英雄再来 第二十四話 ツヲ放浪記4
少し道を尋ねるか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ボロボロの、村と呼ぶには余りにも朽ち果てた集落の前で向かい合う若き女性と盗賊達。盗賊の頭が女性に交渉という名の脅迫を仕掛け、女性がそれに屈するか否かのその時に一人の少年が現れた。
「…ん?」
最初に少年の存在に気が付いたのは後ろの方にいた盗賊の下っ端だった。誰かの足音がするから後ろを振り返ったら、スタスタとこちらに向かって歩いてくる少年がいるではないか。
「何だ、てめえ…!?」
盗賊の下っ端は何も考えずに、条件反射的に突っ掛かった。少年はそれをめんどくさそうに交わす。結果、盗賊の下っ端はつんのめって盛大に地面に転んだ。そのために盗賊全員が少年に気が付いた。
「おい!てめえ…!」
盗賊の恫喝に、少年は一切聞く耳を持たない。何もない道を、何も聞こえていないように少年はスタスタと歩く。盗賊達もどうしてか口は出ても手が出なかった。その少年から何やら禍々しいものを感じて本能が警告していたのだ、手を出してはいけないと。
その十数秒の間に少年は集落の前にいる女性のところまで歩み寄っていた。
「少し聞きたいことがあるんですか、よろしいでしょうか?」
その声を聞けば、少年がまだ声変わりもしていないほどに幼いことが分かった。そして、とても丁寧な口調であることから育ちの良さが伺えた。
「ど、どげんしたと?」
女性は目をパチクリしながら聞いた。盗賊が襲ってきているこの状況をこの少年は理解しているのだろうか。まるで普通に旅をして、普通に道を聞いてくる。あの盗賊達が無力であると言わんばかりに。
「先ほど聞こえたのですが、この近くに海があるのでしょうか?」
「え?あ?海?う、うん。そやね。海は近とよ。ここの道ばずっと真っ直ぐ行ったら、見えてくるけんね。」
「お、おい!」
その二人の会話を遮ったのは盗賊達だった。
「てめえら、何を仲良く喋ってやがるんだ!」
「オレ達を馬鹿にしやがって!もう許さねえ!」
「大人を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるぜ!」
彼らは自分達の本能からの警告を無視した。目の前の女子供に舐められて溜まるかと、血気に逸った。それは盗賊の頭も例外ではなかった。
「おい、お前。余所者だな?この村はたった今からオレ達の物になったんだ。」
「ち!違っ!」
女性は慌てて否定したが盗賊がそんな声に耳を傾けるはずがない。
「お前達、やってしまえ!」
それは実力行使だった。ここで見せしめに少年を殺せば、所詮は女子供だ、怯えて言うことを聞くだろう。そんな考えでの行動だった。
「あ?」
瞬間、少年の周りに分厚い水の膜が現れ、そこから何十本という水の針が飛び出した。刺されば重傷。当たり所が悪ければ、死。
「ひいいっ!」
突然現れた水に面食らった盗賊達が水の針を交わせるはずがない。しかも水の針の攻撃範囲は広く、大人数の盗賊達に逃げ場などなかった。
ただし水の針が突き刺さるギリギリ一歩手前で、それら全て止まった。
「あんたら!!」
その瞬間、女性が叫んだ。
「交渉は決裂よ!わっちゃらはわっちゃらだけで生きてく!あんたらは、さっさとこっから立ち去らんかいね!!!」
次の瞬間には盗賊達のすぐ目の前の地面が風で抉れて暴風が吹き荒れた。
「大風の餌食になりたー人はどいつかいね!」
「うわあ!正真正銘の化け物だあ!」
「逃げろお!」
「こんなに強い魔法が使えるなんて聞いてねえよ!」
水と風の強力な魔法を見せ付けられて盗賊達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
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ボロボロの、村と呼ぶには余りにも朽ち果てた集落の前で向かい合う若き女性と盗賊達。盗賊の頭が女性に交渉という名の脅迫を仕掛け、女性がそれに屈するか否かのその時に一人の少年が現れた。
「…ん?」
最初に少年の存在に気が付いたのは後ろの方にいた盗賊の下っ端だった。誰かの足音がするから後ろを振り返ったら、スタスタとこちらに向かって歩いてくる少年がいるではないか。
