなければ大陸全土を巻き込んだ戦を起こしたかどうか。強力な魔法使いであっても、王という立場にいなければ王宮の書庫の奥底に眠っていたチュルーリに関する大昔の資料に辿り着くことは出来なかっただろう。王という立場にいなければあれだけの兵士や魔法使いに命令することは出来なかっただろう。王という立場にいなければ、愛するアリスの死を悼み、嘆き、悲しみはしても、最後にはアリスを棺桶の中で眠らせ、無理やり起こそうとはしなかっただろう。全ては王という立場であったが為に――――――。
そして、カトレーアは新しい国での最後の大仕事として一極集中の変革を行った。死んだチュルーリの体内から出てきた五つの宝玉を大陸の端々に封印し、同時に真ん中の土地の黒い台座の中に還ったと思われるチュルーリが二度とこの世界に出て来れないように封印する宝玉の力を持って封印するという、大陸全土を巻き込んだ前代未聞の規模の新しい五行封印の魔法陣を書き上げた。そして、魔法陣の要でもある宝玉を守るという名目で強力な魔法使い達を五ヶ所に分散させ、自分自身も宝玉を守る魔法使いの一人として女王の位を退いた。
この時、強力な宝玉や女王の座を率先して手放すという形を取ったことと今までの功績から、魔法使いもそうでない者も多くの者はカトレーアの計画に賛同した。
またカトレーアは一人の意見で国の方針を決めるのではなく多くの人の意見で国の方針が決まれば、どこかに権力が一極集中することもなく、国の暴走を食い止められると考えた。多くの人々の意見で国の大事を決める国の在り方が完成すれば王は必要なくなり、どこかに力が偏ることもなくなると考え、そのような制度を考えていた。しかし、それを完成させるために一番邪魔だったのは他ならぬ、女王としての地位だった。カトレーアは女王の座を退くことでそれら全てを、大きないざこざもなく達成することが出来た。
魔法を使えない普通の人々に新しい国を託して、カトレーアは力のある多くの魔法使いを引き連れて真ん中の土地を去った。そして、大陸の端でハデスと共に宝玉を守ることに一生を捧げ、その地で永眠した。

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「カトレーアは最終的に偏った力が平和を遠ざけるという結論に達し、力のある魔法使い達を引き連れて真ん中の土地を去った。世界は魔法を使えない人間が真ん中の土地で暮らし、魔法使い達が辺境の地に住むことになった。でも、それは魔法使いと魔法を使えない人間とを引き離し、互いが互いを知ることなく、関わることもない世界になってしまった。
それでもカトレーアが生きていた頃はまだ交流が続いていた。でも、カトレーアが死に、他の者も死に、世代交代していく中で、魔法使い達は辺境の地で独自の文化を構築し始めた。それは他との関わりを閉じる結果となり、真ん中の土地で何が起こっているのかを知る機会がなくなった。ワタシ自身、土の宝玉として封印されていて土の国のごく一部のことしか分からない状態のまま数百年を過ごした。
気が付けば、真ん中の土地に魔法使いを恨む者達が巨大な国マチネを作っていた。それに魔法使い連合ジュールズが気付いた時には手遅れだった。どこにも戦いを止める手段はなく、それを模索するために何人もの魔法使いが真ん中の土地に出向いたけれども、帰って来た者は一人もいなかった。そして、マチネとジュールズの全面戦争が始まり、ワタシの封印を守っていたムーンストーンは殺された…!」

ガリッゴリッとフォウルは岩同士を擦り合わせたような歯軋りをした。

「同じ人間同士なのに、お互いが全滅するまで戦う。それが人間の本質。今までの歴史を見てきて、局所的に見れば人間には素晴らしい面もたくさんあった。けれども、全体を通してみて、そして結果を見れば魔法使いもそうでない人間も皆殺し合って死んだ。それが結末。だから、もう、人間には期待しない…。」

