英雄再来 第十九話 新しい国6

兄なりの説得。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

(さて、どうしたものか…。)

ツヲは少しばかり手を顎に当てた。

(ゼロも飛鳥花ちゃんもフォウルにどう声をかけていいか分からない感じだね…。ゼロは自分のことで一杯一杯だし、飛鳥花ちゃんはフォウルと長い付き合いではないから仕方ない。今のところはオ姉さんが介入してくる気配はない。けど、オ姉さんがいつまで沈黙を守ってくれるのか分からないし、ここは僕が話そうか…。あまり僕が介入してゼロの自由な発想の邪魔はしたくないけれど、この場面は助け舟が必要だよね。)


「フォウル。」

ツヲは一歩、前に進むと共にフォウルに声をかけた。

「フォウルのいう通りだ。人間は結局、自分達同士で殺し合って滅びた、と言っても過言じゃない。マチネもジュールズも生き残りはほとんどいない。人間という種族にフォウルが期待出来ないのはその通りだと思う。僕も人間の集まり、種族として、総体としての…人類というべきかな、人類には正直愛想が尽きている。――――――でも。」

「…でも?」

ツヲは飛鳥花の肩に手をやった。
「ん?」

「僕は人間個人には大いに期待をしているんだ。人、という一人ひとりにはまだまだ期待が持てると思ってる。フォウルは人類にはもう期待しないけど、飛鳥花ちゃんには大いに期待や信頼を寄せているよね。」

「うん…。」
フォウルは小さく、しかしはっきりと頷いた。飛鳥花は少し気恥ずかしそうに頭を掻く。

「だから、これからは滅びた人類に期待するんじゃなくて、今ここにいる『人』に期待をするのはどうかな。僕自身も封印の道を選んだ時、人間にこの世界を託す判断をしたのは間違いではなかったとは思うけれども、結果として失敗だった。その理由の一つに、真ん中の国を運営するに当たって、たくさんの人を人類という大きな括りでばかり見ていたからだと思うんだ。つまり、人一人ひとりを注視してはいなかった。
フォウルも言っていたよね、人間の中には期待していいと思う人もいる、と。でも、たくさんの人間の中に入ってしまえばその他大勢になってしまって、その良さが活かせない。人類は滅びた。これからは大勢ではなく個人を大切にして、個人の能力を活かす方向で国を作る時代が来たんだと思う。そして、個人を尊重することがハイジマバイカやゼロが目指す、争いのない理想の国を作る土台となると僕は思うんだ。」

「どうして…?」
フォウルの伏せられていたジト目がツヲに向いた。

「例えば、フォウルは飛鳥花ちゃんと殺し合いをしたい?」

フォウルはフルフルと首を横に振った。

「飛鳥花ちゃんは?」

「あ?したい訳ねーだろ。」
飛鳥花はふんす、と鼻を鳴らした。

「だよね。」
ツヲは微笑んだ。
「ほら、お互いがお互いを大切にしているんだったら争いなんて起こらない。もちろん、時には喧嘩することもあるかもしれない。意見の違いで口論になるかもしれない。でも、根底にお互いを尊重する気持ちがあれば、殺し合いには発展しないでしょ。」

「あ…。うん…。」
フォウルはコクリと頷いた。

「フォウル。本当はフォウルが人間に期待したいってこと、僕は知ってるよ。でも、人間は余りにも酷いことをした。だから、期待したいけれども出来ない。ゼロの国造りを応援したいけれども、今までの歴史を考えると気持ちが向かない。今までの人類の歴史はそれほど争いばっかりだったからね…。だから、フォウル、人間に期待なんかしなくていい。その代わり、目の前の飛鳥花ちゃんとゼロという個人に期待するっていうのはどうかな?親友と妹が新しい国を作ろうとしているけれども人手が足りない。フォウル、協力してくれないかな?」

フォウルはその目に涙を浮かべていた。
「ツヲ兄ちゃん、ズルイ…。今、そこでそれを言うの…。」
ただ、その表情は暗いものではなかった。

「兄はズルイものなのさ。で、返事を聞かせてくれるかい?」
ツヲは軽く尋ねて、フォウルの返答を促した。

「フォウル姉様…。」
アールはウルウルとした瞳でフォウルを見ている。

「フォウル、一緒にやろうぜ。」
飛鳥花はいつもの気さくな感じで声をかけた。

「ズルイ、ズルイよ、皆…。こんなの、嫌だなんて言えないじゃない…。」

「あれ?フォウルは嫌かい?」


ツヲがそう言った瞬間、フォウルが叫んだ。

「そんなことない!わたしも、わたしも皆と一緒がいい…!争いのない世界がいい…。殺し合わずに済む世界がいい…。でも、本当に出来るの?期待していいの?もう、数え切れないほど期待して、それでも駄目だったのに、もう一度期待していいの…?」

