英雄再来 第二十一話 ツレエ6

嗚呼…やっぱり苛々する…。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ん…。」

朝の日差しが照りつける中、トルは自然と目を覚ました。柔らかい感触と妙に硬い感触が体の側面にあり、何やら温かい風が顔に当たっていた。

「ん?」

トルはまだ寝ぼけているのかと思って目を二、三度パチパチと瞬きをした。何故なら自分は裸で、しかも鉄の鎧を着て寝ている女の人に抱きしめられているのだから。

(ええええええええ!???)

トルは事情がさっぱり飲み込めないでいた。心音だけがバクバクと鳴り響いている。そこに女性の寝息が当たってくる。その上――――――。

(どゆこと?どゆことお!?何があったの、僕に!?…あれ、思い出せない…。何も思い出せない…!僕は誰?この女の人は誰?分からない…。何も分からない…!)
トルは記憶を失っていた。


本来ならば魔力に蝕まれていて安静にしていなければいけないにも関わらず戦う以外に道がなかったトル。薬物による極度の興奮状態、魔法の乱発、その後の敗北から逃走、マチネ軍に崖のところまで追い詰められるまでの身体的かつ精神的疲労、そして海に飛び込んだ後は潮に流されるままに漂流して打ち上げられるという経緯。その後ツレエの攻撃、まで関係あるかどうかは定かではないがトルの記憶がざっくりと失われていることは間違いなかった。


トルはとにかく一度落ち着くことにした。深呼吸をして心拍数を整えた。すると向こうの岩に服が干されているのが見えた。おそらくは自分の服だろう。トルは女性を起こさないようにゆっくり起き上がって岩場に行き、服に着替えた。服はしっかり乾いていて、着替え終わったトルはどこか新鮮な気持ちになれた。そしてトルは状況から考えた。

(僕は…誰だろう…。普通は分かるはずだけど分からない。これって記憶喪失ってやつなのかな…。記憶喪失は頭を強く打って起こることがあるそうだけれど…。そして、ここは浜辺で服が干されていて、介抱されていて…。そうか、きっと僕は海難事故に遭って記憶を失ったんだ。そして、彼女は…僕の知り合い…?友達…?家族…?)

トルは女性の方を見た。しかし、胸や太ももが歪な鎧の間からチラチラ見えていてトルは思わず目を背けた。
(や、やっぱりいけないよね…。女の人のそういうのを見るだなんて…。)
トルの顔は真っ赤になっていた。

「む?」
その時、眠っていた女性が目を覚ました。瞬間、彼女は立ち上がっていた。瞬発力と筋力のなせる技だった。

「あ、おはようございます。」
トルは介抱してくれたであろう命の恩人にお礼を言おうと声を掛けた。しかし、その女性は間髪入れずにこう言った。
「嗚呼…そこにいたか。おはよう。そして死ね。」

「え?」
トルの理解が追い付く前にその女性は電気鞭を飛ばしてきた。
「ひゃああああああ!!」
トルは訳も分からず逃げ回った。

「ようやくお目覚めね!ほらほら!泣きなさい!叫びなさい!無様に逃げ回ってあたしの溜飲を下げさせなさい!」
ツレエは今まで鬱憤を晴らすため人が変わったかのように鞭を振り回した。

「や!止めて!止めてください!僕が何かしましたかあ!?というかどちら様でしょうかあ!?」
トルは必死で逃げ回りながら理不尽さを叫ぶ。

「察しの悪い奴ね!あたしはツレエ!雷の宝玉に封印されていた魔物、スンデル・ツレエ・チュルーリよ!」

「知りません!知りません!分かりませーん!」
記憶喪失になっているトルには宝玉だの魔物だのと言われても分かるはずがなかった。
「とにかく止めて!は、話し合いましょう!僕達は話し合える!」

「はあ!?」
トルの言葉にツレエの苛立ちが加速する。
「知らないし分からない!?封印しておいて!?しかも話し合い!?バッカじゃないの!?その話し合いとやらでマチネとの戦争を止められなかったくせに!」
ツレエの電気鞭に力が入る。攻撃範囲が広くなり、威力も速さも上がっていく。
「遊びは終わりよ!そろそろ死ね!」
苛立ちが、トルの叫び声や逃げ回る姿を堪能して溜飲を下げようという気持ちを越えた。ツレエは電気鞭を操りながら呪文を唱えた。
「閃光と雷鳴を暁の果てまで轟かせよ!雷精霊(デンリュウ)!!」
天空に魔法陣が出現し、それを破壊するような形で龍の姿をした電撃が唸りを上げて向かってきた。

