英雄再来 第二十一話 ツレエ3

この程度とか、苛々する…!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

鉄で厳重に覆われているため雷の宝玉の異変は目に見えない。しかし、バチバチという音は外にまで響き、すぐに隊長のシンに報告が走った。

「進軍停止だ!すぐに雷の宝玉のところへ集結せよ!」

報告を聞いてシンが真っ先に考えたのは、生き残っていた魔法使いの襲撃の可能性だった。生き残った魔法使いが魔法で内部に侵入し、雷の宝玉を持って逃げようとしているのかもしれない。しかし、実際に自分の目で現場を見てみないことには詳細はつかめない。シンは即座に兵士達と共に現場に急行した。雷の宝玉が入った鉄の塊の前には既に兵士達が集まり銃を構えていた。

(何だ、これは…!)

シンは現場を見て驚いた。雷の宝玉を入れた鉄が発光しているのだ。熱によって赤くなり溶け始めている鉄の囲い。更に溶けて崩れた所からは内部の様子が少しだけ見えた。崩れたところからバチバチという音が更に大きく響き、強い光ばかりが漏れ出していた。

(雷の魔法か…!強力過ぎて電熱が発生し、それが鉄を溶かすだけの熱量に達しているのか!中にはこの雷の魔法を使っている魔法使いがいるはずなのに…!この中でも生きているというのか!?)

その時、シンは溶けた鉄の塊の中から発光する腕が飛び出たのを見た。
(魔法使いっ!)
「撃てえええ!!」
シンの号令で間髪入れず兵士達は銃を撃ちまくる。何千何万という銃弾が溶けた鉄から出た手の方へと向かっていく。だが、そんな銃弾を気にも留めずに中から人型の発光体がズルリと出て来た。溶けた鉄をまるで服のようにまとって。


「嗚呼…苛々する…!」

(喋った!あれで生きているとはやはり魔法使い!)

銃弾はまだまだ放たれているが発光している魔法使いに効いている様子はない。
「こんな玩具であたしを止められると思っているとか…本当に苛々させてくれるわ…ねえ!」

その魔法使いは右の手のひらを天空に向けた。
「雷雨(スンデル・ワーテル)!!」
次の瞬間、天空に巨大な魔法陣が広がり、そこから何千発という数の雷(スンデル)が雨の様にマチネ軍に降り注いだ。

(!!!!!)


一方的な展開だった。溶けた鉄の中から出てきた魔法使いには銃火器が一切通用しない上に天空から降り注ぐ雷(スンデル)が当たっても平気な顔だ。しかし、マチネの兵士が一度でも雷(スンデル)に当たれば二度と起き上がらない。あれよあれよという間に雷の国討伐部隊の兵士達が減っていく。雨あられと降り注ぐ雷(スンデル)を防ぐ方法などありはしない。新兵器の光子力砲や長距離砲も近距離の単体相手には効果を発揮しないし、そもそも新兵器群は全て雷の国との戦いで大破している。打つ手が無いという状態を理解し、隊長のシンは急いで号令をかけた。

「撤退だ!全軍撤退せよ!」
その言葉を聞いてマチネ軍の多くは我先にと逃げ出した。ただシンはその場に留まっていた。

(魔法使い…!一匹たりとも生かしはしない…!)

シンは降り注ぐ雷(スンデル)を交わしつつ身の丈ほどの大剣を新たに持ち、発光している魔法使いに向かって斬りかかった。

「うおおおおお!!」

一方、発光している魔法使いは苛ついた目をシンに向け、魔法を放った。
「雷(スンデル)!」

その瞬間、シンはいつも持ち歩いている愛用の剣を投げ出していた。その剣は雷(スンデル)を代わりに受けた。
(避雷針…!)

次の瞬間、シンの必殺技である兜割りが炸裂した。兜割りとは相手の鎧や兜ごと叩き割る剛の剣術である。対魔法使いに特化したシンの場合は放たれた魔法ごと斬り裂く技へと昇華していた。しかし、この技は魔法を放っている相手に接近する必要があるため非常に危険であることは言うまでもない。一歩間違えば魔法攻撃を受けて死ぬが、逆に決まれば相手は魔法を使っているため回避行動をしても間に合わない。よって、相手を確実に一刀両断出来る、まさに必殺の技だった。

シンは今までの近接戦で、持ち前の剣術の腕とこの必殺技で生き残ってきた。相手を真っ二つにした時、シンは必ず生き残ってきた。シンは発光する魔法使いをまとった鉄ごと真っ二つにした。


勝った。シンはそう確信した。


ここでもし、相手が複数いればシンはすぐに次の行動に移っただろう。もし、相手が攻撃を交わしていればシンは次の攻撃に移っていただろう。もし、兜割りが完全に決まっていなければシンは一度その場を離れていただろう。しかし、シンは手ごたえを感じていた。相手を確実に斬ったという感覚があった。実際、その魔法使いは誰の目から見ても真っ二つだった。

しかし。





ギョロリ。

真っ二つになった魔法使いの二つの目玉がシンを見下した。

「嗚呼…苛々する…!」
次の瞬間、電気鞭が飛び出してシンに巻き付いた。

(!??!)

