英雄再来 第二十四話 ツヲ放浪記2

そうだ、旅に出よう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ミッドが死んだ後、母さんの最後の子どものゼロが生まれた。その後から母さんは少し長い眠りに就いた。それまでもしばしば眠ることが多かった母さんだが、ゼロを生んでからの眠りは冬眠に近かった。

本来なら精霊は人間と違って眠りを必要としない。眠るのは人間の要素が残っている証拠でもあり、僕も普通の人間よりは睡眠時間が短いけれども眠る。ただ、母さんの眠りは意味合いが違っていた。母さんは元々、僕のお祖母さんであるハイジマバイカが召喚した精霊だ。召喚方法が特殊だったために人間の要素を併せ持っているが、通常の精霊召喚と同じで魔力が切れれば精霊界に戻ることになる。この世界に残り続けるためには魔力を補充しなければならなかった。

母さんはある方法で魔力を補充する。ちょうど人間が食事をするような感覚で。けれども、母さんは意図的に長くその方法を取ってこなかった。人間で言えば断食だ。何十年とも言うべき断食と幾度とない魔力の消費で母さんの魔力は底を尽きかけていたのだ。おそらく本能がそれを察知した。だから魔力消費を抑えるための睡眠が増えたのだろう。

とにもかくにもミッドは死に、母さんは眠りに就いたことで僕達は六人で暮らしていくことになった。



と言っても特に不自由な生活をしていた訳ではない。半精霊であるので食事もそんなに躍起になって取る必要もない上に、住処の近くは畑あり生簀ありで食べ物には事欠かなかった。保存食の作り方も教えてもらっていたので食料は余るほどだった。肉が食いたければ近くの森へ行って適当な動物を狩ればいい話だ。住処は母さんが頑丈に作っていたし、増築したければフォウルの土魔法でどうとでもなった。ゼロを育てながら、僕達は母さんが起きるのを気ままに待ちながら暮らした。



しかし、僕の中には一つの渇きがあった。ミッドが死ぬということを意識した時に生まれた小さな渇き。その渇きはミッドの死後、徐々に膨らんでいった。この渇きの正体は何なのか。ミッドを失ったことで、向かうべき目標を明確に定められなくなったからか。ミッドの存在が大き過ぎて、いなくなったことに対する強烈な違和感からか。

その渇きを癒すために僕は初めて旅に出た。
姉妹達にしばしの別れを告げ、住処を離れ、どこまでも広がる世界へ。





世界を巡るに当たって僕には一つの期待があった。それはミッドのような人間に出会えるかもしれないという期待だ。人間の中には時々住処に来て食料を奪おうとするゴミ虫共がいることは分かっている。ミッドのような人間と、そうでない人間のどちらが多いのかは分からないが、広い世界を旅すればそのような人間にも出会えるだろうと思っていた。

だが、現実は違った。

行けども行けども出会うのは山賊か盗賊か追い剥ぎか盗人。ゴミ虫ばかりに遭遇する。集落に辿り着いてみれば逆に僕が賊扱いを受けた。
その集落を「真実の眼」で見渡してみれば畑は荒れ放題。母親はひもじくて泣き叫ぶ子どもに苛立ち殴り付ける。男手はあまりなく、年老いた者達が動きにくくなった足腰を使って何とか集めた山菜で飢えを凌いでいる。そのなけなしの食料もまた奪いに来る者達がいる。
抵抗した者達は殺されたようだ。

別の集落では問答無用で襲撃を受けた。奪おうとするなら逆に奪ってやると言って。僕は何も奪ってはいないが、そんなことは関係なかった。食料がたくさんあるところは防壁を固め、外敵の侵入に怯えている。襲い来る者達は先の見えない不安に怯えている。

戦をしているところもあった。食料を守るために武器や人員を揃えた集落が、人員多過で食べていけず、ついには他の集落を襲って食料を集め始めたのだ。そのような集落同士がお互いの土地と食料を巡って戦をしていた。
たくさんの屍が並び、疲弊したところにまた別の勢力や盗賊が乱入し、血で血を洗う混迷とした状態になっていた。





何だ、これは。これらは人間なのか?ミッドのような「人間」はどこにいる?

そうか、母さんがミッドにあれだけ入れ込んでいた理由が分かった。ミッドほど立派な人間はそうそういないのだ。僕の期待は大きく裏切られた。

渇きが、大きくなった。










人間とは、ゴミ虫の別称だったのか?

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この記事へのコメント

2017年09月06日 14:03
希望を求めて旅に出たのに、出会うのは絶望ばかり。ツヲの影の部分が大きく膨らんでいくようです。

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