英雄再来 第二十一話 ツレエ18
彼女が僕のご主人様。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
初めまして、皆様。僕の名前はトルです。ご主人様からは愛称のトールで呼ばれています。
実は僕には記憶がありません。数日前にこの浜辺に打ち上げられてからの記憶はありますが、それ以前のことは何も覚えていません。最初に僕が奴隷だって聞かされた時はびっくりしました。しかも、ご主人様は魔法使い。機嫌が悪いとすぐに電撃が飛んできます。
でも、多分良い人です。奴隷の僕を海から引き上げて、一晩中暖めてくださったんですから。それに悪い人なら、こんな安らかな寝顔しませんよね。
ご主人様は凛として立派な時もあれば、何だか子どもっぽい時もあってどこか不安定です。でも、自分の糧は自分で得ろと魚釣りを命じる時の気高さも、昼寝をするから傍に居ろと言う時の少し気恥ずかしそうな表情も、僕は好きです。
昔、僕は病弱だったそうです。記憶は無くなっていますが、ぼんやりとは覚えています。よく倒れて寝てばかりだった気がします。これじゃ奴隷として失格ですね。でも、常に誰かに看病されていた気がします。その時に「トール」と優しい声を掛けてもらっていたので、あれはきっとご主人様でしょう。僕が今、元気なのもご主人様の魔法によるものだそうです。ご主人様には感謝してもしきれません。
黄金色の髪を持つ雷の魔法使い、ツレエ様。彼女が僕のご主人様です。
おっと、話が逸れてしまいました。さて、皆様。ツレエ様にはご兄弟がいらっしゃるそうです。まだ僕はお会いしたことがないのですが、兄姉がお一人ずつ、妹様が三人もいらっしゃるとか。そして、何と皆様は生き別れになっているそうです。何と悲しいことでしょうか。僕が海で溺れることになった事件と何か関係があるのでしょうか…。
しかし、ツレエ様は強い方です。準備を整えて近日中にはこの場所を発たれます。生き別れのご兄弟との再会は何週間後か、何ヵ月後か、ひょっとすると何年後になるかもしれません。それでもツレエ様の言葉にはご兄弟が必ず生きているという確信の念しか感じません。本当に凛として立派な方です。そんなツレエ様を支えるため、僕は僕の出来ることを精一杯行いたいと思います。
さて、この書き置きを読んでおられる方がどなたかは存じませんが、もしツレエ様に縁のある方であるならば幸いです。ツレエ様は無事です。現在はここより南東の大陸中央を目指して旅をしております。もし、間に合うようでしたら急ぎ大陸中央にいらしてください。もし、間に合わぬようでしたら大陸中央でも同じような書き置きをしておきたいと思いますので、それを頼りにしていただきたいと思います。
また、この書き置きを読んでおられる方がツレエ様に縁のない方の場合、出来ましたらこの書き置きの存在を人から人に広めて欲しいのです。勝手なお願いであることは存じておりますが、ここで書き置きを見つけられたのも何かの縁と思ってお願いしたいのです。どうか、生き別れのご兄弟との再会にご協力お願いいたします。
●月■日、ツレエ様とこの地を後にする。
次の話
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初めまして、皆様。僕の名前はトルです。ご主人様からは愛称のトールで呼ばれています。
実は僕には記憶がありません。数日前にこの浜辺に打ち上げられてからの記憶はありますが、それ以前のことは何も覚えていません。最初に僕が奴隷だって聞かされた時はびっくりしました。しかも、ご主人様は魔法使い。機嫌が悪いとすぐに電撃が飛んできます。
でも、多分良い人です。奴隷の僕を海から引き上げて、一晩中暖めてくださったんですから。それに悪い人なら、こんな安らかな寝顔しませんよね。
ご主人様は凛として立派な時もあれば、何だか子どもっぽい時もあってどこか不安定です。でも、自分の糧は自分で得ろと魚釣りを命じる時の気高さも、昼寝をするから傍に居ろと言う時の少し気恥ずかしそうな表情も、僕は好きです。
昔、僕は病弱だったそうです。記憶は無くなっていますが、ぼんやりとは覚えています。よく倒れて寝てばかりだった気がします。これじゃ奴隷として失格ですね。でも、常に誰かに看病されていた気がします。その時に「トール」と優しい声を掛けてもらっていたので、あれはきっとご主人様でしょう。僕が今、元気なのもご主人様の魔法によるものだそうです。ご主人様には感謝してもしきれません。
黄金色の髪を持つ雷の魔法使い、ツレエ様。彼女が僕のご主人様です。
おっと、話が逸れてしまいました。さて、皆様。ツレエ様にはご兄弟がいらっしゃるそうです。まだ僕はお会いしたことがないのですが、兄姉がお一人ずつ、妹様が三人もいらっしゃるとか。そして、何と皆様は生き別れになっているそうです。何と悲しいことでしょうか。僕が海で溺れることになった事件と何か関係があるのでしょうか…。
しかし、ツレエ様は強い方です。準備を整えて近日中にはこの場所を発たれます。生き別れのご兄弟との再会は何週間後か、何ヵ月後か、ひょっとすると何年後になるかもしれません。それでもツレエ様の言葉にはご兄弟が必ず生きているという確信の念しか感じません。本当に凛として立派な方です。そんなツレエ様を支えるため、僕は僕の出来ることを精一杯行いたいと思います。
さて、この書き置きを読んでおられる方がどなたかは存じませんが、もしツレエ様に縁のある方であるならば幸いです。ツレエ様は無事です。現在はここより南東の大陸中央を目指して旅をしております。もし、間に合うようでしたら急ぎ大陸中央にいらしてください。もし、間に合わぬようでしたら大陸中央でも同じような書き置きをしておきたいと思いますので、それを頼りにしていただきたいと思います。
また、この書き置きを読んでおられる方がツレエ様に縁のない方の場合、出来ましたらこの書き置きの存在を人から人に広めて欲しいのです。勝手なお願いであることは存じておりますが、ここで書き置きを見つけられたのも何かの縁と思ってお願いしたいのです。どうか、生き別れのご兄弟との再会にご協力お願いいたします。
●月■日、ツレエ様とこの地を後にする。
次の話
この記事へのコメント
なんだろう、このシラフでイカれてる感じ。実に私好みですよ・・・。
いやあ、記憶喪失の男の子が従順とか、素晴らしいですよね(ゲス顔
佐久間「素晴らしいですよね。」
山田「お前らは本当に腐ってるな・・・。」
ツレエと主従契約を結ばされたことで過魔力問題が解決し、一気に健康的に!その副作用(?)で、ツレエの僕(しもべ)として働いています。ただ、今のトル君の方が昔に比べて生き生きしているような気がします。マチネとジュールズの戦争のことも、たくさんの人が死んだことも忘れているために心は開放的。そして、誰かのために働けるという喜び。トル君が幸せそうなら、これでいいのかもしれませんね。
ただ、忘れているというだけで過去に起こったことがなくなった訳ではないし、何かのきっかけで思い出すかもしれない。とにもかくにも、これで第二十一話は終了です。大陸中央に向かったということで、ツヲさん達との再会も近いかもしれません。