「ひゃあああああああ!!!」
電気鞭を交わすだけで精一杯のトルは追加で向かってくる雷精霊(デンリュウ)に対応することなど出来なかった。

(もう駄目だあ!)
トルは思わず頭を手で庇い、目を瞑った。そこでトルの意識は途切れた。

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この記事へのコメント

2016年04月02日 19:44
火剣「記憶喪失は人間だけの病気じゃないのか」
コング「おはよう、そして死ね。ぐふふふ、こんなこと言われたら怖過ぎる」
火剣「デンリュウでまさか」
ゴリーレッド「意識を失っただけか」
コング「それよりツヲ変態紳士。『身長も胸も大きくなって』なんて普通言わない。にひひひ」
ゴリーレッド「本人が気づかないということはそれが日常言葉か」
火剣「ゼロを無意識のうちに危ない目で見ているのかもしれない」
コング「いんや、無意識ではない。姉妹を平等に見れない不公平紳士。妹の中で一番ゼロがタイプなんだ」
ゴリーレッド「そんなまさか」
2016年04月03日 01:18
まさかの記憶喪失・・・当事者にとっては笑い事ではないですが、段々とラブコメじみてきた今日この頃ェ・・・。

八武「裸でいる側が違わないかね?」
佐久間「違わない。これが正しい。」
八武「まあ、隙間から白い肌が見えるチラリズムは高評価だが!」
佐久間「それよりトルの描写をもっと詳しく。」
山田「お前ら・・・。」
維澄「これでトルが死んでいたら、シュール過ぎる展開だね。」
佐久間「お前は何を言ってるんだ。」
神邪「そうか、電撃鞭・・・これが以前ツヲさんの言ってた、女王様な妹ですか。」
山田「冷静だな。」
神邪「危機は乗り越えた感じがします。記憶が戻ったら、ひと波乱あるでしょうが・・・。」
山田「確かにラブコメにしか見えない。ツレエは抱き締めて眠る必要は無かったはず。」
佐久間「逃がしたくなかったんだよ。」
維澄「恋愛的な意味で?」
佐久間「両方ない交ぜになってる状況だな。」
八武「敵意と恋心のマリアージュ!」
山田「スンデルならぬツンデレ。」
2016年04月03日 12:49
>火剣獣三郎さん
色々大変な目に遭ったトルは目覚めると記憶喪失になっていました。一時的なものなのか、半永続的なものなのかは分かりません。記憶を失って戸惑っているところにツレエの追い討ち。ナチュラルな挨拶の後に平然と殺す宣言。これは怖い。これは危ない。凶暴で、魔法まで使ってくるし、トルは絶体絶命か…。
その一方で、ツヲさんに色々と疑惑が…。ツヲさんはナチュラルに妹達を変な目で見ている!?これはツレエとは別の意味で危ないかも。紳士となることで暴走しないように自制しているのかもしれません。
2016年04月03日 12:50
>アッキーさん
気が付いたらラブコメ展開一直線!?どこで路線変更が行われていたというのでしょうか。ツレエが情緒不安定だからか。それともトルがおっとりしているからか。
服が濡れていると体温が奪われるので、ツレエが服を脱がして乾かしてました。そして、トルの体温が下がらないように人肌で温める。なので抱き枕のようにトルを抱いていたのです。ツレエも普通にしている分には見た目など人間と変わらない部分があります。一応半分は人間の血を引いていますので。
目覚めて早々にツレエに命を狙われるトル。このままでは死んでしまう…!?電撃鞭は威力マックスなので触れた瞬間に相手は黒焦げか消し炭。とんだ女王様な妹ですね。果たして危機を乗り越えたのか…?
情緒不安定であるがゆえにツレエは自分自身が持っている感情を上手く表現できなかったり、自分自身でも分からなかったり混同したりしている場合が多いかもしれません。少なくとも普通の人より、気持ちの境界線がグチャグチャしているでしょう。さて、ここからどうなるのか…。

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