英雄再来 第二十二話 過去のツヲ5

決戦の時。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「まあ、戦えば絶対にお前が勝つだろうな。」

僕が、目標――ミッドを超える――についてオ姉さんに相談したら、即座に返答が来た。

「ツヲ、考えてもみろ。お前はほぼ不死の半精霊で魔法使い。ミッドは人間で全盛期をとうに過ぎた老人。勝負の結果は火を見るよりも明らかだ。」

オ姉さんの言うことは当然といえば当然の反応だった。

「ただ…。」
そう言ってオ姉さんは言葉を繋げた。
「戦うことには意味があるだろうな。まだ、世界の誰もお前がミッドに勝ったという知らせを聞いていない。目の前の相手がどれほど弱かろうが全力を出すのが礼儀だし、殺したいと思っているのなら尚更だ。ごちゃごちゃ考える前に戦えばいいだろう。クソババアの牽制など気にするな。心が戦いたがっているんだろう?」

そうだ。オ姉さんの言う通りだ。僕はミッドを超えたい。この衝動は日増しに大きくなっていた。





そして、ある日、僕はミッドに告げた。もう学ぶことはないから殺試合(ころしあい)をしてほしい、と。短絡的に言った訳ではない。十分に考え、思考を整理し、精神を落ち着かせ、自分なりに最良の判断を下したと思って言った言葉だった。

「分かりました、ツヲ様。」
ミッドはいずれこの瞬間が来ることが分かっていたようで、いつもと変わらない口調で対応した。
「試合形式を決めさせて頂いてもよろしいでしょうか。」

何だって構わない。ミッドと戦えるのなら。

「でしたら、試合開始は明日の朝、場所はここより南方にある平原といたしましょう。どのような武器を持ってきて頂いても結構です。決着はどちらかの息の根が止まること。また試合開始から一分後に決着が付かない場合は引き分けといたします。立会人にはチュルーリ様が相応しいと思われます。いかがでしょうか。」

それでいい。僕は頷いた。


晩御飯の時に母さんにその話をしたら、苦々しい顔をしながら言った。
「ミッドからも聞いた。」

「かかかっ。ついに殺るのか。」
戦う、ということだけでオ姉さんは興奮していた。自分が戦う訳ではないのに。本当にオ姉さんは戦いが好きだ。


僕とミッドはほとんど何も言わずに晩御飯を食べた。いつも通りだった。

「お休みなさいませ、ツヲ様。」

そして、いつも通りの言葉を交わして僕とミッドは分かれた。次に会うのは殺し合う時だ。



ミッドと分かれた僕は、その足で戦いの場である南の平原に向かった。半精霊の僕にとって睡眠など、ほぼほぼ必要としなかった。僕は平原の辺りにあった少し小高い場所に腰を降ろし、煌く星々を見ながら今までのミッドから今までに学んだことを思い出していた。

ミッドから学ぶことを全て学んだ訳ではない。しかし、ミッドから「どう学ぶのかという方法」は全て学び取ったと思っていた。ミッドがいなくても、これから先、自分の力で何でも出来る。そう思い至っていた。

ミッドとの戦いも頭の中で想定して、さながら模擬戦のような感覚で想像を膨らませていた。ゴミ虫三匹を退治した時のミッドの動きも今では目で追える。あの時は気を配っていなかっただけだった。あの先制攻撃は技術によるもので、相手が攻撃に移る一瞬手前の時間に攻め入ることで相手の反応を遅れさせただけのこと。それが出来るためには相当の時間と鍛錬を積んだことを僕は分かっていた。しかし、半精霊の僕にとって原理さえ分かってしまえばそれは人間よりも容易であり、対処も容易だった。
また、ミッドは老いた故に力も強くない。だからこそ最速の動きで最も柔らかい首を掻き斬るのが精一杯だった。最後のゴミ虫に対しては掻き斬るだけの力もなかったので突き刺したのだろう。あの戦いはミッドが「勝った」のではなく、非力ゆえに「勝つための道がそれしかなかった」のだ。速さも、攻撃力も、僕の方が圧倒的に上だし、僕の方は魔法が使える。本気の戦いとなれば、数秒、もしくは数十秒で僕が勝つ。一分も必要ない。それはオ姉さんもほぼ同意見だった。



これは戦いではない。儀式だ。僕が一歩成長するための。



そんなことを考えていると、いつの間にか夜が明けていた。そして、ミッドと母さんがこちらに向かってきた。相変わらず母さんは小さくて、ミッドと並べば父親と娘ぐらいの身長差だった。ミッドは普段とは違い、古ぼけた衣を身に纏い、腰には剣を携えていた。オ姉さんも当然のことながら観戦に付いて来ていた。

「さて、ツヲ様。これが最後になるかもしれません。何か仰っておきたいことがあるのなら、お聞きします。」

僕は何も言う言葉が出てこなかった。想いは戦いの中に込める。特にない、そう言葉にするだけだった。

「そうですか。では、このミッドからはまずツヲ様への謝罪をしたいと思います。」

謝罪?