「はい!若輩者ですが、フォウル姉様の期待に応えられるように頑張ります!」
アールはフォウルの右肩を、まるで手と手を握るように掴んだ。

「当たり前だぜ。あたいらがいるんだ。出来ないことなんてねーよ。」
飛鳥花がフォウルの左肩に手を置いた。

フォウルの瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
「うん…やりだい…。国造り、一緒にやりだい…。」
涙声でフォウルは言った。それを聞いてツヲは深く頷いて言った。

「うん、一緒にやろう。この世界に新しい国を作ろう!」

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この記事へのコメント

2016年01月03日 00:53
集団としての人類は、やはりテンプレートな評価が似合う群れなのだと、私も思います。今まで人類が“集団”で為し得たことは、圧倒的に負の側面が大きい。集団で勝ち取った平和は、文字通りに“集団の平和”でしかなく、全体の秩序の為に個人を踏み躙るものでしかない。そのことを子供の頃に、嫌というほど思い知ってきました。

佐久間「人類の殆どが死に絶えた今の状況も、立派に平和だ。」
山田「立派ではないが。」
佐久間「そう感じるのは、ただの数的錯覚に過ぎない。人類の平和の為に凶悪犯罪者を処刑するのが正しいなら、人類の9割が凶悪犯罪者なら、9割を殺すのが正しいと思わないか?」
山田「それは極論だ。」
神邪「極論じゃないですよ。僕の目指す世界平和は、加害者を皆殺しにするのが前提ですから。もちろん破壊だけでは駄目で、成熟した豊かな人間性で世界を回していくつもりです。」
佐久間「そもそも成熟とは、少数派なんだ。様々な意見を取り込んでいけば、自然とオンリーワンにならざるを得ないのだからな。」
神邪「それこそ“個人”です。同じ考えの人間が大勢いるというだけでは、ただの“集団”ですから。僕は数だけ多い一要素を激しく憎む。まだ見ぬ要素へ心を開かれた、豊かな集合でありたい。」
佐久間「歪んでいることなど熟知している。だが、終末の後の再生には、相応しい論述だとも思わないか?」
山田「・・・まあ、フォウルたちを応援したいという点では、一致しているのかな。」
佐久間「問題はオネだが。」
山田「ああ・・・。」
2016年01月03日 11:21
>アッキーさん
これがツヲさんの結論、集団で動く国から個を大切にする国への転換でした。個を大切にすることで、適材適所で各人が頑張り、それが国を形成していく。そう、国という巨大なものを最初から作ろうとするのではなく、個人を大切にする取り組みの結果として国が自動的に形成されている、という寸法です。
一人では出来ないことでも、二人なら、三人なら…。協力ということは集団にならないと出来ない訳ですが、集団になると意思統一が難しくなる。また、責任の所在も曖昧になり、各人が無責任な発言や行動を始め、気が付けば意識の低い烏合の衆になっていることもあります。プラスの側面ももちろんありますが、準備なし、下地なしでは集団に内在するエネルギーによって集団が振り回され、マイナスに働いてしまう。集団という大きな力をコントロールし、プラスの方向へともっていくための何かの対策が必要だと思われます。その一つが法律だったり、決まりだったり、宗教だったりするのでしょう。ここでツヲさんが考えた原理は日本国憲法で言えば個人の尊重になるかと思います。
2016年01月03日 11:21
実の話、ツヲさんは現行人類が滅ぶことに然したる抵抗はないのかもしれません。飛鳥花さんなどの極少数の人間と自分の姉妹達さえいれば十分に平和であると考えているかもしれません。
人類全員が精神的に成熟するためには集団というのはある種邪魔なのかもしれません。なぜなら、集団になると一人ひとりの責任が薄まり、物事を自分の問題として受け止めてじっくり考えるということが難しくなる。ただ、働き蜂の原理で、集団の中にいたからこそ成熟した人もいるかもしれないので、人間の数が急激に大幅に減ることで成熟が早まるのか促されるのかどうなるのかは分かりません。残った者の精神的成熟度にも大きく左右されるでしょうし。
ツヲさんの意見は歪んでいるかもしれません。しかし、世界の終末というまともでない状態で、個人の尊厳という日本国憲法の根底にある考えにツヲさんが辿り着いたのには何か大きな意味があるような気がします。とにかく、フォウルも新しい国造りに参加することになって、どうにか上手く行きそうか。ようやくフォウルの心が救われました。