「何だ、てめえ…!?」
盗賊の下っ端は何も考えずに、条件反射的に突っ掛かった。少年はそれをめんどくさそうに交わす。結果、盗賊の下っ端はつんのめって盛大に地面に転んだ。そのために盗賊全員が少年に気が付いた。
「おい!てめえ…!」
盗賊の恫喝に、少年は一切聞く耳を持たない。何もない道を、何も聞こえていないように少年はスタスタと歩く。盗賊達もどうしてか口は出ても手が出なかった。その少年から何やら禍々しいものを感じて本能が警告していたのだ、手を出してはいけないと。
その十数秒の間に少年は集落の前にいる女性のところまで歩み寄っていた。
「少し聞きたいことがあるんですか、よろしいでしょうか?」
その声を聞けば、少年がまだ声変わりもしていないほどに幼いことが分かった。そして、とても丁寧な口調であることから育ちの良さが伺えた。
「ど、どげんしたと?」
女性は目をパチクリしながら聞いた。盗賊が襲ってきているこの状況をこの少年は理解しているのだろうか。まるで普通に旅をして、普通に道を聞いてくる。あの盗賊達が無力であると言わんばかりに。
「先ほど聞こえたのですが、この近くに海があるのでしょうか?」
「え?あ?海?う、うん。そやね。海は近とよ。ここの道ばずっと真っ直ぐ行ったら、見えてくるけんね。」
「お、おい!」
その二人の会話を遮ったのは盗賊達だった。
「てめえら、何を仲良く喋ってやがるんだ!」
「オレ達を馬鹿にしやがって!もう許さねえ!」
「大人を怒らせるとどうなるか思い知らせてやるぜ!」
彼らは自分達の本能からの警告を無視した。目の前の女子供に舐められて溜まるかと、血気に逸った。それは盗賊の頭も例外ではなかった。
「おい、お前。余所者だな?この村はたった今からオレ達の物になったんだ。」
「ち!違っ!」
女性は慌てて否定したが盗賊がそんな声に耳を傾けるはずがない。
「お前達、やってしまえ!」
それは実力行使だった。ここで見せしめに少年を殺せば、所詮は女子供だ、怯えて言うことを聞くだろう。そんな考えでの行動だった。
「あ?」
瞬間、少年の周りに分厚い水の膜が現れ、そこから何十本という水の針が飛び出した。刺されば重傷。当たり所が悪ければ、死。
「ひいいっ!」
突然現れた水に面食らった盗賊達が水の針を交わせるはずがない。しかも水の針の攻撃範囲は広く、大人数の盗賊達に逃げ場などなかった。
ただし水の針が突き刺さるギリギリ一歩手前で、それら全て止まった。
「あんたら!!」
その瞬間、女性が叫んだ。
「交渉は決裂よ!わっちゃらはわっちゃらだけで生きてく!あんたらは、さっさとこっから立ち去らんかいね!!!」
次の瞬間には盗賊達のすぐ目の前の地面が風で抉れて暴風が吹き荒れた。
「大風の餌食になりたー人はどいつかいね!」
「うわあ!正真正銘の化け物だあ!」
「逃げろお!」
「こんなに強い魔法が使えるなんて聞いてねえよ!」
水と風の強力な魔法を見せ付けられて盗賊達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
この記事へのコメント
ただ「勝ちたい」のではなく「超えたい」という、一歩進んだ概念。死んだ相手に勝つことは出来なくとも、超えることは出来るかもしれない。
女の子を助けるのは男の子の役目と言わんばかりにヒーロー登場?
これが過去エピソードであるという時点で、かなり嫌な予感しかしませんが・・・。それは流石に疑心暗鬼が過ぎる?
父親が亡くなり、母親は冬眠。今までツヲさん自身が意識的か無意識的かに関わらず、目標にしてきた存在の喪失。それは同時に今まで自分を導いてくれた存在の喪失でもありました。生物である以上、いつかは「親離れ」をする時期が来るのかもしれません。それが早いか遅いかだけなのかも。いわゆる守破離というやつでしょうか。
ツヲさんが目指すのはミッドの更に先。それはツヲさんにとって全てが手探りの状態ということでもあります。
さて、女の子を盗賊から助けたヒーローな少年の登場。過去のエピソードということで一体何が起こるのか…。過去なくして未来はない。この話で起こることは全て未来に繋がっています。