英雄再来 第二十一話 ツレエ15

勝った…。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ツレエの顔を直撃した破動弾は、スハドゥの極限の集中力と表人格であるトルの日頃からの絶え間ない脳内訓練があってこそ出せた代物だった。

魔法の発動条件である呪文の詠唱を短くする技術を詠唱破棄と言う。その場合でも何かしらの予備動作や技名を言うなどで魔法を意識化して使っている。頭の中で思い浮かべただけで魔法が使えるというのは詠唱破棄を突き詰めた究極の技術だった。ただし、日常生活では不便極まりないことは想像に難くない。

また、魔法の遠距離発動という技術がある。魔法をどこに出現させてどの方向に飛ばすかというのも当然、魔法使いが決めている。手や杖の位置、その方向によって自分自身がどこに攻撃したいかを意識化してから魔法を使う訳だが、基本的には自分の近くに出現させることになる。自分に近いところの方が制御もしやすいし、安定もしやすい。しかし、魔法の遠距離発動は、魔法の威力や精度を落とさずに遠くにいきなり出現させる技術である。手をかざさず、何の予備動作も方向指定も行わずに破動弾をツレエの顔の直前に出現させるというのは、その技術の究極の形だった。

頭の中で考えるだけで魔法が使えて、しかもその出現位置も方向も指定出来るというのは魔法使いにおける究極の戦闘方法ではないだろうか。

死ぬ間際の極限の集中によって、スハドゥは一瞬だけだが魔法使いとしての遥かな高みに到達したのだった。おそらく、このようなことが出来るのはこれっきりだろう。これを再現しろと言われても、おそらく不可能だろう。スハドゥ自身、頭の中には使ったという記憶は残っているかもしれないが、それを上手く意識化するには途方もない集中力が要求されるだろう。火事場の馬鹿力と言うべきか、本当に追い詰められた場面にならない限り、再現することは出来ないだろう。





(『勝った…。勝った…!勝った…!!』)

『勝っ…た…!』

スハドゥは勝利を口に出した。その瞬間、今までに無理に無理を重ねて押し殺してきた負担が一気に爆発し、スハドゥは激しい疲労感に襲われた。

おそらく、自分は助からない。たくさんの電撃を浴びた。鉄の剣と鉄の槍が貫通して動けない。たくさんの血を流した。魔法で体や脳に負担をかけまくった。命の燃料を燃やし尽くして戦った。そうしなければ負けていた。もっと早い段階で殺されていた。

しかし。しかし、今なら死ねる。殺される、ではなく、死ねるのだ。勝利を抱いて。これを勝利と言うには余りにも辛い勝利ではあるだろうが、スハドゥの中には全力を出し尽くしたという気持ちがあった。しかし、それも疲労感の激流に飲み込まれていく。スハドゥの意識は混濁し始めた。






























「おい。」

その一言でスハドゥは覚醒した。恐怖で全身が震えた。

「だ、れ、が?勝った…っ…て?」

顔の半分が欠けたままのツレエがギョロリと動く瞳と共にスハドゥを見下した。

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この記事へのコメント

2016年05月09日 21:25
ツヲも不死身のようなものでしたが、ツレエも電気の塊みたいな感じですね。

八武「どっこい生きてる♪タフなやつ~♪」
佐久間「顔が半分で生きてるとは、不思議なこともあるもんだなあ。」
山田「その程度の驚きなのかよ・・・いや、お前も大概だったな。」
佐久間「顔が半分欠けてしまえば生きていないことくらい、子供だって知ってるはずだーっ!」
山田「馬内守也かっ!」
佐久間「しかし子供向けアニメであるアンパンマンはどうなるんだろう。」
山田「今は関係ない。」
神邪「もう駄目でしょうか・・・?」
山田「諦めるのは死んでからでいい。」
2016年05月10日 21:13
>アッキーさん
ツヲさんも見た目は人間、中身は水らしき何かでした。ツレエもまさに意思と形ある電気。人間基準での死が死でないという、この恐ろしさ。倒すとなると相当なところまで追い詰めないといけません。魔人ブウも顔がなくなってもすぐに再生。最早、倒すことは敵わないのか…?
いよいよ、スハドゥの最後か。しかし、最後の最後まで希望を捨ててはいけない。後悔するのは全てが終わってから、諦めるのは死んでから。

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