英雄再来 第二十一話 ツレエ5

嗚呼…面倒臭くて苛々する…!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

マチネ軍を全滅させたツレエは次なる標的をトルに定めて歩き始めた。
(トルめ…どこにいるの…!?必ず殺してやるわ…。)
驚くべきことにツレエは無意識的に微弱なトルの魔力を感知して彼のいる場所に真っ直ぐ向かっていた。

無意識なので本人に何かしらの確信がある訳でもないのにツレエは迷うことなく歩いていく。マチネ軍の死体や武器・兵器の残骸の上を通り過ぎ、砲撃跡の残る草原を越え、海岸線が見えるところまで来た時には日が大分と傾いていた。

(海…。…あの時トルはマチネ軍に追い詰められて、宝玉に封印されているあたしごと海に飛び込んだわ…。生きているならどこかに流れ着いているだろうけど…。嗚呼…苛々する…。ツヲ兄なら潮の流れを読んで何がどこに流れ着いているのかぐらいすぐに分かるのに…あたしじゃこの複雑な潮の流れは読み切れない…!嗚呼…苛々する…!)

そう思いつつツレエはどこかに打ち上げられているかもしれないトルを探して海岸線を辿って歩いていく。すると、海岸線の向こうに何かが打ち上げられていた。それはうつ伏せになっている人間だった。

「いたあ!」

ツレエは電光石火の速さで打ち上げられてうつ伏せになっている人間に近付く。そして電撃の手刀を無防備な首めがけて振り下ろした。










その手を振り下ろしていればその人間は確実に死んでいただろう。だが直前でツレエは手を止めた。
(待てよ…。ここで殺してそれであたしの苛立ちは収まるの…?答えは…否…。だって、気絶していてこんなに無抵抗…。)

ツレエはギョロリとうつ伏せになっている人間を睨んだ。
(晴れないわ…!こいつにもっと苦しんで死んでもらわなきゃ、全っ然晴れない…!もがいて!喘いで!のた打ち回って!泣いて泣いて!這いつくばって!とことん苦しんでもらってから殺さなきゃ…!)

ツレエは奇妙な使命感に囚われていた。まともにトルと戦って、今までの鬱憤を十分に晴らしながら自分の方が強いということを示さなければならないという奇妙な使命感に。
ツレエにとって自分を封印していたトルは当然強いはずであるという認識がある。むしろそうでなくては困る。なぜなら弱い相手に封印されていたなどとなったら自身の誇りに傷が付く。トルを簡単に殺すことは、トルが弱いということを示すと同時にそんな弱いトルに封印されていた自分はもっと弱かったと示してしまうような気がした。


ツレエはうつ伏せの人間の首根っこをつかんで片手で持ち上げ、声をかけた。
「トル、起きなさい。」

持ち上げられた人間の青ざめた顔をツレエはまじまじと見た。

(嗚呼…間違いないわ。雷の国の大魔法使い、トル・マリンだわ。)

トルを猫のようにつまんだ後、ツレエは空いている左手でトルの頬を何度も叩いた。
「起きなさい。死にたいの?」

しかし、何度叩いてもトルは反応しない。

(魔力が弱まってるわね…。体温も下がっているし、水も飲んでるわね。嗚呼…面倒臭い…!)

ツレエはトルの首を横に向けると無防備なトルの腹を殴り付けた。
「げべえっ!!!」

トルは水を吐き出すと共に少しだけ意識を取り戻した。
「あ…う…。」

ツレエはそれを見てニヤリとした。
「やっと起きたわね。」

だが、トルはすぐに気絶してしまった。
「あ!こら!起きなさい!殺すわよ!?」

しかし、どれだけツレエが叫んでも叩いてもトルは死んだように眠ったままだった。

(チッ…!!!体力の限界か…。海を漂ったぐらいで…!)

トルが海を漂った時間を考えると溺死していてもおかしくはないのだが、ツレエにはそんなことは分からなかった。

(そういえば体温低下が続くと人間は死ぬってツヲ兄が言ってたわ…。しょうがないわね…!)

「雷炎(スンデル・ブラーゼ)。」
ツレエは弾ける雷で火花を大量にかつ連続で発生させ、暖房器具のように周囲を暖め始めた。すでに日は落ちていて、ツレエとトルの周りだけが灯火のように輝いていた。

(嗚呼…苛々する…!何だか無性に苛々する…!)

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この記事へのコメント

2016年04月02日 00:53
・・・あれ、結果的に介抱してません?
何だかツヲの言ってることの方が正しい気がしてきました。

山田「ツンデレ、ツンデレ。」
八武「萌える♪」
神邪「その割には暴力的な気がしないでもないですが、それは・・」
佐久間「まあ山田も私の腹を殴るのが趣味だからな。」
山田「趣味ではないし俺はツンデレじゃない。」

種族を超えた恋の行方は、果たして?
・・・いや、ツヲさんと飛鳥花さんのことですよ、あくまで。
2016年04月02日 18:40
>アッキーさん
気が付けば、介抱している、あら不思議(五七五)
不安定なツレエですが、別の言い方をすれば多面的となるかもしれません。ツヲさんとオネとで見せている面も見えている面も異なるかも。
しかし、オネといいツレエといい、行動がいちいち暴力的だったり破壊を伴ったりするのは半精霊のお約束になりつつある今日この頃。本人的には「普通」にしているつもり?
果たしてここに恋は芽生えるのか?種族を超えた愛は存在するのか?トル君次第かも。

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