高圧の電流でシンは一瞬で黒焦げになり絶命した。それは本当に瞬間の出来事で、あっけないほどの幕切れであった。

「あたしを誰だと思ってるの!?あたしはツレエ!雷光と悪鬼の化身、スンデル・ツレエ・チュルーリよ!真っ二つにした程度で死ぬとでも思っていたの!?この程度で…!この程度であたしに挑むとか…!舐めるのも大概にしろよ!にんげえええええええん!!!!!」

隊長シンの敗北と咆哮する不死身の魔法使い。その光景を目の当たりにしてマチネの兵士達の士気は崩壊した。

「うわあああああ!!ば、化け物だああああ!」
「真っ二つなっても生きてやがる!魔法使いはやっぱり化け物だあ!」
「シン隊長がやられた!もう駄目だあ!」
「逃げろお!シン隊長の命令通り撤退だあ!」

雷の国討伐部隊は総崩れとなりチリジリになって逃げ出した。しかし、広範囲に降り注ぐ雷(スンデル)の雨の中、マチネまで逃げおおせた者は誰もいなかった。


こうしてマチネ軍の主力部隊の一つ、雷の国討伐部隊は誰一人として生き残らなかった。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2016年03月30日 20:58
火剣「シンか。魅力的なキャラであり、闘将だったな」
コング「男に魅力的なんて、火剣は寛大だな」
ゴリーレッド「そのコングの感覚がおかしい」
コング「僕はウェートレスにしか『ご馳走様』と言わない」
ゴリーレッド「最低だ」
コング「あとバスも女子の運転士には『ありがとうございました』と励ます」
火剣「シンは撤退と言いながら自分だけは斬りかかった。部下は死なせず犠牲になるなら我のみという覚悟の戦士か」
ゴリーレッド「惜しい人物を失くしたと思わせるシーンだ」
コング「シンとシーンを掛けたのか?」
ゴリーレッド「偶然だ」
火剣「チュルーリと名のつく魔法使いはレベルが違う。何度も魔法使いを一刀両断したという体験が仇になったか」
ゴリーレッド「でも逃げながら雷に撃たれて死ぬよりはいいか。戦って死んだ」
2016年03月31日 05:01
鉄の塊を纏っての復活!
真っ二つにされても啖呵!
ツレエには異形らしい魅力がありますね。

八武「なるほど、復活したときの為に鉄の服を用意したのか。シン士的だ。」
山田「不謹慎だし上手くもねえよ。」
佐久間「いや爆笑だ!」
維澄「真顔で言われても。」
神邪「真っ二つになったくらいでは死なないというのは、共感できますね。」
佐久間「ツレエ人気だな。」
山田「待て、共感するところはそこなのか?」
佐久間「ほら、神邪も全身穴だらけにされたりしてるし・・。」
神邪「死ぬかと思いました。」
山田「ツレエは生身ではなく、雷の塊って感じだな。エネルみたいな。」
神邪「最もエネルギー的ですね。」
佐久間「ツレエ、オネ、フィベ、ツヲ、フォウル、ゼロの順になるか。」
八武「ゼロは殆ど生身だねぃ。」
2016年03月31日 22:07
>火剣獣三郎さん
元特攻隊のシン隊長、激戦の果ての結果でした。部隊長としては勝てない時には引き上げて体勢を整えるという判断を下しましたが、個人としては魔法使いと戦う道を選びました。瞬時の判断だったので半ば無意識だったかもしれません。最もこの場面では殿(しんがり)が必要でもあったので、魔法使いを足止め出来る戦力は自身を除いてはいませんでした。近接戦で腕の立つ者は先ほどのジュールズ玉砕戦でほとんど死んでしまったためです。
どの道、高レベル魔法使いや大魔法使いクラスを相手にするとなると数より質で勝負する方が有効になります。新兵器の長距離砲や光子力砲は都市や国を破壊するのには向いていますが、近接戦の個人になると無用の長物。銃火器も数に物を言わせるのでは大型魔法で一掃されてしまう。
そんな魔法使い達と戦ってきたシンですが、チュルーリ系はレベルが違った。真っ二つにされても半分は精霊なので死なない。一応ダメージはありますが。正直、反則的な強さ。ちなみにツヲさんも水状態になって銃弾を貫通させて平気な顔をしてました。http://92428657.at.webry.info/201407/article_27.html
シンは敗北し、マチネ軍は全滅した。ただ、救いと言えるものがあるとするなら、シンは戦場で戦士として戦い、戦士として死ねたことでしょうね。
2016年03月31日 22:07
>アッキーさん
恒例のことながら宝玉から復活すると当然生まれたままの姿なので、どうやって服を着せようか悩みます。そこで今回は溶けた鉄の服を採用。シンが用意したのではなく実は作者の仕業だったのです(笑)。歪なので肌がチラチラ見えるのがポイント。あ、べ、別に下心はありませんよ!
そして、チュルーリ一家お馴染みの身体エネルギー変換。オネやツヲが炎や水になっていたのと原理は同じです。真っ二つにしても死なないし、即死系攻撃や範囲系攻撃を使いこなす。こんな相手に誰が勝てるんだ?
ツレエは自分自身の能力をある側面ではあまりコントロール出来ていないので、精霊寄りになっています。オネはコントロール出来ているので通常は人間形態。でも本気を出せば炎の化身に。まるで魔王のようですね。フィベは宝玉から完全復活を果たさなかったので人間モードをお見せすることが出来ませんでした。大変に残念です。ツヲさんは自制していて人間形態を意識的に保っています。ただし、人間の姿のまま水形態に即座にスイッチするなど器用なことが出来ます。フォウルは石を食っている辺り、姿は人間ですが内部構造は精霊寄りです。性質は岩なのでエネルギー的というよりかは物質的なのかもしれません。そして、チュルーリ一家の良心ゼロは生身の人間に一番近いです。にも関わらずオネに勝負を挑んだ辺りに彼女の覚悟の大きさやツヲさんが心配する理由が分かると思います。

この記事へのトラックバック