そして、フォウルは濁った目を伏せた。



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この記事へのコメント

2015年10月20日 23:23
局所的には素晴らしい面が多くあるけれど、総体としての人類に、これまで素晴らしいものが1つでもあったのか。そう問われたら、返す言葉もありません。
カトレーアは封建主義を解体し、民主主義を発展させようとした。それは歴史を俯瞰した、未来を見据えた試みでしたが、結果として人々を分散させることになってしまったのが、何とも皮肉です。
力を拡散しても、いずれ偏りが生まれてしまうのは避けられないですが、それを再び緩和する為のシステムも、きちんと構築されていた。しかし、“恨み”というものは、それを突っ切ってしまうんですよね。
カトレーアたちが安らかな最期を迎えたのは、この一連の歴史の救いどころでしょうか・・・。
2015年10月21日 20:21
コング「ハデス。懐かしい。♪はーでーだーねー! はーでーもーいいけど」
火剣「それは中山美穂」
ゴリーレッド「王という立場を捨てる。この勇気は素晴らしいが混乱を招くこともある」
火剣「ソ連か」
ゴリーレッド「権力の座を権力者自身が捨てるゴルビーの選択は正しかったと思うが真意を理解できない周囲もいた」
コング「僕は常に新思考」
火剣「カトレーアが目指したものはいわゆる議会制民主主義か?」
ゴリーレッド「日本を見てもこれが必ずしも良いわけではないが、成熟した民主主義が確立されていない国で大統領制にしたら素人の人気タレントが大統領になってしまう危険性がある」
火剣「三流の野心家を救世主と勘違いする体たらくだからな」
コング「ドウドウ、そんなマジになっちゃあかんがなあ。官能サスペンスなんだから」
ゴリーレッド「官能サスペンスではない」
火剣「偏った思想の持ち主が権力を握れば偏った力が生まれ不幸な方向へ行く」
ゴリーレッド「人間の心を変革させるしかない。でないと、どうしても人間同士で争う。不思議に争いになる」
火剣「新しい時代の新しい発想を持ったリーダーが必要なんだ。でもこれもカトレーアの言うように一人に求めたらまた救世主みたいな変な感じになる」
ゴリーレッド「政治家や作家、言論界、学術界、芸能界など各地各分野に優れたリーダーが躍り出て民衆を良い方向にリードしていくのが望ましいと思う」
コング「人類の良さといえば、たとえば女子のビキニを発明した人はノーベル賞ものだ。多くの庶民を興奮させた」
ゴリーレッド「悩みがない人はいい」
コング「あるぜ。秋のドラマは豊作で困る。僕には研究があるのに毎晩テレビ見てられない」
ゴリーレッド「見なきゃいい」
火剣「まあ、でも自分の頭で考える人間は素晴らしい。フォウルもアールも」
2015年10月27日 22:53
>アッキーさん
例えば、あの人は素晴らしい発明をした、あの人はある病気の治療に一生を捧げた、あの人は新しい制度を作ってたくさんの人の命を救った、などと個人個人を見ていけば素晴らしい功績はたくさんあるでしょう。世間的に華々しい活躍でなくても、人に小さな親切をして100まで生きた、ということなども含まれると思います。しかし、人類全体と見るとどうなるのか。環境破壊や核兵器の開発、国同士での争いや、その内部での争い、様々な問題が山積している中で、解決されないまま新しい問題の影に隠れ、同時多発的に更なる問題へと発展していく。食料問題、動植物の絶滅、他にもたくさんあるでしょう。
女王になってからのカトレーアの試み、そして退位する時に行った最後の試みは決して無駄ではなかったはずですが、どこかの段階で途切れてしまった。力の分散をテーマにして、魔法使いと普通の人々との間に距離を置く政策は、いつの間にやら魔法使い達が真ん中の国に『関わらない』という形に変わってしまった。カトレーアの政策が力の分散だけでなく、心の分散にまで及んでしまった。しかも、それはカトレーアの死後の話。そのことを知れば彼女は無念に思うでしょうが、その後のことは後の者に任せて彼女は永遠の眠りに就きました。その際に契約を交わしたハデスもまた共に眠りに就きました。
2015年10月27日 22:54
>火剣獣三郎さん
懐かしさを感じていただき何よりです。ハデスも語りの中だけですが再登場です。一度は女王になったカトレーアですが、更なる理想の形を求めてその地位を捨てました。しかし、それによって数百年先で絶対に望まなかった結末に行き着いたことに関して、彼女としても無念でしょう。
権力を持っているものが率先して何かを行うというのは立派な行いだと思います。口先だけだったり、他人にばかり言って自分は何もしなかったりする者がいる中で、自分の不利益になる行動は中々取れない。トップの地位とかならしがみつきたい人はたくさんいる。けれども、理想のために敢えてそこから退くことを時に人々は英断と言う。ただ、退く以上は後のことまでしっかり考えて準備をしておかないと無責任と言われることも。
カトレーアが目指したのは議会制かどうかは分かりませんが、民主主義の一種ですね。今までだと王や強い魔法使いなどの一部の人間の意見だけで国の方針が決まっていた。それを止めてより多くの者の意見で国の方針を決められるような制度を作りました。それこそ直接民主制のような感じだったのかもしれません。より多くの者の意見を集めればどこかに権力が偏ることがなくなるだろうとカトレーアは考えたのでした。
2015年10月27日 22:54
ただ、カトレーアも人の心にまでは踏み込むことはなかった。なぜなら、チュルーリという今まで以上の脅威を目の当たりにした人々は誰もが平和を希求したので、人間同士で争うことを口に出す者などいませんでした。だからこそカトレーアも安心して退位し、真ん中の土地を譲り渡したのでした。
どこか一つに権力が集中しない方法を考えることも重要ではあったけれども、それ以外の方法がなかったのかと言われればそうではないですね。各分野に力のある者がそれぞれいれば、それもまたどこか一つへの偏りをなくすことに繋がる。色々な人が色々と考え、色々な意見が出てきて、国や世界をよりよくするためにはどうすればいいかを常に話し合い続けられればよかったのかもしれません。今のフォウルやアールのように。

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