英雄再来 第二十一話 ツレエ7

嗚呼…言い分け過ぎて苛々する…!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『あまりトルを苛めないでくれないか?』
トルの雰囲気が一瞬にして変わった。先ほどのオドオドした態度が消えたのだ。それと同時にトルに向かってきていた電気鞭と雷精霊(デンリュウ)が魔力に分解され、トルの体へと吸収されていった。

「ああ!?」
ツレエは顔を歪める。姿形はトルなのに別人がそこにいるような違和感を感じた。
「何?あんた…。」

『俺はスハドゥ。トルの裏の人格だ。』

ツレエは眉をしかめた。
「裏人格?」

『トルは雷の国の大魔法使いだが本来は争いや諍いが大の苦手なんだ。だが、こんな時代だ。戦わないと生きていけない。トルは精神的にもたくさん無理した上に、劇薬草を何十種類も試した結果、精神が持たなくなってきた。そこで人格崩壊を避けるために防衛本能が働いて、痛みを引き受ける裏人格の俺が生まれたんだ。しかし―――――。』
スハドゥはトルと同じ顔で微笑んだ。
『雷の宝玉にこんな別嬪さんが封印されていたなんて知らなかったぜ。』

「なっ…!」
ツレエは顔を少し赤くした。

『封印されているのは世界を滅ぼす恐ろしい魔物だってずっと聞いてたからな。封印していて悪かった。済まん。』
今度のスハドゥは真剣な表情だった。誠実に、真剣に、申し訳ない気持ちから謝った。だが、ツレエの苛立ちは止まらなかった。

「嗚呼…苛々する…!今更謝ったところで何になるの!?何百年も奪われてた自由が、それでチャラになるとでも思ってるの!?」

『思ってはいない。それでも、済まん。』
スハドゥは重ねて謝った。しかし、ツレエにとっては焼け石に水を数滴かけるのと大差はなかった。ツレエの苛立ちは膨れ上がる。

「今更謝ったって何も変わらない…!封印していた間、あたしの魔力を使って好き勝手してたくせに…!見逃すはずないでしょ!?あたしはお前を殺す!そしたら少しはすっきりするだろうからねえ!」

『確かに、俺は殺されても仕方ないと思う。だが、トルだけは見逃して欲しいんだ。』

「ああ!?」

『トルは…優しい奴なんだ。この戦争だって本当はしたくなかったし、戦いたくもなかった。そんなトルが皆を守るためにどうしても戦わなくちゃならなくなって戦場に赴いた。その決心をするだけでも、すげえ頑張ったんだ。戦場に出るってことは相手を殺すってことだからな…。』

ツレエは全身に沸々と苛立ちが湧き上がっているのを感じた。
「だ、か、ら…!?それがどうしたの!?それがあたしを封印し続けたことと何か関係あるの!?あたしが不自由な思いをしてきたことが、それで軽くなるの!?嗚呼…苛々する…!言い訳ばっかりで苛々する…!どんな理由でも戦場に出てきたんだったらゴチャゴチャ言うな!ここは命の取り合いの場所でしょうが!殺される覚悟もなくてノコノコ戦場に出てくるな!命乞いするぐらいなら引っ込んでなさい!誰かを守るために戦場に出てきたのなら最後まで戦いなさい!そもそもあんた強いんでしょ!?あたしを封印していたぐらいなんだから強いんでしょ!?強い奴が言い訳するな!命乞いもするな!みっともない!死ぬ時は潔く死ね!」

『…確かにな。あんたの言ってることは正しい。だが、それは戦った奴の代償だ。この戦争で戦ったのは俺、スハドゥだ。だから俺が殺されるのは当然。だが、トルは別だ。トルは戦いの時、常に自分に興奮剤を投与する。そうでもしないと優し過ぎて戦えない。人を殺すという行為に踏み切れないんだ。だが、そうなれば痛みを引き受けるために俺が意識の表へ出てくる。そうなった時、トルは意識を失っているんだ。その間の戦いは全て俺がやっていた。トルは極度の興奮状態だから記憶が吹っ飛んでいると思っているようだがな。あいつは戦っていない。戦ったのは俺だ。戦場に出てきたのは俺だ。だから殺されるべきなのは俺だけだ。頼む、トルだけは見逃してくれ。こいつは何もしていない。』

「ああ!?」
ツレエの不機嫌さは臨界点に達しようとしていた。
「何もしていないって!?あたしを封印していた張本人がトルでしょうが!封印を何度破ろうとしても最後の最後でそいつの魔力が邪魔したわ!宝玉の管理者がいなければあたしはもっと早く出られていたのよ!そもそも、皆を守るって決めたんでしょ!?その決意だけで十分戦場で死ぬに値するわ!魔法使いとして死ぬだけの価値がね!そもそも、裏人格だか何だか知らないけれど、あんたを殺せばトルも自動的に死ぬでしょ!?トルだけ生き残る道なんてないのよ!そして何より戦場では道理など通じないわ!無様に、無残に、理不尽に死ね!あたしが理不尽に封印されたようにねえ!」

