英雄再来 第二十一話 ツレエ13

嗚呼…ちょっとはスッキリ…。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

グチャリという音と共にスハドゥの脇腹を貫通した鉄の槍はそのまま地面を突き刺して、彼を完全に大地に縫い付けた。同時に致死量に届かない程度の電撃が地面に倒れたスハドゥを襲った。

『がああああああああああああああああああ!!!!!!!!ああああああああああああああ!!!!!!!』

スハドゥにとって体を貫かれた痛みも、体の内部から引っ掻き回されるように電撃を受ける痛みも初めてのものだった。スハドゥは二つの激痛でのた打ち回った。しかし、鉄の槍が地面に刺さっているために暴れれば暴れるだけ傷口が広がり、痛みは増した。しかし、我慢出来るような痛みでもなかった。叫んでいないと意識が途切れてしまいそうだった。

『ああああああああああああああああ!!!!!!!!』

いっそ、気絶してしまえばどれだけ楽になるか。しかし、敵を前にして意識がなくなることが何を意味するのかをスハドゥは知っていた。それは自殺に等しい。ここで意識を失うわけには行かない。生きることを諦める訳にはいかない。

『あああああああああああああ!!!!!!』

スハドゥは考えた。電撃を浴びながら必死に、どうにか考えた。

(『何故だ!?何が起こった!?どうすればいい!?』)

だが、考えを巡らそうとしても鉄の槍からの電撃が、浜辺に打ち寄せる波のように次々と襲い掛かってきた。

『ぎゃああああああああ!!!!あああああ!!!ああああああああ!!!!』

強い電撃、弱い電撃、それらが波状攻撃を仕掛けていて、スハドゥから思考力を奪う。雷魔法による身体強化や体への直接指令を妨害する。今のスハドゥは体の自由も魔法も奪われた状態だった。出来る事といえば、叫ぶ事ともがく事。しかし、どちらも状況の打開にはならない。



「やあっと捕まえた…。」

地面に昆虫の標本のように縫い付けられた仰向けのスハドゥは飛びそうな意識の中で、自分を見下ろすツレエの満面の笑みに寒気を覚えていた。

「嗚呼…ちょっとはスッキリ…。」

ツレエは鉄の剣を構えた。

『!!!』
スハドゥは死を覚悟した。ツレエが剣を振り下ろす。

『ぐああああ!!!』
その攻撃は斬りつける攻撃ではなかった。あえて刃を寝かせて、剣を鉄の棍棒のように殴りつけるものとして扱う攻撃だった。

「嗚呼…本当に苛々した…。でも、これで…!」

ツレエは鉄の剣で何度も何度もスハドゥを殴り付けた。
『ぐあああああ!!!!あああああ!!!』
その間にも電撃は絶えずスハドゥを襲う。しかし、どちらもスハドゥの命を一気に刈り取る攻撃ではなかった。スハドゥは確信した。自分はいたぶられているのだと。相手は散々いたぶってから殺す気なのだと。

(『何故だ!?何故…!?』)

先ほどまでの一撃で殺す攻撃の数々はなんだったのか。突然、打って変わって嬲り殺す戦法に変えてきたのか。今のスハドゥには分からなかった。

そもそも脇腹を鉄の槍が貫通しているが、それは即死を狙った攻撃ではない。先ほどまでの殺気に満ちた攻撃ばかりを繰り出していたツレエでは絶対に狙わなかったであろう場所。だからこそスハドゥは無意識の内に、そこに攻撃は来ないと思わされていた。何十、何百という斬撃を交わし続ける中で、その様に慣らされていたのだ。
しかも、決定打となった鉄の槍の攻撃には殺気がなかった。おそらく通常であったとしても殺意無き素早い攻撃を交わすことは難しい。そんな攻撃が出来るなら最初からやっていたはずだ。そんな攻撃を最初から出されていたら今よりも早い段階で出血多量か何かで死んでいただろう。だからこそスハドゥはこの攻撃を受けてしまった。殺意に慣らされた体は、殺意無き一撃を認識出来なかった。
そもそも、ここまでの実力差があるのにも関わらず、見ようによっては小細工とも取れる行動をする必要があったのだろうか。最初から一撃必殺を狙わずに四肢を狙い、削っていけばもっと早い段階で普通に勝負はついていたはずである。スハドゥには魔法吸収の技術があったとはいえ、防具を揃え、武器を揃え、しかも鎧の中に隠し武器として鉄の槍まで仕込んで、ここまで時間をかける必要があったのだろうか。


