英雄再来 第二十一話 ツレエ9

嗚呼…この糞野郎が…!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ツレエの連続攻撃の一瞬の間隙を狙ってスハドゥは彼女の懐に飛び込んだ。
(『狙うは心臓!超至近距離の密着状態から、さっき吸収した魔力で破動弾を食らわせる!』)

本来なら手馴れている雷(スンデル)の方が速く撃つことは出来た。しかし、雷の宝玉から出現し、かつ魔物とまで呼ばれていた相手に同属性の魔法が通じるのか。耐性持ちか無効化か、最悪吸収し返される可能性がスハドゥの頭をよぎった。

そもそも何故この魔物は殺されずに封印されていたのか。それはかつての魔法使い達が束になっても殺すことが出来なかったからに他ならない。あの開祖カトレーアですら殺すことが出来なかったほどに強いということは、最悪の可能性は出来る限り想定した上で最善を尽くさなければ勝つことなど絶対に不可能なはず、とスハドゥは考えていた。

そして、その推測は当たっていた。もし、スハドゥが雷(スンデル)を放っていればツレエに吸収され、そのまま反撃されて殺されていただろう。

(『くたばれっ!』)
スハドゥはまだ炭になっていない右手を構えた。


ムニュ。


スハドゥは一瞬だけ柔らかい感触を得た。そして次の瞬間、体中に激しい痛みを感じた。感電であった。ツレエの体は手足だけでなく体にも電気が流れていたのだ。いや、むしろ体の全てが電撃で出来ているような印象を受けた。

(『ぐあっ!?』)
スハドゥは脊髄反射で離れたので大事には至らなかった。しかし、これで攻撃の機会を失ったと共に相手に絶好の攻撃機会を与えてしまった。
(『やべえっ!!』)
その怯んだ瞬間を狙われていればスハドゥは殺されていただろう。しかし、不思議なことにツレエの攻撃は飛んでこなかった。スハドゥはツレエから出来るだけ距離を取りながら、四割は助かったと思ったが六割は何故だろうかという疑問が頭をもたげた。

手加減されたのか。いや、そんな生ぬるい性格の相手ではない。何故だ。スハドゥの視線の先のツレエの顔は赤くなっているのと同時に大変厳しい表情をしていた。そして、吐き捨てるように言った。

「命懸けでセクハラとはいい度胸だ、ド変態…!」

(『セクハラ…?』)

スハドゥはセクハラの意味が分からなかった。何故ならこの言葉はこの世界とは別の世界で使われている言葉だったから。しかし、ツレエの怒りにも似た険しい表情から察するに良い言葉ではないことは分かっていた。
(『そして、ド変態…?…って!あっ!』)

スハドゥは思い出した。先ほど一瞬だけだったが手のひらに広がった柔らかい感触。スハドゥはツレエの胸を触っていたのだ。

『ま、待て!さっきのはそういうんじゃねえって!不可抗力だ!』
その言葉に繋げて、戦場では何でもありってお前が言った、的な言葉を言おうとしたが火に油を注ぐだけだと思ってスハドゥは言葉を飲み込んだ。


「嗚呼…本っ当に、苛々する…!」
ツレエの殺気と彼女自身を取り巻く電撃は更に増大した。

「死ねっ…!」
ツレエは再び電気鞭を飛ばした。


スハドゥは、やばいとは思っていた。先ほどから近付かれるだけで剣で刺れたかのような錯覚を起こさせる程の殺気が更に強まったのだから。実際、魔法で身体強化を行い、その上で脳からの的確な指示を魔法で補助していなければ恐怖で体が萎縮し、あっさりと心臓を貫かれていただろう。

しかし、今のツレエは怒りで我を忘れて遠距離の魔法を使ってきた。これを吸収して魔力を回復して反撃のための力を蓄えよう。このまま怒りに身を任せて大型の遠距離魔法を連続で撃ってきてくれればありがたい。スハドゥはそんな期待を持っていた。