「害虫三体を葬るのに、手加減し過ぎたことでございます。」

訳が分からなかった。何故、手加減していたのか。そして何故、そのことで謝るのか。

「おそらく、あの戦いっぷりを見てツヲ様はこう思われたはずです。こんな弱い者が自分の教育係として相応しいのか、と。そのようにツヲ様を悪戯に不安がらせてしまい申し訳ありませんでした。そして、ツヲ様は今、このミッドがツヲ様の教育係として相応しいのかどうか確かめようとしている。このような無駄な時間をとらせてしまったこともまた、遺憾の極みでございます。」

ミッドは、剣を抜いた。その時にミッドの腕が異常なほど筋肉質になっていることに気が付いた。普段からミッドを見ている僕には分かる。夜に分かれる時まで、ミッドの腕は老人の腕だった。魔法の類なのか。だが、ミッドは魔法使いではない。自分の疑問に答えが見つからなかった。

「ツヲ様に武芸を教える者として、このミッド、ツヲ様より弱いなどということがあってはならないと考えております。しかし、既に体は老体。体力も筋力も全盛期には遠く及びません。しかし、一分でございます、ツヲ様。一分だけならば、このミッド、全盛期と同じ状態で戦えるのでございます。」

「かかかっ!魔法使いで半精霊のツヲより強いと豪語するのか!これは楽しみだなあ…!」

オ姉さんは無邪気に笑っていた。

「ツヲ様。万が一、ツヲ様が死ぬことがあれば教育係としての使命を果たせないばかりか、これまでの教育が有効でなかったということ。その時は潔く自害いたします。また万が一、このミッドが戦いで命を落とすようなことがあればツヲ様の教育係として不適格だったと思って頂いて結構です。」

そう言って、ミッドは剣を構えた。僕に教えてくれた構えと寸分変わらない、基本に忠実な構え。


「ツヲ!」
不機嫌な顔をした母さんが僕に声を掛ける。
「これは戦いだ。手を抜くことは許さん。ミッドへの侮辱にあたるからだ。一分は私が数えてやる。存分に殺す気で戦え。それとミッド!」

「はっ!」

「当たり前だが私との約束は必ず守れ。こんなところで死ぬことは許さん。」

「はっ!」


僕は、ミッドと向かい合った。

「かかかっ!それじゃあ試合開始は私が合図しよう。」
オ姉さんは高く手を上げた。
「試合――――。」
そして、その手を大きく振り下ろした。
「開始!」


残り時間60秒。殺試合(ころしあい)が始まった。










ミッド。僕はミッドを超えたいと思った。ミッドを強いと感じたからだ。だから勝負を挑んだ。でも、ミッドから見ると、それは「侮り」に写ったのかい?

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2016年07月30日 14:25
殺試合は避けられない!?
しかし全盛期の力を隠し持っていたミッド!
これは燃える展開ですよ・・・!

佐久間「ムッシュメラメラ! 心がワクワク&手に汗握る笑顔が止められないぜ!」
山田「ツヲがミッドに負けるとは思えなかったが、俺もミッドを侮っていたか?」
八武「後のイメージで見てるせいもあるねぃ。そうでなく、現在よりも拙いという目で見なければなるまい。」
維澄「それでもミッドが勝つかどうかはわからないけれどもね。」
神邪「チュルーリさんが苦い顔をしてますからね・・・。」
佐久間「教育者が全てにおいて生徒より優れている必要は無いが、時には実力を見せねばならないときもある。ドラゴンボールで、悟空がスーパーサイヤ人3に変身したようにな。」
八武「にゃるほど。」
山田「ミッドは戦いだけではなく、ツヲに何かを伝えるつもりだ。目が離せない。」
2016年07月30日 23:30
>アッキーさん
どう足掻いても不可避!この二人の激突は時間の問題だった!でも、チュルーリの参謀を務め、更には長年連れ添っているミッドが黙って殺されるはずはありませんでした。人間VS精霊のガチバトルが始まります。私自身もドキドキ…。

もちろん、今現在のツヲさんからすると当時のツヲさんは弱いです。ただ、それでも…。ぶっちゃけると、世間一般的にはミッド<<<<<ツヲは間違いありません。この段階でも、ツヲは暴れ回れば地形をも変え、数万の軍勢相手でも勝ってしまうでしょう。チュルーリも出来れば戦って欲しくないというのが心中です。が、二人が戦いを了承した以上は手出しするのはマナー違反だと思っているのでしょう。

ミッドはああ言っていますが「真実でなくても言わなければならないことがある」ということです。ツヲさんの教育者として、導く者として、ツヲさんより常に優れていたいのです。

教育者が児童・生徒より全ての面で優れていなくても教育は出来ます。しかし、教育するべき事柄で劣っていることがあるとしたら、それを絶対に口にしない。そして、それに気付かれる前に自分自身がそれよりも優れた能力を身に付けるようにするでしょう。それが教育する側の者としてのプライドなのです。
教える者は教えられる者を最大限成長させるために努力を惜しまない。しかし、その一方で教えられる者に追い越されないように自分自身も研鑽を積まなければならない。

ミッドはチュルーリからツヲの教育を任されている以上、この戦いもまた良き教育の機会と捉えているのかもしれません。この戦いを通じて、ミッドは何を伝えるつもりなのか。

この記事へのトラックバック