英雄再来 第二十四話 ツヲ放浪記11

マドロミの中で。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

雨が降る。雨が降る。いつまでもいつまでも雨が降る。雨音が周りのことを教えてくれる。滴る雨水が周りのことを教えてくれる。音と水を感知すれば、何がどこにあるのか手に取るように分かる。目がなくても、目で見るよりもたくさんのことが分かる。
僕が仰向けに倒れている場所からどういう形で地面が広がっているのか、その先のどこにオ姉さんがいるのか、どこに草が生えているのか、どこに木々がありどう幹が伸びてどう葉っぱがどう付いているのか、全部分かる。地面に水が溜まり、それらが溢れ、別の水溜りとくっついて更に大きな水溜りになる。そうして段々と地面が水で覆われていく。
水が水を呼び、水かさがドンドン増していく。そうして地面が水没し、僕の体もオ姉さんも、辺りの木々や草も水の中に沈んでいく。僕の意識もマドロミの中に沈んでいく。夢を、見た。

「ツヲ…。」

体がフワフワして、頭もボンヤリする。これは夢だ。

「ツーヲ。」

明晰夢というやつだろう。

「ツヲのお姉さんが迎えに来たべ。」

…。ルアル!?

「ツヲ、起きたべ?」

夢…?いや、夢ではない…!

「そうだべな。夢みたいなもんだべ。わっちはもう死んでいるのに、こうしてツヲとまだ話が出来るなんて、きっと夢だべ。」

ルアル…。

「ツヲ。ありがとだべ。わっちらとずっと一緒にいてくれて。この子達も喜んでくれてるべ。」

「ツヲ兄ちゃん!」
「ツヲ兄ちゃん!」

「でも、ツヲはずっと立ち止まったままになってしまったべな。でも、お迎えが来たべ。家族のところに帰る時が来たんだべよ。そして、わっちらもずっと留まっている訳にはいけんべ。お互い、先に進む時が来たんだべよ。それじゃツヲ、今までありがとうだべよ。」

ルアル、待ってくれ!皆、どこへ行くんだ!?

「ツヲ。わっちらと家族のように過ごしてくれて本当にありがとうだべ。お姉さんとも仲良く暮らしてけろ。」





「…っ!!!」

僕は飛び起きた。瞬間、周りの地形情報が飛び込んできた。色と明るさはないけれど、どこに何があるのかという情報だけがまるで目が見えている時のように鮮明に分かった。それが全方位、しかも目で見るよりも広範囲のことが即座に分かった。

だがルアルも、子ども達もどこにもいなかった。あれは夢だったのか…。いや、夢だったが夢ではなかったのだろう。きっと、ルアル達の残っていた魂が精霊界に行く前の最後の挨拶に来てくれたんだ。僕の未練のために死んだ後も随分長いこと留まらせてしまったか…。

「さようなら。」

僕は小さく呟いた。





「別れは済んだようだな。」

不意に声を掛けられた。オ姉さんだ。

「うん。」

僕はしっかりと頷いた。

「顔付きがマシになった。少しは吹っ切れたようだな。」

「…まだ引きずると思うけどね。」

「そうか。」

そう言ってオ姉さんは手を差し出した。

「帰るぞ、愚弟。妹達が待っている。」

「うん。」

僕はオ姉さんの手を取り、歩き始めた。

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