英雄再来 第二十五話 ツヲの覚醒1
再会は突然に。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
現在。
「ツヲ兄ちゃんが中々帰ってこなかったから、オ姉ちゃんが迎えに行って…。そしたら、ツヲ兄ちゃんの目がなくなってて…。」
フォウルの呟きでツヲは記憶の海の底から浮かび上がってきた。
「…ああ、そうだったね。」
「結局、オ姉ちゃんは自業自得って言うだけで、ツヲ兄ちゃんは何も喋らなかった…。」
「うん…。」
「わたし、凄く心配したのに…。」
「ごめんよ、フォウル…。」
ツヲは自分の閉じた瞼をそっと触った。その奥には何もない。けれども瞼の裏に浮かぶのはルアル達の笑顔。あの時代の中で、明るく生きた精一杯の笑顔。両目を失っても、ツヲはその笑顔に癒されていた。もう二度と見ることは出来ない笑顔だったとしても。
「愚弟。感傷に浸っているところ悪いが来訪者だ。」
「ん?…!」
オネの言葉で何かに気が付いたツヲはゆっくりと立ち上がり、壁の外側の方へと歩いていった。飛鳥花もフォウルもアールも壁の外側を見下ろすと、そこには槍を持った女性が佇んでいた。
「あれは…?」
「女性…?手にしているのは槍でしょうか…?」
飛鳥花とアールが首を傾げる中、フォウルは驚きの表情を隠せなかった。
「アクアマリン…!」
その姿は遠くからでも分かる。槍持つ佇まいだけで分かる。ボロを着ていても分かる。フォウルは土の国で宝玉に封印されていたが、年に数回だけ交遊を深める目的で訪れたアクアマリンを覚えていた。今、眼下に広がる平地に立っているのは間違いなく水の国の大魔法使いアクアマリンその人であった。
「生きていた…!?でも…!」
フォウルの疑問は最もである。水の大魔法使いは代々、水の宝玉の封印を守っていた。術者が死ぬことで封印は解ける。ツヲが復活しているということはアクアマリンは死んでいるはず、フォウルはそう思っていた。
「ムーンストーンちゃんの時と同じだ…。」
ツヲはそう呟くとマチネの巨大防壁の頂上から飛び降りた。
「ツヲ!」
「待て。」
真っ先にツヲを追おうとした飛鳥花をオネが制止した。
「何だよ!」
「あれは愚弟の戦いだ。余計な横槍は無粋だろう。ここからの観戦だけに留めて置け。」
「っ…。」
飛鳥花は心の中のモヤモヤを感じたが、ツヲと何かの因縁がある相手なら手出し無用というのも頷ける。もし、自分が決着を付けなければならない戦いに誰かが横槍を入れてきたら、それにブチ切れるという感覚が飛鳥花にはあった。しかし、ツヲに気がある飛鳥花が、ツヲに近付く女性に対して無関心でいられる訳もない。
「じゃあさ…あれ誰なんだ?」
フォウルが眼を凝らして、下を覗きながら言った。
「うん、間違いなくアクアマリン。水の国の大魔法使いでツヲ兄ちゃんを封印してた人。死んだと思ってたけど…。」
「生きていた…?」
「いや、死んでいるな。」
オネは『真実の眼』を使って片方が白くなった目を来訪者に向けた。
「あれは単に魔力で動いているだけだ。アクアマリンの持っていた膨大な魔力が死に際の強い意志に呼応して暴走したんだな。おまけに周囲の憎悪や怨念を取り込んで大分と膨れ上がっている。水の国の民の無念も一緒に取り込んだってところか。いや、もっと色々取り込んでいるか…?」
「ムーンストーンと同じ…。そういうこと…。」
フォウルはかつて自分を操り、そしてツヲや飛鳥花と共に戦って地獄に送ったムーンストーンの成れの果てを思い出していた。
「ツ、ツヲ兄様なら勝てますよね。だってツヲ兄様は強いんですから…。」
アールは皆に恐々と聞いた。
「当然だ。魔力総量は大したものだが愚弟の敵ではない。愚弟が本気を出せば一方的な試合展開で勝つ。」
オネは自慢げに言い放った。しかし、その後でポツリと呟いた。
「…愚弟の悪い癖が出なけれの話だがな。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
現在。
「ツヲ兄ちゃんが中々帰ってこなかったから、オ姉ちゃんが迎えに行って…。そしたら、ツヲ兄ちゃんの目がなくなってて…。」
フォウルの呟きでツヲは記憶の海の底から浮かび上がってきた。
「…ああ、そうだったね。」
「結局、オ姉ちゃんは自業自得って言うだけで、ツヲ兄ちゃんは何も喋らなかった…。」
