英雄再来 第二十四話 ツヲ放浪記5

「人間」に出会った。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「もう二度と来んなー!」

逃げていく盗賊に向かって彼女はそう叫んで更なる大風を呼び寄せた。そして、完全に盗賊達が見えなくなってから僕の方を向いた。

「あんた、あんがとーね!おかげであいつらを追っ払えたよ!」

その感謝の言葉を述べる笑顔は、とても眩しかった。

「何故ですか?」
ただ、一つだけ気になったことがあった。
「どうしてあなたは全力を出さないんですか?」

「へ?」

僕は彼女の顔をじっと見た。彼女は僕の質問の意味を図りかねているのか、顔を少し赤くして困惑していた。なので僕は言葉を補った。

「あなたが全力をだせば今のゴミ虫共を皆殺しに出来ました。でも、それをしなかった。なぜですか?」

「そ、そりゃあんた、人殺しは駄目だべよ…。」

「人?あれらは「人間」ではない。」
その時の僕は氷のような目をしていただろう。
「相手を武力や数で威圧し、女子供だからと見下して、自分達の都合を押し付け、全てを奪おうと横暴を働く。畜生にも劣る、ゴミ虫だ。」

少しの沈黙の後、彼女は大きく息を吐いた。

「…まっ、確かに勝手な奴らだべよ。でも、相手の勝手にこっちが合わせる必要もないべ。わっちは殺さない。大人達が命を奪い合った結果、わっちらはここに流れ着いたんやから。あいつらと同じことはしなくなーよ。それに――――――。」
彼女は後ろを振り向いた。オンボロな家の隙間から見えるは小さな子ども達の瞳。
「わっちはこの子らを守りたいんよ。さっきで盗賊の誰か一人でも殺してたら次はもっとたくさんで来るべ。そんな大勢を相手に出来るほど、わっちは強くないべ。弱者の知恵ってやつだべ。それに、あんたも殺さなかったべ。」

そう言いながら彼女は笑った。僕が殺さなかったのは、あいつらを殺す労力を払うのすらうっとおしかっただけなのだが…。

「皆、もう出て来ても大丈夫だべ!こっちの人が協力してくれて、あいつらは逃げたべ。」

彼女の言葉で物陰や家の中から何人もの子ども達が出て来た。出るわ、出るわ。ぱっと見回しても十人以上。

「そうだ。わっちはルアル。あんた、名前はなんていうんだべ?」

「ワーテル・ツヲ・チュルーリです。」

「おお…。何か、長い名前だべな…。ツヲって呼んでいいだべ?」

「どうぞ、ご自由に。」

「ツヲ。せっかくだから飯、食ってけろ。おごるべ。」

「いいえ、結構です。先を急ぎますので。」

「あ、ツヲ!」

僕はルアルの制止を聞かずに歩き始めた。この集落は見た目から分かる通り、食料を多く溜め込んでいる様子はない。子ども達の数は多いが、労働力としてどれほど役に立つだろうか。魔法使いはルアル一人だけのようだし、僕に振舞うことで貴重な食料を奪う訳にはいかない。感謝は言葉で十分だ。いや、「人間」に会えただけで、十分だった。





ルアルに聞いた道をただひたすら歩いた。すると見えてきた。木々が急になくなり開けた場所。砂地ばかりの地面、砂浜の先に。どこまでも広がる青い場所。海だ。地平線まで続く水の地形。水の量が多すぎて、地面に染み込んで渇くこともないし、どこかに流れ出してなくなることもない。圧倒的な量の水。僕は、ここまで旅をしてきてよかったと心の底から思った。

ずっと海を眺めていた。どれだけ眺めても飽きなかった。寄せては繰り返す波と音。吹き抜ける風と海の匂い。遠くで跳ねる魚達。近くを見渡しても色々な生き物がいる。気が付けば日が少し傾いていた。