『…どうしても駄目か…?』

「ああ!?まだ言い訳がし足りないの!?」

『いや、これ以上何を言っても言い訳だ。どうやら、話し合いじゃトルを守れそうもないらしい。トルが生きていけるなら俺は死んでもいいが、トルが殺される道しかないというのなら俺は全力をもって抵抗する…!』

スハドゥは覚悟を決めた。戦う、覚悟を。

『トルは今までずっと辛い思いをしてきた!ずっと戦ってきた!守ろうとしてきた!しかし、全てを失った!国も!家族も!仲間も!魔力を探知してみりゃ分かる!もう雷の国の人間は誰も生き残っちゃいない!皆、マチネ軍に見つかって殺されたんだ!雷の国が滅びたんだから他の国々もマチネに滅ぼされただろう!そして、こいつの姉も恐らく…!トルは何もかもを失ったんだ!そして、記憶まで…!あいつは今、記憶喪失になっている!辛いことが多過ぎたからなあ!だが、それでいい!それがいい!辛いことなど忘れたままでいい!あいつには幸せになる権利がある!今なら辛い記憶をなくしたまま幸せに生きることが出来るかもしれないんだ!どの道、トルは過魔力で体の中はボロボロだ!数年以内には死ぬだろう!雷の国が滅びて治療を受けられなくなったから、もっと早いかもしれねえ!だったら残りの短い人生ぐらい自由に生きさせてやりてえ!俺はトルを守るために生まれた人格だ!あいつのために死ねるなら本望だ!戦う以外に道がないというのなら戦って道を切り開く!これが俺の最後の仕事だ!戦って戦って戦い抜いてやる!言っとくが俺はしぶといぞ!あんたが戦うのを後悔するぐらいにはしぶといぞ!俺と戦う覚悟はあるんだろうなあ!俺が…俺様がトルの救世主だあ!』

マチネ軍と戦った時のように殺気と狂気を滲ませるスハドゥを前にして、ツレエは微かに笑みを浮かべていた。おそらくは、無意識に。

「嗚呼…言えるじゃないか…!最初からそう言えばいいのに…!!」
ツレエの雰囲気も変化していく。先ほどよりも鋭く、鋭く、もっと鋭く。天空から降り注ぐ雷の切っ先のように。
「座して死を待つより戦場で活路を!それが魔法使いの生き様よ!あんたが軟弱な態度だと、封印されていたあたしの立場がないじゃない!あんたがあたしを封印出来ていたぐらい強いのなら、戦ってそれを示しなさい!それが出来たらトルの一件、考えてあげてもいいかもね!さあ、全力でかかってきなさい!少しでも弱かったらぶっ殺す!」



ツレエが襲い掛かってきた!

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この記事へのコメント

2016年04月04日 23:31
裏人格登場!?
興奮剤で凶暴化していたのではなく、人格が分裂してしまっていたのですね。
しかしこのスハドゥ、プレイボーイの匂いがする・・・。早速ツレエをたらしにかかってますが、殺し愛に突入!

八武「容姿を褒める。大事です。」
佐久間「だが落ちない。混乱に付け込んで押し倒すべきだったか・・・。」
山田「それ感電死ルート。」
神邪「いずれにしても感電死は避けられませんか?」
佐久間「チュルーリの力が初期ほど大きく分配されているから、年齢順に強い。ツレエの強さは、ツヲ未満、フォウル以上と見るべきだ。」
維澄「でも封印が完全には解けてないはず。」
佐久間「それな。それでも勝てはしないだろうが・・・。」
神邪「スハドゥはトルを許してやれと言ってますが、ツレエが怒っている相手はトルだけじゃないんですよね。食い違っている感じがします。」
八武「情緒不安定も手伝って、ツレエの方が意思表明では負けているようだね。」
山田「スハドゥ、頑張れ・・・!」
2016年04月06日 01:02
>アッキーさん
気を失ったトルに代わって、裏人格のスハドゥの登場です。最初は興奮剤による凶暴化だったのですが、それを繰り返し服用している間に、別人格が生まれました。きっかけは劇薬類ですが、その下地には、訪れない平和や自分自身の未来についての大いなる不安があったと思われます。
真面目で優しいトルの裏人格なので、少しチャラい感じもありますが、根は同じなはず。でも、プレイボーイなのは間違いない?どこまでが計算で、どこまでが本心かは分かりませんが。
しかし、それで落ちるほどツレエは単純ではありませんでした。ちょっと心動きましたが。触れれば感電死ルート確定か。どの道、ツレエと戦うなら感電死の恐怖と隣り合わせなのを覚悟しなければなりません。
精霊としての性質というか、チュルーリをチュルーリ足らしめている何かが長女から順に大きく配分されていると考えれば、ツレエの実力はツヲさんに匹敵するはず。封印がまだ残っているとはいえ、その力は…。
スハドゥとしては表人格のトルが助かれば何だって良い。一方のツレエは不安定で、主張にも多少のブレがある?主張を一本に絞れないという感じか。
スハドゥはどこまで頑張れるのか。戦いの始まりです。

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