英雄再来 第二十二話 過去のツヲ10

戦いの果てで得たもの。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

勝った。ツヲがそう確信した瞬間だった。ミッドの腕がツヲの水針(ワーエドレ)を脇に挟むようにして掴んだ。

水針(ワーエドレ)は確かにミッドを貫いた。だが、貫いたのは脇腹。即死ではない。ミッドはツヲの一部である水針(ワーエドレ)を捕らえるためにあえて攻撃を受けたのだ。

「勁(けい)――――!!」

ミッドが捕らえた水に渾身の力を込めて技を放つ。ツヲが危険を感じて、それを引っ込めるよりも先に。

「ら―――――!!」











「そこまでだ。」

突如、僕は目に見えない力で引っ張られてミッドと分断された。そこにはミッドの腕を取る母さんがいた。

「一分経ったが両者死なずだ。よってこの戦いは引き分けとする。以上。」

僕は人間の形に戻ってミッドを見た。息は荒く絶え絶えで、立っているのがやっとの状態。目は虚ろだし、全身から覇気が消えていくのが手に取るように分かる。ミッドはもう一秒も戦えない。本当に一分間だけなのだ。あの一分間に自分の持ちえる力の全てを凝縮し、何一つ出し惜しみすることなく全て使い切ったのだ。全力全開で、全身全霊で。

一言も喋ることが出来ない、そんな満身創痍なミッドを母さんはヒョイと抱えて癒しの呪文を唱えながら住処の方へ軽々と運んでいった。僕はその光景を黙って見送った。



「強かったんだな、ミッド。」
そんな僕のところにオ姉さんが来た。

「うん、強い…。」

「まあ、私なら勝っていたがな。かかかっ。」
とオ姉さんなら言うだろうと思っていた。それだけに次の台詞が強烈だった。


「私でも殺せなかっただろうな。」

「えっ?」

僕は目を丸くしてオ姉さんを見た。オ姉さんは真剣な表情で先ほどの戦いを振り返るかのように言葉を続けた。

「正直なところ、一分もいらないと思っていた。私と二日間も戦い続けられたツヲなら数秒で終わると思っていた。だが、奴は60秒を守りきった。奴の戦いを見て手の内が分かった今なら話は別だが、初見だったら無理だな。チュルーリが言ってた通り、人間も強いんだな…。」

オ姉さんはそれだけ言って、しばし黙って、それからスタスタと歩いて行ってしまった。





戦いを終えて、僕は心の中に奇妙な感覚が芽生えているのに気が付いた。何かが足りない、といつも感じていた渇きが潤されているような感覚だった。

ミッドは60秒間、一切手を抜かなかった。一切逃げようとしなかった。全て本気だった。本気で僕と向き合って、全身全霊で僕とぶつかって、全力で僕と戦ってくれた。

きっと、ミッドはこの日のためにずっと準備をしていたのだろう。魔道具を用意し、僕と戦うことを想定し、日々の鍛錬を欠かさず、技に磨きをかけて、ずっとずっと待っていてくれたんだ。僕がミッドに戦いを挑む瞬間を。

そんな素振りを僕は微塵も感じなかった。ミッドは悟られないよう巧妙に隠していたと思う。でも、あんなに近くにいながらそれに全然気が付けなかったのは僕が未熟だったからだ。

今日、僕は初めて、ミッドがどれほど僕のことを見ていてくれたのか、考えていてくれたのかということに気が付いた。


「ありがとう、父さん。」
僕は無意識に、そう呟いていた。










第二十二話 過去のツヲ 終わり

第二十三話に続く

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この記事へのコメント

2016年08月03日 11:11
流石ミッド、私たちの期待を裏切らない!
もとい、妻の期待を裏切らない!
やはり脇腹で受けていたんですね・・・。

そしてオネも、この戦いで精神的に成長!
私も、ツヲと同じことを想像していました。いかにもオネなら、そういうことを言いそうだと。
それだけに、この衝撃がわかります。

八武「ラストのセリフに泣いた!」
佐久間「エロ以外でも感動するんだな。」
八武「するよ!」
山田「引き分け。だがミッドの“勝ち”、だな。」
佐久間「手の内を晒さないことも、強さのひとつ。ツヲもオネも、自分より強い相手との戦い方を学んだ。」
山田「オネは、最強になりたいと言ってるが、勝てば最強という単純なものではなく、強さと勝利は別物。チュルーリの言っていた意味を、爪と共に噛み締めている。いいシーンだ。」
佐久間「やはりロr」
山田「そういう意味じゃねえから!」
八武「息子は父親の背中を見て成長する。感動的だ。」
佐久間「やっぱ子供がいないのは寂しいか?」
八武「弟子がいる。それでいい。」
神邪「ドクター・・・。」
2016年08月03日 11:36
>アッキーさん
ミッドが全部やってくれました!あの状況からでもキッチリ対応、キッチリ反撃!チュルーリが見ている前で恥ずかしい戦いなど出来るはずがありませんね。肉を切らせて骨を断つ。最後の一撃はタイムアップで入れられなかったものの、これが決まっていればまたツヲさんをバラバラに吹き飛ばしていたでしょう。

この戦いはツヲさんとミッドだけに留まらず、オネにまで影響を与えました。ミッドがオネも観戦に来ることを予想していないはずがありません。オネに対しても背中で語り何かを伝えるために、この試合は負けることが許されない戦いでした。人生の中で絶対に負けてはいけない場面というのが存在すると思います。ミッドの「勝利」がもたらした成果は非常に大きかった。

ずっとチュルーリの従者としての顔、教育係としての顔しか見せてこなかったミッド。およそ「父親」のような振る舞いをしたことはなく、実の息子や娘に対しても執事や付き人のような接し方をしていました。しかし、その実、言葉では語り尽くせないほどに愛情を注いでいた。

ツヲさんが最後の台詞を言った時、この第二十二話はこのシーンを書くために執筆が始まったんだと感じました。

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