英雄再来 第二十一話 ツレエ16

勝者の権利。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

破動弾によって半分になったツレエの顔の傷口から見えているのは電気と魔力の混合物。それはツレエが「魔物」と呼ばれている理由を雄弁に物語っていた。しかも、そこから溢れ出る電気と魔力によってツレエの顔は簡単に元に戻ったのである。

見た目は人間だが、その中身は化け物。スハドゥは恐怖した。ツレエの中身にではなく、これ以上の打つ手がないことに。限界は自分で決めてしまうもの、と誰かが言った。自分で限界を決めなければ、どこまでも先に進めるという肯定的な捉え方も出来るかもしれない。しかし、限界は突然にやってくることがある。自分の心が自然と、もう駄目だと思ってしまうそんな場面が存在する。

スハドゥの場合、まさに今がそれだった。死ぬ間際の集中力によって自分の実力の遥かに先のことが出来た。そして、相手を倒した。そこには達成感があった。しかし、それが引っくり返された。ツレエは生きていた。それどころかピンピンしている。達成感が逆流する。

『俺の…負けだ…。』

スハドゥは無意識の内に自分の敗北を口に出していた。言霊、という考え方がある。強い言葉を口にすれば心にも強さが、弱い言葉を口にすれば心が弱る。無意識とは言え、敗北を口にした瞬間、スハドゥの中の最後の糸が切れた。

『もう、好きに…してくれ…。』

スハドゥの心が折れた。最早、押し寄せる疲労感にも目の前に迫る死にも抗う術はない。スハドゥは投げやりな気持ちになっていた。

(『済まねえ、トル…。』)

ツレエが近付いてくる。死が近付いてくる。ツレエの瞳がギョロリと動く。薄ぼんやりとした視界の中で、その目と視線が合う。



(『ん…?なんか、近くね?』)

ツレエの顔がスハドゥの一寸手前まで来ていた。

「…お前、やるわね。」

スハドゥにとっては意外だった。ツレエの瞳にはもう殺意も敵意も宿っていなかったのだ。その瞳はスハドゥの頭の中を覗くかのような勢いで見つめている。
ツレエには分かっていた。先ほどのスハドゥが放った破動弾がどれほど高度な技術だったか。あの破動弾を放つためにどれだけの技量が必要だったのか。それはまだツレエも達していない領域だった。

「それ、ちょうだい。」

『えっ…?』

「それ、くれるなら命は助けるわ。命以外は全部もらうけど。」

『あ…。』

スハドゥは突然のことに戸惑っていた。

「いいから、ちょうだい。返事は「はい」よ。」

心の折れた今のスハドゥに、ツレエの言葉に逆らう気力も意思もなかった。

『は…い…。』

「契約、成立…!」
魔法陣が現れてツレエとスハドゥを囲む。
「これであなたはあたしの物よ…!」

唇に触れる微かな感触を最後にスハドゥの意識は消え去った。

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この記事へのコメント

2016年05月10日 21:58
>『もう、好きに…してくれ…。』
好きにしてイイんですね!?(鼻血
ああっ、ツレエと気持ちがシンクロした!
男の子が全てを諦め身を投げ出す瞬間って、たまらないですよね!(ゲス顔

佐久間「たまらないですよね!」
山田「最低だ・・・。だがスハドゥが助かって良かった。」
佐久間「な、最高だろ!」
山田「お前とアッキーが最低なのは変わらないがな。」
八武「デレた・・・いや、既にデレていたのか。」
神邪「長いツンでしたね。」
維澄「ツンで済ましていいの?」
八武「えらい人は言いました。終わりデレれば全て良し。」
山田「まあ、真理ではあるな・・・。」
2016年05月11日 22:24
>アッキーさん
奇跡のシンクロ!(シンクロというと、召喚と自然と口にする自分はデュエル脳なんだと改めて自覚する日々)
長きに渡る戦いの末に、ついにスハドゥの心をへし折ったツレエ。そして勝者の権利を存分に使ってスハドゥを召し抱えました。
よくよく考えればスハドゥの目的はトルの命を永らえさせることだったので、彼の必死の努力が実を結んだ形になったとも取れます。
新たな名言、終わりデレれば全て良し。ツンデレ属性のツレエ相手なら、惚れさせるが勝ち。古来より、敵将の立派な態度に惚れ込むという事象は数多くあったでしょう。敵ながら天晴れというのもその一つ。さて、そろそろ、第二十一話も終わりそうかな…。

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