英雄再来 第二十一話 ツレエ12

やべえ、けど…。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

(『やべえなあ…。』)

奪った魔力も底を付き始めているボロボロなスハドゥ。それに対するは鉄の鎧を身に付け、鉄の剣を構えるツレエ。

(『絶体絶命か…。』)

言霊と言う言葉がある。自分自身が吐き出した言葉に自分や周囲が影響を受けるという考え方だ。強い言葉や激励の言葉を唱えれば心はそれに呼応して奮い立つ。逆に弱気な言葉を吐けばそれに影響されて心はもっと弱くなる。
人間のスハドゥと半精霊のツレエとではそもそもの体力や身体能力に差があるというのに、瀕死で海を彷徨っていたスハドゥは更に体力が落ちている。魔力で身体強化し続けるのにも限界がある。


それでも。
『ふう…。』
スハドゥは一息付いた。それは余裕を感じさせる一呼吸だった。
『なんだ、ただの絶体絶命か。』

スハドゥは笑った。
目の前には帯電した剣を持つツレエが迫っているのにも関わらず、笑った。
剣での攻撃は先ほどの手刀による攻撃よりも攻撃範囲は広いだろう。鎧も帯電していてスハドゥの攻撃が届く可能性は更に低くなった。状況は刻一刻とスハドゥに不利になっているのにも関わらず、スハドゥは笑った。

次の瞬間、ツレエがスハドゥに斬りかかった。

その攻撃をスハドゥは完全に見切って交わした。剣も、電撃も、剣の風圧も、全ての攻撃範囲のギリギリ外に。

間髪入れず、ツレエの二撃目が来る。それもスハドゥは交わした。先ほどまでは完全に交わしきれずに皮膚を切られ続けていたのにも関わらず。

(『なあ、お前は封印されている間、外のことがある程度は見えていたのか?だったらトルが何回死にかけていたかも見えていたか?』)

ツレエの三撃目も四撃目もスハドゥには当たらなかった。

(『生まれた時から異常なほどに魔力があったトルは自分自身の強過ぎる力に身を焼かれ続けていた。毎日が、毎時間が、毎秒が、死との戦いだったんだぜ…!』)

ツレエの五撃目も交わす。六撃目も交わす。

(『どんな強敵との戦いだって、そいつを倒せば終わるだろ。けれどもトルは絶対に倒せない自分自身の魔力という相手と戦い続けてきたんだぜ…!』)

ツレエが何度斬り込んでもスハドゥに当たらない。スハドゥはツレエの攻撃を完全に見切っていた。

(『絶対に倒せねえし、絶対に逃れられねえ。そんな相手と戦い続けられるか?そんな相手と戦ったことはあるか?トルは戦った。今日まで戦い続けて、生きているんだぜ…!トルは、今まで一度も負けちゃいねえんだぜ…!何億とも知れない命の危機を全部乗り越えてきたんだぜ!』)

ツレエが何回、何十回と剣を振るがスハドゥには当たらない。

(『トルは強い奴だ。自分自身がどれだけ苦しくても、辛くても、痛くても、傷付いても、生きることを諦めはしなかった!だからこそ大魔法使いになったんだぜ!まだ若くて、しかも病気で、老い先短いトルが何で大魔法使いをやっているかって、先代の孫だからじゃないぞ!一番強えからに決まってんだろ!雷の国の中で、一番キツイもん背負ってんのに、当たり前に生き続けてるんだからな!』)

ツレエの剣先がスハドゥに届かない。

(『トルが今までに戦い続けてきたことからすりゃ、こんな戦い屁でもねえ!トルは今まで数多くの危機を乗り越えてきたんだ!それに比べりゃ、命の危機の数百や数千なんてどうってことねえ!お前の攻撃はたくさん見させてもらった!特徴も分かった!一発一発は強力だが、それだけ殺気まみれなんだ!察知するのには苦労しねえ!』)

