英雄再来 第二十四話 ツヲ放浪記9

シアワセの朝。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『ツヲ…。ツヲ…。』

聞いた覚えのある声がする。

『ツヲ、ツヲ…。』

誰の声だったか。

『ツーヲ!起きるけんね。いつまで寝てるんよ。』

「んん…。ルアル…?」

真っ暗な中、ツヲは感覚を頼りに体を起こした。

『もう朝だべ。いつまでも寝てるのは健康に悪いべ。』

朝?こんなに暗いのに?

『今日はいい天気だべよ。魚獲りに行くには絶好の日だべ。』

「ルアル、そこにいるのですか?」

『そうだべよ。わっちはここにいるべ。』

ツヲが伸ばした手に、ひんやりと冷たい手が当たる。

『ツヲ。今日からは、わっちがツヲの手になり、足になり、眼にもなるべ。』

ハッと気が付いた。僕は死者蘇生の代償として眼を失ったんだった。恐る恐る自分の眼の方に手をやろうとすると、ひんやりと冷たい手がそれを押さえた。

『ツヲ…わっちと一緒に暮らそ!』

「え?」

『さっきも言ったべ。わっちがツヲの眼になるべ。わっちが見てるもの全部をツヲに教えるべ。あの時、どんどん周りが暗くなってもう死ぬんやって思った時、ツヲの声が聞こえたんよ。そんでツヲがわっちの手を引っ張って光の下へ引っ張り上げてくれたんよ。ありがと、ツヲ。わっちを助けてくれて。でも、ツヲは眼が見えなくなっちまった…。だから、わっちはツヲに恩返ししたいんよ!ツヲ、わっちとずっと一緒にいてくんろ。旅を止めて、ここで一緒に暮らそ、な?食べるもんにゃ困らせんべ。わっちが全部取ってきて、全部食べさせてやんべ。わっちはずっとツヲの傍にいるべよ。だから…。』

僕は静かに頷いた。もう旅は終わりだ。大陸を回った、海を見た、そして「人間(ルアル)」に会えた。僕が旅をする理由はなくなった。

『おめー達!ツヲがずっとここにいてくれるってよ!』

『ほんとー!』

ルアルの声を皮切りにして、扉の向こうからたくさんの足音がこちらに向かってきた。

『ツヲ兄ちゃんずっといてくれるんだ!』
『わーい!わーい!』
『また遊んでくれる?』
『一緒にご飯食べよ!』

矢継ぎ早に聞こえてくる子ども達の声。

『こーりゃ!おめー達!その前に言う事があるべよな?』

『うん!』
『えへへ…。』
『せーの!』
『ツヲ兄ちゃん!』
『助けてくれて!』
『ありがとう!』

「君達…。」

きっと目玉があったなら、僕は泣いていただろう。





『ツヲ。あーんするべ。どうだべ?美味しいだべか?』

「うん、美味しいよ。ルアル。」

『えへへ、そうだべか~。』

僕はルアル達と一緒に暮らした。春が来て、夏が過ぎ、秋が去って、冬を越えて、僕達はいつまでも仲良く。いつまでも一緒に。

暮らせるはずがなかった。


「探したぞ、ツヲ。」

突然の来訪者は僕のオ姉さんだった。

「オ姉さん…?どうしてここに?」

「お前がいつまでも戻ってこないもんで、流石に妹達が五月蝿くてな。こうして私がわざわざ探しに来たという訳だ。しかし、お前には外の世界は早過ぎたか?眼を失ったあげく家族ごっこなどして真実から目を逸らすとは…。」

「家族ごっこ…?ああ、そっか。オ姉さんにはまだ紹介していなかったね。」

「だが、我々は精霊だ。人間の部分を失えば、そこを魔力が補って新しい器官が発達する。人間の目よりよっぽど便利なものが出来るはずだ。」

「この世界でようやくミッドのような「人間」に会えたんだ。ルアルっていうんだけど――――――。」

「その水精霊(アクアリウス)が、か?」

分かっているさ。

「―――――彼女は元々、どこにでもいる普通の女の子だったんだけどね。ある時、魔法の力に目覚めたんだ。」

「おい…。」

分かっているさ。でも。

「ルアルの凄いところはその魔法を自分の私利私欲や誰かを傷付けるために使わなかったってことさ。自分が生きていくための必要最低限しか使わなかった。」

「ツヲ…。」

分かっているさ。でも。あと少し。

「村同士の争いから巻き込まれた子ども達を救い出し、当てのない旅の果てにこの地に辿り着いたって訳。」

「お前…!」

「ここでの生活はいいよ。海の恵みは豊富だし、争いとは無縁でいられる。」

分かっているさ。でも。あと少し。あと少しだけ、この幻想の中にいたいんだ。

「―――――いい加減にしろ!この愚弟があ!」

オ姉さんの怒号が響き渡り、水精霊(アクアリウス)達は消え去った。



誰も蘇ってはいない。僕の死者蘇生は失敗に終わっていたのだ。

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この記事へのコメント

2017年09月19日 01:03
何となく途中から夢のような予感がしていましたが、より残酷な現実だった・・・!
家族ごっこと聞いて、まさかオネが無慈悲に殺してしまうのではと一瞬失礼な想像をしてしまいましたが、ある意味それは正しかったですね。ツヲさんの幻想を殺してしまった。

ルアルしか蘇らせられないのではと思いきや、ルアルさえも蘇らせることが出来なかったあたり、私もまだまだです。考えてみれば、アルドンパカやチュルーリでさえ完全には成し得ない禁術でした。誰も完全ならざるからこそ、禁忌。

しかし、あの水精霊だったとは!!!
何となく紅麗の不死鳥を思い出しました。願わくばツヲさんの妄想ではなく、ルアルたちの魂を取り込んだのだと信じたい・・・。
2017年09月19日 22:20
>アッキーさん
夢のような時間でしたね…。醒めない方がシアワセではありましたが、醒めない夢はない…。オネさんは戦闘狂だし、色々前科(?)もあるし、条件が整えば無慈悲な殺戮も厭わない…?幻想すらもぶち壊す、まさに破壊の権化。

ツヲさんの二つの眼を捧げてもルアル一人すら蘇らせることは出来ませんでした。思えばチュルーリですらアリスを蘇らせるのに二人の魔法使いの命を使ってやっと蘇らせることが出来たほど。しかも、完全な蘇生ではなかった。まさに禁術。

ツヲさんの水精霊は万能ですね。何となく専属契約してて同一意識を保っている個体のような感じ。魔法使いであるルアルは、死んだ後その魂が精霊界で溶けて膨大な魔力の一部になったはず。しかしもし、溶け切る前にツヲさんの不完全な死者蘇生がその魂を引き揚げていれば、ひょっとすると…。

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