英雄再来 第二十二話 過去のツヲ1
黄昏て物思い。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大陸中央にあった機械大国マチネは滅びた。外敵の侵入を阻むための巨大防壁だけがマチネの面影を残している。その壁の内側の中央には貯水兼生簀の巨大な池が出来て、その周囲には畑や林や貯蔵庫や家などが建てられていた。
マチネ崩壊から数週間が経っていた。これらの施設や地面の整備、壁の補修などは炎の魔法使いオネと水の魔法使いツヲ、土の魔法使いフォウル、そして毒の魔法使い飛鳥花の四人だけで遂行されていた。
そのマチネの巨大防壁の上にツヲは片膝を立てながら座っていた。開かない目は、それでも国の出来を確かめるように方向だけは壁の内側を向いていた。ツヲは微かに笑みを浮かべていた。
「邪魔するぞ、愚弟。」
ツヲの隣に見た目は七歳前後の少女が腰を下ろした。
「あ、オ姉さん。」
「大分と良い感じになってきたな。」
オネもまた、壁の内側を見下ろした。
「まあ奴隷(こくみん)は、いないがな。」
「本当に最初の頃みたいだね。」
ツヲはどこか遠くのことを思い出すように言った。
「最初は、母さんと父さんとオ姉さんと妹達だけだった。」
「そうだったな。」
オネも昔のことを思い出していた。
「チュルーリが人間の二つの国を滅ぼして、大陸中央の黒い台座のところに来て、家を建てて、私達を産んだ。」
「そして、父さんは死に、母さんは長い眠りに就いた。」
「次に目が覚めた時には驚いただろうな。中央には巨大な建造物が立ち並び、奴隷(こくみん)が溢れかえっているんだから。」
「しかも、自分の子ども達と戦う羽目になるなんて思ってなかっただろうね…。」
ツヲは両手を地面に付けて空を見上げた。
「そうか?チュルーリは戦いたがっていたと思うがな。」
「…そう、かなぁ?」
「そうだ。」
ツヲの疑問に対しオネは断定的に言い切った。
「何故なら、私が戦いたがっていたからだ。」
「ぷっ。」
ツヲは思わず噴き出した。
「何だ?愚弟。何がおかしい?」
「いや、オ姉さんらしいなと思っただけだよ。でも、そう考えると、母さんもそうだった気がしてくるから不思議だなあ。」
「当たり前だ。チュルーリのことは私が一番良く知っている。」
「父さんよりも?」
オネは首を捻った。
「…ミッドか…。思えばあいつは不思議な人間だったな。父親という感じが一切なかった。最初から最後までチュルーリの従者という顔しか見せなかったなあ…。確かにチュルーリを知っているということに関しては、あいつの方が上か…。だが、戦闘に関しては絶対に私の方が上だ。それは絶対に譲らん。」
「何だい?その変な意地は。」
「意地?これは矜持だ。少なくとも戦うということに関しては、チュルーリから戦いを通して全て教えてもらったつもりだ。この世界の誰よりも強くなる、その一点でのみ私とチュルーリは繋がっていた。私も血の繋がりなど糞喰らえと思っているが、チュルーリはそれ以上だ。何せ我々よりも精霊に近い、というかほぼほぼ精霊そのものだろう。戦いだけが私とチュルーリを繋ぐ絆だった。そして、私は最後の戦いでチュルーリを超えた。」
長い眠りから覚めたチュルーリはオネ達六人の子ども達と戦い、最後には全員と共に封印されている。その後、世界は魔法使いが台頭し、中央の国センテルや春、夏、秋、冬の国といった魔法使いが指導者とする国が次々に生まれた。
「…思えばあの戦いが最後の親孝行だった、のかなぁ。」
「親子の絆など糞喰らえだと言っているだろう。師弟の絆の方が近い。」
「出藍の誉れ?」
「………まあ、そういう感じか。」
「確かに母さんは戦いを好む人だったね…。」
(…ただ、それは僕らに見せる側面であって、父さんに見せる側面はまた違っていたように思う…。)
ツヲは昔の記憶の海の中を泳ぎ始めた。
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大陸中央にあった機械大国マチネは滅びた。外敵の侵入を阻むための巨大防壁だけがマチネの面影を残している。その壁の内側の中央には貯水兼生簀の巨大な池が出来て、その周囲には畑や林や貯蔵庫や家などが建てられていた。
マチネ崩壊から数週間が経っていた。これらの施設や地面の整備、壁の補修などは炎の魔法使いオネと水の魔法使いツヲ、土の魔法使いフォウル、そして毒の魔法使い飛鳥花の四人だけで遂行されていた。
そのマチネの巨大防壁の上にツヲは片膝を立てながら座っていた。開かない目は、それでも国の出来を確かめるように方向だけは壁の内側を向いていた。ツヲは微かに笑みを浮かべていた。
「邪魔するぞ、愚弟。」
ツヲの隣に見た目は七歳前後の少女が腰を下ろした。