「うん…。」
「わたし、凄く心配したのに…。」
「ごめんよ、フォウル…。」
ツヲは自分の閉じた瞼をそっと触った。その奥には何もない。けれども瞼の裏に浮かぶのはルアル達の笑顔。あの時代の中で、明るく生きた精一杯の笑顔。両目を失っても、ツヲはその笑顔に癒されていた。もう二度と見ることは出来ない笑顔だったとしても。
「愚弟。感傷に浸っているところ悪いが来訪者だ。」
「ん?…!」
オネの言葉で何かに気が付いたツヲはゆっくりと立ち上がり、壁の外側の方へと歩いていった。飛鳥花もフォウルもアールも壁の外側を見下ろすと、そこには槍を持った女性が佇んでいた。
「あれは…?」
「女性…?手にしているのは槍でしょうか…?」
飛鳥花とアールが首を傾げる中、フォウルは驚きの表情を隠せなかった。
「アクアマリン…!」
その姿は遠くからでも分かる。槍持つ佇まいだけで分かる。ボロを着ていても分かる。フォウルは土の国で宝玉に封印されていたが、年に数回だけ交遊を深める目的で訪れたアクアマリンを覚えていた。今、眼下に広がる平地に立っているのは間違いなく水の国の大魔法使いアクアマリンその人であった。
「生きていた…!?でも…!」
フォウルの疑問は最もである。水の大魔法使いは代々、水の宝玉の封印を守っていた。術者が死ぬことで封印は解ける。ツヲが復活しているということはアクアマリンは死んでいるはず、フォウルはそう思っていた。
「ムーンストーンちゃんの時と同じだ…。」
ツヲはそう呟くとマチネの巨大防壁の頂上から飛び降りた。
「ツヲ!」
「待て。」
真っ先にツヲを追おうとした飛鳥花をオネが制止した。
「何だよ!」
「あれは愚弟の戦いだ。余計な横槍は無粋だろう。ここからの観戦だけに留めて置け。」
「っ…。」
飛鳥花は心の中のモヤモヤを感じたが、ツヲと何かの因縁がある相手なら手出し無用というのも頷ける。もし、自分が決着を付けなければならない戦いに誰かが横槍を入れてきたら、それにブチ切れるという感覚が飛鳥花にはあった。しかし、ツヲに気がある飛鳥花が、ツヲに近付く女性に対して無関心でいられる訳もない。
「じゃあさ…あれ誰なんだ?」
フォウルが眼を凝らして、下を覗きながら言った。
「うん、間違いなくアクアマリン。水の国の大魔法使いでツヲ兄ちゃんを封印してた人。死んだと思ってたけど…。」
「生きていた…?」
「いや、死んでいるな。」
オネは『真実の眼』を使って片方が白くなった目を来訪者に向けた。
「あれは単に魔力で動いているだけだ。アクアマリンの持っていた膨大な魔力が死に際の強い意志に呼応して暴走したんだな。おまけに周囲の憎悪や怨念を取り込んで大分と膨れ上がっている。水の国の民の無念も一緒に取り込んだってところか。いや、もっと色々取り込んでいるか…?」
「ムーンストーンと同じ…。そういうこと…。」
フォウルはかつて自分を操り、そしてツヲや飛鳥花と共に戦って地獄に送ったムーンストーンの成れの果てを思い出していた。
「ツ、ツヲ兄様なら勝てますよね。だってツヲ兄様は強いんですから…。」
アールは皆に恐々と聞いた。
「当然だ。魔力総量は大したものだが愚弟の敵ではない。愚弟が本気を出せば一方的な試合展開で勝つ。」
オネは自慢げに言い放った。しかし、その後でポツリと呟いた。
「…愚弟の悪い癖が出なけれの話だがな。」
この記事へのコメント
いや、十分シリアスな状況なんですけどね・・・。
八武「しまった、美少女だ! 悪い癖が出ずにはいられない!」
山田「今回ばかりは死根也にツッコミを入れる道理が無いな。ツヲだから・・・。」
佐久間「どっちの意味での覚醒だと思う?」
八武「わかりきったことを訊くでない。」
山田「ならば俺は戦闘力に賭けよう。」
佐久間「分の悪い賭けをする。さてはギャンブラーだな?」
さて、再び恋愛模様(?)に戻ってきました。このままのんびりまったりと国造りをさせたいところなのですが、まだ片付いていないアレコレがあるのでイベントは不可避です。
槍使いで大魔法使いで美少女アクアマリン。ツヲさんの女性に云々な悪い癖が出てしまうのかどうか。今回から第二十五話。ツヲさんの覚醒が意味するものとは。紳士的な何かが覚醒するのか、それとも戦闘力か。今のままでも十分強いのですが、鍛えればまだまだ伸びる素質あり。