「おっ!ツヲやんねー!」

その声に振り返った僕の目に、先ほどの集落で出会ったルアルがいた。しかし、何故か下着姿なのだが…。

「海ば、初めて?」

「はい。ところで、どうしてそんな格好なんですか?」

「へ?これ?これは水着っていうんよ。前にここらに住んでた人が使ってたみたいで、濡れてもすぐ乾くから便利なんよ。」

水着…。そういう服もあるのか…。

「そいだら、ツヲ。ちょっと濡れるけん。離れててや。」

「はい、分かりました。」

僕が離れたのを確認してからルアルは魔法を使った。

「そりゃー!」

竜巻が発生し、海から水を巻き上げる。巻き上げられた水は砂浜へと雨を降らす。そして、降って来た雨の中には何匹もの魚がいた。

「えへへー。どや?わっちの風魔法、便利やろ?」

そう言って、ルアルは僕に向かって笑顔を見せた。

「さあて、後は魚を捕まえるだけやんね。」

ルアルは砂浜で跳ねている魚達を素手で捕まえにかかった。しかし、魚達もビチビチと跳ねて最後の抵抗を試みる。

「ここが、意外と、手間取る、ところ…!」

「水(ワーテル)。」

ツヲの操る水が細い糸のように伸びて魚達を串刺しにして一つにまとめ上げた。

「確かに、魔法は便利ですね。」

「凄い!わっち、そんな器用に動かせないんよ…。」

「なるほど…。」

「?」

首を傾げるルアルを尻目に、ツヲは昼間のことを思い出していた。

(ルアルは魔法の制御が得意ではないのか。下手に使えば住処も壊してしまって、守るべきものも失ってしまう。だから敢えて積極的には使わなかった。僕はつい魔法に頼りがちになってしまうが、彼女はちゃんと使い時や使いどころを考えていたということか。…これぞ「人間」だ。誰かを守る信念、何かを守る執念、そのような強い意思を持って行動する者、「人間」…。ああ、僕はようやく「人間」に会えたのだ…。)