ツレエの剣先が遠くなる。

(『届かねえよ!届かせやしねえよ!人間がいつまでもやられっぱなしだと思うなよ!人間は成長するんだ!どれだけ短い時間でも生きるために成長するんだ!俺は諦めねえ!絶対に生き抜く!トルが生き抜いてきたようにな!お前の攻撃をひたすら交わして交わして交わし続けて隙が出来るのを待ち続ける!その前に魔力切れになるって?元々、魔力なら大量にあるんだよ!扱えねえだけでな!トルの体を蝕む過魔力だが、その極々一部ならどうにか扱えるんだ!その僅かを使って俺達は魔法を使ってるんだ!やってやるぜ…。お前から奪った魔力が尽きる前に自分自身の魔力の一部を制御して、それがなくなる頃にはまた一部を制御出来るようになってやる…!
お前は体力も魔力も化け物なんだろうが、果たしてどこまで持つ?俺が一時間粘れば?二時間粘れば?三時間なら?四時間なら?五時間ならどうだ?十時間ならどうだ?丸一日交わし続けられたらどうだ?二日目に突入したら?三日間も交わし続けられたら?一週間なら?一ヶ月なら?半年なら?一年ならどうよ!?二年なら?五年なら?十年なら?十三年ならどうだよ!?そこまで戦い続けたことはあるかよ!?トルは戦い続けたぜ!あいつが生きた年数は戦い続け、負けなかった時間そのものだ!粘り強さに関しちゃ、誰もトルには勝てないぜ!やってやるぜ、力の限り!死力を尽くして、勝機を見出すぜ!
お前は確かに天才だ…!やること全てが勝つことに繋がってやがる。遠距離魔法を一切攻撃に向けられないことなんて何でもないことのように戦えるのは凄えぜ。だが、勝つことばかり、殺すことばかりに目が行ってるのが逆に弱点だぜ!狙いは全部、急所ばかり!攻撃は全部、強烈な殺気をまとっててバレバレなんだよ!いくら速くったって慣れちまえばこっちのもんだ!お前の攻撃はもう当たらない!さあ、根比べだぜ!お前の攻撃が止まるのが先か、俺の体が限界を迎えるのが先か!』)

ツレエの剣が空ばかりを斬る。

(『俺は勝つ必要なんてない!お前に殺されなければいいだけなんだ!トルが自分自身の魔力と戦い続けたのと同じようにな!強え奴が生き残るんじゃねえ、生き残った奴が強えんだ!』)









































ドシュッ!!

瞬間、響いた肉に鉄の刺さる音。

(『あ…?』)

それはスハドゥの想定を超えていた。

(『な…?』)

その時のツレエの剣先もスハドゥは完全に交わしていた。だが、スハドゥの脇腹には深々と鉄の『槍』が突き刺さっていた。

(『なんで…!?』)

スハドゥは自分に起こったことが理解出来なかった。脇腹の痛みを感じる前にスハドゥの全身に電撃が走った。

『ああああああああああああああああああ!!!!!!!!?』

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この記事へのコメント

2016年05月04日 20:29
確かに言霊はありますね。なるべく私も否定的な言葉を避けるようにしています。何かを否定すると、それだけ気分が濁りますし、他人の否定的な発言も萎えます。
自分自身の内的問題と戦い続けるのは、どんな危機よりも果てしなく苦しい。それは精神疾患である私としては、よくわかりますが、しかし現実の危機に対して強くなったわけでは全然ないのですよね・・・。
電撃で鉄を変形できるので、鎧であると共に槍ともなる。“武装”なのですねぇ。
2016年05月05日 07:35
>アッキーさん
窮地の時に生死を分けるのはその時の精神状態が大きいかと思います。絶体絶命のスハドゥは言霊の力を借りて、自分自身の能力を限界まで引き出してツレエの攻撃に対抗。心の中で叫んでいる内容の中には実現が難しいものも含んでいますが、それも勢いで乗り切ろうと自分を鼓舞する。もう、勢いの力を借りないとどうにもならないところまで追い詰められているので。
しかし、自分の内側との戦いと自分の外側との戦いは別。もちろん、共通して使えるものもあるとは思いますが。
ツレエの隠し玉炸裂。打ちたての鉄の鎧の中には槍が潜んでいました。ついにスハドゥ敗北か…?

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