「あ、オ姉さん。」
「大分と良い感じになってきたな。」
オネもまた、壁の内側を見下ろした。
「まあ奴隷(こくみん)は、いないがな。」
「本当に最初の頃みたいだね。」
ツヲはどこか遠くのことを思い出すように言った。
「最初は、母さんと父さんとオ姉さんと妹達だけだった。」
「そうだったな。」
オネも昔のことを思い出していた。
「チュルーリが人間の二つの国を滅ぼして、大陸中央の黒い台座のところに来て、家を建てて、私達を産んだ。」
「そして、父さんは死に、母さんは長い眠りに就いた。」
「次に目が覚めた時には驚いただろうな。中央には巨大な建造物が立ち並び、奴隷(こくみん)が溢れかえっているんだから。」
「しかも、自分の子ども達と戦う羽目になるなんて思ってなかっただろうね…。」
ツヲは両手を地面に付けて空を見上げた。
「そうか?チュルーリは戦いたがっていたと思うがな。」
「…そう、かなぁ?」
「そうだ。」
ツヲの疑問に対しオネは断定的に言い切った。
「何故なら、私が戦いたがっていたからだ。」
「ぷっ。」
ツヲは思わず噴き出した。
「何だ?愚弟。何がおかしい?」
「いや、オ姉さんらしいなと思っただけだよ。でも、そう考えると、母さんもそうだった気がしてくるから不思議だなあ。」
「当たり前だ。チュルーリのことは私が一番良く知っている。」
「父さんよりも?」
オネは首を捻った。
「…ミッドか…。思えばあいつは不思議な人間だったな。父親という感じが一切なかった。最初から最後までチュルーリの従者という顔しか見せなかったなあ…。確かにチュルーリを知っているということに関しては、あいつの方が上か…。だが、戦闘に関しては絶対に私の方が上だ。それは絶対に譲らん。」
「何だい?その変な意地は。」
「意地?これは矜持だ。少なくとも戦うということに関しては、チュルーリから戦いを通して全て教えてもらったつもりだ。この世界の誰よりも強くなる、その一点でのみ私とチュルーリは繋がっていた。私も血の繋がりなど糞喰らえと思っているが、チュルーリはそれ以上だ。何せ我々よりも精霊に近い、というかほぼほぼ精霊そのものだろう。戦いだけが私とチュルーリを繋ぐ絆だった。そして、私は最後の戦いでチュルーリを超えた。」
長い眠りから覚めたチュルーリはオネ達六人の子ども達と戦い、最後には全員と共に封印されている。その後、世界は魔法使いが台頭し、中央の国センテルや春、夏、秋、冬の国といった魔法使いが指導者とする国が次々に生まれた。
「…思えばあの戦いが最後の親孝行だった、のかなぁ。」
「親子の絆など糞喰らえだと言っているだろう。師弟の絆の方が近い。」
「出藍の誉れ?」
「………まあ、そういう感じか。」
「確かに母さんは戦いを好む人だったね…。」
(…ただ、それは僕らに見せる側面であって、父さんに見せる側面はまた違っていたように思う…。)
ツヲは昔の記憶の海の中を泳ぎ始めた。
この記事へのコメント
「奴隷」と書いて「こくみん」と読む、相変わらずのオネクオリティ!
そして母親よりも師匠であったチュルーリ。ミッドの前では“女”だった? ドキドキしてきますね。
強い女と、付き従う男というシチュエーションが、いろいろと大好物なアッキーであります。
維澄「佐久間と山田の関係も、ある意味そうと言えなくもないね。」
佐久間「私と死根也の関係もな。」
山田「チュルーリを超えた?」
八武「凶暴な美少女が自分にだけはデレデレって、イイよね。」
神邪「山田さんは幸せ者ですね。」
山田「そうだろうか・・・。」
佐久間「設定年齢もう少し下げた方がいい?」
山田「そこじゃない。」
佐久間「ああ、うんと下げて3歳くらいにした方がいいのか。」
山田「勝手にすれば。」
佐久間「素っ気ないな。ツンデレか。少しはツヲを見習え。」
神邪「ツヲさんも意外とデレは少ない気がしますが。」
八武「男はシャイだから、なかなかデレないのだよ。」
お待たせしました!オネも相変わらず、ツヲさんも変わらず。今回はちょっと過去の方に視点を移したいと思います。かつて、英雄の子孫として二国を潰したチュルーリのその後も少しは補完しておきたいところですし。当時は、チュルーリがどんな行動を取ろうとも最後まで付き従ったミッド。二人のその後の関係はいかなるものだったのか。佐久間さんと山田さんの関係に似てなくもないかもしれませんね。
チュルーリは最後に六姉妹によって封印されている上に、その後からもオネは鍛錬を怠ってはいません。なのでチュルーリを超えたと豪語しています。しかし、本当に超えたのかどうかは…。
世界最強の魔法使いであるチュルーリがミッドにだけはデレデレだとしたら、美味しいですよね。モグモグ。
思えばツヲさんはあんまりデレてないかも?求愛と変態発言ばっかりかも…。