その時、僕は自分の中の渇きがなくなっているのに気が付いた。

「ルアル、あなたに出会えてよかった。」

「へっ?な、何ね?急に?」
ルアルは顔を赤くしながら慌てふためいた。
「そ、そや!こんなにたくさんの魚、食べ切れんからツヲも一緒にどや?」

「では、お言葉に甘えて。」

夕日の差す中、ツヲはルアルと共に取れたての魚を持って集落へと向かっていった。

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この記事へのコメント

2017年09月09日 20:57
八武「わかる。」
山田「黙れ。」
八武「ちょっと待ってほしい。まだ何も言ってないではないか。」
佐久間「つまり死根也は、こう言いたいわけだ。同程度の露出でも、なぜ水着はOKで、下着はNGなのかと。」
八武「ちょっと違う。ルアルの水着姿が、ツヲの乾いた心を潤したということだ。」
山田「“人間”に出会えたからだよ!」
八武「そう言ってるではないか。むさい男など人間ではない。美女・美少女に非ずんば人に非ず。」
山田「ひどい曲解だ・・・。こうやって歴史は歪められていくのか。」
八武「私の意見だ。」
山田「なお悪い。」
維澄「八武は人間ではないの?」
八武「私は人でなし。ケダモノだ。」
山田「何かニュアンスが違う・・・。」
2017年09月09日 20:57
渇きが収まったツヲですが、まだ潤ったとは言えない気はします。
おそらくツヲは、自分を人間より高位に置いているうちはミッドに勝てない、もとい、超えた実感を得られないのですね。
妖怪が人間批判をする類の話はよくあり、あるいは“人間的”な美徳を発揮した者に対して超常的存在が目をかける話も同じくです。
そうしたものを面白く読みつつも、どこか無神経に感じてしまうのは、それらが人間を超越した存在であると言いながら人間的価値観で論じている、ダブルスタンダードな部分にあるのでしょう。
ざっくり言えば、アル・ボーエンのセリフ「お前こそエゴイストの人類そのものだ」というやつですね。人間的な倫理道徳に基づいて人間を評価しながら、それによって自分が評価されることを避けているというのは、いかにも卑劣さ拙劣さの発露であり、特に批判の方に寄っていれば尚更です。
自分が高位にあると思っているのは、実は“対岸”にいるだけで、ツヲさんにとっては「川辺に辿り着いた」のであっても、まだまだ「対岸の火事」なんですね。
るろ剣の安慈和尚とも重なりますが、渇き=負の方向への暴走が、一時的に止まった状態であって、“人間”として潤っていくには、川を渡って身体を水に浸さないといけないのでしょう・・・。
どれほどの力を持っていても、それは危険ですし、なまじ力(知力も含めて)があるからこそ渡るのを躊躇う感覚は、私としても超あるある。
2017年09月09日 20:57
「コウモリであるとはどのようなことか」という話もありますが、果たして超常的な存在というものは、人間のやること為すことを、いちいち「愚か」と思うだろうか、あるいは「美しい」と思うだろうか。
ミクモウと佐久間闇子の違いは、単に佐久間さんがミクモウの断片であるというだけでなく、ミクモウはコウモリ、怪物であって、佐久間闇子は人間であるということが大きいです。(それも相対的な位置付けに過ぎないのですが)
幼少期の佐久間さんは(比較的)怪物に近く、梅花さんに召喚されて人間と混ざったチュルーリと近い、というのは以前にも言った気がしますが、ツヲが超えたいのがチュルーリではなくミッドであるというのも、チュルーリが超常的存在に位置している、すなわち「人間を超えたいと思うのも、また人間である」ということですね。
チュルーリはツヲにとって“大自然”であり、“世界”であり、抗う相手であっても勝ち負けうんぬんの相手ではない。だからこそボコボコにされても、それで渇くことはない。
・・・やや長くなりました。
2017年09月10日 00:33
少年ツヲ「分かってくれますか、八武さん。」
白龍「この頃のツヲさんは言葉使いが丁寧です。」
少年ツヲ「ルアル…綺麗だ…。」
白龍「この水着もあっち世界から来たか、あっちの世界から来たものをこっちの世界の人々が真似して作ったものが残っていたと思われます。」
少年ツヲ「僕が求めていたのは「人間」との出会いだったのかもしれません。更に詳しく言うならば、ルアルとの出会い。」
白龍「さて、この出会いを通じてツヲさんは何を考え、何を得るのか。」
白龍(そして、何を失うのか…。)
2017年09月10日 00:34
砂漠の果てにようやく見つけたオアシスで喉を潤すことが出来たツヲさんですが、まだ一時のものなのかもしれません。これからのルアルとの関係の中で潤うかどうか。
現在のツヲさんも過去のツヲさんも基本的に精霊を人間より高位のものと置いているのは間違いないでしょう。だからこそ人間でありながら、その考えが傲慢であることに気が付かせてくれた父親ミッドの存在は貴重であり、尊敬に値し、ツヲさんの価値観に大きな変化をもたらしました。人間にも例外がいる、と。
ツヲさんは半分が精霊で、もう半分は人間。どちらでもある、と考えるか、どちらでもない、と考えるかは本人次第。過去ツヲさんは自分が精霊側に寄っているという認識な気がします。しかし、ミッドの部分、人間としての側面も持っていることを段々ハッキリと意識し始める。
そして、ツヲさんは全てが未知で手探りの状態ながら、更に自分を高められないかどうか、そしてミッドを越えられるかどうかを模索し始めました。そして、旅に出ました。まさしく自分自身を水に浸すために世界という名の大海へと泳ぎ出したのですね。このまま「人間」として潤うことが出来るかどうか。
2017年09月10日 00:34
完全な精霊であれば人間とは別次元の思想や思考をするでしょうが、半精霊のツヲさんの場合、両方が入り混じった思考になっています。先天的にある感覚もあれば後天的に身に付いた感覚もある。チュルーリが教えた感覚もあれば、ミッドが教えた感覚もある。ツヲさん自身、普通の人間とは感覚のズレを感じることが多いかもしれません。しかし、それも比べる対象が近くにいてこそ分かること。ルアルはツヲさんの水鏡のような役割を担うのかもしれません。
ツヲさんが越えたいのはミッドであり、チュルーリを越えたいのはオネの方ですね。ツヲさんにとってチュルーリはまさに自然災害のようなもので、越えるべき対象と見ることが出来ないほど大きいのでしょう。そう考えると、ツヲさんの方がオネよりも人間部分が多いのかもしれませんね。

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