ツレエは、万が一を想定していたのである。ツレエは考えた。万が一、ここで負けることになれば再び封印される上に、封印がより強固なものになるのは間違いない。そうなれば次の脱出の機会が巡って来るのは何百年後か、何千年後か分からない。もう、封印され、自分の魔力を好き勝手に使われることは我慢ならなかった。
確かに相手は半精霊の自分からすれば人間という種族は格下の相手かもしれない。しかし、ツレエはその人間に封印され続けてきたのだ。種族として格上だとか、格下だとか、そんなことは関係ない。一度戦場に立ったのなら、そこにそれまでの過去や、背景など関係ない。勝つか負けるか、それしかない。格下などと侮って負けるなど、それこそ格下のやることだ。相手を恐れる余り、自分の実力が出せないのは弱いのと同じだ。
ツレエは自分自身の怒りや苛立ちを戦闘に向ける一方で、心の中に冷静な部分を保ち続けていた。それは兄ツヲの助言によるものだった。


――――――――――――――――――――

「戦いで大切なこと…?そうだね…。僕が気を付けていることの一つは、冷静さを持ち続けることだね。戦いとなれば、自分自身の敵意や殺意などの感情や勝ちたいという気持ちを爆発させることで技の威力や攻撃力が増すよね。でも、そればっかりだと自分のことだけになってしまって、相手を視ることが出来なくなっちゃうんだ。そうなると相手の本当の狙いとか罠とかに気が付かなくて逆転されるってことがある。『相手を知り、自分を知れば、どんな戦いにも必ず勝てる』って昔の本にも書いてあったよ。勝ちたいって思うのも大切だけど、相手のことを視るための冷静な自分も作っておくんだ。そうすれば、ツレエは今よりもっと強くなれるよ。」

――――――――――――――――――――



「出来た…。出来たよ、ツヲ兄…。あたし、出来たよ…!」

ツレエは勝利を確信した喜びを表すかのように鉄の剣でスハドゥを何度も何度も殴り付ける。

『がああああああ!!!!ああああ!!!!』

「勝った…!勝った…!人間に勝ったあ!!あたしを封印していた人間に勝ったあ!!」

電撃がツレエの感情に呼応するように何度も何度もスハドゥを襲う。

『あああああ!!!あああああああああ!!!』

「痛みよ!痛みを知れ!今まであたしが受けてきた苛立ちを、屈辱を、憎しみを、痛みとして知れ!」

更にツレエはもがくスハドゥの左腕に剣を突き立てた。

『ぎゃああああああああ!!!!!!』

「今まで封印して好き勝手してくれた分まで苦しんで苦しんで苦しんで苦しみ抜けえ!」

ツレエはスハドゥの意識が消えるか消えないかのギリギリの電撃を放ち続け、スハドゥはのたうち、苦しみ、叫び続けた。

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この記事へのコメント

2016年05月07日 23:27
あれだけ激昂しながら、ツレエは冷静さを保っていたんですね・・・。いたぶるのが目的だと、まんまと私も騙されました。いたぶる目的で油断するのは、オネの方でしたね。
もはやスハドゥに逆転の目は無いのでしょうか・・・?

佐久間「美少女からの電撃プレイだよ。」
山田「それを羨ましいと思うのはツヲだけだ。」
神邪「電撃だけではないんですが、それは・・」
2016年05月08日 07:04
>アッキーさん
あれらの怒りは本物で、偽らざるツレエの本心です。しかし、ツレエの恐ろしいところは飽くなき向上心にあるのかもしれません。本来なら雷使いとして他に比類する者がいないにも関わらず雷雨や雷炎という具合に、ツヲやオネの属性を参考にした新しい雷魔法を生み出したり、戦いのコツをツヲに聞いたり。冷静さの方は後からツレエ自身が意識的に作り出しました。二度と窮屈な思いをしたくないと、主に封印されている間に。
そして、完全に優位に立った現段階でようやくツレエは、いたぶるモードに突入。今までの鬱憤を晴らすために死なない程度の電撃を放っています。が、当然これが続けばスハドゥは死ぬ訳で…。最早、打つ手なしか…?
電撃と貫通という二種類の痛み。これをプレイに変えることが出来るのはツヲさんぐらいかも。

ツヲ「おい、スハドゥ。ちょっと代われ。」
白龍「駄目です。ストーリーの進行的に。」

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