さて、オネの反応は…?
2016年01月04日 20:29
ゴリーレッド「戦争の原因は相互不信。お互いに根底では尊敬し合い、認め合っていれば、意見が食い違っても戦争にまでなることはまずない」
火剣「個人と個人もそうだな。嫌いだとちょっとしたことで争いになる」
コング「夫婦も仲が良くて喧嘩する分には仲直りは早いが、仲が悪い夫婦が喧嘩すると離婚の危機まで行く」
火剣「ズルイか。ズルイといえばズルイ」
ゴリーレッド「ゼロも希望の道を選びたいからな」
コング「飛鳥花もフォウルが好きだし」
火剣「オ姉はどこにいる?」
コング「壁に隠れて皆の話を立ち聞きしてニンマリ」
ゴリーレッド「そんなことはないはず」
コング「ところでアールはまだ裸か?」
ゴリーレッド「今夜は雪の中で寝るか?」
コング「待ちなさい」
火剣「でも今後どうするのか。まあ、天才ツヲ紳士がいるから安心は安心だが」
コング「頼れる妄想戦士」
ゴリーレッド「全然褒めてない」
火剣「でも人間は裏切る。ジゴボーみたいな人間はいる。絶対に裏切らないとは言えない」
ゴリーレッド「絶対に人を裏切らない善良な市民だけを集めようとすれば、悪党は排斥することになる」
火剣「排斥も戦の因になるか」
コング「三国志の曹操みたいに札を立てよう。『略奪者・姦する者は死罪』」
ゴリーレッド「コングはそれでいいのか?」
コング「国づくりをするなら先人に学ぼう。一番美人を略奪しそうな曹操が言うから皆震え上がったらしい」
火剣「オ姉が『殺すなかれ』の札を立てるようなものか」
ゴリーレッド「自分に厳しくないと人はついて来ない」

2016年01月04日 21:43
>火剣獣三郎さん
対立する意見を言い合うという事象一つを取ってみても、その後にこじれてこじれてついには殺し合いに発展することもあれば、互いの意見がぶつかり合うことで新しくよりよい意見が生まれて円満に解決することもある。おそらく、根底でお互いを認めているならば良い結果の方に辿り着くと思われます。ツヲさんは、そういうよりよい結果を生むための精神的土壌を形成しようと提案した訳です。喧嘩するほど仲がいい、という関係なら雨降って地固まる、となるでしょう。でも、そうでないなら最終的な結末は悲劇へと繋がりかねない。
しかし、ツヲさんもここで飛鳥花やアールをダシに使うとかズルイですね。更にはフォウルの本当の気持ちも知っていて、それもある意味利用。これが紳士のやり方か。まあ、妹のことを色々知っているというのは兄の特権ということで。と、いう訳で、アール、飛鳥花も加わった三人によってフォウルも説き伏せることに成功!残るはオネのみ…。
2016年01月04日 21:43
オネはその辺りに突っ立って、話をひたすら聞いているだけですが、何も発言しないのが逆に不穏…。ちなみに、アールのへそ出しモードは第十九話 新しい国2http://92428657.at.webry.info/201510/article_6.html
で、飛鳥花によって封印されました。(読者サービスが強制終了?)
今後のことはツヲさんがいるから大体のことは安心だとは思います。ただ、新しい国への道のりは長く険しい。理想を共にする人間を集めれば、それが逆に他を寄せ付けないことに繋がってしまうかもしれません。それが拒絶や排除、ひいては戦争の遠縁になるかもしれない。かといって、理想を解しないような人間と共生出来るかどうか…。アクアを殺したような人間が来たら、ツヲさんがまず率先して排除に行くでしょうから。
そこで、過去を顧みることも必要になってきますね。断片的ではありますが、たくさんの歴史を見てきたツヲさん達なら色々と試されてきたアイデアとかも知っているでしょう。いずれはルール作りの方にも着手するとは思われます。その前に、オネの意見も聞いておくべきか…。果たして、オネは新しい国造りをどう思っているのか。

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