だが、スハドゥの期待は裏切られた。ツレエの放った電気鞭は高速で明後日の方向へと飛んでいったのだ。

『…?』

戦闘慣れしているスハドゥでも、この行動の意味を一瞬で理解することは出来なかった。遠隔操作で背後からの不意打ちを狙おうとも電気鞭は繋がっていてどこにあるのかを把握するのは容易い。よって奇襲性は薄い。しかし、スハドゥはすぐにツレエの意図に気が付いた。明後日の方向に飛んでいった電気鞭がすぐに戻ってきたからだ。

『!!??』

鉄の塊を大量に引き連れて。

(『やべえ…!』)

飛んできた鉄の塊はマチネ軍の戦車や銃が電熱で溶けて固まった物だった。その多くは雷の国とマチネ軍の戦闘によって出来た物で、取り分けスハドゥが雷の国の展望台からマチネ軍に向かって落とした雷によって大量に出来ていた。しかし、そのままではただの鉄の塊であり、空を飛ぶなどということはあり得ない。

しかし今、電気鞭が巻き付いた上に電気が流れている鉄の塊は電磁石と化していたのだ。磁石同士が引き合ったり反発しあったりする性質を利用するのと同時に、ツレエ自身もまた身に着けた鎧によって強力な電磁石となっていることを使い、大岩のような鉄の塊を引き寄せて自在に操っているのだ。

最終的に電気が供給されなくなれば電磁石はただの鉄の塊に戻る。しかし、それまでに加速していれば慣性の法則によりそのまま飛んでいく。つまりは、電気を自在に操るツレエにとっては当たれば人を簡単にペシャンコに出来る鉄の塊をどこに落とすかまで操作出来るのだ。

当然、魔法ではない鉄の塊を吸収など出来るはずがないし、電気鞭はスハドゥからは遠過ぎて吸収の範囲外。魔法を使って一つの塊を止めるか破壊するかするだけでも魔力を一気に消耗する。残存魔力の少ないスハドゥは鉄の塊を交わす以外に道はなかった。


スハドゥは走って一発目の鉄の塊を避けた。その鉄の塊はメゴンッという音と共に地面をえぐって二、三回跳ねた上で止まった。その大きさ、速さは改めて当たれば即死であることを示していた。


スハドゥはすぐに二個目以降の鉄の塊に目を向けた。既に空一面には鉄の塊が広がっていた。

(『…やべえっ!!!』)

スハドゥは走るしかなかった。この鉄の雨の中を。

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この記事へのコメント

2016年04月11日 22:35
命がけの戦いなのに、どこかラブコメでストロベリってるように見える!?
やっぱ電撃使いは強いですね(キャラ的にも)

佐久間「ツレエ優勢だと思っていたのに、スハドゥにはセクハラをする余裕があるというのか!」
山田「無えよ! 不可抗力だよ今のは!」
佐久間「セクハラをする奴はみんなそう言うんだよ。」
八武「命がけでもセクハラしたい!」
山田「だったら死んで来い。お前がスハドゥの身代わりになれ!」
八武「ツレエちゃ~ん、今いっくよー!」
佐久間「あ・・」
八武「ぶべえっ!?」
佐久間「やっぱ鉄塊に衝突するよなァ。」
神邪「磁力ですから、あちこちから鉄を引き寄せてるんですね。」
山田「危険な戦場だ。これが魔法使いの戦いか。」
八武「ぬうう、ツレエちゃんの生脚に頬ずりするまでは諦めないぞ!」(流血
維澄「その前に治療した方がいいのでは。」
2016年04月17日 21:09
>アッキーさん
真剣な戦いだったはずなのに何故かセクハラ事案が発生。スハドゥに対してラッキースケベ疑惑が浮上しております。圧倒的に優勢なのがツレエであることは変わりありませんが、どことなく精神的にはスハドゥの方が上か?
命か、セクハラかと言われれば八武さんはセクハラを選ぶ。しかし、その代償は…。鉄の雨、それも特大の雨粒揃いです。ちなみに、現在のツレエの太ももへのタッチはもれなく電撃が来ます。
ツレエ自体は電撃ガード状態。そして、戦場は鉄の嵐。攻撃と防御、どちらも完璧なツレエに対してスハドゥは反撃出来るのか。

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